参入した会社の大半は小さく短命——ただし「大半」の意味は、件数で数えるか産出で数えるかで変わる
入るか、出るか。どちらの決断も、決めた本人にとっては大きな出来事である。ところが統計の側から見ると、それは毎年ありふれて起きていることで、しかも同じ出来事が、数え方によって二つの顔を持つ。ある年に新しく入っていた会社は、企業の数でいえば4割。そのぶんの産出でいえば1割6分。どちらも、同じ集団を数えた結果である。
まず、数え方の話から始める。
ある産業で、前のセンサスの時点にはいなかった会社が、各センサス年に全体の4割いた。 そう聞くと、入れ替わりの激しい場所を想像する。同じ集団を、産出——つまり、どれだけの量を作っているか——で数え直すと、1割6分になる。
どちらも正しい。数えているものが違う。 市場参入・撤退実行力という道具の値切りは、ここから始まる。
この道具が指しているのは、新しい場所へ入る決断と、そこから出る決断を、実際に動かせるかどうかである。決断そのものより、動いたかどうかが記録に残るところが、この単位の扱う範囲になる。
40%と16%——同じ集団を、二つの物差しで数える
**1988年に *The RAND Journal of Economics* 19巻4号へ出た論文が、米国製造業のセンサスを1963年、1967年、1972年、1977年、1982年の5時点で突き合わせている。対象は387の4桁分類の産業(後半の2期間は431産業)で、各産業の出荷額の99%**をカバーする企業を含む。
まとめの一文がこうである。
> “By averaging across industries, we find that entering and exiting firms each account for approximately 16% of industry output, but 40% of the firms in each census year.”(産業を横断して平均すると、参入企業と退出企業はそれぞれ、各センサス年において産業の産出の約16%を占めるが、企業数の40%を占める)
企業数で40%、産出で16%。 数の上では大きな出来事だが、量の上ではそこまでではない。理由は単純で、入ってくる会社が小さいからである。
実際、参入した企業の平均規模は、すでにその産業にいる企業の平均の35.2%だった。市場シェアで見れば、参入企業の合計は約15.8%。入ってくる会社の大半は、小さい。
5年で61.5%、10年で79.6%
小さいだけではない。短い。
同じ論文が、1967年・1972年・1977年に初めて観測された参入企業を追いかけている。
> “on average across four-digit industries, 61.5% of all firms exit in the five years following the first census in which they are observed. On average, 79.6% of all firms exit within ten years.”(4桁分類の産業を横断した平均で、全企業の61.5%が、初めて観測されたセンサスの後の5年以内にその産業から退出する。平均して、全企業の79.6%が10年以内に退出する)
5年で6割、10年で8割。 ただし、ここで言う「退出」は、その産業から姿を消したことである。会社そのものが無くなったとは書かれていない。別の産業へ移った場合も、この数え方では同じ列に入る。
この区別は、実務では大きい。 商売をたたむことと、扱うものを替えることは、統計の上では同じ列に並ぶ。
もう一つ。5年で6割という数字は、「入った会社の6割が失敗した」とは読めない。 数えられているのは、次のセンサスの時点で、その産業の名簿に載っていなかったという事実だけである。やめたのか、移ったのか、名前が変わったのかは、この数え方では分からない。
参入は、一種類ではない
「新しく入ってきた会社」と一口に言うが、原典は三つに分けている。件数の割合はこうである。
新しく作られた会社が新しい工場で入る——55.4%。すでにある会社が新しい工場を建てて入る——8.5%。すでにある会社が、いまある工場で作るものを替えて入る——36.1%。
規模はまるで違う。既存企業の平均を100としたときの相対的な大きさは、新設の会社が28.4%、既存企業の新工場が87.1%、作るものを替えた場合が34.9%である。件数でいちばん多い型が、いちばん小さい。
そして、既存の会社が手を広げて入ってくる型——上の二つ目と三つ目を合わせると——は、件数では44.6%だが、産出では50.0%を占める。件数と産出で、また比率が入れ替わる。
持ち物の話も一本ある。**2000年に *Strategic Management Journal* 21巻10-11号へ出た論文は、ある製造業の産業について全数の事例を追い、以前から関連する製造をしていた企業ほどその産業へ入り、革新の率が高く、市場シェアが大きく、長く生き残ったと報告している。ただし単一の産業の話である。** 一般化には慎重が要る。
出るほうも、同じくらい起きている
参入の話は、退出の話とほとんど同じ形をしている。
同じ論文の数字で、平均退出率は.308から.390、退出企業の市場シェアは.144から.191、退出企業の相対的な大きさは.310から.367。 入ってくる側と、出ていく側は、大きさも割合もよく似ている。
そして、産業を横断すると参入率と退出率は正に相関する。 よく入る産業は、よく出ていく産業でもある。ただし産業ごとの固定的な差を取り除くと、同じ期間の参入と退出は負に、ある期間の参入と次の期間の退出は正になる。
**1995年に *International Journal of Industrial Organization* 13巻4号へ出た総説が、この領域で繰り返し確かめられてきた事実を整理している。当方はこの論文の本文には到達できず、確かめられたのは、他の論文が頁を添えて引用した二つの断片と、それらの論文による内容の記述だけである。そこから言えるのは三つ——参入はありふれていること。産業ごとの参入率の差は非常に大きいが、その差は時間を通じて持続せず、変動の大半は産業「内」の変動であること。参入率と退出率は強く正に相関し、差し引きの純参入率は参入率のごく一部にすぎないこと。**
> “In fact, most of the total variation in entry across industries and over time is ‘within’ industry variation rather than ‘between’ industry variation”(実際、産業間および時間を通じた参入の総変動の大半は、産業「間」の変動ではなく産業「内」の変動である)
産業を選べば入りやすくなる、という話にはなっていない。 同じ産業の中で、年ごとに、会社ごとに、ばらついている。
もう一つ、同じ総説から424頁として引かれている断片がある。
> “mechanism of displacement, which seems to be the most palpable consequence of entry, affects young, new firms more severely”(参入のもっとも明白な帰結と見える置き換えの仕組みは、若く新しい企業により厳しく作用する)
置き換えが強く出る先は、先にいる大きな会社ではない。 参入が増えることの効きは、先にいる大きな会社より、直前に入った小さな会社のほうに強く出る。
時間・変化:数え方の条件が、三つ落ちている
ここまでの数字には、原典に書かれている条件が三つ付いている。 引かれるときに落ちやすいのは、たいていこちらである。
一つ目。5年おきのセンサスの突き合わせである。 原典自身がこう書いている。
> “Estimates of entry and exit rates constructed from five-year census data will thus underestimate the year-to-year turnover.”(5年ごとのセンサスのデータから作られた参入率と退出率の推定は、したがって年ごとの入れ替わりを過小評価することになる)
5年のあいだに入って出た会社は、一度も数えられない。
二つ目。産業の出荷額の1%に満たない極小の企業が除かれている。 原注によれば、全企業を含めると参入率は約10ポイント、退出率は約11ポイント上がる。ところが市場シェアのほうは0.4ポイントしか動かない。小さい会社をどこで切るかで、率は大きく動き、量はほとんど動かない。
三つ目。米国の製造業だけである。 サービス業は入っていない。しかも最初の期間だけ4年で、他は5年である。扱っている年も、1963年から1982年までの二十年間にとどまる。 その後にこの数字がどう動いたかは、この論文からは言えない。
参入率そのものも、産業によって大きく違う。2桁の部門で平均すると、いちばん低い部門で.205、いちばん高い部門で.603。20の部門のうち11部門が.4を超えている。
なお、同じ問いを国際比較でやり直した研究も出ている(OECD諸国の企業レベルの資料を使った2005年の比較分析)。当方はその数値まで確かめていないので、ここでは並べない。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、入れ替わりの率を、危なさの目盛りとして読むことである。4割が入れ替わる産業は、危ない産業ではない。そういう数え方をした、というだけである。
もうひとつ。日本語で流通している「起業して10年後に残るのは数%」という言い方がある。当方はこの数字の出どころを追いかけたが、同じ数字を出典なしで繰り返す記事群に行き着き、その記事自身が根拠は不明だと注記していた。一次には到達していない。 ここで並べたのは、米国製造業の、条件の書かれた数字のほうである。
この単位では、事業を始めることも、たたむことも勧めない。 人を減らす、売る、借りるといった助言もしない。書けるのは、入る出るがどう数えられてきたか、までである。
標本の偏りを断っておく。ここで並べた数字は、1963年から1982年の米国製造業と、単一の産業の事例研究から作られている。 手元の商いにそのまま当てはまる保証はない。
助けるのは、自分の手元で、始めたことと終えたことを、二つの物差しで数えるという一手である。件数で数えるのと、時間や金額で数えるのとでは、たいてい別の絵が出る。どちらが正しいかを決める必要はない。二つ並べておけば足りる。
最初の一歩は5分。この1年で新しく始めたことと、やめたことを、まず件数で数える。 次に、それぞれに使った時間か金額のおおよその割合を書く。二つの数字が食い違ったら、あなたはいま、40%と16%の関係を手元で見ている。
次の単位は 276「失敗切り上げ速度」——入ったあと、うまくいかないと分かってから出るまでの時間を扱う。掛け算の別の項なので、入る手続きだけ速くても、出る手続きが止まっていれば積は上がらない。
- 米国製造業のセンサスを1963年・1967年・1972年・1977年・1982年の5時点で突き合わせた研究によれば、参入企業と退出企業はそれぞれ、各センサス年に産業の産出の約16%を占めるが、企業数では40%を占める。同じ集団でも、件数で数えるか産出で数えるかで大半の意味が変わる。
- 入ってくる企業は小さい。参入企業の平均規模は、すでにその産業にいる企業の平均の35.2%で、参入企業の合計の市場シェアは約15.8%だった。出ていく側も似ていて、退出企業の市場シェアは.144から.191、相対的な大きさは.310から.367である。
- 1967年・1972年・1977年に初めて観測された参入企業を追うと、4桁分類の産業を横断した平均で、61.5%が5年以内に、79.6%が10年以内にその産業から退出している。ただしここでいう退出はその産業から姿を消したことであり、会社が無くなったとは書かれていない。別の産業へ移った場合も、この数え方では同じ列に入る。
- 参入は一種類ではない。件数の割合では、新しく作られた会社が新しい工場で入るのが55.4%、既存企業が新工場を建てるのが8.5%、既存企業が今ある工場で作るものを替えるのが36.1%。相対的な大きさは順に28.4%、87.1%、34.9%で、件数でいちばん多い型がいちばん小さい。既存企業による参入は件数で44.6%だが産出では50.0%を占める。
- 総説の側から言えるのは三つ——参入はありふれていること、産業ごとの参入率の差は大きいが時間を通じて持続せず変動の大半は産業内の変動であること、参入率と退出率は強く正に相関し純参入率は参入率のごく一部にすぎないこと。当方はこの総説の本文に到達できず、頁を添えて引用した二次資料の断片から確かめた。
- 原典に書かれた条件が三つある。5年おきのセンサスの突き合わせなので年ごとの入れ替わりを過小評価すること、産業の出荷額の1%に満たない極小企業が除かれており全企業を含めると参入率は約10ポイント・退出率は約11ポイント上がるが市場シェアは0.4ポイントしか動かないこと、そして米国の製造業だけであること。
- ある製造業の産業の全数を追った2000年の事例研究は、以前から関連する製造をしていた企業ほどその産業へ入り、革新の率が高く、市場シェアが大きく、長く生き残ったと報告している。ただし単一の産業についての研究であり、一般化には慎重が要る。
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 起業して10年後に残るのは、数%である | 日本語で流通しているこの型の数字について、当方は出どころを追いかけたが、同じ数字を出典なしで繰り返す記事群に行き着き、その記事自身が統計の根拠は不明だと注記していた。一次には到達していない。条件の書かれた数字として引けるのは、米国製造業のセンサスを突き合わせた研究のほうで、そこでは初めて観測された年から5年で61.5%、10年で79.6%がその産業から退出している。ただしこれは会社が無くなったという意味ではなく、別の産業へ移った場合も、この数え方では同じ列に入る。 |
| 入れ替わりの激しい産業は、危ない産業である | 同じ研究では、参入企業と退出企業はそれぞれ各センサス年に企業数の約40%を占めるが、産出では約16%にとどまる。入ってくる企業の平均規模は既存企業の平均の35.2%で、出ていく企業の相対的な大きさも.310から.367である。数の上での入れ替わりは、量の上での入れ替わりとは別物である。率が高いことは、危なさの目盛りではない。 |
| 参入しやすい産業を選べば、入りやすい | 参入率は産業によって大きく違い、2桁の部門で平均すると低いところで.205、高いところで.603である。しかし総説の側は、産業間および時間を通じた参入の総変動の大半が、産業間の変動ではなく産業内の変動であると書いている。産業ごとの差は大きく見えても時間を通じて持続せず、ばらつきの大半は同じ産業の中にある。 |
入る決断も出る決断も、たいてい物語として語られる。決断した人がいて、理由があって、結果がある。統計の側から見れば、それは各年の企業数の4割、産出の1割6分、5年後には6割が消えている集団のことである。皮肉なのは、その6割のうちどれが失敗でどれが乗り換えだったかを、この数え方では区別できないことだ。
Q1. 米国製造業のセンサスを突き合わせた研究によれば、参入企業と退出企業はそれぞれ、各センサス年に産業の産出の約 ____ %を占めるが、企業数では ____ %を占める。参入企業の平均規模は、すでにその産業にいる企業の平均の ____ %だった。穴埋め
Q2. 同じ研究で、初めて観測されたセンサスの後 ____ 年以内に61.5%が、____ 年以内に79.6%がその産業から退出していた。ただしここでいう退出は ____ から姿を消したことであり、会社そのものが無くなったとは書かれていない。穴埋め
Q3. 参入の三つの型を、件数の割合が大きい順に並べよ。(すでにある会社が新しい工場を建てて入る/新しく作られた会社が新しい工場で入る/すでにある会社が、いまある工場で作るものを替えて入る)並べ替え
Q4. この単位の数字に付いている三つの条件を挙げ、そのうち極小企業の除外について、含めた場合に何がどれだけ動くかを答えよ。一問一答
Q5. 参入についての総説から、本文が挙げている内容として正しいものはどれか。選択
紙かメモアプリを開く。この1年をふりかえって、自分が新しく始めたことを箇条書きで書き出す——新しい商品、新しい取引の形、新しい担当、新しい習慣、新しい道具、何でもよい。次に、この1年でやめたことを同じように書き出す。まず、それぞれの件数を数えて書く。次に、始めたことの一つひとつについて、使った時間か金額のおおよその割合を書き添える(正確でなくてよい。合計が100になるようにだけ整える)。やめたことについても同じようにする。最後に、件数でいちばん多い項目と、割合でいちばん大きい項目が同じだったかどうかを一行で書く。他社の動きは調べない。誰にも尋ねない。自分の手元にある記録だけで完結させる。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
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- Dunne T., Roberts M.J., Samuelson L. (1988) 'Patterns of Firm Entry and Exit in U.S. Manufacturing Industries', The RAND Journal of Economics 19(4):495-515, doi:10.2307/2555454 — doi.org
- Geroski P.A. (1995) 'What do we know about entry?', International Journal of Industrial Organization 13(4):421-440, doi:10.1016/0167-7187(95)00498-X(当方は本文未到達。内容は二次資料経由) — doi.org
- Debarsy N., Dejardin M. (2008) 'What do we know about spatial entry?', Jena Economic Research Papers 2008-029(作業論文。査読誌ではない) — oweb.b67.uni-jena.de
- Quatraro F., Vivarelli M. (2015) 'Drivers of Entrepreneurship and Post-entry Performance of Newborn Firms in Developing Countries', 世界銀行の公開リポジトリ収録版(当方が本文を確かめたのはこの版。同題の査読版が The World Bank Research Observer 30(2):277-305 にある), doi:10.1596/26002 — doi.org
- Klepper S., Simons K.L. (2000) 'Dominance by birthright: entry of prior radio producers and competitive ramifications in the U.S. television receiver industry', Strategic Management Journal 21(10-11):997-1016, doi:10.1002/1097-0266(200010/11)21:10/11<997::AID-SMJ134>3.0.CO;2-O — doi.org
- Bartelsman E., Scarpetta S., Schivardi F. (2005) 'Comparative analysis of firm demographics and survival: evidence from micro-level sources in OECD countries', Industrial and Corporate Change 14(3):365-391, doi:10.1093/icc/dth057 — doi.org