「差別化すれば勝てる」の根拠は、二十五年やっても決着していないと、当事者が書いている
位置取りは商品の側でするものではなく、見込み客の頭の中でするものである——そう言い切った一冊は、査読誌ではなく1981年の一般書だった。皮肉なことに、それを確かめようとした査読の側では、二分法は分類としては働くのに業績の命題は支持されず、七年後に大標本で調べ直した研究は「純度は割に合うように見える」と逆を報告し、その冒頭に「二十五年の実証研究は、この基本的な問いを解決できていない」と書いた。
前の単位では、市場の大きさをどう見積もるのかを扱った。ここでは、その市場のなかで自分をどこに置くのか——位置取りの話を扱う。
位置取りは、商品の側でするものではない。見込み客の頭の中でするものである。 そう言い切った一冊がある。この言い方はいまも生きていて、外へ出す言葉を考えるときの出発点になっている。では、この言い方は、どこまで確かめられているのか。
位置取りという言葉は、どこから来たのか
出どころははっきりしている。1981年に出た一般書である。原題は「Positioning: The Battle for Your Mind」——心の中の戦い。著者の二人は広告の実務家で、この本の元になった考えは、その前に業界誌へ連載された文章だった。
査読誌の論文ではない。実務書である。 これは欠点ではない。欠点になるのは、この本の言い分が、査読で確かめられた効果と同じ顔で引かれるときである。 本の中に、標本も、比較群も、効果量も無い。あるのは、実務で見てきた事例と、それを束ねた言い方である。
だから、この言い方が正しいかどうかは、別の場所で確かめるしかない。 幸い、確かめようとした人たちがいる。ただし、その結果が、この単位でいちばん面白いところである。
25年やって、決着していない
**2000年に *Strategic Management Journal* 21巻2号へ出たメタ分析**は、競争の位置取りについての実証研究を統合しようとしたものである。抄録の冒頭がこうである。
> “The dominant paradigm of competitive strategy is now nearly two decades old, but it has proved difficult to assess its adequacy as a descriptive system, or progress its propositions about the performance consequences of different strategic designs.”(競争戦略の支配的な枠組みはもう二十年近くになるが、それが記述の体系としてどれだけ妥当かを評価することも、異なる戦略設計の業績上の帰結についての命題を前進させることも、難しいままだった)
そして結論の一文が、これである。
> “Results suggest that, although cost and differentiation do act as high-level discriminators of competitive strategy designs, the paradigm’s descriptions of competitive strategy should be enhanced, and that its theoretical proposition on the performance of designs has yet to be supported.”(結果が示唆するのは、費用と差別化は競争戦略の設計を大きく分ける識別子としては働くものの、この枠組みによる競争戦略の記述は拡張されるべきであり、設計の業績についての理論的命題はまだ支持されていない、ということである)
ここが、この単位の核心である。 費用で勝負するか、違いで勝負するか——この二分法は、会社を分類する道具としては働いている。 メタ分析はそれを否定していない。支持されていないのは、「だからどちらかに寄せたほうが儲かる」という命題のほうである。
分類できることと、業績を説明できることは、別のことである。
逆向きの結果も、査読を通っている
ここで止めると片手落ちになる。**2007年に同じ *Strategic Management Journal* 28巻5号へ出た研究**は、こう始まっている。
> “Twenty-five years of empirical research has failed to resolve a basic strategy question. Does strategic purity pay?”(二十五年の実証研究は、戦略の基本的な問いを解決できていない。戦略の純度は割に合うのか)
そのうえで、2,351の事業を対象に、理論に沿って戦略の空間を定義し直して測ると、純度と業績のあいだに有意な関係が見つかったと報告している。抄録の言い方は素っ気ない。
> “Purity does appear to pay.”(純度は割に合うように見える)
ただし同じ抄録が、製造・建設・小売・事業向けサービスの四つの部門で、関係の出方に違いがあったとも書いている。そして——
> “But in all instances pure strategies never did less well, and often did better than hybrid strategies.”(ただしすべての場合において、純粋な戦略が混合戦略より劣ることはなく、しばしば上回った)
2000年のメタ分析は「命題はまだ支持されていない」と言い、2007年の大標本研究は「純度は割に合うように見える」と言う。 どちらも査読を通っている。そして後者の冒頭が、二十五年やって解決していないと書いている。
この単位の値切りは「差別化には効果が無い」ではない。「同じ問いに、査読を通った逆向きの答えが並んでいて、しかも当事者がそれを解決していないと書いている」である。
高い利益への道は、一本ではなかった
古い研究のほうが、この構図をはっきり書いている。**1984年に *Academy of Management Journal* 27巻3号へ出た研究は、意図された戦略を多変量で分析して、枠組みに基づく戦略群が実際に存在することを実証的に支持した。分類としては、成り立っていた。**
1983年に同誌26巻4号へ出た研究は、成熟した資本財の二種類の産業で、高利益と低利益の戦略の全体像を比べたものである。そこで見つかったのは——どちらの産業にも、高い利益へ至る複数の道があり、しかもその道は産業によって違っていた。
「これが勝ち筋だ」と一つに絞れなかった、という結果が、四十年前から出ている。
この二本は、どちらも「枠組みは間違っている」とは言っていない。言っているのは、枠組みが会社を分けることには使えて、分けたあとにどちらが儲かるかは産業ごとに変わる、ということである。 そして産業ごとに変わるということは、自分の商いに当てはまるかどうかを、自分で確かめるしかないということでもある。
ここに、この単位のいちばん実務的な含みがある。 位置取りの助言は、たいてい「どちらに寄せるか」を選ばせる形で来る。ところが四十年ぶんの実証が繰り返し示しているのは、寄せる先の正解が場所によって違うということのほうである。 助言のほうは場所を選ばずに配られ、証拠のほうは場所ごとに散らばっている。
時間・変化:位置取りを、人の頭の中で実際に測った人たちがいる
位置取りが「見込み客の頭の中」の話なら、そこを測ればよい。**1989年に *Journal of Marketing Research* 26巻4号へ出た論文は、四つの実験**でそれをやった。抄録の第一文がこうである。
> “Results of four studies demonstrate that perceptions of how different a brand is from other brands in the product category affect perceptions of the brand’s position within the category.”(四つの研究の結果は、ある銘柄が同じ分類の他の銘柄とどれだけ違うと知覚されるかが、その分類の中での位置の知覚に影響することを示している)
そして、違いの強さで結果が変わった。
> “perceptions that a brand is strongly discrepant result in a subtyped (or niche) position, whereas perceptions that a brand is moderately discrepant result in a differentiated position within the general category”(強く食い違うと知覚された銘柄は下位分類(すなわち隙間)の位置に落ち、中程度に食い違うと知覚された銘柄は、一般の分類の中で差別化された位置に落ちる)
強く違うほど良い、ではなかった。 強く違いすぎると、その分類の一般的な選択肢としては見られなくなり、別枠の小さな箱に入れられる。しかもその効果は、時間とともに強まった(同論文の第2実験)。
さらに、同じ食い違いでも、一つの広告に集中して出すか、複数の広告に散らして出すかで、知覚が変わった。 位置取りは、言っている内容だけで決まっていない。どう配ったかでも動いていた。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、「差別化」という言葉を、確かめられた処方として使うことである。二分法として便利で、実際に会社は分類できる。ただし、そこから業績への矢印は、二十五年たっても引けていない。
もう一つ妨げるものがある。「思い切り違うことを言えば覚えられる」という助言である。 実験の結果は逆向きだった——強く違いすぎると、隙間の箱に入る。 隙間が悪いという話ではない。隙間に入ることを選んだのかどうかを、自分で分かっているかどうかの話である。
助けるのは、自分がいま何を「違い」として言っているかを、書き出して数えるという一手である。違いは一つか、複数か。一箇所に集めて言っているか、あちこちに散らして言っているか。 実験が動かしたのは、この二つだった。
数えることを勧めるのには、もう一つ理由がある。「違い」として挙げたもののうち、根拠を聞かれて答えられるものが何個あるかは、数えてみるまで自分でも分からない。 丁寧だ、早い、柔軟だ——こういう語は、違いの名前ではなく、違いがあってほしいという願いの名前であることが多い。 数えると、その区別が手元で付く。
標本の偏りも断っておく。この単位で引いた実証は、いずれも北米の企業と、北米の実験参加者を対象にしている。 位置取りの知覚が、言語や商習慣の違う場所で同じように動くかどうかは、ここでは確かめられていない。
最初の一歩は5分。自分が外に出している説明文——ウェブの一段落でも、名刺の裏でも、見積書の前書きでもよい——を1つ選び、そこで主張している「違い」を、箇条ではなく数として数える。 それだけでよい。数えてみると、たいてい、自分が思っていたより多い。
次の単位は 243「価値提案の明確性」——「何を差し出すのか」を明確にせよという助言の、その「価値提案」という概念そのものが、査読の側でどう扱われているか。
- 位置取りという言い方の出どころは、1981年に出た一般書である。著者は広告の実務家で、元になった考えはその前に業界誌へ連載された文章だった。査読誌の論文ではなく、標本も比較群も効果量も含まない。
- 2000年のStrategic Management Journal 21巻2号のメタ分析は、費用と差別化が競争戦略の設計を大きく分ける識別子としては働くと認めたうえで、この枠組みによる記述は拡張されるべきであり、設計の業績についての理論的命題はまだ支持されていない、と結論した。
- 2007年の同誌28巻5号は「二十五年の実証研究は、戦略の基本的な問いを解決できていない」と書き出し、2,351の事業を調べて純度と業績に有意な関係を見つけ「純度は割に合うように見える」と報告した。査読を通った逆向きの答えが、同じ雑誌に並んでいる。
- 同じ2007年の研究は、製造・建設・小売・事業向けサービスの四部門で関係の出方に違いがあったとも書いている。ただしすべての場合において、純粋な戦略が混合戦略より劣ることはなく、しばしば上回った。
- 1984年のAcademy of Management Journal 27巻3号は、意図された戦略の多変量分析で、枠組みに基づく戦略群が実際に存在することを実証的に支持した。分類としては、成り立っていた。
- 1983年の同誌26巻4号は、成熟した資本財の二種類の産業で高利益と低利益の戦略の全体像を比べ、どちらの産業にも高い利益へ至る複数の道があり、しかもその道は産業によって違っていたと報告した。
- 1989年のJournal of Marketing Research 26巻4号は、四つの実験で、強く食い違うと知覚された銘柄は下位分類すなわち隙間の位置に落ち、中程度に食い違ったときにだけ一般の分類の中で差別化された位置になることを示した。効果は時間とともに強まり、同じ食い違いでも一つの広告に集中させるか複数に散らすかで知覚が変わった。
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 位置取りと差別化は、経営学で確かめられた勝ち筋である | 言い方の出どころは1981年の一般書で、標本も比較群も効果量も持たない。査読の側では、2000年のメタ分析が「費用と差別化は競争戦略の設計を大きく分ける識別子としては働く」が「設計の業績についての理論的命題はまだ支持されていない」と結論している。分類できることと、業績を説明できることは別である。 |
| 差別化に効果があるかどうかは、もう決着がついている | ついていない。2007年に2,351事業を調べた研究は「純度は割に合うように見える」と報告し、純粋な戦略が混合戦略より劣ることはなかったと書いている。同じ論文の冒頭が「二十五年の実証研究は、戦略の基本的な問いを解決できていない」と始まる。査読を通った逆向きの答えが、同じ雑誌に並んでいる。 |
| 思い切り違うことを言えば、覚えてもらえる | 四つの実験で測ると、強く食い違うと知覚された銘柄は、その分類の中で差別化されるのではなく、下位分類すなわち隙間の位置に落ちた。中程度に食い違ったときにだけ、一般の分類の中で差別化された位置になった。しかもその効果は時間とともに強まり、同じ食い違いでも一つの広告に集めるか複数に散らすかで知覚が変わった。 |
位置取りという言葉が四十年もったのは、当たっていたからではなく、外れようがない形をしていたからである。会社は必ずどこかに置かれるし、置かれた場所は後からいくらでも説明できる。二十五年かけて確かめられたのは、その言葉で会社を分類できる、ということまでだった。
Q1. 位置取りという言い方の出どころは ____ 年に出た ____ 書であり、査読誌の論文ではない。2000年のメタ分析は、費用と差別化は設計を分ける ____ としては働くが、設計の ____ についての理論的命題はまだ支持されていない、と結論した。穴埋め
Q2. 2007年に2,351の事業を調べた研究は、純度と業績について何を報告し、その論文の冒頭には何と書かれていたか。2文で書け。一問一答
Q3. 四つの実験で測ったとき、ある銘柄が同じ分類の他の銘柄と「強く」食い違うと知覚された場合、その銘柄はどうなったか。選択
Q4. 1983年に成熟した資本財の二種類の産業を調べた研究が、高い利益への道について見つけたのはどれか。選択
Q5. 同じ食い違う情報でも、知覚が変わったのは何によってだったか。1文で書け。一問一答
紙かメモアプリを開く。自分が外に出している説明文を1つ選ぶ(ウェブの一段落、名刺の裏、見積書の前書き、案内の紙、自己紹介の定型文のどれでもよい)。その文章を読み返して、そこで主張している「他とは違う点」を、一つずつ数える。数だけ書く。次に、その違いが一箇所にまとまって書かれているか、文章のあちこちに散っているかを、一言で書く。最後に、数えた違いのうち、自分が本当に説明できる(相手に聞かれたら根拠を言える)ものが何個あるかを書く。誰にも見せない。誰にも尋ねない。いま組織に属していない場合は、自分の経歴の紹介文や、作ったものの説明文で行えばよい。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Ries A., Trout J. (1981) Positioning: The Battle for Your Mind, New York: McGraw-Hill(一般書。査読誌ではない。書誌は公開図書目録で2026年に確認) — openlibrary.org
- Campbell-Hunt C. (2000) 'What have we learned about generic competitive strategy? A meta-analysis', Strategic Management Journal 21(2):127-154 — doi.org
- Thornhill S., White R.E. (2007) 'Strategic purity: A multi-industry evaluation of pure vs. hybrid business strategies', Strategic Management Journal 28(5):553-561 — doi.org
- Dess G.G., Davis P.S. (1984) 'Porter’s (1980) Generic Strategies as Determinants of Strategic Group Membership and Organizational Performance', Academy of Management Journal 27(3):467-488 — doi.org
- Hambrick D.C. (1983) 'High Profit Strategies in Mature Capital Goods Industries: A Contingency Approach', Academy of Management Journal 26(4):687-707 — doi.org
- Sujan M., Bettman J.R. (1989) 'The Effects of Brand Positioning Strategies on Consumers’ Brand and Category Perceptions: Some Insights from Schema Research', Journal of Marketing Research 26(4):454-467 — doi.org