3つの数字は、4つの別々の調査から集められて、1つの文になっていた
紹介による採用は定着率が25%高く、費用が50%低く、期間が30%短い。3つを同時に出している資料には5系統をたどって行き着かず、代わりに見つかったのは4つの別々の調査だった。皮肉なことに、そのうち費用の一次数値は逆を向いていた——求人ボード経由が1,671ドル、紹介が2,306ドルである。
前の単位では、名前が何を指しているかを、その名前を広めた側の言葉から見た。ここでは、すでに中にいる人が、次に入ってくる人を連れてくるという仕組みを扱う。
この単位が扱うのは一点——「紹介による採用は定着率が25%高く、コストが50%低く、期間が30%短い」という3つの数字が、どこから来ているかである。あわせて、原典が引く側と逆を向いている例をひとつ見る。紹介の制度を作るべきか、報奨をいくらにするかは書かない。差別や偏りに触れるときは、何が測られたかに徹する。
3つの数字は、1つの調査から来ていない
この3つを同時に出している出どころの資料には、5系統をたどって行き着かなかった。 代わりに行き着いたのは、この種の数字が集まっている解説記事である。そこでは、10個の数字が4つの別々の出所に、はっきりと帰属先を書いて並べられていた。
2011年の、人材調達に関する業界団体の調査。2012年の、ある採用サービスの年次指数。2011年から2012年の、採用実務の年次調査。2008年から2011年の、ある採用コンサルティングの自社調査。 出所も、調査年も、方法も、それぞれ違う。にもかかわらず、流通する側では3つの数字が1つの資料の名前と1つの年に、まとめて帰属させられている。
これは「辿れなかった」とも「数字が存在しない」とも違う。数字は実在する。ただし、別々の場所と別々の年から集められて、ひとつの文にまとめられている。 合成されたあとの文には、どの数字がどの調査のものかを見分ける手がかりが残っていない。
コストのほうは、符号が逆の一次数値がある
いちばん強く効くのは、同じ集散地の中に、逆向きの数字が載っていることである。
> “Job boards hires cost on average $1,671 versus referral hiring costs of $2,306”(求人ボード経由の採用は平均1,671ドル、これに対して紹介による採用のコストは2,306ドル)
紹介のほうが高い。 同じ記事は、速さについては逆向きに書く——“Referrals are the #1 fastest time to fill (29 days for referrals, 39 days for job boards)”(紹介が最も速く、紹介は29日、求人ボードは39日)。定着については “Referrals are #1 at 46% retention after 1one year”(紹介は1年後の定着率46%で1位。原文の綴りのまま)。
「50%低い」と「$2,306 対 $1,671」は、同じ集散地の中で衝突している。 さらに別のまとめ頁には、定着について40%・70%・20%という3つの数字が同時に並び、どれにも個別の出典が付いていない。 同じ頁の中で、数字どうしが噛み合っていない。
原典は、リターンを3つの経路に分けている
学術の側の出発点は、2000年の *American Journal of Sociology* 105(5):1288-1356 である(ある電話センターのデータを用いている)。抄録はこう書く。
> “Identified are three ways through which such returns might be realized: the ‘richer pool,’ the ‘better match,’ and the ‘social enrichment’ mechanisms.”(そうしたリターンが実現しうる3つの道筋が特定される。より厚い応募者プール、より良いマッチ、そして社会的な豊かさ、という機構である)
> “this article finds that the firm's investment in the social capital of its employees yields significant economic returns.”(本論文は、企業が従業員の社会関係資本へ行う投資が、有意な経済的リターンを生むことを見いだす)
引く側が想定しているのは、たいてい真ん中の1つ(より良いマッチ)だけである。 原典は3つを区別して立てている。プールが厚くなったのか、マッチが良くなったのか、入社後の関係が効いたのか——どれが効いたかで、打つ手はまったく別になる。(なお、この論文の標本規模には到達できなかった。ページ範囲は 1288-1356 である。二次的な表示で別の範囲が返る事象を実際に観測した。)
紹介の優位は、最初のうちに偏っていた
2016年の *Journal of Labor Economics* 34(1):161-209 は、米国の金融サービス企業1社の応募から採用までの記録を使う。掲載版の抄録はこう書く。
> “We find that referred candidates are more likely to be hired; experience an initial wage advantage, which dissipates over time; and have longer tenure in the firm.”(紹介された候補者は採用されやすく、初期の賃金の優位を経験するが、それは時間とともに消える。そして在職期間は長い)
「およそ3年で同水準になる」という具体的な時間は、掲載版の抄録には無い。 それは同じ著者らの作業論文版の本文にある——“referred and non-referred salaries are roughly equivalent after three years of tenure with the corporation.”(紹介された者とされなかった者の給与は、在職3年でおおむね同水準になる)。同じく作業論文版の数値では、紹介された人は応募者の6%、面接者の21%、内定者の27%、採用者の29%を占める。優位は入口でいちばん大きい。
2005年の *American Journal of Sociology* 110(5):1243-1283 は、あるコールセンターで入社後の成績を追った。
> “This study finds that referrals are initially more productive than nonreferrals, but longitudinal analyses emphasize posthire social processes among socially connected employees.”(本研究は、紹介による入社者が当初は非紹介者より生産的であることを見いだすが、縦断的な分析は、社会的につながった従業員のあいだの入社後の社会的過程を強調する)
“initially”——当初は、である。 その後に効くのは入社後の関係のほうで、紹介した側がまだ在籍しているかどうかが混じってくる。 同じ施策が、入口で測れば大きく、賃金で測れば3年で消え、在職期間で測ればまだ残る。 どれも同じ研究の中の話である。
数理モデルを実証と読むと、結論が二重に逆になる
紹介の話には、必ず「同じような人ばかりが集まるのではないか」という論点が付いてくる。よく引かれるのが2013年の *Management Science* 59(11):2470-2489 である。ここで二つ、確かめておくことがある。
ひとつ。これは実証研究ではない。
> “Using mathematical and computational models, we investigate how empirically documented referrer behaviors affect job segregation.”(数理モデルと計算モデルを用いて、実証的に記録された紹介者の行動が職務の分離にどう影響するかを検討する)
1社のデータで何かが起きたことを示した論文ではない。 実証的に記録された行動を入力として、モデルの上で振る舞いを調べたものである。
ふたつ。結論は一方向ではない。
> “Furthermore, and contrary to past understandings, we show that referrer behaviors can also mitigate most, if not all, of the segregating effects of network recruitment.”(さらに、過去の理解に反して、紹介者の行動はネットワーク採用の分離効果の、全部ではないにせよ大半を、緩和しうることも示す)
「紹介は分離を再生産する」とだけ引くと、原典と逆になる。 原典は、強めうるとも、打ち消しうるとも書いている。そして同じ著者らは、これが査読を経た研究論文ではなく参考図書の項目である別稿も出している。書誌の種別を見ないと、重みを取り違える。
報奨を付けると、質は下がる——ただし仮想の場面での回答である
2018年の *Sociological Science* 5:380-401 は、紹介の報奨金を扱う。
> “Using a survey vignette experiment, we find that even a small referral bonus increases the likelihood that referrers will refer lower-quality candidates, and they are more likely to refer people they do not know well.”(調査ヴィネット実験を用いて、少額の紹介報奨であっても、紹介者がより質の低い候補者を紹介する可能性が高まり、よく知らない人を紹介しやすくなることを見いだす)
★この研究は、実際の企業の紹介記録ではない。 参加者1,473人に、架空の企業の架空の職と報奨額を示して答えてもらう仮想の場面の実験である。「実際にそうなった」ではなく「そう答えた」である。 この区別を落とすと、実験の結論が現場の事実として流通してしまう——この単位の冒頭で見た合成と、同じ経路をたどる。
時間・変化:数字が合流していく順番
順に置く。2000年、電話センターのデータで、リターンが3つの経路に分けられる。2005年、コールセンターで「当初は生産的」が測られる。2008年から2012年、4つの別々のベンダー調査が、それぞれの数字を出す。2013年、数理・計算モデルが、紹介者の行動は分離を強めも弱めもしうると示す。2016年、1社の応募から採用までの記録で、優位が入口で最大、賃金では3年で消えることが示される。2018年、報奨の効果が仮想の場面の実験で測られる。そして2022年ごろ、4つのベンダー調査の断片が、ひとつの資料名と1つの年に帰属させられた3つの数字として流通する。
22年で起きたのは、証拠が積み上がったことではない。 積み上がったのは引用の層のほうで、層が厚くなるほど、どの数字がどの調査のものかは見えなくなっていった。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、紹介という言葉が、費用の話と質の話と速さの話を同時に背負っていることである。3つは別々の調査で測られており、同時に良くなったことを示した一次の記録には行き着いていない。 費用については、行き着いた一次の数値が逆を向いていた。
標本の偏りも断っておく。ここで引いた実証は、米国の、記録が電子的に残っている組織に大きく寄っている——電話センター1社、コールセンター1社、金融サービス企業1社、そして仮想の場面の実験1本。日本の職場の紹介採用を対象にした査読研究には行き着けなかった。 そして共通しているのは、紹介されて入った人しか観測されないことである。紹介されたが断った人、紹介しようとしてやめた人は、どのデータにも入っていない。
助けになるのは、自分の周りの紹介を、紹介者との関係が今も続いているかどうかで分けて記録してみるという一手である。効き目は件数ではなく、「入るときの効果」と「入ったあとに効き続けるもの」が別物だと見えることにある。
最初の一歩は10分。紹介で入った人、自分が紹介した人を思い出し、関係が今も続いているかを記録する。 いま働いていなくてよい。学校や地域の活動で誰かに引き合わされた経験でも、公開されている紹介制度の説明を読んで、何がどう数えられているかを書き出す形でも足りる。
ここまでで、入口から入り、段を通り、残る側が次の入口を作るところまでを見た。次の単位では、その循環そのものを説明する枠組みを扱う。そこでは、40年引かれ続けている原典が、引く側とちょうど逆を向いている。
- 「定着率25%高・費用50%低・期間30%短縮」の3つを同時に出している資料には5系統をたどって行き着かない。行き着いた集散地は、10個の数字を4つの別々の出所(2011年の業界団体調査/2012年の年次指数/2011-2012年の年次調査/2008-2011年の自社調査)に帰属させている。
- 費用については、同じ集散地の中に逆向きの一次数値がある——“Job boards hires cost on average $1,671 versus referral hiring costs of $2,306”。紹介のほうが高い。別のまとめ頁には定着について40%・70%・20%が同時に並び、どれにも個別の出典が付いていない。
- 2000年の *American Journal of Sociology* 105(5):1288-1356 は、経済的リターンを「より厚い応募者プール」「より良いマッチ」「社会的な豊かさ」の3経路に分けている。引く側が想定するのは、たいてい真ん中の1つだけである。
- 2016年の *Journal of Labor Economics* 34(1) の掲載版の抄録は「初期の賃金の優位は時間とともに消える」までしか書いていない。「在職3年でおおむね同水準」は同じ著者らの作業論文版の本文にある。作業論文版では紹介者が応募の6%、面接の21%、内定の27%、採用の29%を占める。
- 2005年の *American Journal of Sociology* 110(5) は「紹介による入社者は当初は生産的である」と書く。その後に効くのは入社後の社会的過程であり、紹介した側がまだ在籍しているかどうかが混じる。同じ施策が、測る時点で大きくも、消えても、残っても見える。
- 2013年の *Management Science* 59(11) は数理モデルと計算モデルの研究であって実証ではない。しかも「紹介者の行動は分離効果の大半を緩和しうる」とも書いている。「紹介は分離を再生産する」とだけ引くと原典と逆になる。
- 2018年の *Sociological Science* 5 は「少額の報奨でも質の低い候補者を紹介しやすくなる」と報告するが、参加者1,473人に架空の企業と職を示した仮想の場面の実験である。「そうなった」ではなく「そう答えた」である。
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 紹介による採用は費用が半分で済む | 行き着いた一次の数値は逆を向いている。同じ集散地が「求人ボード経由の採用は平均1,671ドル、紹介による採用は2,306ドル」と書いている。「50%低い」を出している調査そのものには行き着かなかった。 |
| 紹介の仕組みは、同じような人ばかりを集めることが研究で示されている | よく引かれる2013年の論文は数理モデルと計算モデルの研究であって実証ではない。しかも同じ抄録が「過去の理解に反して、紹介者の行動は分離効果の大半を緩和しうることも示す」と書いている。片方だけを引くと原典と逆になる。 |
| 紹介で入った人は定着率が高い、というのは一つの調査で確かめられている | 3つの数字は4つの別々の調査に由来する。学術の側で測られているのは、入口での比率の差、当初の生産性の差、初期の賃金の優位が時間とともに消えること、在職期間が長いこと——測る時点によって答えが変わる。 |
合成された数字が強いのは、どの一つも嘘ではないからである。1年後の定着率46%も、29日という日数も、2,306ドルという単価も、それぞれの調査の中では実在する。困るのは、3つが1つの文になった瞬間に、比べた相手も、測った年も、測った会社も、いっしょに落ちることである。落ちたものは、あとから足せない。そして足せないまま、その文は次の資料へ引かれていく——今度は、出所として。
Q1. 流通する3つの数字の集散地には、費用について「求人ボード経由の採用は平均【 ① 】ドル、紹介による採用は【 ② 】ドル」とある。つまり紹介のほうが【 ③ 】。穴埋め
Q2. 2013年の *Management Science* の論文について、引く側が取り違えやすい点を2つ挙げよ。一問一答
Q3. 米国の金融サービス企業1社の記録(作業論文版)で、紹介された人が占める比率が小さい段から大きい段の順に並べよ。並べ替え
Q4. 紹介についての次の3つの所見を、それが観測される時点の早い順に並べよ。(あ)賃金の優位がおおむね消える(い)入社後の当初は非紹介者より生産的である(う)選考の段が進むほど占める比率が上がる並べ替え
Q5. 2018年の *Sociological Science* の研究について、正しい説明はどれか。選択
紙かメモアプリに、自分の周りで紹介によって入った人、または自分が誰かを紹介した件を、思い出せる範囲で最大5件まで挙げる。名前は書かない。1件につき『いつごろか(年だけ)』『紹介した側とされた側の関係を一語で(同じ職場だった/学校が同じ/知人の知人/よく知らない)』『紹介した側とされた側の関わりが今も続いているか(続いている/途切れた/分からない)』の3つだけを書く。良し悪しの評価は書かない。最後に、5件のうち『続いている』が何件だったかを1つの数として書く。★本人に確認しに行かない。誰かの働きぶりや定着を評価しない。人事の記録を取りに行かない。個人が特定できる書き方をしない。自分の記憶の中だけで完結させる。心当たりが無い場合、あるいはいま働いていない場合は、学校・地域の活動・趣味の集まりで誰かに引き合わされた経験を同じ3項目で書けばよい。公開されている紹介制度の説明を1件読み、そこで何が数えられていて何が数えられていないかを3つ書き出す形でも足りる。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Fernandez R.M., Castilla E.J., Moore P. (2000) 'Social Capital at Work: Networks and Employment at a Phone Center', American Journal of Sociology 105(5):1288-1356 — doi.org
- Rubineau B., Fernandez R.M. (2013) 'Missing Links: Referrer Behavior and Job Segregation', Management Science 59(11):2470-2489 — doi.org
- Castilla E.J. (2005) 'Social Networks and Employee Performance in a Call Center', American Journal of Sociology 110(5):1243-1283 — doi.org
- Brown M., Setren E., Topa G. (2016) 'Do Informal Referrals Lead to Better Matches? Evidence from a Firm's Employee Referral System', Journal of Labor Economics 34(1):161-209 — doi.org
- Bond B.M., Labuzova T., Fernandez R.M. (2018) 'At the Expense of Quality', Sociological Science 5:380-401 — doi.org
- Rubineau B., Fernandez R.M. (2015) 'How Do Labor Market Networks Work?', in Emerging Trends in the Social and Behavioral Sciences, Wiley, pp.1-15 — doi.org
- Sullivan J. '10 Compelling Numbers That Reveal the Power of Employee Referrals'(採用実務の解説記事。刊行日の記載なし、2026年8月閲覧) — drjohnsullivan.com