40年で6,000本超に引かれ、核心の仮説を直接検定した公刊研究は1本だった
採って、残って、似てくる。この循環はふつう「文化が自己強化される」という良い話として引かれる。原典の同じページで、著者は「組織は失敗しうる」と書き、自分の枠組みを quite grim——かなり厳しい——と呼んでいた。皮肉なことに、40年後の数え上げによれば、その厳しさのほうも、まだ直接には検定されていない。
前の単位では、中にいる人が次に入ってくる人を連れてくる仕組みを見た。ここでは、その循環そのものを説明するとされる枠組みを扱う。採って、残って、似てくる——という循環である。
扱うのは一点——40年引かれ続けている原典が、引く側とちょうど逆を向いていることである。そしてもう一段、その「逆」のほうも確かめられていない。 あわせて、この棚を通していた二つめの手つきを回収する。組織を変えよ、誰を残せ、という話は書かない。
原典は、自己強化を良いこととは書いていない
出発点は1987年の *Personnel Psychology* 40(3):437-453 で、抄録は「組織はそこに含まれる人々の種類の関数であり、そこにいる人々は引きつけ・選抜・淘汰という循環の関数である」と提案する。この3語が40年ぶんの引用の元になっている。
引く側では、この循環はたいてい「文化が自己強化される」という良い話として置かれる。原典の同じ箇所を開くと、逆である。
> “an organization can become so ingrown in type that it begins to occupy an increasingly narrow ecological niche”(組織は型として内向きになりすぎ、ますます狭い生態的地位を占めるようになりうる)(pp.445-446)
> “When this happens, the organization can fail”(そうなったとき、組織は失敗しうる)(p.446)
> “In fact, the ASA framework is quite grim with respect to how organizations will cope with the requirement to change.”(実のところ、この枠組みは、組織が変化の要請にどう対処するかについて、かなり厳しい見方をしている)(p.446)
“quite grim”——かなり厳しい、と著者自身が書く。 そして条件も明示されている。
> “unless organizations consciously fight restriction in the range of the kinds of people they contain, when the environment changes they will (1) not be aware that it has changed and (2) probably not be capable of changing.”(組織が、含む人の種類の幅が狭まることに意識的に抗わないかぎり、環境が変わったときに(1)変わったことに気づかず(2)おそらく変わることもできない)(p.446)
「抗わないかぎり」である。 自動的にそうなるとも、避けられないとも書かれていない。引く側は、この条件節ごと落としている。
40年で、核心の仮説を直接検定した公刊研究は1本
2026年の *Journal of Management* 52(1):9-41 が、この枠組みの40年を数え上げている。
> “Based on a review of over 6,000 articles that cited ASA, we identified 321 studies that used the theory as a basis for their hypotheses. However, only 77 (24%) of those studies actually tested an aspect of the theory.”(引用した6,000本超の検討から、理論を仮説の根拠として用いた研究321本を同定した。そのうち実際に理論の何らかの側面を検定したのは77本、24%にすぎなかった)
★この24%の分母は321であって6,000ではない。 絞り込みは三段である。「6,000本のうち77本」と縮めれば誤りになる。
> “For instance, only one published study directly tested the central hypothesis that ASA processes lead to homogeneity.”(たとえば、これらの過程が同質性をもたらすという中心的仮説を直接検定した公刊研究は、1本だけである)
そのうえ、向きのほうも支持されていない
同じ抄録に、もう一つ書かれている。
> “Moreover, some parts of the theory were not supported. ... although the theory suggests that ASA processes will reduce organizational effectiveness, several studies found that homogeneity was associated with better performance.”(理論の一部は支持されなかった。……この理論は過程が組織の有効性を下げると示唆するが、複数の研究は同質性がより良い業績と関連していることを見いだした)
ここで話が二段になる。 「自己強化は良いことだ」(引く側)→「原典は厳しいと書いている」(一段目)→「その厳しさのほうも支持されていない」(二段目)。 だから「同質化は組織を弱くする」とは書けない。 同じ抄録は、こうも書く。
> “Although the amount of empirical support for ASA theory was uneven, we believe it still has the potential to help understand organizations and the people that make them.”(実証的支持の量は不均一だったが、我々はそれが依然として、組織とそれを作る人々を理解する助けとなる可能性を持つと考える)
「否定された」ではない。「検定されていない」である。 この2つは、まったく違う。
同質化の主犯は、引きつけではなく選抜だった
「時間とともに」を正面から検定した数少ない研究のひとつが、2018年の *Journal of Organizational Behavior* 39(10):1347-1366 である。2018年の時点でも、著者らはこう書いている。
> “However, critical aspects of that proposition have remained untested”(しかし、その命題の重要な側面は未検定のまま残されている)
そして所見はこうである。
> “selection, among the ASA processes, is most responsible for the within-organization homogenization, whereas attraction contributes most to between-organization heterogeneity.”(3つの過程のうち、組織内の同質化に最も責任があるのは選抜であり、組織間の異質性に最も寄与するのは引きつけである)
組織の中が似てくる主な原因は、似た人が自然に集まってくることではない。組織が選んでいることである。「合う人が来た」と見えているところの多くは、「合う人を選んだ」である。
同質性の実証は、何人を、どう測ったか
同質性そのものを測った研究は、規模も道具もばらついている。1998年の *Journal of Applied Psychology* 83(3):462-470 は “a sample of 12,739 managers from 142 organizations” を扱うが、対象は管理職だけ、測定手段は性格類型の指標、標本はある育成機関の研修参加者の記録——研修に送られてくる管理職という、すでに選ばれた集団である。しかも検定したのは「組織のあいだで分布が違う」ことであって、「時間とともに似てくる」ことではない。 2005年の同誌 90(5):1002-1010 は32組織の経営者と従業員467人で、桁が2つ違い、著者自身が所見を “initial empirical support” と書く。
1995年、著者ら自身は “both indirect and direct evidence”(間接的および直接的な証拠)があると書いていた。2026年の数え上げは、同じ命題を「直接検定した公刊研究は1本」と数える。 自己評価と、30年後の外部評価の落差である。
時間・変化:三年後の業績は、今日の業績と半分しか重ならない
ここで、この棚を通していた二つめの手つきを回収する。採用の成果は、いつ測るかで別のものになる。 承諾はその日、立ち上がりは90日、定着は1年、活躍は3年——段が下るほど、採用以外のもの(配属・上司・同僚・景気・本人の事情)が積み上がる。 それだけではない。的そのものが、時間とともに揺れている。
2005年の *Journal of Applied Psychology* 90(2):269-283 は、同じ人の業績を時間をあけて測り直すと何が起きるかをメタ分析でまとめている。
> “the test-retest reliability of these ratings ranged from .83 for subjective measures in low-complexity jobs to .50 for objective measures in high-complexity jobs.”(評価のテスト・再テスト信頼性は、低複雑度の職務の主観的指標の .83 から、高複雑度の職務の客観的指標の .50 まで幅があった)
> “correlations between performance measures decreased as the time interval between performance measurements increased, but the estimates approached values greater than zero.”(業績指標間の相関は、測定間の時間間隔が長くなるほど低下した。ただし推定値はゼロより大きい値へ近づいた)
1年の時差での安定性は .85 から .67。複雑な仕事を客観指標で測ると、同じ人の業績どうしの重なりが .50 まで落ちる。
「採用時点の指標と、3年後の業績の関連が弱い」ことには、理由が二つある。 ひとつは採用の予測力そのもの。もうひとつは、「3年後の業績」が「今日の業績」と半分しか重ならないことである。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、引用の回数が、確かめられた回数のように見えることである。6,000本を超える引用は、この枠組みが有名であることを示す。検定された回数を示してはいない。
標本の偏りも断っておく。ここで並べた実証は、米国の、記録が残る組織に大きく寄っている——研修機関の記録に残る管理職12,739人、32組織の経営者と従業員467人。日本の組織の同質化を対象にした査読研究には行き着けなかった。 いずれもいま在籍している人を測っている。去った人がどれだけ似ていなかったかは、標本に入っていない。
助けになるのは、入ったばかりの人と長くいる人の共通点を書き出し、選考で確かめていた項目とそうでない項目に分けてみるという一手である。効き目は共通点の多さではなく、「選考では見ていなかったのに、そろっている項目」がいくつあるかが見えることにある。 最初の一歩は10分。いま採用に関わっていなくてよい。公開されている求人票の「求める人物像」を、入社前に確かめられる項目とそうでない項目に分ける形でも足りる。
入口の形は、出口の側から決まっている
この棚は、順序のある絞り込みとして置かれていた。市場の見立てから入り、外へ出す言葉を作り、集めて絞って渡し、入ってからの立ち上がりを見て、残る側と次の入口まで来た。絞り込みの形は便利な図である。上から下へ数が減っていくことだけを、一枚で示せる。ただしその形には、二つのことが最初から埋め込まれている。
ひとつ。この形は、通った人の側からしか描けない。 各段で減った数は書けるが、減った人がその後どうなったかは観測されない。応募しなかった人、書類で落ちた人、辞退した人、辞めた人——線が細くなるという描き方の中に、その人たちは「差」としてしか現れない。 この棚で見てきた数字のほとんどは、採った人と、残っている人から書かれていた。
ふたつ。段ごとに、測る時点が違う。 下へ行くほど採用以外のものが積み上がり、そのうえ的そのものが揺れている。それなのに、上流の施策の効き目として引かれるのは、たいてい下流の数字である。
最後の段が言っているのは、出口が入口に戻るということだった。残った人が、次に誰を選ぶかを決める。40年前にその循環を書いた人は、それを良いこととは書かなかった。ただし条件を付けた——組織が意識的に抗わないかぎり、である。 そして40年後の数え上げは、その向きがまだ確かめられていないと言う。
だからこの棚は、どの段をどう直せばよいかを教えない。教えられるのは、その段の数字が何を数えていて、何を数えていないかだけである。 図の外にいる人は、図に出てこない。出てこないことを知っているのと、知らないのとでは、まだ差がある。
- 1987年の *Personnel Psychology* 40(3):437-453 は、引きつけ・選抜・淘汰の循環を「提案する」論文である。pp.445-446 に「組織は失敗しうる」「この枠組みは、変化の要請への対処についてかなり厳しい見方をしている」とある。自己強化を良いこととは書いていない。
- ただし原典は条件を明示している——「組織が、含む人の種類の幅が狭まることに意識的に抗わないかぎり」。自動的にそうなるとも、避けられないとも書かれていない。引く側は、この条件節ごと落として引いている。
- 2026年の *Journal of Management* 52(1):9-41 の数え上げは三段である。6,000本超が引用し、321本が仮説の根拠に使い、そのうち77本(24%)が実際に検定した。★24%の分母は321であって6,000ではない。
- 核心の仮説(これらの過程が同質性をもたらす)を直接検定した公刊研究は1本だけである。そのうえ向き自体も支持されておらず、「複数の研究は同質性がより良い業績と関連していることを見いだした」と同じ抄録が書いている。
- したがって「同質化は組織を弱くする」とも「この枠組みは否定された」とも書けない。同じ抄録は「それが依然として、組織とそれを作る人々を理解する助けとなる可能性を持つと考える」と締める。書けるのは「検定されていない」までである。
- 2018年の *Journal of Organizational Behavior* 39(10):1347-1366 は、組織内の同質化に最も責任があるのは選抜であり、組織間の異質性に最も寄与するのは引きつけだと報告する。組織が選んでいる。
- 同質性の実証は規模も道具もばらつく。1998年の研究は142組織の管理職12,739人だが、対象は管理職のみ、測定は性格類型の指標、標本は育成機関の研修参加者の記録である。2005年の研究は32組織の経営者と従業員467人で、著者自身が「初期の実証的支持」と書く。
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 引きつけ・選抜・淘汰の循環によって、組織文化は良い方向に自己強化される | 原典は逆を向いている。著者は「内向きになりすぎ、ますます狭い生態的地位を占めるようになりうる」「組織は失敗しうる」と書き、自分の枠組みを quite grim と呼ぶ。ただし「組織が意識的に抗わないかぎり」という条件が付いている。 |
| では、同質化は組織を弱くするということが分かっているのだ | それも支持されていない。40年の数え上げは「複数の研究は同質性がより良い業績と関連していることを見いだした」と報告する。書けるのは「その向きは直接には確かめられていない」までである。理論が否定されたわけでもない。 |
| 採用時点の指標と3年後の業績の関連が弱いのは、採用の予測力が低いからである | 理由は二つある。もう一つは「3年後の業績」自体が「今日の業績」と半分しか重ならないことである。同じ人の業績のテスト・再テスト信頼性は、複雑な職務を客観指標で測ると .50 まで落ちる。的そのものが揺れている。 |
人が集まって、似てくる。それを自己強化と呼ぶと良い話に聞こえるが、最初に書いた人は自分の枠組みを、かなり厳しい、と呼んだ。しかも40年かけて、その厳しさが本当かどうかを直接確かめた公刊研究は1本しかない。この棚を16回かけて見てきたのは、結局これである——引用の回数は、確かめられた回数ではない。そして最後にもうひとつ。数字が集まるのは、通った人と残った人の側だけである。通らなかった側の数字は、集まらないのではなく、最初から作られていない。
Q1. 1987年の原典は pp.445-446 で「組織は【 ① 】しうる」と書き、自分の枠組みを【 ② 】(かなり厳しい)と呼んでいる。ただし条件が付いており、「組織が、含む人の種類の幅が狭まることに意識的に【 ③ 】かぎり」となっている。穴埋め
Q2. 同じ人の業績のテスト・再テスト信頼性は、低複雑度の職務の主観的指標で【 ① 】、高複雑度の職務の客観的指標で【 ② 】である。1年の時差での安定性は .85 から【 ③ 】の幅に収まる。穴埋め
Q3. 「そのうち77本(24%)が実際に検定した」という記述の、24%の分母は何本か。よくある縮め方の誤りとあわせて説明せよ。一問一答
Q4. 2018年の研究は、組織の中が似てくることの主な原因を3つの過程のどれだと報告しているか。それが採用の話にとってなぜ重要か。一問一答
Q5. 2026年の数え上げが示した4つの段を、件数の多い順に並べ、それぞれが何を数えているかを添えよ。並べ替え
紙かメモアプリに、自分の周りで最近入った人3人と、5年以上いる人3人を思い浮かべる(名前は書かない。人数がそろわなければ2人ずつでよい)。次に、6人に共通していると思う点を最大5つ、20字程度で書き出す。書くのは仕事のしかたに関する項目だけにする——年齢・性別・出身・家族構成・健康など、その人の属性は書かない。最後に、5つそれぞれに『選考で見ていた項目』『選考では見ていなかった項目』『分からない』のどれか1つを記し、2つめが何個だったかを数として書く。★誰かの働きぶりを評価しない。優劣や向き不向きを書かない。本人や周囲に確認しに行かない。人事の記録を取りに行かない。個人が特定できる書き方をしない。いま採用に関わっていない場合、周りに比べられる人がいない場合は、公開されている求人票を1件選び、『求める人物像』の項目を入社前に確かめられるもの/確かめられないものに分ける形でよい。自分が過去に受けた選考を1つ思い出して同じ分け方をする形でも足りる。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
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- Schneider B. (1987) 'The People Make the Place', Personnel Psychology 40(3):437-453 — doi.org
- Van Iddekinge C.H., Harrison J.T., Su R., Ployhart R.E. (2026) 'Do the People Make the Place? A 40-Year Review of Research on ASA Theory', Journal of Management 52(1):9-41 — doi.org
- Schneider B., Goldstein H.W., Smith D.B. (1995) 'The ASA Framework: An Update', Personnel Psychology 48(4):747-773 — doi.org
- Schneider B., Smith D.B., Taylor S., Fleenor J. (1998) 'Personality and organizations: A test of the homogeneity of personality hypothesis', Journal of Applied Psychology 83(3):462-470 — doi.org
- Oh I.-S., Han J.H., Holtz B., Kim Y.J., Kim S. (2018) 'Do birds of a feather flock, fly, and continue to fly together? The differential and cumulative effects of attraction, selection, and attrition on personality-based within-organization homogeneity and between-organization heterogeneity progression over time', Journal of Organizational Behavior 39(10):1347-1366 — doi.org
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