「離職が25%低い」の反対側に、+0.235 という値が座っていた
仕事を自分で作り替える人は辞めにくい——そう書かれた資料はよく見る。122標本を集めたメタ分析を開くと、全体の相関は −0.02 で信頼区間はゼロを跨いでいた。皮肉なことに、そこで唯一大きかったのは符号の逆の値で、しかもそれは「邪魔なものを減らす」という、いちばん実行しやすい方向に付いていた。
段はひとつ進んで、残ってもらう段に入る。前の単位までは「聞いた話」と「実際」が合っているかを測っていた。ここからは、同じ人の同じ仕事が、時間とともに変わっていくかが測られる。
この単位が扱うのは一点——「ジョブ・クラフティングを行う従業員は離職率が25%低い」という言い方が、メタ分析とどう食い違っているかである。あわせて、昇進という言葉に付いてくる数字が、いまも決着していないことを見る。誰を昇進させるべきか、どんな制度を入れるべきかは書かない。何がどう測られたか、だけを見る。
辿れた先には、逆の数字があった
「25%低い」を4通りの語形で探し、専門機関の要約と、この種の統計を集めた頁を2つ当たったが、特定できる調査には行き着かない。ただしこの単位の主題はそこではない。辿れなかったことより、辿れた先に逆の数字があったことのほうが強い。
全体の相関は、ほぼゼロだった
2017年の *Journal of Vocational Behavior* 102巻112-138頁に、ジョブ・クラフティングのメタ分析がある(K=122の独立標本、N=35,670人)。要旨はこう書く。
> “Differential results emerged when considering specific job crafting dimensions.”(個々の次元を考えると、異なる結果が現れた)
離職の側はどうか。 同論文の帰結の表で、離職意図の行の全体の値は——rc = −0.021、K=4、N=2,429、95%信頼区間は −0.066 から 0.023。ゼロを跨ぐ。 「25%低い」どころか、大きさも向きも、ここには無い。
次元によって、符号が反転する
同じ表を次元ごとに開くと値がばらける。構造的な資源を増やすは rc = −0.158、社会的な資源を増やすは rc = −0.022、挑戦的な要求を増やすは rc = −0.091。そして唯一大きいのが、符号の逆のほうである。
> “...whereas decreasing hindering job demands was related to turnover intentions (rc = 0.235).”(妨害的な職務要求を減らすことは、離職意図と関連していた)
rc = +0.235(K=3、N=2,240)。 邪魔なものを減らすという、いちばん実行しやすそうな方向が、辞めたい気持ちの高いほうと結びついている。 どの次元も K は3〜4本しかない。「クラフティングをすればよい」ではなく「何をクラフトするかで符号が変わる」である。
姓と年では区別できない二本がある
ここで書誌の注意をひとつ。同じ2017年の同じ誌に、著者が3名重なる別のメタ分析がある。 一方は98巻17-34頁でキャリア適応力を扱い、著者は3名。いま見ているのは102巻112-138頁、Katz I.M. が加わった4名、主題はジョブ・クラフティングである。 姓と年だけの出典表記では、この二本は区別できない。 引用管理の道具はたいてい姓と年で鍵を作る。並べて置くと、静かに入れ替わる。
独立した3本が、同じ向きを指している
設計の違う2本が、同じ向きを出している。
2019年の *European Journal of Work and Organizational Psychology* 28(3):300-314 は、6か月あけた2時点の追跡(111人)と、介入群60人・統制群59人の準実験を組み合わせる。
> “Decreasing demands at Time 1 negatively affected work engagement, task performance, and career satisfaction at Time 2.”(時点1で要求を減らすことは、時点2のワーク・エンゲージメント、課題遂行、キャリア満足に負の影響を与えた)
介入は「資源を求める」と「要求を減らす」の両方を増やしたが、成果に効いたのは前者だけで、後者は下げるほうへ動いた。
2024年の *Journal of Occupational and Organizational Psychology* 97(1):47-73 は、K=58標本・N=20,347人のメタ分析的な構造方程式モデルである(著者自身が横断データだと明記する)。
> “Results also indicated that challenge and hindrance demand crafting increase job strain via increases in job demand.”(挑戦的要求および妨害的要求のクラフティングは、職務要求の増加を介して職務ストレインを高めることも示された)
別チーム・別データ・別手法で、同じ向きである。
出発点の論文は、効果を測っていない
この言葉の出発点は2001年の *Academy of Management Review* 26(2):179-201 である。抄録の最後はこうである。
> “We offer a model of job crafting that specifies ... (3) its likely individual and organizational effects.”(我々はジョブ・クラフティングのモデルを提示する。……そして(3)その、起こりうる個人および組織への効果)
“likely”——起こりうる、である。 提案であって測定ではない。離職率の数字は、この論文には無い。
昇進のほうは、いまも決着していない
成長の話は、たいてい昇進の話に着地する。ここには正面から対立する二つの説明が並ぶ。
一方は2019年の *The Quarterly Journal of Economics* 134(4):2085-2134 である。以下の数値は、同じ著者らの作業論文版(NBER Working Paper 24343)から取った。掲載版の抄録には到達できていない。
> “The best worker is not always the best candidate for manager.”(最良の働き手が、つねに最良の管理者候補であるとはかぎらない)
> “doubling the new manager's pre-promotion sales corresponds to a 7.5 percent decline in the sales performance of each of the newly-promoted manager's subordinates.”(昇進前の売上が2倍だと、その新任管理者の部下ひとりひとりの売上成績が7.5%低いことに対応する)
作業論文版の標本は、営業成績を管理するソフトの提供元が持つ、その導入先214社・53,035人、うち期間中に昇進したのが1,531人、2005年から2011年である。データがあるのは、その種のソフトを買った企業だけである。
もう一方は2004年の *Journal of Political Economy* 112(S1):S141-S163 で、まったく逆を言う。
> “This view is unnecessary and inconsistent with the data. Below, it is argued that ability appears lower after promotion purely as a statistical matter.”(この見方は不要であり、データとも整合しない。以下では、昇進後に能力が低く見えるのは、純粋に統計上の事柄であると論じる)
> “Rather than evidence of a mistake, the Peter principle is a necessary consequence of any promotion rule.”(誤りの証拠であるどころか、ピーターの法則はいかなる昇進ルールからも必然的に帰結する)
昇進の基準は「満たしたこと」の証拠であり、次に測れば平均のほうへ戻る、という主張である。 片方だけを引けば「昇進のさせ方が間違っている」に読め、もう片方だけを引けば「落ちて当然だ」に読める。同じ現象について、いまも決着していない。
「良い管理者」は離職を減らす。それ以外は一貫しない
2021年の *Journal of Political Economy* 129(1):243-285(大手技術企業1社の人事データ)は、部下との関わり方の技能を調査で測り、二つを並べて報告する。
> “survey-measured people management skills have a strong negative relation to employee turnover”(調査で測られた人の管理の技能は、従業員の離職と強い負の関係を持つ)
> “However, people management skills do not consistently improve most observed nonattrition outcomes.”(しかし、人の管理の技能は、離職以外の観測された成果のほとんどを、一貫して改善はしない)
辞める人は減る。それ以外の指標は一貫して良くならない。 同論文は、そうした管理者自身の評価・昇進率・昇給が高いことも報告する。
機会を開くと、そのぶん不採用が増える
社内公募の実証がある。2021年の *Academy of Management Journal* 64(1):63-85 は、1社・5年・9,355件の「社内応募の不採用」を数えた。
> “Yet these markets generate more internal rejections than matches, as not all internal applicants are hired.”(しかしこうした市場は、マッチよりも多くの内部的な不採用を生む。内部の応募者全員が採用されるわけではないからである)
所見は、面接まで進んで落ちた人と、社外ではなく社内の別の人が選ばれた場合のほうが、その後に辞めにくい、というものである。機会を開くこと自体が、開いた数より多くの「落ちた人」を作る。落ちた人の側は、ふつう数えられていない。
時間・変化:2001年から2024年へ、何が測られるようになったか
順に置く。2001年、概念が提示される。効果は “likely” と書かれ、数値は無い。2004年、昇進後の低下は統計上の必然だという理論が出る。2017年、122標本のメタ分析が、全体では離職意図とほぼ無関係、妨害的要求を減らす次元だけ逆符号だと示す。2019年、2時点の追跡と準実験が、要求を減らす方向は成果を下げると示す。同じ年、214社の営業データが、現職の成績で選ぶと部下の成績が下がると示す。2021年、1社の人事データが、離職は減るがそれ以外は一貫しないと示し、社内公募の不採用9,355件が数えられる。2024年、58標本のメタ分析が、要求のクラフティングは負荷を上げると示す。
23年で増えたのは、効果の確からしさではなく、「どの向きにクラフトしたか」を分けて数える習慣のほうである。 分けたとたん、平均の下で符号が打ち消し合っていたことが見えた。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、「自分で仕事を作り替える」という話が、まず良いこととして流通することである。良いか悪いかは、どちらへ作り替えたかで変わる。 増やす側と減らす側は同じ言葉で呼ばれているが、測ると逆を向く。
標本の偏りも断っておく。ここで引いた実証は、北米と欧州の、記録が残る組織に大きく寄っている——ソフトの導入先214社、大手技術企業1社、社内公募のある1社、K が3〜4本のメタ分析。社内公募の無い場所も、成績を数値で持たない仕事も、この中に入っていない。 共通しているのは、いま在籍している人のデータであることである。
助けになるのは、自分の担当範囲が半年でどう変わったかを、増えた側と減った側に分けて書き出してみるという一手である。効き目は量ではなく、「自分から広げたもの」と「気づいたら増えていたもの」が別々に見えることにある。
最初の一歩は10分。半年前と比べて広がった項目にチェックを入れ、そのうち自分から広げたものに印を付ける。 いま働いていなくてよい。過去の仕事でも、続けている活動でも、引き受けている役割1つでも足りる。
ここまでで、変わっていく側の測られ方を見た。次の単位では、その側に付けられている、いちばん流通している名前を扱う。その名前が何を指しているのかを、名前を広めた側自身がどう書いたかから見る。
- 「ジョブ・クラフティングを行う従業員は離職率が25%低い」の出どころは、4通りの語形で探しても特定できる調査に行き着かない。ただしこの単位の主題は「辿れなかったこと」ではなく、辿れた先に逆の数字があったことである。
- 2017年の *Journal of Vocational Behavior* 102巻112-138頁のメタ分析(K=122標本・N=35,670人)では、ジョブ・クラフティング全体と離職意図の修正済み相関は rc=−0.021(K=4・N=2,429、95%信頼区間 −0.066〜0.023)で、ゼロを跨ぐ。
- 唯一大きいのは「妨害的な職務要求を減らす」次元で、rc=+0.235(K=3・N=2,240)と符号が逆である。邪魔なものを減らす方向が、辞めたい気持ちの高いほうと結びついている。
- 同じ2017年・同じ誌に、著者が3名重なる別のメタ分析(98巻17-34頁・キャリア適応力・著者3名)がある。いま見ているのは102巻・著者4名・ジョブ・クラフティングのほうで、姓と年だけの出典表記では区別できない。
- 2019年の2時点追跡・準実験(111人/60人・59人)と、2024年のK=58標本・N=20,347人のメタ分析が、独立に同じ向きを出している。要求を減らす方向のクラフティングは、成果を下げ、負荷を上げる。
- 出発点の2001年の論文は「その、起こりうる個人および組織への効果」と書いている。提案であって測定ではなく、離職率の数値はそこに無い。
- 昇進については、214社・53,035人の営業データ(数値は作業論文版)が「現職の成績で選ぶと部下の成績が7.5%下がる」と報告する一方、2004年の理論は「昇進後に低く見えるのは平均への回帰という統計上の事柄である」と主張する。決着していない。
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 仕事を自分で作り替える人は辞めにくい。それはメタ分析で確かめられている | 122標本のメタ分析で、全体と離職意図の相関は rc=−0.021、95%信頼区間は −0.066 から 0.023 でゼロを跨ぐ(K=4・N=2,429)。確かめられているのは「関連があるとは言えなかった」であって、25%低いではない。 |
| クラフティングはどの方向でも同じように良い | 次元によって符号が反転する。構造的な資源を増やす次元は rc=−0.158 だが、妨害的な要求を減らす次元は rc=+0.235 である。2019年の準実験でも、要求を減らす行動は成果を下げる方向に動いた。 |
| 成績の良い人を昇進させると失敗しやすい、というのは分かっていることである | 214社の営業データはそう読めるが、2004年の理論は「昇進後に能力が低く見えるのは純粋に統計上の事柄であり、いかなる昇進ルールからも必然的に帰結する」と主張している。同じ現象について二つの説明が並んでおり、決着していない。 |
「25%低い」の便利なところは、方向がひとつしか書かれていない点である。原典の表を開くと、方向は5つあり、そのうち4つは小さく、いちばん大きい1つは逆を向いていた。邪魔なものを減らすというのは、いちばん先に思いつき、いちばん実行しやすい。だから平均を出すとき、その1本だけが他を打ち消して、全体はほぼゼロになる。ほぼゼロという数字は、何も起きていないという意味ではない。反対向きのことが同時に起きている、という意味である。
Q1. 2017年のメタ分析(K=122標本・N=35,670人)では、ジョブ・クラフティング全体と離職意図の修正済み相関は【 ① 】で、95%信頼区間は −0.066 から 0.023 と【 ② 】を跨ぐ。この行の研究数は K=【 ③ 】である。穴埋め
Q2. 同じメタ分析の離職意図の行で、唯一大きい値が出た次元はどれか。またその値の符号は、他の次元と比べてどうなっているか。一問一答
Q3. この単位が引いているメタ分析と、同じ2017年・同じ学術誌に載っている別のメタ分析は、どこで見分けられるか。2つ挙げよ。一問一答
Q4. 「昇進前の売上が2倍だと、その新任管理者の部下の売上成績が7.5%低い」という数値は、どの版から取られたものか。本文はどう断っているか。一問一答
Q5. 2004年の理論論文は、昇進後に成績が落ちて見えることをどう説明しているか。選択
紙かメモアプリに、いま自分が受け持っていることを10項目まで箇条書きにする(1項目20字程度)。次に、半年前と比べて範囲が広がった項目にチェックを入れる。狭くなった項目には別の印(△など)を付ける。変わっていない項目は空欄のままにする。最後に、チェックの付いた項目だけを見て、「自分から広げたもの」に丸を付ける。誰かに頼まれて広がったもの、人が抜けて回ってきたものには丸を付けない。合計で、チェックの数、△の数、丸の数の3つを書く。★他人の担当範囲を書かない。誰かの働きぶりを評価しない。上司や同僚に確認しに行かない。組織の記録を取りに行かない。自分の記憶の中だけで完結させる。いま働いていない場合、担当という形が無い場合は、続けている活動・家庭の中の役割・引き受けている係のうち1つを選び、同じ3つの数を出せばよい。公開されている求人票を1件選び、書かれている職務の範囲を10項目に分解して、そのうち自分に経験がある項目にチェックを入れる形でも足りる。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Rudolph C.W., Katz I.M., Lavigne K.N., Zacher H. (2017) 'Job crafting: A meta-analysis of relationships with individual differences, job characteristics, and work outcomes', Journal of Vocational Behavior 102:112-138 — doi.org
- Dubbelt L., Demerouti E., Rispens S. (2019) 'The value of job crafting for work engagement, task performance, and career satisfaction: longitudinal and quasi-experimental evidence', European Journal of Work and Organizational Psychology 28(3):300-314 — doi.org
- Holman D., Escaffi-Schwarz M., Vasquez C.A., Irmer J.P., Zapf D. (2024) 'Does job crafting affect employee outcomes via job characteristics? A meta-analytic test of a key job crafting mechanism', Journal of Occupational and Organizational Psychology 97(1):47-73 — doi.org
- Wrzesniewski A., Dutton J.E. (2001) 'Crafting a Job: Revisioning Employees as Active Crafters of Their Work', Academy of Management Review 26(2):179-201 — doi.org
- Benson A., Li D., Shue K. (2019) 'Promotions and the Peter Principle', The Quarterly Journal of Economics 134(4):2085-2134 — doi.org
- Lazear E.P. (2004) 'The Peter Principle: A Theory of Decline', Journal of Political Economy 112(S1):S141-S163 — doi.org
- Hoffman M., Tadelis S. (2021) 'People Management Skills, Employee Attrition, and Manager Rewards: An Empirical Analysis', Journal of Political Economy 129(1):243-285 — doi.org
- Dlugos K., Keller J.R. (2021) 'Turned Down and Taking Off? Rejection and Turnover in Internal Talent Markets', Academy of Management Journal 64(1):63-85 — doi.org