21%は生産性ではない。43%は、どの版にも載っていない
エンゲージメントの高い部門は生産性が21%高く、離職率が43%低い——この一組は、たいてい1本のメタ分析として引かれる。原典にあたると、21%は生産性ではなく収益性の数字で、新しい版では23%に動いている。43%のほうは、どの版にも載っていない。
前の単位では、役割の効果として引かれる書誌が、実在するかどうかから確かめた。ここでは、入った人が「うまくいっている」と言われるときに、その言葉が何の数字で支えられているかを見る。
この単位が扱うのは一点——その数字は、何を、いつ測ったものかである。 どうすればうまくいくかは扱わない。
21%は、生産性ではなく収益性である
いちばんよく引かれるのはこの一組である。エンゲージメントの高い部門は、生産性が21%高く、離職率が43%低い。
出どころは、ある調査会社が定期的に更新している技術報告である。2016年に出た第9版の原文にあたった。上位4分の1と下位4分の1の事業単位を比べたときの、中央値の差の一覧がこう並んでいる。
> “10% in customer loyalty/engagement, 21% in profitability, 20% in productivity — sales, 17% in productivity — production records and evaluations, 24% in turnover for high-turnover companies ... 59% in turnover for low-turnover companies ...”(顧客のロイヤルティ・エンゲージメントで10%、収益性で21%、生産性(売上)で20%、生産性(生産記録と評価)で17%、高離職率の企業の離職で24%、低離職率の企業の離職で59% ほか)
21%は、収益性の行に付いている。 生産性の行は20%と17%である。引用されるときに、行が1つずれている。
版が変わると、数字が動く
同じ技術報告の第11版(2024年)に、同じ一覧がある。
> “10% in customer loyalty/engagement / 23% in profitability / 18% in productivity (sales) / 14% in productivity (production records and evaluations) / 21% in turnover for high-turnover organizations ... / 51% in turnover for low-turnover organizations ...”(顧客のロイヤルティ・エンゲージメントで10%、収益性で23%、生産性(売上)で18%、生産性(生産記録と評価)で14%、高離職率の組織の離職で21%、低離職率の組織の離職で51% ほか)
収益性は21%から23%へ、生産性(売上)は20%から18%へ動いている。 投入された研究の数も、339研究・230組織から736研究・347組織へ増えている。
「あの調査によれば」と書かれた数字には、たいてい版が書かれていない。 版が変われば数字は動く。動いたことを知らないまま、古い版の数字が現在形で引かれ続ける。
43%は、どの版にも載っていない
では離職の43%はどうか。第9版にも第11版にも、43%という数字は無い。 離職の差として載っているのは、24%と59%(第9版)、21%と51%(第11版)である。
しかもこの2つは、「高離職率の組織か、低離職率の組織か」で倍以上ちがう。 同じ調査のなかで、比べる相手の集団が違えば、差は21%にも51%にもなる。「離職率が◯%低い」という一行に縮めた時点で、どちらの集団の話かが落ちている。
「43%」の出どころは、発行元のサイト内検索でも、ウェブ検索3系統でも、第9版の全文でも、第11版のページでも、行き着けなかった。
出している側が、因果を留保している
この技術報告には、第9版にも第11版にも、同じ一文が入っている。
> “This paper does not directly address issues of causality, which are best addressed with meta-analytic longitudinal data, consideration of multiple variables and path analysis.”(本稿は因果性の問題を直接には扱わない。それはメタ分析的な縦断データ、複数変数の考慮、経路分析によって最もよく扱われる)
出している側は、因果を主張していない。 引く側が、因果として引いている。
データの出どころについても、書かれている。
> “Gallup's inferential database includes 736 studies conducted as proprietary research for 347 independent organizations.”(推論用データベースには、347の独立した組織のために専有的な研究として実施された736の研究が含まれる)
クライアントのために実施された受託研究の自社データベースである。 同じ報告は、公刊・未公刊のすべてを含むので出版バイアスの恐れが無い、とも書いている。裏返せば、外部の誰も個々の研究を検証できない、ということでもある。
横断の .30 が、縦断では .06 になる
数字の取れる側に移る。満足と業績の関係は、査読の側で長く測られてきた。2001年の *Psychological Bulletin* 127(3):376-407 のメタ分析は、312標本・合計およそ5万4千人を集めてこう書いている。
> “The mean true correlation between overall job satisfaction and job performance was estimated to be .30.”(全般的な職務満足と職務業績のあいだの平均真相関は .30 と推定された)
同じ論文は、因果についてこう断っている。
> “Thus, though the studies in Models 1-3 (reviewed below) are purportedly causal, rarely are the assumptions necessary to draw causal inferences satisfied.”(したがって、以下で検討するモデル1から3の研究は因果的だとされているが、因果推論を行うために必要な仮定が満たされていることはまれである)
そこで、同じ人を繰り返し測ったパネル研究だけを集めるとどうなるか。 2008年の *Journal of Applied Psychology* 93(2):472-481 が、それをやっている。
> “The effect of job attitudes on subsequent performance, with baseline performance controlled, was weak but statistically significant (beta = .06).”(ベースラインの業績を統制したうえでの、職務態度がその後の業績に及ぼす効果は、弱いが統計的に有意だった(β = .06))
> “The effect was slightly stronger for commitment than for satisfaction and depended negatively on time lag.”(効果は満足より継続的関与のほうがやや強く、時間差に対して負に依存していた)
「時間差に対して負に依存する」——測る間隔が長くなるほど、効果は小さくなる。 k = 16 という薄さも書いておく。測る時点をどこに置くかで、同じ関係が別の大きさになる。
ついでに向きも押さえておく。逆方向、つまり業績がその後の態度に及ぼす効果は β = .00 で、著者は「態度のほうが業績に影響する可能性が高い」と結論している。「どちらが原因かは分からない」ではない。原典はもう少し踏み込んでいる。
何を統制すると、関係が消えるか
2007年の *Journal of Vocational Behavior* 71(2):167-185 は、この関係が見せかけかどうかを直接に扱っている。既存のメタ分析の値を使った再分析である(一次のメタ分析ではない)。抄録はこうである。
> “In the current study, however, analyses using meta-analytic data suggested that the satisfaction–performance relationship is largely spurious. More specifically, the satisfaction–performance relationship was partially eliminated after controlling for either general personality traits (e.g., Five Factor Model traits and core self-evaluations) or for work locus of control and was almost completely eliminated after controlling for organization-based self-esteem.”(本研究では、メタ分析データを用いた分析から、満足と業績の関係が大部分は見せかけであることが示唆された。より具体的には、一般的な性格特性(5因子モデルの特性や中核的自己評価など)または仕事上の統制の所在を統制すると関係は部分的に消え、組織基盤の自尊感情を統制するとほぼ完全に消えた)
「満足しているから成果が出る」ではなく、「もともと自己評価の高い人が、満足もし、成果も出している」という読みが立つ。 ただし k も N も個別の相関値も、抄録には無い。 そこまでは書けない。
幸福な労働者仮説の標本は、47人と37人だった
もう1本。2000年の *Journal of Occupational Health Psychology* 5(1):84-94 は、2つのフィールド研究を並べている。
> “In Study 1, psychological well-being, but not job satisfaction, was predictive of job performance for 47 human services workers. These findings were replicated in Study 2 for 37 juvenile probation officers.”(研究1では、47人の対人サービス職について、心理的な良好さは業績を予測したが、職務満足は予測しなかった。この所見は研究2の37人の少年保護観察官で再現された)
満足は業績を予測しなかった。予測したのは別の構成概念だった。 そして標本は47人と37人である。反証としても、標本は2桁である。 どちらの向きにも、大きく振らないほうがよい。
時間・変化:2000年から2026年へ、数字は動き続けている
順に置く。2000年、47人と37人のフィールド研究で、満足は業績を予測しなかった。2001年、312標本のメタ分析が、横断の平均真相関を .30 と推定し、因果推論の仮定はまれにしか満たされないと断る。2007年、既存のメタ分析データの再分析が、自己評価を統制すると関係がほぼ消えると報告する。2008年、パネル研究16本を集めた分析が、ベースラインを統制すると β=.06 に落ち、時間差が長いほど小さくなると報告する。2016年、技術報告の第9版が、収益性21%・生産性20%と17%を出す。2017年、従業員の経験を3つの環境で語る一般書が出る(査読を経ていない商業出版である)。2024年、第11版が、収益性23%・生産性18%と14%に更新する。
もうひとつ、混同しやすい23%がある。同じ発行元の別の刊行物にも23%という数字があるが、そちらは収益性ではなく、世界で「エンゲージしている」と分類された従業員の比率である。 そしてそれは2022年のピーク値で、直近の版はこう書いている。
> “the world's employee engagement has dropped to 20% from its peak in 2022 of 23%”(世界の従業員エンゲージメントは、2022年のピークである23%から20%へ低下した)
26年で動いたのは、関係の向きではなく、数字の大きさと、その数字が指しているものの範囲のほうである。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、気持ちのほうが、成果より測りやすいことである。調査票は今日配れる。返ってくるのも今週である。成果のほうは、いつ測るかを先に決めなければならない。そして同じ日に両方を測れば、いちばん大きな相関が出る。
標本の偏りを断っておく。ここで引いた技術報告は、受託研究の自社データベースであり、個々の研究は外部から検証できない。査読の側の標本は、北米の労働者が大半で、パネル研究は16本しかない。日本の職場を対象にした査読研究には行き着けなかった。 そして、調査に答えられる状態にある人だけが、標本に入っている。
助けになるのは、自分の満足と、自分の成果の自己評価を、しばらく別々に記録してみるという一手である。同じ日の2つを並べると、たいてい似た形になる。日付をずらして並べ直すと、形が変わる。 効き目は相関の大きさではなく、「同じ日に測ると似る」ということが自分の記録で見えることのほうにある。
もうひとつは、数字を見たときの順番を決めておくことである。まず「どの版のものか」、次に「何の指標か」、最後に「どちらの集団と比べたか」。
最初の一歩は10分。今日から14日間、1日1回、その日の満足と、その日の成果の自己評価を1〜10で書く。 職場の記録でなくてよい。自分の作業でも、勉強でも、家のことでも足りる。
次の単位では、入るときに交わされた言葉になっていない取り決めの話に移る。それが破られると離職が3倍になる、と書かれている数字が、どこから来ているのかを見る。
- 上位4分の1と下位4分の1の部門の中央値の差として引かれる「21%」は、収益性の数字である。同じ一覧で生産性は20%(売上)と17%(生産記録と評価)である。引用されるときに行が1つずれている。
- 版が変わると数字が動く。第9版(2016年、339研究・230組織)では収益性21%・生産性20%と17%、第11版(2024年、736研究・347組織)では収益性23%・生産性18%と14%である。
- 「離職率43%低」は、この技術報告のどの版にも存在しない。離職の差として載っているのは24%と59%(第9版)、21%と51%(第11版)で、しかも高離職率の組織か低離職率の組織かで倍以上ちがう。43%の出どころには行き着けなかった。
- 出している側は「本稿は因果性の問題を直接には扱わない」と両版に明記している。データは347の独立した組織のための受託研究736件からなる自社データベースであり、外部から個々の研究を検証できない。
- 横断で測った満足と業績の平均真相関は .30(2001年・312標本・合計およそ5万4千人)だが、ベースラインの業績を統制したパネル研究16本だけを集めると β = .06 に落ちる。しかもその効果は「時間差に対して負に依存」する。
- 逆方向、つまり業績がその後の態度に及ぼす効果は β = .00 で、原典は「態度のほうが業績に影響する可能性が高い」と結論している。「どちらが原因か分からない」ではない。
- 2007年の再分析は、性格特性や仕事上の統制の所在を統制すると関係は部分的に消え、組織基盤の自尊感情を統制するとほぼ完全に消える、と報告している(k・Nは抄録に無い)。2000年の2つのフィールド研究では、満足は業績を予測せず、標本は47人と37人だった。
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| エンゲージメントの高い部門は生産性が21%高い。これは大規模なメタ分析で示されている | 21%は収益性の行に付いている数字である。同じ一覧で生産性は20%(売上)と17%(生産記録と評価)だった。しかも新しい版では収益性23%・生産性18%と14%に動いている。版が書かれていない引用は、どの版の数字かを確かめられない。 |
| 離職率が43%低いという差も、同じ調査で示されている | 43%という数字は、この技術報告のどの版にも無い。離職の差として載っているのは24%と59%、あるいは21%と51%で、高離職率の組織か低離職率の組織かで倍以上ちがう。43%の出どころには行き着けなかった。 |
| 満足度を上げれば成果が上がることは、相関 .30 という数字で裏づけられている | .30 は横断で測った平均真相関である。同じ人を繰り返し測ったパネル研究だけを集め、ベースラインの業績を統制すると β = .06 に落ち、しかも測る間隔が長いほど小さくなる。数字を出している側自身が、因果性を直接には扱わないと書いている。 |
行が1つずれるだけで、収益性は生産性になり、20年たっても誰も戻さない。43%のほうは、もっと簡単だった。どこにも無い数字は、どこにも無いという理由で、誰にも否定されない。原典を開くと、いちばん大きく書いてあったのは効果の一覧ではなく、因果を直接には扱わない、という一文だった。読む人はたいていそこを飛ばす。飛ばした先に、括弧つきの年と、%の付いた数字だけが残る。
Q1. 上位4分の1と下位4分の1の部門の中央値の差として引かれる「21%」は、生産性ではなく【 ① 】の数字である。同じ一覧で生産性は【 ② 】%(売上)と17%(生産記録と評価)だった。新しい版では①は【 ③ 】%に動いている。穴埋め
Q2. 離職の差として技術報告に載っているのは、第9版が【 ① 】%と59%、第11版が21%と【 ② 】%であり、この2つは「【 ③ 】の組織か、その逆か」で倍以上ちがう。穴埋め
Q3. 横断で測った満足と業績の平均真相関はいくつか。また、パネル研究だけを集めてベースラインの業績を統制するといくつになり、その効果は何に対してどう依存すると原典は書いているか。一問一答
Q4. 2007年の再分析が報告した内容として、正しいものはどれか。選択
Q5. 次の4つを、古い順に並べよ。(A)技術報告の第11版が、収益性23%・生産性18%と14%に更新する(B)47人と37人のフィールド研究で、満足は業績を予測しなかった(C)パネル研究16本を集めた分析が、β=.06で時間差に負に依存すると報告する(D)312標本のメタ分析が、横断の平均真相関を .30 と推定する並べ替え
紙かメモアプリに、日付・満足・成果の3列を作る。今日から14日間、1日1回、決まった時刻に、その日の「満足」を1から10、その日の「成果の自己評価」を1から10で書く。基準は自分の中だけで決めてよく、他人と比べない。書くのは2つの数だけで、理由や出来事は書かない。★他人を評価しない。同僚や上司や部下の様子を書かない。14日たったら、2列を紙の上で1行ぶんずらして並べ直し、ずらす前とずらしたあとで、2つの数が似ている日の数をそれぞれ数える。ずらす向きは、満足を1日前に置く形にする。職場の記録に触れられない場合、あるいはいま働いていない場合は、自分の勉強・家のこと・続けている作業を対象にして同じ形をとればよい。過去の手帳や日記から14日ぶんを取り出して同じ2列を作る形でも足りる。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Riketta M. (2008) 'The causal relation between job attitudes and performance: A meta-analysis of panel studies', Journal of Applied Psychology 93(2):472-481 — doi.org
- Judge T.A., Thoresen C.J., Bono J.E., Patton G.K. (2001) 'The job satisfaction–job performance relationship: A qualitative and quantitative review', Psychological Bulletin 127(3):376-407 — doi.org
- Bowling N.A. (2007) 'Is the job satisfaction–job performance relationship spurious? A meta-analytic examination', Journal of Vocational Behavior 71(2):167-185 — doi.org
- Wright T.A., Cropanzano R. (2000) 'Psychological well-being and job satisfaction as predictors of job performance', Journal of Occupational Health Psychology 5(1):84-94 — doi.org
- Gallup (2016) 'The Relationship Between Engagement at Work and Organizational Outcomes: Q12 Meta-Analysis, Ninth Edition'(自社技術報告) — www.workcompprofessionals.com
- Gallup (2024) 'Q12 Meta-Analysis: 11th Edition'(自社技術報告) — www.gallup.com
- Gallup 'State of the Global Workplace'(世論調査報告。2026年8月閲覧。直近版は2025年のデータ) — www.gallup.com
- Morgan J. (2017) The Employee Experience Advantage, Wiley, ISBN 9781119321620 — openlibrary.org