星の数が動いたとき、動いていたのが誰なのかを、査読論文は分けて書いている
従業員レビューの評価が1ポイント上がれば応募が増える、とよく言われる。皮肉なことに、その数字の一次情報には行き着けず、代わりに見つかった査読論文の従属変数は、株式の月次リターンだった。しかも同じ論文は、その効果が「現従業員のレビュー」に集中していたと書いている。誰が書いたかで、結果が違う。
前の単位では、自社で働くことの値打ちとして並べられる項目が、どこまで測られているかを見た。組織の側が並べたその一覧の隣に、働いている人・働いていた人が書いたものが同じ画面に並ぶ段になると、こんどは——その星の数が、そもそも何の測定値なのかが問題になる。
この単位が扱うのは二点。そのデータで実際に測られてきたものは何か。 そして、平均点が動いたとき、動かしているのは誰かである。そういう場をどう使うべきか、使わないべきかは書かない。研究の対象として、何が測られたかだけを書く。
このデータで、実際に測られてきたもの
先に断っておく。「悪い体験を受けた候補者の72%が他者に伝える」と「評価が1ポイント上がると応募率が4%増える」——この二つの数値の一次情報には、それぞれ五系統をたどっても行き着けなかった。 書けるのは、行き着けなかった、までである。
そのかわり、同じデータを使った査読論文は複数ある。 従属変数を並べると、こうなる。
①株式の月次リターン。 2019年の *Journal of Financial Economics* 134巻1号は、100万件超のレビューと3,906社(2008年6月から2016年6月)を使った。効果は評価の「水準」ではなく「四半期ごとの変化」に対するもので、上位五分の一と下位五分の一の差は月あたり0.74%である。 さらに、こう書いてある。
> “The return effect is concentrated among reviews from current employees, stronger among early firm reviews”(リターンへの効果は現従業員によるレビューに集中しており、その企業についての初期のレビューでより強い)
②企業側の職場慣行の変化(2021年 *Journal of Accounting Research* 59巻5号・後述)。③上場前後の従業員満足(2026年 *Management Science* 72巻6号・後述)。④レビューの情報としての価値(2021年 *European Journal of Operational Research* 288巻2号)。
応募率を従属変数にした査読研究には、行き着けなかった。 株式リターンの研究を応募率の根拠として引くのは、測っているものが違う。
星の数は、何の測定値なのか
**2019年の *Personnel Assessment and Decisions* 5巻3号は、この問いを正面から扱った数少ない査読論文である。2017年の連邦職員意識調査(回答者407,789人)を機関単位に集約したものと、同じ連邦機関について公開されていたレビュー評価(最終的に27機関)**を突き合わせた。
全体評価の相関は .516。 そして項目ごとの結果について、原典はこう書く。
> “In contrast, the validity of facet-level measurement was not well-supported.”(対照的に、項目ごとの測定の妥当性は十分には支持されなかった)
同じ論文は、投稿の仕組みそのものについても書いている。 他人のレビューを3件見たあとに自分も投稿することを求める方式について、こうある。
> “This is intended to combat polarizing ratings biases associated with self-selection that can lead to bimodal ratings distributions.”(これは、二峰型の評価分布を生みうる自己選択に伴う、評価の両極化の偏りに対抗することを意図している)
プラットフォームの側が、偏りを前提にして設計している、ということである。同じ論文が先行研究に付けた但し書きも書いておく。
> “Incentivized reviewing has been found to reduce bias in ratings on Glassdoor, although this research was conducted by a team that included a Glassdoor researcher.”(誘因付きのレビューはこのサイトでの評価の偏りを減らすと報告されているが、その研究は当該サイトの研究者を含む研究班によって行われたものである)
「極端な人しか書かない」は、査読側では支持されていない
ここは、事前の予想が外れたところである。「レビューを書くのは入社直後の人と辞めた直後の人だ」という選択の偏りを、従業員レビューで直接に実証した査読研究には、七系統をたどっても行き着けなかった。 それどころか、行き着けた査読研究2本が、逆の観察を報告している。
株式リターンの論文は、標本の記述でこう書く。
> “The mode for each rating category is 3.0 ... which generally helps mitigate concerns that only highly satisfied and unsatisfied employees feel compelled to write employer reviews.”(各評価項目の最頻値は3.0である……この分布は総じて、きわめて満足している従業員と不満な従業員だけが雇用主のレビューを書かずにいられない、という懸念を和らげる)
**2021年の *European Journal of Operational Research* 288巻2号は、英国企業40,915社・349,550件のレビューを扱った研究で、内訳は退職者165,441件・現従業員184,109件——ほぼ半々である。** 本文の最後に、こうある。
> “Interestingly, our sample does not follow a standard U-shaped pattern indicating that it may be less exposed to the latter bias.”(興味深いことに、我々の標本は標準的なU字型の分布に従っておらず、後者の偏りにさらされている度合いが小さい可能性を示している)
同じ論文は、賞や認定のランキングと比べて、こうも書いている。
> “Analyses based on that list may suffer from potential self-selection bias as it is the firm's decision whether to participate in this survey or not”(その一覧に基づく分析は、その調査に参加するかどうかが企業の判断であるために、自己選択の偏りを抱えうる)
参加するかどうかを企業が決める仕組みのほうが、誰が入っているかの偏りは大きくなりうる。
動いているとき、動いているのは誰か
論点を「誰が書いているか」から「動いているのは誰か」へ移す。 **2026年の *Management Science* 72巻6号**は、株式公開が従業員の満足にどう影響するかを、数百万件のレビューと差の差の方法で調べた。
> “We document that employees become less satisfied after their employers go public. The effect is driven by employees who joined the company before the IPO rather than those who joined after it”(雇用主が株式を公開したあと、従業員の満足は下がることを我々は記録した。この効果は、公開後に入社した従業員ではなく、公開前に入社していた従業員によって駆動されている)
平均点が下がったとき、下げていたのは「前から居た人」である。 同じ変化を「職場が悪くなった」とだけ読むと、この分解が消える。 株式リターンの論文が「効果は現従業員のレビューに集中している」と書いていたのも、同じ形の話である。
見られること自体が、企業の側を動かしている
**2021年の *Journal of Accounting Research* 59巻5号は、向きを逆にして、レビューされた企業の側が、その後どう動いたか**を測った。
> “after being reviewed on Glassdoor, firms improve their workplace practices, measured by corporate social responsibility scores on employee relations and diversity”(レビューされたあと、企業は職場の慣行を改善する。改善は、従業員との関係と多様性についての社会的責任のスコアで測っている)
> “such improvement concentrates in firms with negative initial reviews and with high labor intensity.”(そうした改善は、初期のレビューが否定的だった企業と、労働集約度の高い企業に集中していた)
発信の効果ではなく、見られることの効果である。 そして効いたのは全社ではなく、最初の評価が低かったところと、人手に頼る度合いが高いところだった。
時間・変化:一つのデータ源が、十五年かけて別々の問いに使われてきた
2008年にレビューの蓄積が始まる。2019年、そのデータで株式の月次リターンが説明され、同じ年に、そもそも何を測っているのかという妥当性の検証が出る。2021年、企業の側の行動の変化と、レビューの情報としての価値。2022年、全国調査との突き合わせによる代表性の点検(査読誌ではない作業論文である)——産業単位で0.51、職種単位で0.47、高賃金の職では収入がやや過大に推計される。2026年、動いているのは誰かの分解。
十五年で、問いは「株価に効くか」から「何を測っているのか」、そして「動いているのは誰か」へ移った。 その間、実務の側で引かれ続けている数値は、応募率についてのものである。 つまり、査読の側がほとんど答えていない問いのほうが、実務では最もよく引かれている。
候補者の側の調査についても、標本の作り方を書いておく。2022年の候補者体験の大規模ベンチマーク調査は、その発表で「150社超・約20万人の候補者」からの匿名の回答だと述べている。参加するかどうかを決めるのは雇用主であり、回答するかどうかを決めるのは候補者である。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、平均点を一つの数として追うことである。平均は、誰が書いたかの内訳を丸めてしまう。
標本の偏りを断っておく。ここで引いた査読研究の対象は、米国の上場企業と連邦機関、そして英国の企業である。 日本の従業員レビューを対象にした査読研究には行き着けず、代表性の点検をした一本は査読誌に載った論文ではない。
助けるのは、評価そのものではなく、投稿者の属性が判別できるかどうかを見るという一手である。在職中か退職後か。 これが判別できないなら、平均点の変化を誰が起こしたのかも判別できない。
最初の一歩は15分。公開されている従業員レビューを1社ぶん20件読み、「投稿者が在職中か退職後か」が判別できた件数を数えて記録する。 内容の当否は判定しない。判別できた件数そのものが、その平均点をどこまで読めるかの上限である。
ここまでが青の段——どこに、どう向かって出るかだった。次からは、実際に人を集めて絞っていく側に入る。そこでは、集めた数と「質」の関係が問題になり、その「質」の指標のひとつが、実は担当者の主観評価だった、という話になる。
- 従業員レビューのデータを使った査読論文の従属変数を並べると、株式の月次リターン、企業の業績、企業側の職場慣行の変化、上場前後の満足度である。応募率を従属変数にした査読研究には行き着けなかった。悪い体験を受けた候補者の72%が他者に伝える、評価1ポイントで応募率4%増、という二つの数値の一次情報にも、それぞれ五系統をたどって行き着けなかった
- 2019年に Journal of Financial Economics に出た研究は、100万件を超えるレビューと3,906社(2008年6月から2016年6月)を使った。効果は評価の水準ではなく四半期ごとの変化に対するもので、上位五分の一と下位五分の一の差は月あたり0.74%である。しかも効果は現従業員によるレビューに集中しており、初期のレビューで、また本社のある州で働く従業員の場合により強い
- 2019年に Personnel Assessment and Decisions に出た研究は、40万人規模の連邦職員意識調査を機関単位に集約したものと、同じ連邦機関27件のレビュー評価を突き合わせた。全体評価の相関は.516に留まり、原典は、項目ごとの測定の妥当性は十分には支持されなかった、と書いている
- 同じ論文は、他人のレビューを3件見たあとに自分も投稿することを求める仕組みが、二峰型の評価分布を生みうる自己選択に伴う両極化の偏りに対抗する意図だ、と説明する。プラットフォームの側が偏りを前提に設計している。さらに、誘因付きレビューが偏りを減らすという先行研究について、その研究は当該サイトの研究者を含む班によるものだ、と但し書きを付けている
- レビューを書く人が入社直後と退職直後に偏るという選択の偏りを、従業員レビューで直接に実証した査読研究には七系統をたどっても行き着けなかった。むしろ2本が逆を報告している。1本は各評価項目の最頻値が3.0であることを挙げ、極端な人だけが書くという懸念を和らげると書き、もう1本は自分たちの標本が標準的なU字型に従っていないと書く。後者の内訳は退職者165,441件・現従業員184,109件でほぼ半々である
- 2026年に Management Science に出た研究は、株式公開のあと従業員の満足が下がること、そしてその効果が、公開後に入社した従業員ではなく公開前に入社していた従業員によって駆動されていることを記録した。平均点が動いたとき、動かしているのが誰かは分解できる。論点は、誰が書いているかではなく、動いているのは誰か、である
- 2021年に Journal of Accounting Research に出た研究は向きを逆にし、レビューされた企業の側の変化を測った。初回レビューの時点差を利用した差の差の設計で、レビューされたあと企業は職場の慣行を改善しており、その改善は初期のレビューが否定的だった企業と労働集約度の高い企業に集中していた。発信の効果ではなく、見られることの効果である
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 従業員レビューを書くのは、入社直後の人と、辞めた直後の人に偏っている | この選択の偏りを従業員レビューで直接に実証した査読研究には、七系統をたどっても行き着けなかった。しかも行き着けた査読研究2本は、逆の観察を報告している。1本は、各評価項目の最頻値が3.0であることを挙げ、極端な人だけが書かずにいられないという懸念を和らげると書く。もう1本は、自分たちの標本は標準的なU字の形をしていないと書き、その内訳は退職者165,441件・現従業員184,109件でほぼ半々である |
| レビューの星の数は、従業員満足の測定値として使える | 連邦機関27件について、40万人規模の政府の職員意識調査を機関単位に集約したものと突き合わせた研究では、全体評価の相関は.516に留まり、項目ごとの妥当性は支持されなかった。キャリアの機会は.191、報酬と福利は.208、仕事と生活の均衡は.350、文化と価値は.576、上級経営層は.578である |
| レビューの評価が上がれば、応募も採用も良くなる | このデータを使った査読論文の従属変数を並べると、株式の月次リターン、企業の業績、企業側の職場慣行の変化、上場前後の満足度である。応募率を従属変数にした査読研究には行き着けなかった。評価の1ポイントで応募率が4%増える、という数値の一次情報にも行き着けなかった |
星の数は、たしかに何かを測っている。困るのは、それが何なのかを最もよく調べた論文が、項目ごとにはあまり合っていない、と結論していることである。そして平均点が動いたとき、動かしていたのは、上場の前から居た人たちだった。星を増やす仕事に予算が付くのは、たぶん、星が誰の何を表しているかを訊くより、増やすほうが早いからである。
Q1. 連邦機関 ____ 件について、40万人規模の職員意識調査を機関単位に集約したものと公開レビューの評価を突き合わせた研究では、全体評価の相関は ____ に留まり、原典は ____ ごとの測定の妥当性は十分には支持されなかったと書いている。穴埋め
Q2. 「レビューを書くのは入社直後の人と辞めた直後の人に偏っている」という説について、本文が確かめたことを書きなさい。行き着けた査読研究がどう書いているかも含めること。一問一答
Q3. 2019年に Journal of Financial Economics に出た研究について、正しいのはどれか。選択
Q4. 2026年に Management Science に出た研究が「動いているのは誰か」について報告したのはどれか。選択
Q5. 2021年に Journal of Accounting Research に出た研究が測ったのはどれか。選択
公開されている従業員レビューを、どこか1社ぶん20件選んで読む(どのサイトでもよい。自分の勤め先である必要はないし、むしろ関係のない組織のほうがやりやすい)。読みながら、1件ごとに「投稿者が在職中だと判別できた/退職後だと判別できた/判別できなかった」の3つのどれかを記録する。表示に在職・退職の区別が付いている場合はそれを使い、付いていない場合は本文の書きぶりから判断できるかどうかで判定する。内容の当否や、その組織の良し悪しは判定しない。最後に3つの件数を合計し、「判別できなかった」が20件中いくつだったかを書く。採用の実務に今すぐ関われない場合も、そのまま同じ形でできる。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Landers R.N., Brusso R.C., Auer E.M. (2019) 'Crowdsourcing Job Satisfaction Data: Examining the Construct Validity of Glassdoor.com Ratings', Personnel Assessment and Decisions 5(3):45-55 — scholarworks.bgsu.edu
- Green T.C., Huang R., Wen Q., Zhou D. (2019) 'Crowdsourced employer reviews and stock returns', Journal of Financial Economics 134(1):236-251 — doi.org
- Symitsi E., Stamolampros P., Daskalakis G., Korfiatis N. (2021) 'The informational value of employee online reviews', European Journal of Operational Research 288(2):605-619 — doi.org
- Li M., Pinto J. (2026) 'How Does Going Public Affect Employee Satisfaction? Evidence from Glassdoor Reviews', Management Science 72(6):4871-4888 — doi.org
- Dube S., Zhu C. (2021) 'The Disciplinary Effect of Social Media: Evidence from Firms' Responses to Glassdoor Reviews', Journal of Accounting Research 59(5):1783-1825 — doi.org
- Sockin J. (2022) 'Show Me the Amenity: Are Higher-Paying Firms Better All Around?', University of Pennsylvania working paper(IZA コンファレンス版、2022年4月28日) — conference.iza.org
- Talent Board '2022 Candidate Experience Benchmark Research Report'(発行元の公開リリース、2023年1月11日。2026年8月閲覧) — www.prnewswire.com