緊急と重要の2×2は、その演説には出てこない
緊急と重要を4つの箱に分ける図には、大統領の名前が付いている。当の演説を開くと、引用されているのは名前の挙がっていない「ある元学長」で、4つの箱はどこにも出てこない。そして配分の研究の側では、上手な配分と業績の関係が、いまだ一貫して見つかっていない。
前の単位では、決めるまでの速さを扱った。ここでは、決めたあとに、限られた手をどこへ配るのかを扱う。
この単位が扱うのは一点——優先順位を付けるという行いが、実際には何によって決まっているのかである。 何を優先すべきかは扱わない。止めるべきものも指定しない。お金の使い道や投資の是非にも踏み込まない。
「四半期の達成率が20%向上」を探した
よく引かれる数字がある。目標と主要な結果を四半期ごとに置く枠組みを入れると、達成率が平均20%上がる、というものである。 出どころとして挙がるのは2018年に出た一般書で、査読の手続きを通っていない。
そこで、その枠組みの効果を測った査読研究のほうを探した。探した先を数え上げておく。
結論から書く。2026年8月に探した範囲では、この枠組みの導入と成果を対照群つきで測った研究に、主要な査読誌で到達できなかった。 到達できたのは、系統的な文献レビューが数本と、単一の業種を対象にした小規模な調査、そして実務向けの手引き書である。学術の書誌データベースを枠組みの名前で引くと、返ってくるものの大半は、章立てのある実務の手引き書だった。
「存在しない」とは書かない。 有料の書誌データベースや、企業の内部に留まっている評価には、届いていない。書けるのは、ここまで探して到達できなかった、である。 そして「20%向上」という数字の一次情報にも、同じくたどり着けなかった。
査読側にある足場は、もっと手前にある
この枠組みが依拠している考え——集団に目標を置くと成果が上がる——のほうは、査読側で測られている。2011年に *Journal of Applied Psychology* 96(6):1289-1304 に出たメタ分析が、集団の目標設定の効果をまとめている。
ただし、ここで効果量の数字は出さない。 この原稿を書く時点で、この論文の要旨の逐語を取得できておらず、二次資料から数字だけを写すことはしない。 書けるのは、集団の目標設定を対象にしたメタ分析が査読誌に存在する、というところまでである。
そして注意しておく。集団に目標を置くことの効果と、四半期ごとに目標と主要な結果を書き出す特定の枠組みの効果は、同じものではない。 前者に証拠があることは、後者の証拠にならない。
1954年8月19日の演説を開く
もう一つの手垢のついた図に移る。緊急と重要で4つに分ける2×2の図である。 大統領の名前が冠されることが多い。一次資料に到達できたので、そのまま引く。
1954年8月19日、米国イリノイ州エヴァンストンで行われた演説に、こうある。
“I illustrate it by quoting the statement of a former college president, and I can understand the reason for his speaking as he did. I am sure President Miller can. This President said, ‘I have two kinds of problems, the urgent and the important. The urgent are not important, and the important are never urgent.’”
訳す。ある元学長の言葉を引いて説明したい。彼がそう語った理由は私にも分かる。ミラー学長にも分かるはずだ。その学長はこう言った——私には二種類の問題がある。緊急なものと重要なものだ。緊急なものは重要ではなく、重要なものは決して緊急ではない。
ここから3つの事実が出る。
第一に、引用されているのは「ある元学長(a former college president)」であって、名前は挙げられていない。
第二に、演説に出てくるミラー学長は、そのとき現職の学長であり、会場にいた人物である。 大統領は「ミラー学長にも分かるはずだ」と、共感してくれそうな聞き手として触れているだけで、発言者として挙げているのではない。 ところが世に流通している説明の多くは、この人物を発言者としている。帰属そのものが、一次資料と食い違っている。
第三に、この演説に2×2の図は出てこない。 出てくるのは、緊急と重要という二つの語だけである。4つの箱は、後から誰かが作ったものである。
配分は、事業の中身ではなく「いくつに区切ったか」で動く
では、実際の配分は何で決まっているのか。2011年に *Strategic Management Journal* 32(13):1465-1483 に出た論文が、これを3つの研究で扱っている。
第一の研究は記録に残ったデータを使い、企業の内部の配分が、その企業がいくつの事業単位に区切られているかに対して、均等へ偏っていることを示した。第二・第三の研究は、経験のある管理職に、架空の企業の各部門へ配分してもらう実験である。
そして要旨に、この設計の意味が書いてある。“This methodology eliminates the possibility of agency conflicts.”——この方法は、代理人の利害対立という可能性を取り除く。つまり「上と下の駆け引きで歪んだ」では説明できない形にしてある。 それでも、こうなった。
“allocations varied systematically with the divisional and subdivisional structure of the firm”——配分は、企業の部門と下位部門の構造に応じて、体系的に変わった。
この現象に名前が付いている。区切り依存(partition dependence)である。要旨の言葉では、配分は、その企業がどう組織されているか、あるいは何に対して配分されるかという、区分の切り方に応じて体系的に変わる。
同じ総額でも、2つに区切れば半分ずつ、4つに区切れば4分の1ずつへ寄る。 中身が変わったわけではない。変わったのは、いくつの箱を用意したかだけである。 著者らはこれを、投資の際に素朴に分散させようとする認知の傾向と結びつけている。
効果の大きさは要旨に無い。だから数字は書かない。 書けるのは向きだけである。
上手な配分と業績のあいだに、一貫した関係は見つかっていない
では「上手に配れば成果が出る」のほうはどうか。2017年に *Journal of Management* 43(8):2430-2455 に出た総説が、この分野の研究を整理して、こう書いている。
“The result is a puzzle, wherein scholars have found little consistent substantive relation between capital allocation, business unit characteristics, and firm performance.”——その結果はひとつの謎である。研究者たちは、配分と、事業単位の特性と、企業の業績のあいだに、一貫した実質的な関係をほとんど見いだせていない。
続けて、原因は研究者の側にもあると書く。“problems in the literature stem from the disparate approaches scholars have taken when studying capital allocation, including assessments of what constitutes and prevents successful allocation”——問題は、研究者が何をもって配分の成功とみなし、何が成功を妨げるとみなすかを含めて、ばらばらの取り組み方をしてきたことに由来する。
これは「配分は無意味だ」ではない。 「成功した配分」の定義が研究ごとに違うので、集めても像を結ばない、である。この棚が何度も通る道である。測り方が揃っていないものは、集めても揃わない。
時間・変化:語だけが残り、条件は残らなかった
順に並べる。1954年、演説で、名前の挙がっていない元学長の言葉として、緊急と重要という二つの語が引かれる。2011年、集団の目標設定のメタ分析が査読誌に出る。同じ年、配分が区切りの数に応じて均等へ偏ることが3つの研究で示される。2013年、配分の過程の効率が、過去の到達水準に引きずられるかどうかが *Academy of Management Journal* 56(4):1081-1103 で扱われる。2017年、総説が「一貫した実質的な関係はほとんど見いだせていない」と書く。2019年、*Academy of Management Annals* 13(1):43-83 が、企業内部の配分の研究を改めて総括する。2018年の一般書が広めたのは、このどれでもなく、四半期という区切りと、数字を書く欄だった。
70年で消えたのは、条件のほうである。 元学長という出どころも、名前が無いという事実も、2×2が後から作られたことも、配分が区切りの数で動くことも、外へ出るときに落ちた。残ったのは、4つの箱と、埋めるべき欄である。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、箱の数を先に決めてしまうことである。4つの象限、3つの重点、5つの柱——箱を用意した時点で、中身が決まる前に配分の形が決まる。 2011年の研究が示したのは、まさにその順序である。
標本の偏りを断っておく。ここまでの証拠は、米国と欧州の、複数の事業を持つ上場企業と、経験のある管理職から採られている。記録に残ったデータ、架空の企業を使った実験2件、そして総説による整理——いずれも、記録が残り、調査に応じる余裕のある組織と人からのものである。 日本の配分を対象にした査読研究はごく少ない。「成功した配分」が何を指すかも、研究ごとに違う。 そして——成功した組織のデータだけが残る、という逆向きを排除できない。 配分を誤って消えた事業、記録が残らなかった判断、答える人がいなくなった会社は、たいてい最初から標本に入っていない。
助けになるのは、箱を作る前に、いま抱えているものの件数をただ数えることである。分類しない。優先順位も付けない。 数えるだけでよい。件数が分かってから箱を作ると、箱の数のほうが件数に合わせて動く。
もう一つ助けになるのは、枠組みの名前に人名が付いていたら、その人がそう言ったのかを一度だけ確かめるという習慣である。1954年の演説のように、一次資料が公開されていることは案外多い。
最初の一歩は5分。いま抱えているものの件数を数え、そのうち直近1週間で1度も触っていないものの件数を数える。止めるかどうかは決めない。
次の単位は 216「調達・外部連携プロセスの品質」——外から来るものが止まったとき、何がいつ起きていたのかという話へ進む。
- 目標と主要な結果を四半期ごとに置く枠組みについて、2026年8月に探した範囲では、導入と成果を対照群つきで測った研究に主要な査読誌で到達できなかった。到達できたのは系統的な文献レビュー数本と、単一業種の小規模な調査、そして実務の手引き書だけである。「存在しない」とは書けない
- 「四半期の達成率が平均20%向上」という数字の出どころは2018年の一般書とされるが、その一次情報にも到達できなかった。学術の書誌データベースを枠組みの名前で引くと、返るものの大半は章立てのある実務の手引き書だった
- 1954年8月19日の演説の一次資料には “I illustrate it by quoting the statement of a former college president” とある。引用されているのは「ある元学長」であり、名前は挙げられていない。演説に出てくるミラー学長は当時の現職学長で、会場にいた聞き手として触れられているだけである
- 同じ演説に2×2の図は出てこない。出てくるのは「緊急なものは重要ではなく、重要なものは決して緊急ではない」という一文だけで、4つの箱は後から作られたものである
- 2011年の Strategic Management Journal 32(13):1465-1483 は、記録に残ったデータ1件と経験ある管理職への実験2件から、配分が事業単位の数に対して均等へ偏ることを示した。要旨は “This methodology eliminates the possibility of agency conflicts.” と明記し、上下の駆け引きでは説明できない設計であることを述べている
- 同じ論文は、この現象を区切り依存と呼ぶ。配分は企業がどう区切られているかに応じて体系的に変わる。同じ総額でも、2つに区切れば半分ずつ、4つに区切れば4分の1ずつへ寄る。効果の大きさは要旨に無いため書けない
- 2017年の Journal of Management 43(8):2430-2455 は “scholars have found little consistent substantive relation between capital allocation, business unit characteristics, and firm performance.” と書く。原因の一つとして、何をもって配分の成功とみなすかが研究ごとにばらばらであることを挙げている
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 緊急と重要の2×2は、大統領が示した整理法である | 1954年8月19日の演説の一次資料に当たると、引用されているのは名前の挙がっていない「ある元学長」の言葉である。同じ文に出てくるミラー学長は当時の現職学長で、会場にいた聞き手として触れられているだけで、発言者ではない。そして演説に2×2の図は出てこない。出てくるのは緊急と重要という二つの語だけで、4つの箱は後から作られたものである |
| 四半期ごとに目標と主要な結果を置く枠組みは、導入企業で達成率が20%上がると測られている | 2026年8月に探した範囲では、その数字の一次情報にも、枠組みの導入と成果を対照群つきで測った査読研究にも到達できなかった。到達できたのは系統的な文献レビュー数本と単一業種の小規模な調査だけである。集団に目標を置くことの効果を測ったメタ分析は査読誌にあるが、それは特定の枠組みの効果の証拠ではない |
| 優先順位を付ければ、限られた手は重要なところへ配分される | 2011年の3つの研究は、配分が事業単位の数に対して均等へ偏り、区分の切り方に応じて体系的に変わることを示した。実験は代理人の利害対立を設計で取り除いてある。さらに2017年の総説は、配分と事業単位の特性と業績のあいだに一貫した実質的な関係がほとんど見いだせていないと書く。優先順位を付けているつもりの配分が、箱の数で動いている可能性を排除できない |
皮肉なのは、配分の話でいちばんよく守られている優先順位が、箱の数のほうだということである。緊急と重要という二つの語は、名前の分からない元学長のぼやきとして1954年の演壇に置かれ、四つの箱になって帰ってきた。研究の側は、配分が中身ではなく区切りの数で動くことを実験で示し、上手な配分と業績の関係はいまだ像を結ばないと総説に書いた。それでも配られる。四つでも、五つでも、用意した数だけ、きれいに。
Q1. 1954年8月19日の演説で、緊急と重要の対比は誰の言葉として引用されているか。また、同じ文に出てくるミラー学長は、そこでどういう立場で触れられているか。一問一答
Q2. 四半期ごとに目標と主要な結果を置く枠組みの効果について、この単位はどこまで探し、何に到達したか。そして結論をどう書いたか。一問一答
Q3. 2011年の研究が示した「区切り依存」とは何か。選択
Q4. 2017年の総説が、配分の研究をひとつの謎だと述べた理由として挙げているものはどれか。選択
Q5. この単位で扱った出来事を、年の早い順に並べよ。(ア)配分が事業単位の数に対して均等へ偏ることが3つの研究で示される(イ)演説で、名前の挙がっていない元学長の言葉として緊急と重要が引かれる(ウ)総説が「一貫した実質的な関係はほとんど見いだせていない」と書く(エ)企業内部の配分の研究がレビュー誌で改めて総括される並べ替え
紙かメモアプリに今日の日付を書く。その下に2つの欄を作る。1つ目の欄には、いま自分が抱えているもの——手をつけている作業、返事を待たせているもの、いつかやると思っているもの——の件数を、数字だけで書く。中身は書かない。2つ目の欄には、そのうち直近1週間で1度も触っていないものの件数を、これも数字だけで書く。分類の欄は作らない。優先順位も付けない。緊急かどうか、重要かどうかの判定もしない。止めるかどうかは決めない。数えたら終わりでよい。人の名前や案件名は書かない。いま組織に属していない場合や、一人ですべてを回している場合は、自分が抱えている作業や調べものについて同じ2つの数を数えれば成立する。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Eisenhower D.D. (1954-08-19) 'Address at the Second Assembly of the World Council of Churches, Evanston, Illinois', The American Presidency Project(一次資料。査読誌ではない、2026年8月閲覧) — www.presidency.ucsb.edu
- Bardolet D., Fox C.R., Lovallo D. (2011) 'Corporate capital allocation: a behavioral perspective', Strategic Management Journal 32(13):1465-1483, doi:10.1002/smj.966 — api.crossref.org
- Busenbark J.R., Wiseman R.M., Arrfelt M., Woo H.-S. (2017) 'A Review of the Internal Capital Allocation Literature: Piecing Together the Capital Allocation Puzzle', Journal of Management 43(8):2430-2455, doi:10.1177/0149206316671584 — api.crossref.org
- Arrfelt M., Wiseman R.M., Hult G.T.M. (2013) 'Looking Backward Instead of Forward: Aspiration-Driven Influences on the Efficiency of the Capital Allocation Process', Academy of Management Journal 56(4):1081-1103, doi:10.5465/amj.2010.0879 — doi.org
- Sengul M., Almeida Costa A., Gimeno J. (2019) 'The Allocation of Capital within Firms', Academy of Management Annals 13(1):43-83, doi:10.5465/annals.2017.0009 — api.crossref.org
- Kleingeld A., van Mierlo H., Arends L. (2011) 'The effect of goal setting on group performance: A meta-analysis', Journal of Applied Psychology 96(6):1289-1304, doi:10.1037/a0024315 — doi.org
- Doerr J. (2018) Measure What Matters, Portfolio/Penguin(一般書。査読誌ではない) — archive.org