計測の二大標語は、どちらも名前を貸した本人が書いた文ではない
測定できないものは管理できない。指標が目標になると良い指標ではなくなる。計測の話はたいていこの二つから始まる。皮肉なことに、出どころを辿ると二回とも別人の文にたどり着き、片方の人物は逆のことを書いていた。
前の単位では、仕事の連なりをどう描くかを扱った。ここでは、その流れを見えるようにして測ることが、測られた側に何を起こすのかを扱う。
計測の話は、たいてい二つの標語から始まる。測定できないものは管理できない。 そして——指標が目標になると、良い指標ではなくなる。 前者はある経営学者の言葉、後者はある経済学者の名を冠した法則として流通する。どちらも、その人が書いた文ではない。
出どころを辿ると、別人の文だった
一つめ。 帰属先とされる著述家の名を冠した研究所は、公開ページでこう書いている(2026年8月閲覧)——この言い回しは “attributed to Peter Drucker”(帰属させられている)が、“He never actually said it.”(彼は実際には一度もそう言っていない)。同じページは本人の実際の記述を二つ引く。著作からは“Work implies not only that somebody is supposed to do the job, but also accountability, a deadline and, finally, the measurement of results”(仕事とは、職務を担うことだけでなく、説明責任と期限と結果の測定を含意する)。1990年の会話からは“It cannot be measured or easily defined.”(それは測ることも、容易に定義することもできない)。ページの記載が無いので書かない。
さらに、同時代の別の統計学者は、はっきり逆を書いている。 その名を冠した研究所が引く一文(同閲覧)——“It is wrong to suppose that if you can't measure it, you can't manage it – a costly myth.”(測れないものは管理できない、と考えるのは誤りである。高くつく神話だ)。同研究所は出典を1993年の著作と示すが、版もページも示していない。原著の該当ページには到達できなかった。
二つめ。 1975年の原文はこうである——“Any observed statistical regularity will tend to collapse once pressure is placed upon it for control purposes.”(観測された統計的な規則性は、制御の目的で圧力にさらしたとたん崩れる傾向がある)。指標も目標も出てこない。 初出は中央銀行が出した論集の会議論文であり、査読誌ではない(この逐語は事典サイト経由で、原典そのものには到達していない)。
いま流通している言い回し——“When a measure becomes a target, it ceases to be a good measure.”(ある尺度が目標になると、それは良い尺度ではなくなる)——が現れるのは、**1997年に *European Review* 5巻3号へ出た、英国の大学の評価制度についての人類学の論文である。書誌には食い違いがある。 事典サイトは出版社を別の社と書くが、書誌データベースの記載はケンブリッジ大学出版局で、後者を採る。 なお1996年の書籍章に先行する定式化があるという指摘もあるが、その原典には到達していない。**
辿った先は、二回とも別人だった。「たどり着けなかった」ではなく、たどり着いたら別の名前が書いてあった、である。
一九五六年に、もう全部書かれている
出どころのはっきりしている一次情報のほうは、七十年前の査読誌にある。**1956年に *Administrative Science Quarterly* 1巻2号へ出た7ページの論文は、業績測定の逆機能を三つに分けた——単一の指標、複数の指標、それらを重みづけて一つにまとめた指標。 そしてそのどれにも逆機能がある**、というのが結論である。
冒頭の一文は、2015年に *Policy and Society* へ出た総説が240ページから引いている——“operations research, linear programming, and statistical decision making, all foster the idea that if progress towards goals can be measured, efforts and resources can be more rationally managed”(オペレーションズ・リサーチも、線形計画法も、統計的意思決定も、目標への進捗が測れるなら努力と資源をより合理的に管理できるという考えを育てる)。この引用は総説経由である。
しばしば引かれる“The cure is sometimes worse than the disease.”(治療のほうが病より悪いこともある)も、二次資料経由でしか確認できていない。ページ番号は書かない。
名前が付いている、三つの形
逆機能に名前を付けたのは、**2006年に *Public Administration Review* 66巻4号へ出た論文である。英国で1998年から本格化した目標による公共サービスの管理を扱い、中央集権的な業績設定制度に伴う古典的な操作反応がどの程度再現されたか**を問うている。挙げられているのは三つ。
①ラチェット効果——来年の目標が今年の結果の少し上に置かれると分かっているので、管理者が“restrict performance to well below their production-possibility frontier”(達成可能な限界よりかなり低いところに実績を抑える)。
②閾値効果——一律の産出目標は“gives no incentive to excellence”(卓越への誘因を与えない)どころか、上位の実行者を、品質や量を目標どおりまで下げるほうへ仕向けうる。
③産出の歪み——“the manipulation of reported results”(報告された結果の操作)。同論文はこれを“hitting the target and missing the point”(的には当てて、要点は外す)と呼ぶ。
三つとも、指標が悪いという話ではない。指標が目標になった瞬間に、測られる側の最適な振る舞いが変わる、という話である。
ただし、歪みが見つからなかった実証もある
**2009年に *Journal of Public Administration Research and Theory* 19巻4号へ出た研究は、英国の公的医療の「救急部門に来た患者を4時間以上待たせない」という目標を対象に、イングランドの155すべての病院トラストのデータを使った。歪みは二つに分けてある——測られていない側面への努力を減らすことと、良くなっていないのに良く見せること**である。
結果はこうである——“we find dramatic wait-time performance improvements between 2003 and 2006 and no evidence for any of the dysfunctional effects that have been hypothesized in connection with this target”(2003年から2006年にかけて待ち時間の劇的な改善が見られ、この目標に関して仮説として挙げられてきた逆機能のいずれについても、証拠は見つからなかった)。著者らは要旨の最後を、どういうときに逆機能が現れ、どういうときには現れないのかの議論で締めている。
逆機能は「必ず起きるもの」ではない。 起きるかどうかは条件による。その条件は、まだ整理の途中である。
何が分かっていないかは、査読側が書いている
**2012年に *Management Accounting Research* 23巻2号へ出たレビューは、会計・オペレーション・戦略の領域で刊行された76本の実証研究を精査し、測定システムの帰結を人の振る舞い・組織の能力・業績の三つに分類したうえで、この分野の知識には食い違いと空白があると要旨に書いている。76本を読んだ末の結論がそれである。失敗ではなく、この単位が言えることの正確な範囲である。**
時間・変化:測ることの効果そのものが、測り直された
1956年、単一・複数・複合のどれにも逆機能があると書かれる。1975年、統計的規則性は制御に使うと崩れる、と会議論文に書かれる。1997年、大学の評価制度を扱った人類学の論文に、いま流通している言い回しが現れる。2006年、逆機能に三つの名前が付く。2009年、155の病院トラストのデータで、予想された逆機能の証拠が見つからないと報告される。2011年、測られること自体の効果として引かれてきた一九二〇年代の照明実験の元データを掘り起こして再分析した研究が出る——“Existing descriptions of supposedly remarkable data patterns prove to be entirely fictional.”(目を見張るものとされてきたデータの型についての既存の記述は、まったくの作り話であることが判明した)。ただし同じ要旨は続けてこう書く——“We do find more subtle manifestations of possible Hawthorne effects.”(より微妙な形での、あり得る効果の現れは見いだされる)。「効果は無かった」と読むのは誤りである。2012年、76本の実証を精査した総説が、食い違いと空白を報告する。
七十年かけて、測ることの効果そのものが、測り直された。 この棚の二つめの手つき——測れるところだけが測られている——の回収は、最後の単位が引き受ける。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、標語で始めることである。標語には出どころが要らない。そしてこの二つは、どちらも本人の文ではなかった。
標本の偏りを断っておく。ここまでの証拠は、米国と英国の、しかも公的部門と上場企業から採られている。 155の病院トラスト、英国の公共サービス、76本の実証——どれも、記録が残り、外部から数えられる形をしていた組織である。 日本の業務プロセスを対象にした査読研究はごく少なく、効果は短い期間で測られたものが多い。そして何より——成功した組織のデータだけが残る、という逆向きを排除できない。 指標を入れて回らなくなった部署も、測るのをやめた組織も、追跡から抜けている。
助けるのは、一つの数字を見たときに、それが上がると何が下がりうるかを一行だけ考えるという一手である。1956年の論文が三つに分けたのは、その「何が」の置き場所だった。
最初の一歩は3分。今日目にした数字を1つ選び、それが上がると何が下がりうるかを1行書く。 当てなくてよい。思いつかなければ、思いつかなかったと書く。 下がりうるものが一つも挙がらない数字は、たいていまだよく見ていない数字である。
次の単位は 213「フロー効率・リードタイム管理」——待ち時間を減らすという話は、どんな事例が公開され、どんな事例が公開されないのか。
- 「測定できないものは管理できない」について、帰属先とされる著述家の名を冠した研究所は、公開ページで、この言い回しは彼に帰属させられているが実際には一度もそう言っていない、と書いている(2026年8月閲覧)。同ページが引く本人の記述は、仕事には説明責任と期限と結果の測定が含意されるというものと、それは測ることも容易に定義することもできないというものである
- 同時代の別の統計学者の名を冠した研究所は、測れないものは管理できないと考えるのは誤りで高くつく神話だ、という一文を公開ページで引く(2026年8月閲覧)。出典は1993年の著作とされるが版もページも示されておらず、原著の該当ページには到達できなかったため、版とページは書いていない
- 1975年の原文は、観測された統計的な規則性は制御の目的で圧力にさらしたとたん崩れる傾向がある、という一文で、指標も目標も出てこない。初出は中央銀行が出した論集の会議論文で、査読誌ではない。いま流通している言い回しが現れるのは1997年の European Review 5巻3号の人類学論文で、出版社の記載が食い違うため書誌データベース側を採っている
- 1956年に Administrative Science Quarterly 1巻2号へ出た7ページの論文は、業績測定の逆機能を、単一の指標・複数の指標・重みづけて一つにまとめた指標の三つに分け、そのどれにも逆機能があると結論した。冒頭の一文は2015年の総説が240ページから引いており、他の引用は二次資料経由なのでページ番号は書かない
- 2006年に Public Administration Review 66巻4号へ出た論文は、逆機能に三つの名前を付けた。ラチェット効果は、来年の目標が今年の結果の少し上に置かれると分かっているために実績を限界より低く抑えること。閾値効果は、一律の産出目標が卓越への誘因を消し、上位の実行者に目標どおりまで下げさせうること。産出の歪みは報告された結果の操作であり、同論文はこれを、的には当てて要点は外す、と呼ぶ
- 英国の公的医療の4時間の待ち時間目標について、イングランドの155すべての病院トラストのデータを使った2009年の研究は、2003年から2006年に劇的な改善が見られ、仮説として挙げられてきた逆機能のいずれについても証拠は見つからなかったと報告した。逆機能は必ず起きるものではなく、起きるかどうかは条件による
- 測られること自体の効果として引かれてきた1920年代の照明実験について、元データを掘り起こして再分析した2011年の研究は、既存の記述はまったくの作り話だったと書いた。ただし同じ要旨は、より微妙な形での効果の現れは見いだされるとも書いており、効果は無かったと読むのは誤りである。2012年には76本の実証を精査した総説が、この分野に食い違いと空白があると報告している
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 「測定できないものは管理できない」は、著名な経営学者の言葉である | その著述家の名を冠した研究所が、公開ページで正面から否定している(2026年8月閲覧)。この言い回しは本人に帰属させられているが、彼は実際には一度もそう言っていない、と同ページは書く。しかも同時代の統計学者は、測れないものは管理できないと考えるのは誤りで高くつく神話だ、と逆を書いている |
| 「指標が目標になると良い指標ではなくなる」は、1975年に提唱された法則の原文である | 1975年の原文は、観測された統計的な規則性は制御の目的で圧力にさらしたとたん崩れる傾向がある、という一文で、指標も目標も出てこない。初出は中央銀行が出した論集の会議論文であり、査読誌ではない。いま流通している言い回しが現れるのは、1997年に European Review 5巻3号へ出た、英国の大学の評価制度についての人類学の論文である |
| 指標を入れると、必ず数字の作り方のほうが変わる | 英国の公的医療の4時間目標について、イングランドの155すべての病院トラストのデータを使った2009年の研究は、2003年から2006年に劇的な改善が見られ、仮説として挙げられてきた逆機能のいずれについても証拠は見つからなかったと報告する。逆機能は必ず起きるものではなく、起きるかどうかは条件による |
標語の便利なところは、出どころを訊かれないことである。訊いた先に別人の名前が出てきても、標語のほうは平気で生き延びる。名前を貸した二人は、片方は言っておらず、もう片方は逆を書いていた。それでも来週の会議では、また引かれる。
Q1. 「測定できないものは管理できない」について、帰属先の著述家の名を冠した研究所は公開ページで ____ と明記している。一方、同時代の統計学者の名を冠した研究所は、この考えを ____ 神話だとする一文を引く。穴埋め
Q2. 1975年の原文は「観測された ____ は、それを制御の目的で圧力にさらしたとたん、崩れる傾向がある」であり、いま流通している言い回しが現れるのは ____ 年の人類学の論文である。穴埋め
Q3. 1956年の7ページの論文は、業績測定の逆機能を ____ の指標・ ____ の指標・重みづけて一つにまとめた指標の三つに分け、そのどれにも逆機能があると結論した。穴埋め
Q4. 英国の公的医療の4時間の待ち時間目標を調べた2009年の研究について、標本・期間・結果を書きなさい。一問一答
Q5. 1920年代の照明実験の元データを再分析した2011年の研究について、正しいのはどれか。選択
紙かメモアプリを開く。今日どこかで目にした数字を1つ選び、それが何の数字かを1行で書く。次に、その数字が上がったときに何が下がりうるかを、思いつく範囲で1行だけ書き添える。当てる必要はなく、実際に下がるかを調べる必要もない。思いつかなければ「思いつかなかった」と書く。誰かの仕事ぶりや評価は書かない。組織に属していない場合や一人で全部を回している場合は、家計でも学習でも健康でもよいので、今日目にした数字を1つ選んで同じ形で書く。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
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- Ridgway V.F. (1956) 'Dysfunctional Consequences of Performance Measurements', Administrative Science Quarterly 1(2):240-247 — doi.org
- Hood C. (2006) 'Gaming in Targetworld: The Targets Approach to Managing British Public Services', Public Administration Review 66(4):515-521 — doi.org
- Kelman S., Friedman J.N. (2009) 'Performance Improvement and Performance Dysfunction: An Empirical Examination of Distortionary Impacts of the Emergency Room Wait-Time Target in the English National Health Service', Journal of Public Administration Research and Theory 19(4):917-946 — doi.org
- Levitt S.D., List J.A. (2011) 'Was There Really a Hawthorne Effect at the Hawthorne Plant? An Analysis of the Original Illumination Experiments', American Economic Journal: Applied Economics 3(1):224-238 — doi.org
- Franco-Santos M., Lucianetti L., Bourne M. (2012) 'Contemporary performance measurement systems: A review of their consequences and a framework for research', Management Accounting Research 23(2):79-119 — doi.org
- Strathern M. (1997) 'Improving ratings: audit in the British University system', European Review 5(3):305-321, Cambridge University Press — ideas.repec.org
- Goodhart C.A.E. (1975) 'Problems of Monetary Management: The UK Experience', in Papers in Monetary Economics, Vol.1, Reserve Bank of Australia, pp.1-20(会議論文。査読誌ではない。逐語は2026年に事典サイト経由で確認) — en.wikipedia.org
- The Drucker Institute「Measurement Myopia」(発行元の公開資料、2026年閲覧)/The W. Edwards Deming Institute「Myth: If You Can't Measure It, You Can't Manage It」(発行元の公開資料、2026年閲覧) — www.drucker.institute