流れを描くと満足度は上がる。業績のほうは、測り方しだいで消える
仕事の流れを一本の連なりとして描く。この考え方は1985年の一般書で提示され、いまも業務改善の入口に置かれている。皮肉なことに、査読側で実際に測られたのは枠組みの正しさではなく、それを使った組織の満足度のほうだった。業績のほうは、誰と比べたかで消えたり出たりする。
前の単位では、誰が実行し、誰が決めるのかという割り当ての側を扱った。ここでは、その仕事がどこから来てどこへ渡されるのか、連なりそのものの描き方を扱う。
仕事の流れを一本の連なりとして描き、どこで価値が付いているかを見つける。 この考え方は1985年の一般書で提示され、いまも業務改善の入口に置かれている。その本は査読の手続きを通っていない。 そして——枠組みそのものの効果を対照群つきで確かめた研究は、存在しうる性質のものではない。 枠組みは仮説を立てる道具であって、それ自体が介入ではないからである。
一方、業務プロセスの指標を持つ企業の財務は持たない企業の1.5倍という数字のほうは、たびたび引かれる。2026年8月に当たったが、この倍率を報告した一次情報には行き着けなかった。 出どころとして名前の挙がる著作は一般書と経営誌の記事で、どちらも査読誌ではない。
ただし、実証はある。しかも、逆を向いた実証が並んでいる。
「連なり」は、三つの型のうちの一つである
まず、枠組みの適用範囲のほうから。**1998年に *Strategic Management Journal* 19巻5号へ出た論考は、価値の作られ方には連なり・工房・網の三つの配置があると論じた。それぞれが依拠する技術の型が違う、というのがこの論考の骨格である——“the long-linked technology delivers value by transforming inputs into products, the intensive technology delivers value by resolving unique customer problems, and the mediating technology delivers value by enabling direct and indirect exchanges between customers”**(長く連なる技術は投入物を製品へ変えることで価値を届け、集約的な技術は個々の顧客の問題を解くことで価値を届け、仲介の技術は顧客どうしの直接・間接の交換を可能にすることで価値を届ける)。
つまり「連なり」は、価値の作られ方の全体ではなく、そのうちの一つの型である。 相談を受けて一件ずつ解く仕事も、間に立って両側をつなぐ仕事も、一本の連なりとしては描けない。 描けないのは描き手の力量ではなく、その仕事の形の問題である。
「バリューチェーンが効かない」とは書かない。書けるのは、適用範囲を持つ道具である、というところまでである。
同じ問いに、逆を向いた答えが並んでいる
では、流れを指標として組み立てると業績は上がるのか。査読側の答えは、一つに揃っていない。
**2003年に *Accounting, Organizations and Society* 28巻7-8号へ出た研究は、金融サービス業を対象に、測定システムへの満足度と経済的業績を分けて測った。要旨はこう書く——“the balanced scorecard process, economic value measurement, and causal business modeling are associated with higher measurement system satisfaction, but exhibit almost no association with economic performance.”(記録と測定の手続き、経済的価値の測定、因果の業務モデル化は、測定システムへの満足度の高さと関連するが、経済的業績とはほとんど関連を示さない)。同じ要旨は、測定の幅を広く取っている企業のほうが満足度と株式リターンが高いとも書いており、満足度と業績が同じ向きに動く部分と、動かない部分が同居している。**
一方、**2000年に *Journal of Management Accounting Research* 12巻1号へ出た研究は、オーストラリアの製造業66社の質問票調査から、利用が多いほど業績が良いという関連を報告した。ただし要旨は、その関連が組織の規模にも製品の寿命にも市場の地位にも大きく依存しなかった**とも書いている。
そして**2004年に *Management Accounting Research* 15巻2号へ出た研究は、同じ銀行組織のなかで、導入した支店と導入していない支店を比べる準実験を行い、導入した支店のほうが財務の成績が良かったと報告した。要旨は自ら、この手法が経営者のあいだで人気を得ている一方、従来の測定方式と比べて優れた財務業績をもたらすという主張を裏づける実証はほとんど無いと書いている。効果量は要旨に無いので、ここには書かない。**
★ この三つは「往復」ではない。 別々の雑誌に、3年から4年の間をおいて出たものである。互いへの応答として書かれてはいない。それでも並べる価値がある。 見えてくるのは「効く/効かない」ではなく、組織をまたいで測ると消え、同じ組織のなかで条件を揃えると出る、という読み方だからである。何を統制したかが、答えを決めている。
引き渡しを整えると、何が起き、何が起きるか
連なりの設計でいちばん手が入るのは、工程と工程のあいだ、引き渡しの場面である。ここには、規模の大きな実証がひとつある。
**2016年に *Human Factors* 58巻8号へ出たメタ分析は、医療現場での引き渡しの手順を標準化した36本の研究(すべて介入の前後を比べる設計、実際の診療・病院の現場)を統合した。事前34,527件、事後30,072件のデータ点**が使われている。
結果は四つの成果すべてで正の方向だった——引き渡される情報 g = .71(95%信頼区間 .63〜.79)/患者側の成果 g = .53(.41〜.65)/医療者側の成果 g = .51(.41〜.60)/組織の成果 g = .29(.23〜.35)。
★ ここからが本体である。 四つのうちいちばん小さいのが組織の成果である。そして著者たちは要旨にこう書いている——“We found protocols to be effective, but there is significant publication bias and heterogeneity in the literature.”(手順は有効だと分かったが、この文献群には有意な出版バイアスと不均一性がある)。さらに——“protocols can increase the time for handover and the rate of errors of omission”(手順は引き渡しにかかる時間と、抜け落ちの誤りの割合を増やしうる)。
効果はある。いちばん小さいのは組織の成果である。出版バイアスがある。時間は伸びうる。抜け落ちは増えうる。 これらは全部、同じ論文の要旨に書いてある。 そして標本は医療現場であり、他の業種への一般化は著者が保証していない。
満足度は、業績とは別に動く
三つの実証を通して繰り返し現れるのが、満足度と経済的業績が別々に動くという所見である。手続きを入れると、測っている側の納得は上がる。 それは記録が整い、話が通じやすくなり、説明ができるようになるからである。その納得は本物である。 ただし——それは業績の代わりにはならない。
流れを描く作業にも、この構造がそのまま当てはまる。図が描けたことと、流れが速くなったことは、別々に測らなければ区別がつかない。 そして図が描けたことのほうは、描いた本人がその場で確認できてしまう。
この分野には、使い方によって結果が変わることを扱ったオランダ企業の研究(2004年)と、手法が価値を加えるかを検討した研究(2009年)もある。どちらも要旨に到達できなかったので、数値も向きも書かない。書誌だけを置く。
時間・変化:三十年で、枠組みは細分化され、証拠は分かれた
1985年、価値の連なりという枠組みが一般書で提示される。査読の手続きは通っていない。1998年、査読誌の上で、連なりは三つの配置のうちの一つだと整理される。2000年、豪州の製造業66社で、利用と業績の正の関連が報告される。2003年、金融サービス業で、手続きは満足度を上げるが経済的業績とはほとんど関連しないと報告される。2004年、同一組織内の準実験で、導入した支店のほうが良いと報告される。2016年、医療現場の引き渡し36研究のメタ分析が、効果と副作用と出版バイアスを同時に報告する。
三十年で、枠組みは細かくなった。証拠は、揃うのではなく分かれた。 分かれ方には規則性がある——組織をまたいで測るほど消え、同じ組織のなかで測るほど出る。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、図が描けたことを、流れが良くなったことと取り違えることである。描く作業には達成感があり、その達成感は測定システムへの満足度として、実際に研究でも観測されている。
標本の偏りを断っておく。ここまでの証拠は、米国と欧州と豪州の、上場企業・金融・製造業・医療現場から採られている。 66社、金融サービス業、一つの銀行組織、医療の36研究——どれも、その場に記録が残り、調査に答える余裕があった組織である。 効果は短い期間で測られたものが多く、「業績」が何を指すかも研究ごとに違う。 そして何より——成功した組織のデータだけが残る、という逆向きを排除できない。 描いたきり使われなくなった図も、途中で止まった標準化も、追跡から抜けている。
助けるのは、連なりを描く前に、その仕事が連なりの形をしているかを見るという一手である。投入物が形を変えて出ていくのか、一件ずつ問題を解いているのか、あいだに立ってつないでいるのか。型が違えば、描くべき図も違う。
最初の一歩は3分。自分の手元に来るまでに、その仕事が何回受け渡されているかを、ひとつ選んで数える。 名前は書かない。回数だけを数える。 多いか少ないかの判断も、今日はしない。数えられるかどうかを確かめることが、今日の収穫である。
次の単位は 212「プロセス可視化・計測基盤」——見えるようにして測る、という言い方は、測られた側に何を起こすのか。
- 価値の連なりという枠組みは1985年の一般書で提示されたもので、査読の手続きを通っていない。枠組みそのものの効果を対照群つきで確かめた研究は、そもそも存在しうる性質のものではない。枠組みは仮説を立てる道具であって、それ自体が介入ではないからである。業務プロセス指標を持つ企業の財務が1.5倍という数字にも、2026年8月時点で一次情報に行き着けなかった
- 1998年に Strategic Management Journal 19巻5号へ出た論考は、価値の作られ方に連なり・工房・網の三つの配置があるとした。長く連なる技術は投入物を製品へ変えることで、集約的な技術は個々の顧客の問題を解くことで、仲介の技術は顧客どうしの直接・間接の交換を可能にすることで価値を届ける。連なりは全体ではなく、そのうちの一つの型である
- 金融サービス業を対象にした2003年の研究は、記録と測定の手続き・経済的価値の測定・因果の業務モデル化が、測定システムへの満足度の高さと関連する一方、経済的業績とはほとんど関連を示さないと報告した。同じ要旨は、測定の幅を広く取っている企業のほうが満足度と株式リターンが高いとも書いており、満足度と業績が同じ向きに動く部分と動かない部分が同居している
- オーストラリアの製造業66社の質問票調査を用いた2000年の研究は、利用が多いほど業績が良いという関連を報告し、その関連が組織の規模にも製品の寿命にも市場の地位にも大きく依存しなかったとしている。同じ銀行組織のなかで導入した支店と導入していない支店を比べた2004年の準実験は、導入した支店のほうが財務の成績が良かったと報告した。効果量は要旨に無いため引いていない
- この三つは往復ではない。別々の雑誌に3年から4年の間をおいて出たもので、互いへの応答ではない。それでも並べると、組織をまたいで測ると関連が消え、同じ組織のなかで条件を揃えると出る、という規則性が見える。効くか効かないかではなく、何を統制したかが答えを決めている
- 医療現場での引き渡し手順の標準化を扱った36研究・事前34,527件と事後30,072件のデータ点のメタ分析は、引き渡される情報 g=.71、患者側 g=.53、医療者側 g=.51、組織の成果 g=.29 と報告した。最も小さいのが組織の成果であり、著者たちは同じ要旨で有意な出版バイアスと不均一性、および手順が引き渡し時間と抜け落ちの誤りを増やしうることも書いている。標本は医療現場であり、他業種への一般化は著者が保証していない
- 三つの実証を通して繰り返し現れるのは、満足度と経済的業績が別々に動くという所見である。図が描けたことと流れが速くなったことは別々に測らないと区別がつかず、しかも図が描けたことのほうは、描いた本人がその場で確認できてしまう
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 業務プロセスの指標を持つ企業の財務業績は、持たない企業の1.5倍である | 2026年8月に当たったが、この倍率を報告した一次情報には行き着けなかった。出どころとして名前の挙がる著作は一般書と経営誌の記事で、どちらも査読誌ではない。査読側で実際に測られた結果は分かれており、金融サービス業を対象にした2003年の研究は、記録と測定の手続きが満足度を上げる一方で経済的業績とはほとんど関連を示さないと報告している |
| 仕事の流れは、どんな仕事でも一本の連なりとして描ける | 1998年に Strategic Management Journal 19巻5号へ出た論考は、価値の作られ方に連なり・工房・網の三つの配置があり、それぞれ依拠する技術の型が違うと論じた。長く連なる技術は投入物を製品へ変え、集約的な技術は個々の顧客の問題を解き、仲介の技術は顧客どうしの交換を可能にする。連なりは全体ではなく、そのうちの一つの型である |
| 工程間の引き渡しを標準化すれば、副作用なく良くなる | 医療現場での引き渡し手順の標準化を扱った36研究・事前34,527件と事後30,072件のデータ点を統合した2016年のメタ分析は、引き渡される情報 g=.71、患者側の成果 g=.53、医療者側の成果 g=.51、組織の成果 g=.29 と報告した。最も小さいのが組織の成果である。同じ要旨は、有意な出版バイアスと不均一性があること、手順が引き渡しの時間と抜け落ちの誤りの割合を増やしうることも明記している |
流れの図がいちばん美しく描けるのは、たいてい、その流れをいちばんよく知っている人がいなくなった直後である。誰も止めないので線がまっすぐ引ける。図の満足度は、そのとき最高になる。
Q1. 1998年の論考は、価値の作られ方に ____ ・ ____ ・ ____ の三つの配置があると論じた。業務改善の入口に置かれてきたのは、このうち一つだけである。穴埋め
Q2. 医療現場の引き渡し36研究のメタ分析(2016年)で、効果量が最も大きかったのは引き渡される情報の g = ____ 、最も小さかったのは ____ の成果の g = .29 だった。穴埋め
Q3. 2003年・2000年・2004年の三つの研究の結果が食い違うことについて、本文が読み取った規則性を書きなさい。一問一答
Q4. 2003年に金融サービス業を対象に行われた研究が報告したのはどれか。選択
Q5. この単位で扱った出来事を、年代の順に並べなさい。並べ替え
いま自分が関わっている仕事をひとつ選ぶ。その仕事が、始まったところから自分の手元に来るまでに何回受け渡されているかを数え、回数だけを数字で記録する。渡した相手や受け取った相手の名前は書かない。回数が分からない場合は、分かるところまで数えて「ここから先は分からない」と1行添える。多いか少ないかの判断も、減らすべきかどうかの判断も、今日はしない。組織に属していない場合や一人で全部を回している場合は、いま使っているものや調べものが自分の手元に届くまでに何回別の場所を経ているかを、分かる範囲で数えて同じ形で記録する。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Ittner C.D., Larcker D.F., Randall T. (2003) 'Performance implications of strategic performance measurement in financial services firms', Accounting, Organizations and Society 28(7-8):715-741 — doi.org
- Stabell C.B., Fjeldstad Ø.D. (1998) 'Configuring value for competitive advantage: on chains, shops, and networks', Strategic Management Journal 19(5):413-437 — doi.org
- Hoque Z., James W. (2000) 'Linking Balanced Scorecard Measures to Size and Market Factors: Impact on Organizational Performance', Journal of Management Accounting Research 12(1):1-17 — doi.org
- Davis S., Albright T. (2004) 'An investigation of the effect of Balanced Scorecard implementation on financial performance', Management Accounting Research 15(2):135-153 — doi.org
- Keebler J.R., Lazzara E.H., Patzer B.S., Palmer E.M., Plummer J.P., Smith D.C., Lew V., Fouquet S., Chan Y.R., Riss R. (2016) 'Meta-Analyses of the Effects of Standardized Handoff Protocols on Patient, Provider, and Organizational Outcomes', Human Factors 58(8):1187-1205 — doi.org
- Braam G.J.M., Nijssen E.J. (2004) 'Performance effects of using the Balanced Scorecard: a note on the Dutch experience', Long Range Planning 37(4):335-349 — doi.org
- De Geuser F., Mooraj S., Oyon D. (2009) 'Does the Balanced Scorecard Add Value? Empirical Evidence on its Effect on Performance', European Accounting Review 18(1):93-122 — doi.org
- Porter M.E. (1985) Competitive Advantage: Creating and Sustaining Superior Performance, New York: Free Press(一般書。査読誌ではない。書誌は著者所属大学の公開ページで2026年に確認) — www.hbs.edu