橋の上に立つと評価が上がる——その原典は「これは因果ではありえない」と書いている
構造的空白という言葉は、ふつう、橋の上に立つと得をするという話として運ばれてくる。原典の著者は、その論文の本文で、この関連は因果ではありえないと書いている。運んだのは、著者ではない。
この単位が扱うのは、離れた集団のあいだに立つという位置だけ
人間関係の話には持ち場がある。人付き合いの技術は友達の棚、組織のかたちや権限の設計は組織の棚が扱う。ここで扱うのは、そのどちらでもない——互いを知らない2つの集団のあいだに、情報がどう渡るか、という一点だけである。
社会学ではこの隙間を構造的空白と呼ぶ。互いに知り合っていない人たちのあいだに空いている穴のことだ。そこに架かる線が橋で、橋の上に立っている人には、両側の情報が両方入ってくる。
この道具も単独では効かない。この棚の他の道具と掛け算で効く。
原典に何が書いてあるか
構造的空白の話は、ふつう「橋の上に立つと得をする」という形で運ばれてくる。もとになっているのは、バートが2004年に American Journal of Sociology に発表した研究である。
調査は2001年、米国の大手電子機器メーカー1社のサプライチェーン部門で行われた。対象は管理職673人。このうちネットワークについての設問に答えたのは455人で、回答率は68%である。
やったことは2つ。ひとつは、各人のつながりの制約——自分のつながっている相手どうしが、互いにどれくらい知り合っているか——を測ること。互いに知り合っていない相手ばかりにつながっている人は、制約が低い。橋の上に立っている人である。
もうひとつは、部門をどう改善すべきかを自由記述で書かせ、その内容を2人の上級管理職に評価させることだった。
結果はこうだ。制約が低い人ほど、同僚と比べた給与が高く(相関はおよそ −.41)、業績評価も良く、書いたアイデアも価値が高いと評定された。
そして、この論文の本文には、著者自身の手でこう書いてある——この関連は因果ではありえない、ネットワークは行為しない、それは行為の文脈である、と。
なぜ因果でないと言えるのか。1時点で測った横断データだからだ。同じ相関は、少なくとも3つの順序から出てくる。橋に立ったから良いアイデアが出た。良いアイデアを出す人が橋に置かれた。そして、社交的で押し出しの強い人が、橋にも立ちやすく、上司からの評定も高く出やすい。この3つを、1回きりの測定で切り分けることはできない。
探して見つからなかった数字
この単位のもとになった設計資料には、昇進速度2.5倍・アイデア数3倍という2つの倍率が並んでいた。原典にあたって探した。
American Journal of Sociology 110巻2号の本文と、掲載されている表・図を通して確認したが、この2つの倍率にあたる記述にたどり着けなかった。原典が報告しているのは倍率ではなく、相関と回帰の係数である。念のため、2020年に Journal of Management に出たクォンらの仲介研究の網羅的なレビューも見たが、そこにも該当する数字は見当たらなかった。
存在しないと断定はしない。一次情報にたどり着けなかった、というのが正確な言い方だ。ただしこの単位では、この2つの数字は使わない。
相関の外に出ると、何が残るか
1社の横断データの外側で、この位置はどれくらい効いているのか。ファンらが2015年に Organization Science に発表したメタ分析が、138の独立した標本を統合してこれを検算した。
仲介的な位置と仕事の成果の関連は β=0.03 で、統計的に有意ではなかった。キャリア上の成功との関連も β=0.02 で有意ではない。仕事上のやりとりのネットワークに限っても、成果は β=0.02 で有意でなく、キャリア上の成功が β=0.07 である。
同じメタ分析で、はっきり効いていたものは別にあった。他者から名前を挙げられる度合いだ。こちらは成果との関連が 0.14 から 0.19、キャリア上の成功との関連が 0.11 から 0.19 で、いずれも有意だった。
並べるとこうなる。橋に立っているかどうかより、誰かがあなたの名前を挙げるかどうかのほうが、成果と安定して結びついていた。位置は、名前を挙げられるための材料のひとつではあっても、それ自体が成果ではない。
仲介の代償
橋の上には、両側から要求が来る。この代償を測った研究が、2024年に Organization Science に出ている。リー、キンターネ、リー、ウマーニャ・ルイス、キルダフによるもので、3つの研究からなる。南米の大学職員1,536人の5か月ぶんのメールのやりとり、米国の被雇用者242人への時点をずらした調査、そして就業している成人273人を対象とした実験である。
この研究は、仲介を2つの型に分ける。両側をつないでしまう型と、両側を離したまま自分が真ん中に居続ける型だ。
離したままにする型の仲介は、燃え尽きの危険を高めていた。そして、その燃え尽きを経由して、職場で他者に高圧的にふるまうことに結びついていた。位置を維持する仕事は、無料ではない。
時間・変化:位置は続かない。だから、つなぐ側に降りることになる
仲介の時間経過には、はっきりした分岐がある。
最初、橋に立つと情報が集まる。両側から話が来て、こちらだけが全体を見ている状態になる。ここは気分がいい。
次に、両側からの要求が増える。板挟みが常態になり、位置を維持するための説明と調整が仕事の大半を占めるようになる。
ここで分岐する。離したままにすれば、位置は保たれ、代償が積み上がる。つないでしまえば、その空白は埋まり、あなたの位置は消える。
消えることを引き受けた側の実証がある。オブストフェルドが2005年に Administrative Science Quarterly に発表した研究は、自動車メーカーの技術部門を対象に、両者を離しておいて自分が得をする第三者と、両者をつないでしまう第三者を対比した。革新への関与を予測したのは、つなぐ側の志向と、密なつながりと、多様な知識のほうだった。
ストヴェルとショウが2012年に Annual Review of Sociology でまとめたように、仲介には二面性がある。やりとりを容易にし、経済活動を高め、政治的な発展を助ける一方で、搾取や私的利益の追求、腐敗、権力の集中を生む。橋の上に立ち続ける人は、いつのまにか後者の顔で見られるようになる。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、倍率で語られた話である。2.5倍・3倍という数字は、原典に見当たらないのに、原典の名前と一緒に運ばれる。倍率は覚えやすく、相関は覚えにくい。運ばれるのは、いつも覚えやすいほうだ。
第2の妨げは、位置を守ろうとすることだ。両側を離したままにしておけば、真ん中の景色は保てる。ただしその維持費は、燃え尽きという形で請求される。
標本の偏りを断っておく。バートのデータは米国の大企業1社の1部門、しかも管理職に限られ、回答したのは455人で、答えなかった人は数えられていない。ファンらの138標本も欧米の組織に強く偏る。リーらの3つの研究は、南米の大学職員と、米国のオンライン参加者である。日本の職場は、部署をまたいで人を紹介するときの作法も、誰が誰を紹介してよいかの規範も違う。数字は方向だけ持ち帰るのが誠実である。
助けるのは、仲介を位置ではなく行為として数え直すことだ。何人と何人のあいだに立っているかは測りにくいが、今月何件つないだかは数えられる。
最初の一歩は10分。互いを知らない2人を思い浮かべ、その2人をつなぐ紹介文を1本、下書きする。送らなくてよい。書けるかどうかを確かめるだけで、自分がどちらの情報をどれだけ持っているかが分かる。
次の単位は 155「信頼残高」——道具箱の隣に置いてある道具で、こちらは橋を架ける側ではなく、その話をあなたに持ち込んでよいと相手が判断する側を扱う。積み上がるのではなく、並んでいる。
- この単位が扱うのは、互いを知らない2つの集団のあいだに情報がどう渡るか、という位置の話だけである。人付き合いの技術は友達の棚、組織のかたちや権限の設計は組織の棚の持ち場で、ここでは扱わない
- Burt 2004(American Journal of Sociology 110(2):349-399)の調査は、2001年・米国の大手電子機器メーカー1社のサプライチェーン部門・管理職673人(ネットワークの設問に答えたのは455人、回答率68%)を対象とした1時点の横断データである。制約が低い人ほど同僚と比べた給与が高く(相関はおよそ −.41)、業績評価も良く、アイデアの評定も高かった
- その原典の本文には、著者自身の手で、この関連は因果ではありえない、ネットワークは行為しない、それは行為の文脈である、と書かれている。同じ相関は、橋に立ったから良いアイデアが出た/良いアイデアを出す人が橋に置かれた/第3の要因が両方を押し上げた、という3つの順序のどれからでも生じる
- 設計資料にあった昇進速度2.5倍・アイデア数3倍という数字は、American Journal of Sociology 110巻2号の本文と表、および2020年に Journal of Management に出たクォンらの仲介研究のレビューを確認したが、該当する記述にたどり着けなかった。存在しないと断定はせず、この単位では使わない
- Fang et al. 2015(Organization Science 26(4):1243-1269)の138標本のメタ分析では、仲介的な位置と仕事の成果の関連は β=0.03 で有意でなく、キャリア上の成功との関連も β=0.02 で有意でなかった。一方、他者から名前を挙げられる度合いは成果と 0.14〜0.19、キャリア上の成功と 0.11〜0.19 で結びつき、いずれも有意だった
- Lee, Quintane, Lee, Umaña Ruiz & Kilduff 2024(Organization Science 35(1))は、南米の大学職員1,536人の5か月ぶんのメール、米国の被雇用者242人、就業成人273人の実験の3つで、両側を離したままにする型の仲介が燃え尽きの危険を高め、その燃え尽きを経由して職場で他者に高圧的にふるまうことに結びつくことを示した
- Obstfeld 2005(Administrative Science Quarterly 50(1):100-130)は、自動車メーカーの技術部門で、両者を離しておく第三者ではなく、両者をつないでしまう第三者の志向が、密なつながりと多様な知識とともに革新への関与を予測することを示した。Stovel & Shaw 2012(Annual Review of Sociology 38:139-158)は、仲介がやりとりを容易にする一方で搾取・私的利益の追求・腐敗・権力の集中を生むという二面性を整理している
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 構造的空白の研究は、橋の位置に立てば昇進が速くなりアイデアが増えることを証明した | 原典は2001年に米国の大企業1社の1部門で管理職673人を1回だけ測った横断データである。示されたのは関連であって因果ではなく、著者自身が本文で、この関連は因果ではありえないと書いている。設計資料にあった昇進速度2.5倍・アイデア数3倍という倍率は、原典の本文と表を確認しても該当する記述にたどり着けなかった |
| 仲介の位置に立つこと自体が、成果につながる | 138の独立標本を統合したメタ分析では、仲介的な位置と仕事の成果の関連は β=0.03、キャリア上の成功との関連は β=0.02 で、いずれも統計的に有意ではなかった。同じメタ分析で明確に効いていたのは、他者から名前を挙げられる度合いのほうで、成果と 0.14〜0.19、キャリア上の成功と 0.11〜0.19 の関連があった |
| 橋の上の位置は、手に入れれば保っておける | 位置の維持には代償がある。南米の大学職員1,536人のメール記録、米国の被雇用者242人、就業成人273人の実験からなる研究では、両側を離したままにする型の仲介が燃え尽きの危険を高め、その燃え尽きを経由して職場で他者に高圧的にふるまうことに結びついていた。つないでしまえば空白は埋まり、その位置は消える——分岐はそこにある |
構造的空白の話がこれほど広まったのは、それが「あなたは正しい場所に立っていないだけだ」と読めるからだろう。原典の著者は、その本文で、この関連は因果ではありえないと書いた。そこだけは誰も運ばなかった。皮肉なことに、この情報こそ、2つの集団のあいだで止まったままである——原典を読む人たちと、原典の名前を使う人たちのあいだで。橋は、まだ架かっていない。
Q1. Burt(2004年)の調査は ____ 年、米国の大手電子機器メーカー1社のサプライチェーン部門で管理職 ____ 人を対象に行われた1時点の ____ データである。制約が低いほど同僚と比べた給与が高く、相関はおよそ ____ だった。穴埋め
Q2. Fang ら(2015年)の ____ の独立標本を統合したメタ分析では、仲介的な位置と仕事の成果の関連は β= ____ で有意ではなかった。一方、他者から名前を挙げられる度合いは成果と ____ から ____ の関連を示し、有意だった。穴埋め
Q3. 設計資料にあった「昇進速度2.5倍・アイデア数3倍」について、本文が取った態度はどれか。選択
Q4. Lee ら(2024年 Organization Science)が示した、仲介の代償に関する結果はどれか。選択
Q5. 本文が示した、橋の上の位置に立ってから代償が現れるまでの順序を、正しく並べ替えよ。(A)両側からの要求が増え、板挟みが常態になる(B)橋に立ち、両側の情報が集まる(C)燃え尽きの危険が高まる(D)両側を離したまま位置を維持することを選ぶ(E)職場で他者に高圧的にふるまうことに結びつく並べ替え
今日1回、10分。自分の知り合いのうち、互いを知らない2人を思い浮かべる。そのうえで、片方をもう片方に紹介する文章を1本、下書きする。送らなくてよい。下書きの中身は3つだけでよい——①その2人が互いに何を持っているか ②なぜこの2人なのか ③相手が断りやすい一文(無理でしたら、この話はここで止めてください、など)。書いてみて詰まった箇所が、あなたがその2人について実は知らないことである。送るかどうかは今日決めなくてよい。紹介できる相手が思い浮かばない人は、代わりに、直近に読んで役に立った記事や資料を1本選び、それを誰に渡すと最も役に立つかを1人だけ挙げて、渡す理由を3行で書けばよい——情報を2点のあいだで動かす、という点で同じ課題になる。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Burt R.S. (2004) 'Structural Holes and Good Ideas', American Journal of Sociology 110(2):349-399 — www.ronaldsburt.com
- Fang R., Landis B., Zhang Z., Anderson M.H., Shaw J.D., Kilduff M. (2015) 'Integrating Personality and Social Networks: A Meta-Analysis of Personality, Network Position, and Work Outcomes in Organizations', Organization Science 26(4):1243-1269 — pubsonline.informs.org
- Lee J.W., Quintane E., Lee S.Y., Umaña Ruiz C., Kilduff M. (2024) 'The Strain of Spanning Structural Holes: How Brokering Leads to Burnout and Abusive Behavior', Organization Science 35(1) — discovery.ucl.ac.uk
- Obstfeld D. (2005) 'Social Networks, the Tertius Iungens Orientation, and Involvement in Innovation', Administrative Science Quarterly 50(1):100-130 — journals.sagepub.com
- Stovel K., Shaw L. (2012) 'Brokerage', Annual Review of Sociology 38:139-158 — www.annualreviews.org
- Kwon S.-W., Rondi E., Levin D.Z., De Massis A., Brass D.J. (2020) 'Network Brokerage: An Integrative Review and Future Research Agenda', Journal of Management 46(6):1092-1120 — journals.sagepub.com