56%は「弱い紐帯」の割合ではない——原典に書いてあるのは別の数字だ
弱い紐帯という言葉は、たいてい56%という数字と一緒に運ばれてくる。原典を開くと、その56%は弱い紐帯の割合ではない。人づてで職を見つけた人の割合であって、中身のほうは別のページに、まったく違う数字で書いてある。
この単位が扱うのは、情報が届く経路としての人間関係だけ
人間関係の話には持ち場がある。友情そのものや親密さの質は友達の棚が扱い、家庭の中の誠実さや受容は家族の棚が扱う。ここで扱うのは、そのどちらでもない——機会と情報が、どの線を通って自分のところまで届くか、という一点だけである。
だから、この単位には人付き合いの技術は出てこない。好かれる方法も、会話の運び方も書かない。扱う変数は2つしかない。自分から伸びている線が何本あるか。そして、その線の届く先がどれくらい重なっていないか。
先に断っておくと、この道具は単独では効かない。この棚の他の道具と掛け算で効く。
56%という数字が、実際に指しているもの
弱い紐帯という言葉は、たいてい56%という数字と一緒に運ばれてくる。転職者の56%は弱い紐帯から仕事を得た、という形で。
原典を開くと、そこには別のことが書いてある。グラノヴェッターが1974年に刊行した『Getting a Job』の調査対象は、米国マサチューセッツ州ニュートンに住み、直前に転職した専門職・技術職・管理職の男性282人である。面接が100人、郵送調査が182人。
そのうち仕事を見つけた手段は、人づて(personal contacts)がおよそ56%、公式な手段が18.8%(広告9.9%、その他の公式な手段8.9%)、直接応募が18.8%、その他が6.7%だった。
つまり56%が指しているのは「人づて」であって、「弱い紐帯」ではない。人づての中に強い紐帯も弱い紐帯も両方入っている。この2つは原典で別々に集計されていて、混ぜたのは原典ではなく、その後の要約のほうである。
では中身はどうだったのか。1973年に American Journal of Sociology に載った論文のほうに、人づてで職を得た54人について、相手と会う頻度の内訳がある。頻繁に(週2回以上)会っていたのが16.7%、たまに(年1回超・週2回未満)が55.6%、稀に(年1回以下)が27.8%。
グラノヴェッター自身の言い方は、分布が弱い側に偏っている、である。それは正しい。ただし最も多いのは「稀に」ではなく「たまに」で、過半数がそこに入っている。原典が示していたのは、いちばん薄い線が最強だということではなく、中くらいの線がいちばん厚い層をなしている、ということだった。
主戦場:弱ければ弱いほど良い、ではなかった
この論点に、はるかに大きな標本で決着に近いものを付けたのが、ラージクマールらが2022年に Science に発表した実験である。
米国の職業向けSNSであるLinkedIn上で、2015年から2019年の5年間、「知り合いかも」の推薦アルゴリズムを複数の条件に無作為に振り分けた。対象は2000万人を超え、その結果として20億本の新しい紐帯と、7000万件を超える応募、60万件の転職が生じている。相関ではなく、割り付けを動かした実験である。
結果は逆U字だった。紐帯が弱くなるほど転職は伝わりやすくなるが、それはある点までで、そこを越えると効きが落ちていく。共通の知人の数で強さを測ると、最も効いたのは最も弱い紐帯ではなく、中程度に弱い紐帯だった。
この研究にはもう2つ、扱いの難しい発見がある。ひとつは、測り方で答えが変わること——やりとりの頻度で強さを測ると、今度は最も弱い側が最大になる。もうひとつは、業種で符号が変わること——デジタル化の進んだ業種では弱い紐帯が転職を増やし、そうでない業種では強い紐帯のほうが増やした。
単一の処方箋にならない、という意味では、これは使いにくい結果である。使いにくい結果のほうが、たいてい本当に近い。
1本あたりの価値と、本数
もうひとつ、逆向きに見える証拠がある。ジー、ジョーンズ、バークが2017年に Journal of Labor Economics に発表した研究は、Facebook利用者600万人分のデータで、後に同じ職場で働くようになった友人関係を追った。
結論はこうだ。1本ずつ取り出して比べれば、強い紐帯のほうが明らかに役に立つ。それでも大半の人は弱い紐帯のどれかを経由して職に就いている——弱い紐帯のほうが、本数が桁違いに多いからである。
同じ著者らが2017年に Journal of Economic Behavior & Organization に出した55か国の比較でも、同じ形が出た。33万7千人・約1695万本の関係を見て、どの国でも、1本あたりの就職確率は紐帯が強いほど高い。それでも総数では弱い紐帯が上回る。日本もこの55か国に含まれている。
だから、この単位の名前は「弱い紐帯の強さ」ではなく「弱い紐帯の幅」なのである。動かせるのは1本の質ではない。本数と、届く先の重なりの少なさのほうだ。
時間・変化:線は、使わないと薄くなる。ただし消えてはいない
線は放っておくと薄くなる。ここで効いてくるのが、レヴィン、ウォルター、マーニガンが2011年に Organization Science に発表した研究である。
3年以上連絡していない相手を休眠した紐帯と定義し、米国の経営幹部に、かつて強かった相手とかつて弱かった相手に1人ずつ再接触してもらった。本試験では129人が事前事後の両調査を完了している。
得られた助言の新規性は、いま現在つながっている相手から得られるものより高かった。かつて強かった相手で0.67、かつて弱かった相手で0.91(いずれもp<0.0001)。しかも役に立ち具合そのものは、現在の紐帯に見劣りしなかった。
順序で見るとこうなる。線は引かれる。使われないまま数年が過ぎる。そのあいだに相手の側の情報環境は入れ替わる。だから再接続したとき、新しさだけが増えていて、共通の前提は残っている。
幅を広げる作業は、新しい人に会うことだけを意味しない。すでに引かれていて、いま薄くなっている線を数えるところから始まる。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、56%のような数字が出どころから切り離されて運ばれることだ。数字は軽いので遠くまで飛ぶ。飛んでいるあいだに、標本も、年代も、何を数えた割合なのかも落ちる。
第2の妨げは、幅を「人脈を増やす」に翻訳してしまうことである。同じ場所に何度も行けば線は増える。ただし増えるのは、すでに持っている線と行き先が重なった線ばかりだ。本数は増えて、届く範囲は増えない。
標本の偏りを断っておく。グラノヴェッターの調査は米国マサチューセッツ州ニュートンの、専門職・技術職・管理職の男性に限られている。女性も、他の職種も、うまく転職できなかった人の一部も入っていない。ラージクマールらとジーらのデータは、それぞれLinkedInとFacebookの利用者で、そこに登録していない人は最初から数えられていない。55か国の比較には日本も入っているが、日本は転職の頻度も入職の経路の構成も米国とは違う。加えて、フェルナンデスとキムが2023年に Annual Review of Sociology で整理したように、弱い紐帯が本当に遠くへの橋になっているのか、情報が本当に効率よく伝わっているのか、という前提自体がいま問い直されている。数字は方向だけ持ち帰るのが誠実である。
助けるのは、線を人数ではなく経路として数え直すことだ。同じ会社、同じ業界、同じ学校で固まっている線は、何本あっても1本ぶんの情報しか運ばない。
最初の一歩は10分。連絡先を上から10件見て、最後に話した時期が1年以上前のものが何件あるかを数える。それが、いま薄くなっている線の本数である。
次の単位は 154「情報仲介力」——道具箱の隣に置いてある道具で、こちらは線の本数ではなく、線が渡っている先の距離を扱う。積み上がるのではなく、並んでいる。
- この単位が扱うのは、情報と機会が届く経路としての人間関係だけである。動かす変数は2つ——自分から伸びている線の本数と、その線の届く先の重なりの少なさ。親密さの質は友達の棚、家庭内の受容は家族の棚の持ち場で、ここでは扱わない
- Granovetter 1974『Getting a Job』(米国マサチューセッツ州ニュートン、直前に転職した専門職・技術職・管理職の男性282人=面接100・郵送182)では、職を得た手段は人づて(personal contacts)がおよそ56%、公式な手段18.8%(広告9.9%・その他8.9%)、直接応募18.8%、その他6.7%だった。56%が指すのは“人づて”であって“弱い紐帯”ではない
- Granovetter 1973(American Journal of Sociology 78(6):1360-1380)では、人づてで職を得た54人のうち、相手と頻繁に(週2回以上)会っていたのが16.7%、たまに(年1回超・週2回未満)が55.6%、稀に(年1回以下)が27.8%。分布は弱い側に偏っているが、最も多いのは最も薄い線ではなく中間層である
- Rajkumar et al. 2022(Science)は、LinkedIn上で2015〜2019年の5年間、2000万人超を無作為に割り付けた実験で、20億本の新しい紐帯・7000万件超の応募・60万件の転職を観測した。紐帯の強さと転職の伝わりやすさは逆U字で、共通の知人の数で測ると最も効いたのは最も弱い紐帯ではなく中程度に弱い紐帯だった
- 同じRajkumarらの研究は、測り方で答えが変わること(やりとりの頻度で測ると最も弱い側が最大)と、業種で符号が変わること(デジタル化の進んだ業種では弱い紐帯、そうでない業種では強い紐帯が転職を増やす)も報告している。単一の処方箋にはならない
- Gee, Jones & Burke 2017(Journal of Labor Economics)はFacebook利用者600万人分で、1本あたりでは強い紐帯のほうが役に立つが、大半の人は弱い紐帯のどれかを経由して職に就くことを示した。Gee et al. 2017(Journal of Economic Behavior & Organization)の55か国・33万7千人・約1695万本の比較では、日本を含むどの国でも1本あたりの就職確率は紐帯が強いほど高い
- Levin, Walter & Murnighan 2011(Organization Science)は、3年以上連絡していない相手を休眠した紐帯と定義し、米国の経営幹部(本試験は129人が事前事後の両調査を完了)に再接続してもらった。得られた助言の新規性は現在の紐帯より高く、かつて強かった相手で0.67、かつて弱かった相手で0.91(いずれもp<0.0001)だった
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 転職者の56%は弱い紐帯から仕事を得た | 原典の56%は「人づて」の割合であって「弱い紐帯」の割合ではない。米国マサチューセッツ州ニュートンの専門職・技術職・管理職の男性282人のうち、人づてがおよそ56%、公式な手段18.8%、直接応募18.8%、その他6.7%。人づての中身は別に集計されていて、相手と頻繁に会っていたのが16.7%、たまにが55.6%、稀にが27.8%である。混ぜたのは原典ではなく、その後の要約のほうだ |
| 紐帯は弱ければ弱いほど、新しい機会を運んでくる | LinkedIn上で2000万人超を5年間にわたり無作為に割り付けた2022年の実験では、紐帯の強さと転職の伝わりやすさは逆U字だった。共通の知人の数で測ると、最も効いたのは最も弱い紐帯ではなく中程度に弱い紐帯である。しかも、やりとりの頻度で測ると最大の位置は動き、デジタル化の進んでいない業種では強い紐帯のほうが転職を増やした |
| 幅を広げるとは、新しい人に会う数を増やすことだ | 同じ場所へ何度も行けば線は増えるが、増えるのは行き先が重なった線である。本数が増えて届く範囲は増えない。加えて、3年以上連絡していない相手に再接続した米国の経営幹部の研究では、得られた助言の新規性は現在の紐帯より高かった(かつて強かった相手0.67、かつて弱かった相手0.91、いずれもp<0.0001)。幅は、まだ会っていない人だけでなく、すでに引かれていて薄くなっている線の側にもある |
弱い紐帯という言葉が、これほど強い紐帯を持ったのは皮肉である。1970年代のマサチューセッツ州の男性282人の調査から出た数字が、半世紀のあいだ、出どころから切り離されたまま、会場を移り、スライドを移り、いまも新しい聴衆に届いている。この数字自体が、弱い紐帯を通って遠くまで運ばれた情報の、最も見事な実例だ。ただし運ばれる途中で、中身のほうは落ちた。
Q1. Granovetter の調査で、職を得た手段のうち人づて(personal contacts)はおよそ ____ %だった。そのうち相手と頻繁に(週2回以上)会っていたのは ____ %、たまに(年1回超・週2回未満)が ____ %、稀に(年1回以下)が ____ %である。穴埋め
Q2. 「転職者の56%は弱い紐帯から仕事を得た」という言い方の何が誤りか。選択
Q3. Rajkumar ら(2022年 Science)の実験の設計と規模、そして紐帯の強さと転職の関係について得られた形を答えよ。一問一答
Q4. Gee らの研究が示した、1本あたりの価値と合計の食い違いを説明せよ。55か国の比較で日本はどう位置づけられるか。一問一答
Q5. Levin ら(2011年 Organization Science)が休眠した紐帯について示したことはどれか。選択
今日1回、10分。スマートフォンの連絡先か、仕事のメールの送信済みフォルダを上から10件見る。各件について、その相手と最後に何かのやりとりをしたのがいつかを思い出し、1年以上前で止まっているものを数える。数えるだけでよい——連絡はしなくてよいし、今日する必要もない。数えたら、その数を1つの数字として記録する。余力があれば、10件のうち、いまの自分の主な行動圏(同じ職場・同じ業界・同じ学校)と重なっていない相手が何人いるかも数えておく。連絡先が10件に満たない人や、電話帳を持たない人は、直近1年に読んだ記事・見た動画の発信元を10件書き出し、そのうち同じ発信元が何回重複しているかを数えればよい——情報が届く経路の重なりを数える、という点で同じ課題になる。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Granovetter M.S. (1974) 'Getting a Job: A Study of Contacts and Careers', University of Chicago Press — press.uchicago.edu
- Granovetter M.S. (1973) 'The Strength of Weak Ties', American Journal of Sociology 78(6):1360-1380 — www.journals.uchicago.edu
- Rajkumar K., Saint-Jacques G., Bojinov I., Brynjolfsson E., Aral S. (2022) 'A causal test of the strength of weak ties', Science 377(6612):1304-1310 — www.science.org
- Gee L.K., Jones J., Burke M. (2017) 'Social Networks and Labor Markets: How Strong Ties Relate to Job Finding on Facebook's Social Network', Journal of Labor Economics 35(2):485-518 — www.journals.uchicago.edu
- Gee L.K., Jones J.J., Fariss C.J., Burke M., Fowler J.H. (2017) 'The paradox of weak ties in 55 countries', Journal of Economic Behavior & Organization 133:362-372 — cfariss.com
- Levin D.Z., Walter J., Murnighan J.K. (2011) 'Dormant Ties: The Value of Reconnecting', Organization Science 22(4):923-939 — pubsonline.informs.org
- Fernandez R.M., Kim M. (2023) 'What Makes Weak Ties Strong?', Annual Review of Sociology 49:177-193 — www.annualreviews.org