許しやすさの効き方は、相手の振る舞いの頻度で向きが変わる
許すことは関係を救う、と言われる。米国の新婚72組を2年間、4回にわたって追いかけた研究では、その効き方が相手の振る舞いの頻度によって反転していた。同じ許しやすさが、片側では満足度を保ち、もう片側では下げていた。
前の単位で、関係に何をどれだけ入れるかを見た。入れたものが返ってこなくなったとき、何が起きるのかがここの話である。
先に断っておく。この棚は被害への対処を扱わない。ここで書くのは、許しやすさという傾向と、相手の振る舞いの経時変化が結びついていたという観察の事実だけである。 どう振る舞うべきかも、どこへ相談すべきかも書かない。勧めることも、勧めないこともしない。
同じ許しやすさが、逆を向く
2008年に *Journal of Family Psychology* 22(1) へ出た論文が、この単位の骨である。
標本の性質から書く。米国の新婚72組、結婚してからの平均は 3.2か月(標準偏差1.6)。夫の側は平均24.9歳・教育年数14.2年、妻の側は平均23.5歳・教育年数14.7年、世帯の合算収入は年3万5000ドル未満が平均だった。4波の縦断設計で、結婚のおよそ最初の2年間を追いかけている。
結果はこうである。断面で見れば、許しやすさと婚姻の結果のあいだには正の主効果が出た。 ところが縦断で見ると、許しやすさは相手の否定的な言語行動の頻度と交互作用して、満足度の変化を予測した。原典の一文はこうである——whereas spouses married to partners who rarely behaved negatively tended to remain more satisfied over time to the extent that they were more forgiving, spouses married to partners who frequently behaved negatively tended to experience steeper declines in satisfaction to the extent that they were more forgiving.
訳せば——否定的に振る舞うことがまれな相手と結婚した人では、許しやすいほど時間が経っても満足度が保たれ、否定的に振る舞うことが多い相手と結婚した人では、許しやすいほど満足度の低下が急だった。
統計の値も出ている。夫の側の許しやすさと、観察された妻の側の否定的な振る舞いの頻度との交互作用が t = −1.98, p = .05。妻の側の許しやすさと、報告された夫の側の否定的な振る舞いの頻度との交互作用が t = −3.26, p = .01。いずれも負の交互作用である。
重要なのは、この論文が「許すな」と言っていないことである。原典が書いているのは、許しの介入がすべての人に利益をもたらすとは限らないという一点で、だから介入を届ける相手をもっと調べる必要がある、と結んでいる。平均の効果は、条件によって向きが変わる効果を隠す。
4年間、減らなかったほう
同じ著者が2011年に *Personality and Social Psychology Bulletin* 37(6) へ出した縦断研究も、新婚のカップルを対象にしている。要旨に書かれている観察の事実は、次のとおりである——許しやすいと答えた人では、相手の否定的な振る舞いが結婚後4年間ほぼ横ばいのまま続き、許しにくいと答えた人では、時間とともに減っていった。
ここで書けるのはここまでである。尺度の項目の中身には踏み込まない。 本文の該当箇所に到達できておらず、何をどう訊いたのかの逐語が手元に無いからである。関連の向きだけが、要旨から確かめられる。 要旨自身が最後に一文を置いている——許しは万能薬ではない。
プログラムの効果量は、思われているより小さい
技法の側から、制度の側へ移る。カップル向けの関係教育というものがある。効果はメタ分析で測られている。
2008年に *Journal of Consulting and Clinical Psychology* 76(5) へ出たメタ分析は、86件の報告から117の研究、500を超える効果量を集めた。値はこうである。関係の質について、実験研究の効果量は直後で d = .361、追跡で d = .306。意思疎通の技能については直後で d = .435、追跡で d = .448。準実験の研究では d = .150 で、直後の時点では有意ですらなかった(追跡では d = .195)。
一つ、逆に書かれやすい点を正しておく。この論文は「効果が追跡で減衰した」とは書いていない。 書いてあるのは逆で、直後の効果は追跡時点で有意には減衰しなかったである。値切るべきなのは減衰ではなく、効果量そのものの大きさのほうである。
標本の性質も原典に書かれている——117研究の標本の大半は、白人・中流・既婚で、深刻な関係の苦悩を経験していない人たちが、一般的な充実プログラムに参加したものだった。
5領域すべてが改善して、別離だけが動かなかった
2020年に同じ誌の 88(4) へ出た無作為化比較試験は、規模も設計もはっきりしている。低所得の742組(1,484人。平均年齢33歳、白人・非ヒスパニックが55%、既婚が52%、世帯年収の中央値2万7000ドル)を全国から募り、2つのオンライン・プログラムと待機の統制群に無作為に割り付けた。
結果はこうである。統制群と比べて、介入群は関係機能の5領域すべてで有意に大きく改善した(効果量の絶対値の中央値 0.46)。効果は終了後4か月まで保たれた。 そして次の一文が来る——However, neither program significantly reduced the frequency of breakups by the 6-month follow-up. どちらのプログラムも、6か月後の別離の頻度を有意には減らさなかった。
この論文で見かける d = 0.24 という値には注意が要る。これは2つのプログラムのあいだの、葛藤の減り方の差であって、統制群に対する主効果ではない。2つのプログラムの差そのものは小さく、効果量の絶対値の中央値は 0.11 だった。
2022年に *Family Process* 61(3) へ出た再検証は、671組(1,337人)をベイズ推定で調べ、統制群と比べた改善を確認しつつ、効果量は一般のカップルを対象にした試験より小さめだったと報告している。
群の中の前後差と、待っていた群の前後差
もう一段、手前を見る。改善した、という言葉が何と何の差を指しているかである。
2020年に同じ誌の 88(7) へ出たメタ分析は、カップル療法の研究58件、40の独立標本、2,092組を統合した。二つの値が並んでいる。治療を受けた群の、前後の差は Hedges の g = 1.12(95%信頼区間 0.92〜1.31、p < .001)。大きい。 一方、待機していた群の前後の差は g = 0.12(−0.04〜0.29、p > .05)で、有意でない。
二つを並べて読むと、話の形が見えてくる。引かれるのは、たいてい 1.12 のほうである。 けれども 1.12 は、受けた人たちの前と後をくらべた値であって、受けなかった人たちとくらべた値ではない。前後で良くなった人の中には、時間が経てば良くなった人が混ざっている。 そして、途中でやめた組や、追跡の前に別れた組は、後の測定に現れない。残ったカップルだけが、効果量を作っている。 この論文の標本も、原典自身が異性どうしのカップルに限られていると断っている。
時間・変化:改善した指標だけが残っていく順番
順番は決まっている。まず複数の指標が測られる。次に、改善したものと、しなかったものが並んで報告される。次に、要約の段階で改善したものだけが残る。次に、群内の前後差と、統制群との差の区別が落ちる。最後に、効いた、の一語になる。
逆向きにはまず動かない。動かなかった指標が、あとから書き足されることはない。 5領域すべてが改善したという一文と、別離の頻度は減らなかったという一文は、原典では同じ段落に並んでいる。外へ出ていくのは、たいてい前のほうだけである。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、修復を、うまくやれたかどうかの採点として扱うことである。この単位で見たかぎり、同じ振る舞いの効き方は条件で反転し、プログラムの効果量は小さく、いちばん知りたい指標は動いていない。うまくやれなかったのではなく、そもそも平均の話をしている。
標本の偏りを断っておく。ここまでの証拠は、米国の、異性どうしの、新婚か、支援を求めて申し込んできたカップルから採られている。日本を対象にした同じ設計の追跡研究はごく少ない。 追跡の期間は2年から4年が中心で、測っているのは自己申告の満足度が大半である。そして——続いた関係のデータだけが残る、という逆向きを排除できない。 別れた組は後の波の測定に現れず、効果量を作っているのは残った組である。
助けるのは、流したことを、そのときの状況の言葉で1行書いておくという一手である。あとから思い出して書くと、たいてい滑らかになる。相手を採点する言葉ではなく、いつ、何があって、自分がどうしたか、だけを書けばよい。同じことがまた起きたかどうかは、次に書くときに分かる。
最初の一歩は5分。直近で自分が言わずに済ませたことを1つ、状況の言葉で書き、日付を添える。
次の単位は 128「共同未来構築力」——直したり直さなかったりしながら、この先をどう描くのかという段へ進む。
- 米国の新婚72組(結婚から平均3.2か月)を4波・約2年追跡した2008年の研究では、断面で見ると許しやすさと婚姻の結果のあいだに正の主効果が出たが、縦断で見ると許しやすさは相手の否定的な言語行動の頻度と交互作用した。否定的に振る舞うことがまれな相手に対しては許しやすいほど満足度が保たれ、多い相手に対しては許しやすいほど満足度の低下が急だった
- その交互作用は、夫の側の許しやすさと観察された妻の側の否定的な振る舞いの頻度で t = −1.98, p = .05、妻の側の許しやすさと報告された夫の側の否定的な振る舞いの頻度で t = −3.26, p = .01。いずれも負である。原典は、許しの介入がすべての人に利益をもたらすとは限らないと結んでいる
- 同じ著者の2011年の縦断研究の要旨には、許しやすいと答えた人では相手の否定的な振る舞いが結婚後4年間ほぼ横ばいのまま続き、許しにくいと答えた人では時間とともに減っていった、と書かれている。尺度の項目の中身は本文の逐語に到達できていないので扱わない。関連の向きだけが要旨から確かめられる
- カップル向けの関係教育のメタ分析(2008年、86件の報告から117研究・500を超える効果量)では、関係の質の効果量は実験研究で直後 d = .361、追跡 d = .306、意思疎通の技能は直後 d = .435、追跡 d = .448。準実験では d = .150 で直後は有意ですらなかった。この論文は効果が追跡で減衰したとは書いておらず、逆に、直後の効果は追跡時点で有意には減衰しなかったと書いている
- 同じメタ分析は標本の性質も書いている。117研究の標本の大半は、白人・中流・既婚で、深刻な関係の苦悩を経験していない人たちが一般的な充実プログラムに参加したものだった
- 低所得の742組(1,484人、平均年齢33歳、世帯年収の中央値2万7000ドル)を全国から募った2020年の無作為化比較試験では、統制群と比べて関係機能の5領域すべてが有意に大きく改善した(効果量の絶対値の中央値0.46)。しかし、どちらのプログラムも6か月後の別離の頻度を有意には減らさなかった。よく引かれる d = 0.24 は2つのプログラム間の葛藤の減り方の差であって、統制群に対する主効果ではない
- カップル療法の研究58件・40の独立標本・2,092組を統合した2020年のメタ分析では、治療を受けた群の前後の差は Hedges の g = 1.12(0.92〜1.31、p < .001)だが、待機していた群の前後の差も g = 0.12(−0.04〜0.29、p > .05)と報告されている。引かれるのはたいてい前者で、前者は受けなかった人たちとくらべた値ではない
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 許せる人ほど、関係はうまくいく | 米国の新婚72組を4波・約2年追跡した2008年の研究では、断面で見た正の主効果は出たものの、縦断では相手の否定的な言語行動の頻度との交互作用が現れた。否定的に振る舞うことがまれな相手に対しては許しやすいほど満足度が保たれ、多い相手に対しては許しやすいほど満足度の低下が急だった。交互作用は t = −1.98, p = .05 と t = −3.26, p = .01 でいずれも負である。平均の効果は、条件によって向きが変わる効果を隠す |
| カップル向けのプログラムを受ければ、関係は良くなり、別れずに済む | 低所得の742組を全国から募った2020年の無作為化比較試験では、関係機能の5領域すべてが統制群より有意に大きく改善した(効果量の絶対値の中央値0.46)のに、6か月後の別離の頻度はどちらのプログラムでも有意には減らなかった。関係教育のメタ分析でも、効果量は関係の質で d = .30〜.36、準実験では d = .150 で直後は有意ですらない。改善した指標と改善しなかった指標は、原典では同じ段落に並んでいる |
| カップル療法の効果量は g = 1.12 と非常に大きい | その 1.12 は、治療を受けた群の前と後をくらべた値である。同じメタ分析(58研究・40標本・2,092組)は、待機していた群の前後の差も g = 0.12(−0.04〜0.29、p > .05)だと報告している。前後で良くなった人の中には、時間が経てば良くなった人が混ざっている。しかも途中でやめた組や追跡の前に別れた組は後の測定に現れないので、効果量を作っているのは残った組である |
修復をめぐる助言が明るいのには、統計上の理由がある。壊れたまま終わった関係は、次の調査票に答えないからだ。プログラムを最後まで受けた組、2年後の面接に来た組、6か月後の追跡に応じた組——効果量はその人たちの中から計算される。だから数字は、いつも修復できた側の顔をしている。原典に残っている正直な一行は、たいてい但し書きのほうにある。5領域すべてが改善しました、そして別離の頻度は減りませんでした。この二つは同じ段落に並んで書かれていて、外に出ていくのは、ほとんどいつも前のほうだけである。
Q1. 2008年の研究は、米国の新婚 ____ 組を ____ 波・約 ____ 年追跡した。許しやすさは、相手の ____ の頻度と交互作用して満足度の変化を予測し、交互作用の値は t = ____ と t = ____ でいずれも ____ だった。穴埋め
Q2. 2020年の無作為化比較試験(低所得742組)で、統制群と比べて改善した指標と、改善しなかった指標をそれぞれ答えよ。一問一答
Q3. 2008年の関係教育のメタ分析について、正しい記述はどれか。選択
Q4. 2020年の無作為化比較試験でよく引かれる d = 0.24 は、何と何の差か。選択
Q5. カップル療法のメタ分析(58研究・40標本・2,092組)が報告した、待機していた群の前後の差はどれか。選択
紙かメモアプリを開く。直近1か月で、気にはなったがそのままにして先へ進めたこと——自分の中で水に流したこと——を1件選ぶ。思い出すのがつらいものは選ばず、軽いものを1件にする。選んだら3行だけ書く。1行めは、水に流したのがいつだったかの日付。2行めは、いつ、どこで、何があったかを状況の言葉で書く——相手を評価する言葉や、性格を説明する言葉は使わない。3行めは、そこから今日までに同じことが起きたか、起きなかったか。起きたなら回数だけを書き、理由や相手の意図は書かない。相手に確かめたり、相手の反応を見たりはしない。書き終えたら1回だけ読み返し、読み返した日付を最後に足す。いま近い関係にある相手がいない場合、あるいはいま恋愛をしない選択をしている場合は、直近で継続的に関わっている人か、続けている活動の中で同じように流したことを1件選べばよい。判定は要らない——ここで作るのは、流したあとに何が起きたかを、あとから滑らかにならない形で残した記録の1件目である。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- McNulty J.K. (2008) 'Forgiveness in Marriage: Putting the Benefits Into Context', Journal of Family Psychology 22(1):171-175, doi:10.1037/0893-3200.22.1.171 — greatergood.berkeley.edu
- McNulty J.K. (2011) 'The Dark Side of Forgiveness: The Tendency to Forgive Predicts Continued Psychological and Physical Aggression in Marriage', Personality and Social Psychology Bulletin 37(6):770-783, doi:10.1177/0146167211407077 — journals.sagepub.com
- Hawkins A.J., Blanchard V.L., Baldwin S.A., Fawcett E.B. (2008) 'Does Marriage and Relationship Education Work? A Meta-Analytic Study', Journal of Consulting and Clinical Psychology 76(5):723-734, doi:10.1037/a0012584 — extension.usu.edu
- Doss B.D., Knopp K., Roddy M.K., Rothman K., Hatch S.G., Rhoades G.K. (2020) 'Online programs improve relationship functioning for distressed low-income couples: Results from a nationwide randomized controlled trial', Journal of Consulting and Clinical Psychology 88(4):283-294, doi:10.1037/ccp0000479 — people.miami.edu
- Hatch S.G., Knopp K., Le Y., Allen M.O.T., Rothman K., Rhoades G.K., Doss B.D. (2022) 'Online relationship education for help-seeking low-income couples: A Bayesian replication and extension of the OurRelationship and ePREP programs', Family Process 61(3):1045-1061, doi:10.1111/famp.12710 — doi.org
- Roddy M.K., Walsh L.M., Rothman K., Hatch S.G., Doss B.D. (2020) 'Meta-analysis of couple therapy: Effects across outcomes, designs, timeframes, and other moderators', Journal of Consulting and Clinical Psychology 88(7):583-596, doi:10.1037/ccp0000514 — doi.org