よく引かれる「β=.45」は、βではなかった。相関の .46 である
関係に注いだものが多いほど絆は強くなる、という話には、たいてい数字が付いている。よく見かけるのは β = .45 という値である。原典を開くと、そこにあるのはβではない。52研究を統合した相関の .46 である。
前の単位で、続けるかどうかという判断を、統計がどこまで支えているのかを見た。続けると決めたなら、次に来るのは、その関係に何をどれだけ入れるのかという話になる。
この単位が扱うのは一点——注いだ量と関係の強さのあいだにある数字が、何を測った数字なのかである。何を贈るべきかは扱わない。記念日の過ごし方も扱わない。
βと呼ばれている数字は、βではない
投資モデルという枠組みがある。関係へのコミットメントは、満足度と、他の選択肢の魅力と、そこまでに注ぎ込んだものの量で説明できる、という考え方である。
2003年に *Personal Relationships* 10(1) へ出たメタ分析が、この枠組みを統合した。52研究、60の独立した標本、11,582人である。参加者の内訳も書かれている——女性54%、男性46%、5つの国(米国・英国・オランダ・イスラエル・台湾)から集められている。
出てきた値はこうである。コミットメントとの平均加重相関は、満足度 r₊ = .68(95%信頼区間 .67〜.69)、他の選択肢の質 r₊ = −.48(−.49〜−.46)、投資量 r₊ = .46(.45〜.48)。三つを合わせると、コミットメントの分散の 61%(.59〜.63) を説明した。
三つの値の並びを、もう一度見てほしい。いちばん大きいのは投資量ではなく、満足度である。 .68 と .46 のあいだには、けっこうな開きがある。それでも助言のほうへ出ていくのは、たいてい投資量の話である。理由は想像がつく。満足度は、注げと言えない。
ここで気づいてほしいのは、この .46 が相関係数だということである。よく引かれる「β = .45」は、値も近いので同じものに見える。だがβは、他の変数の影響を差し引いたうえでの、回帰の重みである。相関は、二つの値がどれだけ一緒に動いたか、それだけである。 数字の見た目が近いことは、意味が同じであることの理由にならない。
もう一つ、この統合には見落とされやすい断りがある。まとめられた52研究のコミットメントの対象は、恋愛関係だけではない。 原典は、対象に仕事、趣味、通っている大学、履修している授業、スポーツが含まれていたと書いている。人間関係のほうも、友人関係、交際、婚約、同棲、結婚が混ざっている。「関係が強くなる」という話に使われる数字は、授業への打ち込みも一緒に入った平均である。
どちらが先かは、分けられていない
この統合が答えていない問いがある。注ぎ込んだからコミットしたのか、コミットしているから注ぎ込んだのか。
答えていないのは、著者の怠慢ではない。統合されたのは相関であって、二つの値は同じ人に、多くの場合は同じ日に、同じ質問紙で測られている。片方が先だという情報は、そもそもデータの中に無い。
この点を、同じ枠組みの新しいメタ分析でも確かめられる。2019年に同じ誌の 26(1) へ出た更新版は、1980年から2016年初頭までの 202の独立した標本、50,427人を統合した。値はほぼ同じ水準である——満足度 r = .65、投資量 r = .53、他の選択肢の質 r = −.43。16年ぶん研究が増えても、相関は相関のままである。 数が増えることは、向きが決まることではない。
ついでに、注ぎ込んだものが多いほど抜けにくくなるという筋は、意思決定の研究では埋没費用と呼ばれてきた。ここではその実験には入らない。 ここで言えるのは、投資量とコミットメントが一緒に動くこと、そして一緒に動くことからは順序が出てこないこと、この二つだけである。
なお、同じメタ分析は、コミットメントがその後の継続・解消と r₊ = .47(.43〜.50、12研究・1,720人) で結びつくとも報告している。関係の中でいちばん強く出るのは、注いだ量ではなく、満足度のほうだった。
「一緒に新しいことを」の実験は、統制群と差が出ていない
もう一つの助言を見る。二人で新しい活動をすると関係が良くなる、という言い方である。
出どころのひとつは、1993年に *Journal of Social and Personal Relationships* 10(2) へ出た実験である。米国の既婚53組を無作為に3つの群に割り付け、週1.5時間・10週間、自分たちで「わくわくする」と決めた活動、「快い」と決めた活動、あるいは特別な活動をしない、のいずれかを行わせた。前後で標準的な婚姻満足度の尺度を測っている。
結果は、要旨にそのまま書かれている——A planned linear contrast comparing the two activities groups to the control group was not significant and had a small effect size. 活動をした2群と、何もしない統制群を比べた対比は有意にならず、効果量も小さかった。差がついたのは、もう一方の対比——わくわくする活動の群と、快い活動の群のあいだだけである。こちらは有意で、効果量は中程度だった。
つまりこの実験が支えているのは、「一緒に何かをすれば良くなる」ではない。支えているのは、するなら新しさのあるほうだった、という比較のほうである。 2000年に *Journal of Personality and Social Psychology* 78(2) へ出た論文も、新聞紙上の質問紙調査と戸別訪問調査に加えて実験を3本行い、7分間の新奇で覚醒的な共同課題を扱っている。ただしこちらも、測っているのは課題の直後の関係の質であって、その後の関係の行方ではない。
分担の量ではなく、別のところが効いていた
日々の投資でいちばん量が大きいのは、たぶん家事である。ここも、思われている向きとは違う。
2020年に *Socius* へ出た論文は、米国の 487組のデータを使った。標本の定義は明快である——2006年3月と4月に行われた、未成年の子どもと同居し、女性の側が45歳未満である、異性どうしの既婚・同棲カップルの確率標本である。この論文が見つけたのは、分担の量そのものではなく、コミュニケーションの質が効いているということだった。原典は、男性側のコミュニケーションの質が、分担と女性側の満足度の関連を媒介し、女性側のコミュニケーションの質は男性側にとっては交絡になっていた、と報告している。公平だと感じているかどうかが効いた、という論文ではない。
日本の側の数字も見ておく。国立社会保障・人口問題研究所が2022年7月に実施した第7回全国家庭動向調査は、母集団を次のように定義している——令和4(2022)年に実施された国民生活基礎調査のために全国から層化集落抽出法によって選定された5,530の国勢調査区の中から、無作為に抽出した300の調査区に居住する世帯を対象。有効回収票数は8,910票、有効回収率は54.1%、うち有配偶女性が回答したものが5,518票である。家事の分担については、妻の分担する割合が圧倒的に高く、いずれの調査年でも80%を超えると書かれている。2008年の調査から2022年の調査にかけての変化は4.9ポイントである。
14年で4.9ポイント。注いだ量の話をするなら、まずこの偏りが土台にある。
この2つの調査を並べるときは、注意が要る。片方は米国で、未成年の子どもと同居する世帯に限られている。もう片方は日本で、無作為に選ばれた調査区の世帯が対象で、家事の割合を答えているのは有配偶女性である。測っている国も、対象も、訊き方も違う。 それでも両方とも「カップルの家事」という一語でまとめられて引かれていく。どちらの数字も本物だが、足したり比べたりできる形では作られていない。
時間・変化:相関がβに化ける順番
順番は決まっている。まず52研究の平均加重相関がある。次に、それが一つの数字として引かれる。次に、指標の名前がβに書き換わる——βのほうが、他の要因を差し引いた純粋な効果に見えるからである。次に、対象が落ちる——仕事も趣味も授業も混ざっていたことが消える。最後に、向きが足される。注げば強くなる、という順序が、どこにも書かれていなかったのに足される。
逆向きにはまず動かない。信頼区間も、標本の国も、対象の種類も、書き足されて戻ってくることはない。 増えていくのは向きだけである。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、注いだ量を、関係の強さの証明として扱うことである。この単位で見たかぎり、量と強さは一緒に動くが、どちらが先かは測られていない。そして相関がいちばん高かったのは、注いだ量ではなく満足度のほうだった。
標本の偏りを断っておく。ここまでの証拠は、米国と欧州の、異性どうしの、大学生か既婚のカップルから採られたものが大半で、家事の研究にいたっては未成年の子どもと同居している世帯に限られている。日本を対象にした同じ設計の実験はごく少ない。 効果は数週間から数か月で測られたものが多い。そして——続いた関係のデータだけが残る、という逆向きを排除できない。 10週間の実験を最後まで続けられた組が回答しており、途中で別れた組の記録は集計に入っていない。
助けるのは、注いだものを、記録が残っている形で数え直すという一手である。記憶で数えると、印象の強いものだけが残る。記録で数えると、量の分布はたいてい思っていたのと違う。違っていること自体が、この単位の情報である。
最初の一歩は5分。直近1か月で、記録として残っているものだけを数える。
次の単位は 127「関係修復・再調整力」——注いだものが返ってこなくなり、壊れたところが出てきたとき、何が起きるのかという段へ進む。
- 2003年に Personal Relationships 10(1) へ出た投資モデルのメタ分析は、52研究・60の独立標本・11,582人(女性54%、男性46%、米国・英国・オランダ・イスラエル・台湾の5か国)を統合し、コミットメントとの平均加重相関を満足度 r₊ = .68(.67〜.69)、他の選択肢の質 r₊ = −.48(−.49〜−.46)、投資量 r₊ = .46(.45〜.48)と報告した。三つ合わせてコミットメントの分散の61%(.59〜.63)を説明する
- よく引かれる「β = .45」は誤りで、原典の値は相関係数 r₊ = .46 である。βは他の変数の影響を差し引いた回帰の重みで、相関は二つの値が一緒に動いた度合いである。値が近いことは、意味が同じであることの理由にならない
- このメタ分析がまとめたコミットメントの対象は恋愛関係だけではない。原典は、仕事・趣味・通っている大学・履修している授業・スポーツが含まれると書いている。人間関係のほうも友人関係から結婚まで混ざっている
- 統合されたのは相関で、投資量とコミットメントは同じ人に多くの場合同じ日に測られている。どちらが先かはデータの中に無い。2019年に同じ誌の 26(1) へ出た更新版メタ分析は、1980年から2016年初頭までの202標本・50,427人を統合し、満足度 r = .65、投資量 r = .53、他の選択肢の質 r = −.43 と報告した。数が増えても相関は相関のままである
- 同じ2003年のメタ分析は、コミットメントがその後の継続・解消と r₊ = .47(.43〜.50、12研究・1,720人)で結びつくとも報告している。いちばん強く出るのは注いだ量ではなく満足度のほうだった
- 米国の既婚53組を無作為に3群へ割り付け、週1.5時間・10週間の活動を行わせた1993年の実験では、活動をした2群と何もしない統制群を比べた対比は有意にならず、効果量も小さかった。有意になったのは、わくわくする活動の群と快い活動の群を比べた対比のほうで、効果量は中程度だった
- 米国の487組を対象にした2020年の Socius の論文では、分担の量そのものではなくコミュニケーションの質が効いていた。日本では、第7回全国家庭動向調査(2022年7月実施、有効回収票数8,910票・有効回収率54.1%、有配偶女性票5,518票)が、家事の分担について妻の分担する割合はいずれの調査年でも80%を超えると書き、2008年から2022年の変化は4.9ポイントだと報告している
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 投資すればするほど絆は強くなる。効果はβ = .45 と示されている | 原典は2003年のメタ分析で、値はβではなく平均加重相関 r₊ = .46 である。βは他の変数の影響を差し引いた回帰の重み、相関は二つの値が一緒に動いた度合いで、別の指標である。しかも統合されたのは相関なので、注いだからコミットしたのか、コミットしているから注いだのかは分けられていない。同じメタ分析で最も高かったのは投資量ではなく満足度の r₊ = .68 だった |
| 二人で新しいことを一緒にすれば、関係は良くなる | 米国の既婚53組を無作為に3群へ割り付け、週1.5時間・10週間の活動を行わせた1993年の実験では、活動をした2群と何もしない統制群を比べた対比は有意にならず、効果量も小さかった。有意だったのは、わくわくする活動と快い活動を比べた対比だけである。この実験が支えているのは「一緒に何かをすれば良くなる」ではなく、「するなら新しさのあるほうだった」という比較のほうである |
| 家事の分担は、公平だと感じられているかどうかで満足度が決まる | 米国の487組を対象にした2020年の Socius の論文が報告したのは、分担の量そのものではなくコミュニケーションの質が媒介していた、という結果である。標本は2006年3月と4月に集められた、未成年の子どもと同居し女性の側が45歳未満の、異性どうしの既婚・同棲カップルの確率標本に限られている。公平感が効いたという論文ではない |
この分野の数字は、引かれるたびに少しずつ格が上がっていく。相関はβになり、平均は法則になり、5か国の学生と夫婦の集まりは「カップル」になる。格が上がるほど、断りは削られる。授業への打ち込みも一緒に入っていた、という一行が最初に消え、次に信頼区間が消え、最後に、どちらが先かは測っていないという一行が消える。残るのは、注げば返ってくる、という気持ちのいい一文だ。皮肉なのは、その一文を支えるためにいちばん要る証拠——先に注いだ人がその後どうなったかの追跡——が、統合された52研究のどこにも十分な形では入っていないことである。
Q1. 2003年のメタ分析は ____ 研究・ ____ の独立標本・ ____ 人を統合し、コミットメントとの平均加重相関を、満足度 ____、他の選択肢の質 ____、投資量 ____ と報告した。この値は ____ 係数であって、βではない。穴埋め
Q2. 1993年の実験では、米国の既婚 ____ 組を無作為に3群へ割り付け、週 ____ 時間・ ____ 週間の活動を行わせた。活動をした2群と統制群を比べた対比は ____ で、有意だったのは ____ 群と ____ 群を比べた対比のほうだった。穴埋め
Q3. 2003年のメタ分析が統合した52研究の「コミットメントの対象」には、交際関係や結婚のほかにどのようなものが含まれていたか。本文に挙がっているものを3つ挙げよ。一問一答
Q4. 米国の487組を対象にした2020年の Socius の論文で、家事の分担と関係満足度のあいだを媒介していたのは何か。また、この論文が媒介変数として扱っていないものは何か。一問一答
Q5. 本文『時間・変化:相関がβに化ける順番』で示された順番を並べよ。(ア)指標の名前がβに書き換わる(イ)52研究の平均加重相関がある(ウ)注げば強くなる、という向きが足される(エ)一つの数字として引かれる(オ)仕事も趣味も授業も混ざっていたことが消える並べ替え
紙かメモアプリを開き、直近1か月をさかのぼる。いま近い関係にある相手がいる場合は、その関係のために自分が使ったもののうち、**記録が残っているもの**だけを数える。数える対象は自分の手元にある記録に限る——自分のカレンダーに残っている予定、自分の支出の記録、自分が送った連絡の件数、自分が撮った写真の枚数など、自分だけで確認できるものである。相手に何かを尋ねたり、相手の記録を見たりはしない。いま相手がいない場合、あるいはいま恋愛をしない選択をしている場合は、直近で継続的に関わっている人か、続けている活動を1つ選び、同じ形で数えればよい。数え終えたら、種類ごとの件数と合計を書く。最後に、数え始める前に自分が頭の中で思っていた件数を書き、実際の件数と並べる。多い少ないを評価しないこと——ここで見るのは、記憶と記録がどれだけずれるかだけである。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Le B., Agnew C.R. (2003) 'Commitment and its theorized determinants: A meta-analysis of the Investment Model', Personal Relationships 10(1):37-57, doi:10.1111/1475-6811.00035 — static1.1.sqspcdn.com
- Tran P., Judge M., Kashima Y. (2019) 'Commitment in relationships: An updated meta-analysis of the Investment Model', Personal Relationships 26(1):158-180, doi:10.1111/pere.12268 — doi.org
- Reissman C., Aron A., Bergen M.R. (1993) 'Shared activities and marital satisfaction: Causal direction and self-expansion versus boredom', Journal of Social and Personal Relationships 10(2):243-254, doi:10.1177/026540759301000205 — journals.sagepub.com
- Aron A., Norman C.C., Aron E.N., McKenna C., Heyman R.E. (2000) 'Couples' shared participation in novel and arousing activities and experienced relationship quality', Journal of Personality and Social Psychology 78(2):273-284, doi:10.1037/0022-3514.78.2.273 — doi.org
- Carlson D.L., Miller A.J., Rudd S. (2020) 'Division of Housework, Communication, and Couples' Relationship Satisfaction', Socius 6, doi:10.1177/2378023120924805 — journals.sagepub.com
- 国立社会保障・人口問題研究所『2022年社会保障・人口問題基本調査 第7回全国家庭動向調査 結果の概要』(令和5(2023)年8月22日公表、2026年8月閲覧) — www.ipss.go.jp