「同棲すると離婚しやすい」は、結婚1年目だけ逆を向いている
同棲すると離婚しやすい、という話には、たいてい年数が付いていない。米国の全国調査を21万カップル年ぶん揃え直すと、結婚1年目だけは向きが逆で、同棲を経た側のほうが解消率は低かった。しかもその利点は、1年しか続かない。
ここまでの三つの段で、自分の側を整え、相手を見て、実際に関わることを扱ってきた。この段から先は、続けるかどうかの話になる。
この単位が扱うのは一点——続けるという判断について、どこまでが確かめられているのかである。相手の選び方は扱わない。別れるときの手続きや制度の話も扱わない。ここで見るのは、統計がどう作られたかだけである。
「同棲すると離婚しやすい」に、年数を入れる
同棲を経て結婚すると離婚しやすい、という言い方がある。研究の世界では長く cohabitation effect と呼ばれてきた。
2019年に *Journal of Marriage and Family* 81(1) へ出た論文は、米国の全国調査 National Survey of Family Growth の6波——1988年、1995年、2002年、2006〜10年、2011〜13年、2013〜15年——をひとつのデータに揃え直した。含まれるのは初婚の女性 24,888人、観察は 216,455カップル年、そのうち解消が 8,488件である。標本の性質を先に書いておく。回答者は15歳から44歳の女性で、記録されている婚姻はすべて異性どうしのものだった。 原典はそう明記している。
この規模には少し説明が要る。カップル年というのは、1組の1年ぶんを1件として数える数え方で、10年続いた組は10件になる。だから21万6455という数は、21万組を調べたという意味ではない。何を1件と数えたのかを先に見ておかないと、規模の印象だけが手元に残る。
結果はこうだった。結婚1年目の解消率は、同棲を経ていない側が4.1%、同棲を経た側が3.9%。 同棲を経た側のほうが低い。原典は、すでに一緒に住んだ経験を持って結婚に入ることの利点かもしれない、と書いている。
ただし、その先が肝心である。この利点は結婚1年目にしか続かない。 期間全体をならすと向きは戻り、統制変数を入れないモデルで 1.37倍、統制変数を入れたモデルで 1.31倍、同棲を経た側の解消のオッズのほうが高くなる。
つまり「同棲すると離婚しやすい」は、間違いというより年数が落ちている言い方である。1年目だけを見れば逆で、それより先を見れば同じ向きになる。同じ一本のデータから、どちらの文も書ける。
ついでに、この0.2ポイントという差の大きさも見ておきたい。1年目に解消した組は、同棲を経ていない側でも100組のうち4組ほどである。差はそのうちの0.2組ぶんにすぎない。大きな差ではない。 それでも向きは逆で、助言に乗るのは向きのほうである。効果の小ささは、たいてい途中で落ちる。
同じ号の260ページと268ページ
ここまでなら、決着した話に見える。決着していない。
2021年の *Journal of Marriage and Family* 83(1) の 260〜267ページに、この論文への批判が載った。同じデータを婚姻コホートごとの事象史分析で組み直すと、最近結婚した層では関連はもっと弱い、という内容である。批判の側は、元のモデルには時間を測る変数が複数入っていて互いに交絡しうる、とも書いている。
そして同じ号の268〜279ページに、元の著者たちの返答が載っている。返答の言葉は率直である——MSK discarded more than 70% of the valid couple years available in the NSFG data, and then used the resulting lower statistical power to declare a key interaction insignificant. 批判者は使えるカップル年の70%以上を捨て、そうして下がった検出力を使って、鍵になる交互作用を有意でないと宣言した、という意味である。返答はさらに、子どもの有無を時間で変わらない変数として扱っていること、説明なしに1波ぶんのデータを捨てていることを挙げる。そして結論を一文で置く——Premarital cohabitation consistently predicts higher rates of marital dissolution in the U.S.
読者にとって大事なのは、どちらが正しいかではない。同じ全国調査の、同じ質問への回答から、二つの結論が出たという事実のほうである。分かれ目は、データの集め方でも尺度の作り方でもなく、どのカップル年を分析に残すかという手続きの選択にあった。
この棚では何度か、証拠が続いた側からしか集まらないという話をしてきた。ここはその一歩手前にある問題である。誰を数えるかを決めた時点で、答えはもう半分決まっている。
測る前から、違っている
もう一つの筋がある。同棲する人としない人は、同棲する前からすでに違っているという話である。
2019年の論文自身が、先行研究が挙げてきた説明としてこう書いている——同棲を経て結婚した人たちは、同棲を経験する前の時点ですでに、より自由主義的で、信仰が薄く、関係が悪くなったときに別れを選びやすい傾向があった。もしそうなら、同棲が解消を招いたのではなく、解消に至りやすい条件にある人が同棲を選んでいた、という順序になる。これは自己選択と呼ばれる問題である。
別の角度から確かめた研究もある。2014年に同じ誌の 76(2) へ出た論文は、米国の同じ全国調査の1995年・2002年・2006〜2010年の波、7,037人を使って、一緒に住み始めた年齢をそろえ直した。すると、同棲を経た層と直接結婚した層の解消率の差は大きく縮み、モデルによっては有意でなくなった。効いていたのは同棲そのものではなく、若いうちに一緒に住み始めたことのほうだったという読み方になる。
さらに2010年に *Demography* 47(3) へ出た論文は、同じ調査の1988年・1995年・2002年をまとめ、比例ハザードモデルで初婚の解消を推定した。新しい出生コホート・婚姻コホートほど、婚前の同棲と不安定さの正の関連は薄れていた。 20年前の米国で測った関連を、いまの日本にそのまま持ってこられない理由が、ここにもある。
「滑るか、決めるか」は、まだ理論である
この話でいちばんよく引かれる言い回しがある。滑り込むように始まった関係からは、滑り出るように抜けることが難しい——2006年に *Family Relations* 55(4) へ出た論文が示した見方で、決めて始めたのか、なんとなく続いたのかで、抜けにくさが変わる、という理屈である。
言い回しとしては鋭い。ただしこの論文は枠組みの提示であって、新しくデータを取って効果を測ったものではない。 冒頭の一文は先行研究の要約から始まる——Premarital cohabitation has consistently been found to be associated with increased risk for divorce and marital distress in the United States. そこに説明を与えるのがこの論文の仕事だった。説明の枠組みと、効果の証拠は、別のものである。
これを分けておく理由は、この言い回しが実際の場面でよく使われるからである。決めた覚えのないまま続いている、という感覚に名前が付くのは、それ自体は悪いことではない。ただし名前が付くことと、その名前が指すものの効果が測られたことは、別である。 ここで言えるのは、この論文が測っていないことを、この論文が測ったことにしない、というだけである。
時間・変化:この数字が割れていった順番
順番は決まっている。まず全国調査の集計がある。次に、年数ごとに分けた解消率が出る。次に、それが期間全体のオッズにならされる。次に、年数が落ちて「同棲すると離婚しやすい」になる。次に、対象が落ちる——15歳から44歳の米国の女性、初婚のみ、異性どうし、という限定が消える。最後に、国が落ちる。
落ちる順序には規則がある。先に落ちるのは、書き足すのが面倒なもの——年数、年齢の範囲、抽出の方法。最後まで残るのは、いちばん短く言えるもの、つまり向きである。同棲は危ない、あるいは、同棲は関係ない。どちらの一行も本当に存在し、どちらも同じデータから出ている。
逆向きにはまず動かない。分析の手続きが割れていることは、助言のほうへ伝わっていかない。 同じ号の260ページと268ページで往復している議論は、260ページも268ページも読まれないまま、片方の結論だけが引かれていく。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、続けるかどうかの判断を、統計の当てはまり具合として扱うことである。同棲を経たかどうかは、この研究群のなかでは分類の変数であって、あなたの見通しではない。1年目の0.2ポイントの差は、集団の平均の話である。
標本の偏りを断っておく。ここまでの証拠は、米国の全国調査に答えた、異性どうしの、初婚の人たちから採られている。日本の同棲と婚姻の継続を同じ設計で追った査読研究はごく少ない。 追跡の期間は数年から十数年で、聞き方は一度きりの質問紙が中心である。そして——続いた関係のデータだけが残る、という逆向きを排除できない。 別れた人は次の波の調査から抜け、答え続けているのは続いている人である。この分野の助言が、続いた側からしか書かれていないという事情は、この単位の統計にもそのまま乗っている。
助けるのは、続けるという判断を、状態ではなく出来事として書き留めるという一手である。何かを一緒に決めた日、決めずに済ませた日。書き留めると、決めた回数のほうが、思っていたより少ないことがたいてい分かる。分かったところで責める必要はない。判断していないと気づくことは、判断のうちに入る。
書く形式は先に決めておいたほうがいい。決めたことだけを書き、決めた理由は書かない。 理由を書き始めると、あとから作った理由が混ざる。残すのは、いつ、何を決めたか、の二つでよい。
最初の一歩は5分。今日この関係に、あるいはいま続けている何かに、自分が使った時間を数えて書く。
次の単位は 126「関係投資行動」——続けると決めたあと、その関係に何をどれだけ入れるのか、という段へ進む。
- 米国の全国調査 National Survey of Family Growth の6波(1988年・1995年・2002年・2006〜10年・2011〜13年・2013〜15年)を揃え直した2019年の分析は、初婚の女性24,888人、216,455カップル年、解消8,488件を対象にしている。回答者は15歳から44歳の女性で、記録された婚姻はすべて異性どうしのものだと原典が明記している
- 同じ分析で、結婚1年目の解消率は、同棲を経ていない側が4.1%、同棲を経た側が3.9%だった。同棲を経た側のほうが低い。ただしこの利点は結婚1年目にしか続かず、期間全体では統制変数なしのモデルで1.37倍、統制変数ありのモデルで1.31倍、同棲を経た側の解消のオッズのほうが高い
- この論文への批判は2021年の Journal of Marriage and Family 83(1) の260〜267ページに、元の著者たちの返答は同じ号の268〜279ページに載っている。同じ全国調査の同じ回答から、二つの結論が出て、往復したまま止まっている
- 返答の側は、批判者が使えるカップル年の70%以上を捨てたこと、子どもの有無を時間で変わらない変数として扱ったこと、説明なしに1波ぶんのデータを捨てたことを挙げている。分かれ目は、データの集め方ではなく、どのカップル年を分析に残すかという手続きの選択にあった
- 2019年の論文自身が、先行研究の説明として、同棲を経て結婚した人たちは同棲を経験する前の時点ですでに、より自由主義的で信仰が薄く、関係が悪くなったときに別れを選びやすい傾向があったと書いている。これは自己選択と呼ばれる問題で、同棲が解消を招いたのか、解消に至りやすい人が同棲を選んだのかを分けられない
- 2014年に Journal of Marriage and Family 76(2) へ出た分析は、同じ全国調査の3波、7,037人を使い、一緒に住み始めた年齢をそろえ直した。すると同棲を経た層と直接結婚した層の差は大きく縮み、モデルによっては有意でなくなった。2010年に Demography 47(3) へ出た分析も、新しい婚姻コホートほど正の関連が薄れていたと報告している
- 「滑り込むように始まった関係からは抜けにくい」という有名な言い方の出どころは、2006年の Family Relations 55(4) の論文である。これは既存の知見に説明の枠組みを与える論文で、新しくデータを取って効果を測ったものではない
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 同棲してから結婚すると、離婚しやすくなる | 米国の全国調査を216,455カップル年ぶん揃え直した2019年の分析では、結婚1年目の解消率は同棲を経た側が3.9%、経ていない側が4.1%で、向きが逆だった。ただしこの利点は1年目にしか続かず、期間全体では同棲を経た側のオッズのほうが1.31〜1.37倍高い。年数を言わずに一方だけを引くと、同じデータから正反対の文が作れてしまう。対象は15歳から44歳の米国の女性の初婚で、記録された婚姻はすべて異性どうしである |
| 同じデータを使っているのだから、専門家のあいだでは結論は一つに決まっているはずだ | この件は、批判が Journal of Marriage and Family 83(1) の260〜267ページ、返答が同じ号の268〜279ページに載ったまま、決着していない。返答の側は、批判者が使えるカップル年の70%以上を捨て、下がった検出力で鍵になる交互作用を有意でないと宣言した、と書いている。データが同じでも、どの観察を分析に残すかという手続きの選択で、結論は割れる |
| 同棲という経験そのものが、その後の関係を不安定にする | 同棲する人としない人は、同棲する前からすでに違っている。2019年の論文自身が、先行研究の説明として、同棲を経た人たちは経験前の時点ですでにより自由主義的で信仰が薄く、関係が悪くなったときに別れを選びやすい傾向があったと書いている。さらに2014年の分析が一緒に住み始めた年齢をそろえ直すと差は大きく縮み、モデルによっては有意でなくなった。効いていたのは同棲そのものではなく、若いうちに同居を始めたことのほうだ、という読み方になる |
この論争のいちばん静かな皮肉は、両陣営が同じ調査票を見ていることである。同じ人たちの、同じ回答。違うのは、そのうち何カップル年を分析に残すかという、論文の脚注に書かれる程度の判断だけだ。そしてその判断の中身は、記事にも、スライドにも、助言にも、一度も出てこない。出てくるのは結論の一行である。同棲は危ない、あるいは、同棲は関係ない。どちらの一行も本当に存在し、どちらも同じデータから出ている。続けるかどうかを決めるときに、この一行が役に立った人は、たぶんまだ一人もいない。
Q1. 米国の全国調査を216,455カップル年ぶん揃え直した2019年の分析で、結婚1年目の解消率は、同棲経験のある側とない側でそれぞれ何%だったか。どちらが低かったかも答えよ。一問一答
Q2. 2019年の分析で、同棲経験のある側のほうが解消率が低かったのは、結婚後どの範囲か。選択
Q3. 2019年の分析への批判と、その返答は、どこに載っているか。選択
Q4. 返答の側が、批判の分析について指摘した内容として本文に挙がっていないものはどれか。選択
Q5. 本文『時間・変化:この数字が割れていった順番』で示された、統計が助言になるまでの順番を並べよ。(ア)年数が落ちて「同棲すると離婚しやすい」になる(イ)全国調査の集計がある(ウ)期間全体のオッズにならされる(エ)年数ごとに分けた解消率が出る(オ)対象の年齢・初婚・異性どうしという限定が消える並べ替え
紙かメモアプリを開き、今日1日をふり返る。いま近い関係にある相手がいる場合は、その関係のために自分が使った時間を、用件ごとに分けて書き出す。連絡を書いた時間、一緒にいた時間、その人のために何かを段取りした時間、といった具合に、自分の側の行動だけを対象にする。相手が何をしたか、相手がどう反応したかは書かない。いま相手がいない場合、あるいはいま恋愛をしない選択をしている場合は、直近で継続的に関わっている人か、続けている活動を1つ選び、同じ形で自分が使った時間を書けばよい。書き終えたら合計の分数を出す。最後に、その用件のうち、自分が続けると決めて行ったものと、流れでそうなったものに印を分けて付け、それぞれの件数を数える。判断を採点しないこと——決めた件数が少なくても、それは今日の記録であって、評価ではない。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
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- Rosenfeld M.J., Roesler K. (2019) 'Cohabitation Experience and Cohabitation's Association With Marital Dissolution', Journal of Marriage and Family 81(1):42-58, doi:10.1111/jomf.12530 — web.stanford.edu
- Manning W.D., Smock P.J., Kuperberg A. (2021) 'Cohabitation and Marital Dissolution: A Comment on Rosenfeld and Roesler (2019)', Journal of Marriage and Family 83(1):260-267, doi:10.1111/jomf.12724 — doi.org
- Rosenfeld M.J., Roesler K. (2021) 'Premarital Cohabitation and Marital Dissolution: A Reply to Manning, Smock, and Kuperberg', Journal of Marriage and Family 83(1):268-279, doi:10.1111/jomf.12744 — web.stanford.edu
- Kuperberg A. (2014) 'Age at Coresidence, Premarital Cohabitation, and Marriage Dissolution: 1985-2009', Journal of Marriage and Family 76(2):352-369, doi:10.1111/jomf.12092 — doi.org
- Reinhold S. (2010) 'Reassessing the Link Between Premarital Cohabitation and Marital Instability', Demography 47(3):719-733, doi:10.1353/dem.0.0122 — doi.org
- Stanley S.M., Rhoades G.K., Markman H.J. (2006) 'Sliding Versus Deciding: Inertia and the Premarital Cohabitation Effect', Family Relations 55(4):499-509, doi:10.1111/j.1741-3729.2006.00418.x — eric.ed.gov