同じ言い方の長期の効果が、問題の重さで向きを変えた
葛藤は穏やかに、責めずに話し合え、という助言がある。米国の新婚207組を追いかけた二つの縦断研究が観察したのは、その同じ振る舞いが、抱えている問題の重さによって長期の効果の向きを変えるという事実だった。ここに書けるのは、その観察までである。
前の単位で、応答の効果が受け手の状態によって向きを変えることを見た。かみ合わなかったとき、そこに残るのが食い違いである。ここでは、その処理のしかたを扱う。
先に、この単位が何をしないかを書いておく。ここは、どう振る舞うべきかを助言しない。 我慢したほうがいいとも書かないし、言ったほうがいいとも書かない。書くのは、研究が何を観察したかだけである。扱う型は一つ——平均の効果と、条件によって向きが変わる効果は別物である、という読み方である。
平均を見ると、たしかに悪い
まず平均から。2014年に *Communication Monographs* 81(1) へ出たメタ分析は、片方が要求し片方が引くという型(demand/withdraw)について、74の研究、のべ14,255人を集めた。要旨の数字はこうである——全体で r = .360。内訳は、妻が要求し夫が引く型で r = .380、夫が要求し妻が引く型で r = .392。臨床・苦悩のある標本では r = .413 で、苦悩の無い標本の r = .345 より大きい。結果の種類でも差があり、関係についての結果 r = .423、コミュニケーションについての結果 r = .418 に対し、人口統計的な結果 r = .239、心身の健康についての結果 r = .249 である。
これは相関であって、効果量(d)ではない。 そして、この型がある関係ほど質が低いと報告されている、という以上のことは、この数字からは出てこない。
値切り:同じ振る舞いが、問題の重さで向きを変える
平均を条件で割ると、話が変わる。米国・2010年に *JPSP* 98(4) へ出た論文は、北オハイオの新婚72組と東テネシーの新婚135組——合わせて207組——を、前者は最大8回、後者は最大3回にわたって追跡した。要旨の中心の一文はこうである。
配偶者が相手を責め、命令し、拒む傾向は、軽微な問題しか抱えていない関係の文脈で示されたときには自分自身の婚姻満足度のより急な低下を予測したが、より深刻な問題に直面している関係では、その同じ振る舞いがより安定した満足度を予測した。
論文は続けて、問題の深刻さそのものの変化が、この効果を媒介していたと述べる。そして——対照的に、間接的な否定的コミュニケーションは、問題の深刻さにかかわらず、一貫して低い水準の満足度と結びついていた。
ここが見落とされやすい。否定的、という一つの名前の下に、性質の違う二つが入っている。 直接的なもの(責める・命令する・拒む)は条件で向きを変え、間接的なもの(当てこすり、話をそらす)は条件によらず一貫していた。まとめて否定的と呼ぶと、この差が消える。
なお、この論文が扱っているのは尺度で符号化された振る舞いの頻度であって、危害や被害の話ではない。この棚は、そこから先——被害への対処——には入らない。
その場の手応えと、あとから測った変化は別を向く
同じ向きの観察が、2009年に *JPSP* 96(3) へ出ている。61組が、相手に変えてほしいことを話し合う様子を録画し、その後1年間、3か月ごとに、狙われた特徴が実際に変わったかを測った研究である。
要旨によれば、直接的な方略(肯定的なものも否定的なものも)は、当初は比較的うまくいかなかったと知覚されたが、その後12か月にわたる変化の増大を予測した。逆に、肯定的で間接的な方略は、その場での成功の知覚は高かったが、のちの変化を予測しなかった。
手応えと、あとから測った変化が、逆を向いている。 どちらが良いかは、この研究は言っていない。言っているのは、その場の感触を成果の代わりに使うと、測っているものが入れ替わるということである。
条件は、問題の重さだけではない
もう一つの条件が、米国・2019年に *JPSP* 116(4) へ出た研究で報告されている(オンライン初出は2018年)。第一研究は515組を18か月、第二研究は431組を9か月・18か月・27か月追跡した。標本は、米国の7州8か所と、ロサンゼルス郡で集められた、収入の低い層を多く含むカップルである。
要旨の一文——社会経済的な危険度が、要求と引きこもりの型と満足度の共変動を調整しており、社会経済的な危険度が高いときには、引きこもりの水準が高いほうがむしろ有益であることが再び示された。 そして結論はこうである——そうした振る舞いのより大きな社会的・経済的な文脈を理解せずにカップルのコミュニケーションを変えようとする努力は、逆効果になりうる。
この研究は男女に分けて報告されており、変化が観察されたのは妻側の満足度についてである。 そして数字が語っているのは、同じ型の意味が、その二人の置かれている条件によって変わるという一点である。
そもそも、順序が確かめられていない
もう一段さかのぼる。米国・2016年に *Journal of Marriage and Family* 78(3) へ出た研究は、新婚のカップルの肯定性・否定性・有効性を、9か月間隔で4回観察し、同じ時期の満足度と突き合わせた。要旨はこう書く——縦断的には、コミュニケーションから満足度への関連と、満足度からコミュニケーションへの関連の両方が確認されたが、どちらの経路もとくに頑健ではなかった。
さらに続く——これらの知見は、カップルのコミュニケーション技法を関係満足度の鍵となる予測因子として優先する理論と介入に、重要な疑いを投げかける。
良い会話が満足を生むのか、満足している人が良い会話をしているのか。 どちらの向きも確認されたが、どちらも強くはなかった。「良いコミュニケーション」の中身が、しばしば結果の側から決められているのは、このためである。
悪いほうが強い、という一般則
背景として、2001年に *Review of General Psychology* 5(4) へ出た総説がある。要旨の結論はこうだ——(良いほうが強いことを示す)例外はほとんど見つからない。これらの知見を合わせると、悪いは良いより強いということが、心理学の広い範囲にわたる一般原則として示唆される。
ただしこれはメタ分析ではなく、物語的な総説である。 著者たちは、系統的なキーワード検索は行えなかったと書いている。効果量の統合値は報告されていない。 ここから「d = いくつ」を引いてはいけない。
時間・変化:2001年から2019年まで、条件がどう増えたか
順番はこうである。2001年、悪いほうが強いという一般則が総説にまとめられる。2009年、その場の手応えと1年後の変化が逆を向くことが観察される。2010年、問題の深刻さで向きが反転することが207組で観察される。2014年、平均としては関係の質と r = .360 で結びつくというメタ分析が出る。2016年、どちらが先かの経路がどちらも頑健でないと報告される。2019年、社会経済的な条件でも向きが変わることが946組で報告される。
平均は動いていない。増えたのは、平均の外側にある条件の数のほうである。 そして助言のほうは、2001年から一文も変わっていない——穏やかに、責めずに、である。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、その場の手応えを、うまくいった証拠として数えることである。2009年の観察では、手応えが良かった方略のほうが、12か月後の変化を予測しなかった。感触は、結果の代わりにならない。
標本の偏りを断っておく。ここまでの証拠は、米国の、新婚か、募集に応じた異性のカップルから採られたものが大半で、規模は61組・207組・515組・431組である。日本のカップルの葛藤を対象にした査読研究はごく少ない。 そして——続いた関係のデータだけが残る、という逆向きを排除できない。 別れた組は追跡から抜け、質問紙に答えているのは続いている人だけである。深刻な問題を抱えた関係でも安定した、という観察は、追跡に残っていた組の中での話である。
助けるのは、言わずに済ませたことを、軽重に分けて数えておくという一手である。数えるだけである。言うべきだとも、我慢すべきだとも、この単位は書かない。 分けて数えると、自分が何を軽いと扱っているのかが、記憶ではなく件数の側から見える。
最初の一歩は5分。直近1週間で言わずに済ませたことを数え、そのうち軽いことと重いことの内訳を書く。
次の単位は 125「コミットメント形成力」——ここまでの三つの段を通ってきた関係を、続けるかどうかという話へ進む。
- 2014年に Communication Monographs 81(1):28-58 へ出たメタ分析(74研究・N=14,255)は、要求と引きこもりの型と全体の結果との関連を r = .360 と報告した。妻が要求し夫が引く型で r = .380、夫が要求し妻が引く型で r = .392、臨床・苦悩のある標本で r = .413、苦悩の無い標本で r = .345。関係についての結果 r = .423、コミュニケーションについての結果 r = .418 に対し、人口統計的な結果 r = .239、心身の健康についての結果 r = .249。これは相関であって、効果量(d)ではない
- 米国・2010年の JPSP 98(4):587-604 は、北オハイオの新婚72組(最大8回の測定)と東テネシーの新婚135組(最大3回)を追跡し、要旨で「配偶者が相手を責め、命令し、拒む傾向は、軽微な問題しか抱えていない関係の文脈で示されたときには自分自身の婚姻満足度のより急な低下を予測したが、より深刻な問題に直面している関係では、その同じ振る舞いがより安定した満足度を予測した」と述べた
- 同じ論文は、問題の深刻さそのものの変化がこの効果を媒介していたとし、「対照的に、間接的な否定的コミュニケーションは、問題の深刻さにかかわらず、一貫して低い水準の満足度と結びついていた」と述べる。否定的という一つの名前の下に、条件で向きを変えるものと変えないものが同居している
- 米国・2009年の JPSP 96(3):620-639 は、61組の話し合いを録画し3か月ごとに1年追跡して、「直接的な方略(肯定的なものも否定的なものも)は、当初は比較的うまくいかなかったと知覚されたが、その後12か月にわたる変化の増大を予測した」「肯定的で間接的な方略は、その場での成功の知覚は高かったが、のちの変化を予測しなかった」と報告した
- 米国・2019年の JPSP 116(4):582-597(オンライン初出2018年)は、515組を18か月、431組を9・18・27か月追跡し、社会経済的な危険度が要求と引きこもりの型と満足度の共変動を調整することを報告した。結論は「そうした振る舞いのより大きな社会的・経済的な文脈を理解せずにカップルのコミュニケーションを変えようとする努力は、逆効果になりうる」。この研究は男女に分けて報告されており、変化が観察されたのは妻側の満足度についてである
- 米国・2016年の Journal of Marriage and Family 78(3):680-694 は、新婚のカップルを9か月間隔で4回観察し、「コミュニケーションから満足度への関連と、満足度からコミュニケーションへの関連の両方が確認されたが、どちらの経路もとくに頑健ではなかった」と報告し、コミュニケーション技法を鍵となる予測因子として優先する理論と介入に疑いを投げかけた
- 2001年に Review of General Psychology 5(4):323-370 へ出た総説は「悪いは良いより強いということが、心理学の広い範囲にわたる一般原則として示唆される」と結論した。ただしこれはメタ分析ではなく物語的な総説であり、著者たちは系統的なキーワード検索を行えなかったと書いている。効果量の統合値は報告されていない
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 葛藤は、常に穏やかに、責めずに話し合ったほうがよい | 米国・2010年に新婚207組(北オハイオ72組・最大8回/東テネシー135組・最大3回)を追跡した研究の要旨は、相手を責め、命令し、拒む傾向が、軽微な問題しか抱えていない関係では自分の満足度のより急な低下を予測した一方で、より深刻な問題に直面している関係では同じ振る舞いがより安定した満足度を予測した、と述べる。ただしこれは観察された関連であって、どう振る舞うべきかの助言ではない |
| 話し合いのあと手応えが良ければ、うまくいったということだ | 米国・2009年に61組を3か月ごとに1年追跡した研究では、直接的な方略は当初うまくいかなかったと知覚されたのに、その後12か月の変化の増大を予測した。逆に肯定的で間接的な方略は、その場での成功の知覚が高かったのに、のちの変化を予測しなかった。その場の感触と、あとから測った変化が逆を向いている |
| 良いコミュニケーションが、関係の満足度を生む | 米国・2016年に新婚のカップルを9か月間隔で4回観察した研究は、コミュニケーションから満足度への関連と、満足度からコミュニケーションへの関連の両方を確認したうえで、どちらの経路もとくに頑健ではなかったと報告した。要旨は、コミュニケーション技法を鍵となる予測因子として優先する理論と介入に重要な疑いを投げかける、と述べている |
皮肉なのは、この助言がなぜ売り物として完成度が高いのかである。穏やかに、責めずに。この二語には、条件も、標本も、追跡期間も付いていない。付いていないから、どの関係にも当てはめられる。うまくいけば穏やかさのおかげになり、うまくいかなければ穏やかさが足りなかったことになる。研究の側は20年かけて、平均の外側にある条件を一つずつ数えてきた。数えるほど、助言に書ける文は短くならず、長くなっていく。長い助言は、売れない。
Q1. 2014年のメタ分析(74研究・N=14,255)では、要求と引きこもりの型と全体の結果との関連は r = 【 ① 】であり、臨床・苦悩のある標本では r = 【 ② 】、苦悩の無い標本では r = .345 だった。穴埋め
Q2. 米国・2010年の新婚207組の研究で、相手を責め・命令し・拒む傾向が満足度に対して示した関連は、どの条件でどう変わったか。二つの条件を挙げて答えよ。一問一答
Q3. 同じ2010年の研究で、問題の深刻さにかかわらず一貫して低い水準の満足度と結びついていたのは、どの種類のコミュニケーションか。一問一答
Q4. 米国・2016年に新婚のカップルを9か月間隔で4回観察した研究の結論として、正しいものはどれか。選択
Q5. この単位で扱った五つの報告を、発表された年の早い順に並べよ。(ア)問題の深刻さで向きが反転することが新婚207組で観察された(イ)悪いは良いより強いという一般則が総説にまとめられた(ウ)社会経済的な条件でも向きが変わることが報告された(エ)その場の手応えと12か月後の変化が逆を向くことが61組で観察された(オ)74研究のメタ分析が r = .360 を報告した並べ替え
紙かメモアプリに日付を書く。直近1週間をふり返り、言おうかと思ってやめたことが何件あったかを数える。相手が誰かは書かない。内容も書かない。件数だけを書く。次にその件数を、自分の感覚で『軽いこと』と『重いこと』の2つに分け、それぞれの件数を書く。分ける基準は自分で決めてよく、基準を1行だけ添える。これは、言うべきかどうかを決める課題ではない。言うことも、言わないことも、この課題は求めていない。数えて内訳を書くところで終わりである。いま近い関係の相手がいない場合や、いまは恋愛をしないと決めている場合は、仕事や日常のやりとりを対象にすれば同じ形で成立する。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Schrodt P., Witt P.L., Shimkowski J.R. (2014) 'A Meta-Analytical Review of the Demand/Withdraw Pattern of Interaction and its Associations with Individual, Relational, and Communicative Outcomes', Communication Monographs 81(1):28-58, doi:10.1080/03637751.2013.813632 — www.ingentaconnect.com
- McNulty J.K., Russell V.M. (2010) 'When \'Negative\' Behaviors Are Positive: A Contextual Analysis of the Long-Term Effects of Problem-Solving Behaviors on Changes in Relationship Satisfaction', Journal of Personality and Social Psychology 98(4):587-604, doi:10.1037/a0017479 — pmc.ncbi.nlm.nih.gov
- Overall N.C., Fletcher G.J.O., Simpson J.A., Sibley C.G. (2009) 'Regulating Partners in Intimate Relationships: The Costs and Benefits of Different Communication Strategies', Journal of Personality and Social Psychology 96(3):620-639, doi:10.1037/a0012961 — experts.umn.edu
- Ross J.M., Karney B.R., Nguyen T.P., Bradbury T.N. (2019) 'Communication that is maladaptive for middle-class couples is adaptive for socioeconomically disadvantaged couples', Journal of Personality and Social Psychology 116(4):582-597, doi:10.1037/pspi0000158 — marriage.psych.ucla.edu
- Lavner J.A., Karney B.R., Bradbury T.N. (2016) 'Does Couples\' Communication Predict Marital Satisfaction, or Does Marital Satisfaction Predict Communication?', Journal of Marriage and Family 78(3):680-694, doi:10.1111/jomf.12301 — escholarship.org
- Baumeister R.F., Bratslavsky E., Finkenauer C., Vohs K.D. (2001) 'Bad Is Stronger Than Good', Review of General Psychology 5(4):323-370, doi:10.1037/1089-2680.5.4.323 — assets.csom.umn.edu