「3組に1組が離婚」は公的資料にある。ただし離婚件数÷婚姻件数ではない
3組に1組が離婚する、という数字は、出どころのない俗説ではない。厚生労働省の資料に、その一文がそのまま書いてある。ただしその根拠は、多くの人が思っている割り算ではない。
前の単位で、壊れたところに手を入れたとき、何が動いて何が動かないのかを見た。この単位で扱うのは、まだ起きていないこと——この先をどう描くか、である。
扱うのは一点——まだ無いものについて、確かめられている数字がどれだけあるのかである。何を目指すべきかは扱わない。何を選ぶべきかも扱わない。
「私たち」と言うことの効き目は、.08 だった
二人の将来を語るときの言葉づかいを測った研究群がある。一人称の複数形——「私たち」を使う頻度である。英語圏では we-talk と呼ばれてきた。
この発想の古典は1998年の *Journal of Personality and Social Psychology* 74(4) にある。コミットメントの高い人ほど複数形の代名詞をよく使い、自分と相手の一体感を強く感じ、関係を生活の中心に置いていた。しかもこの研究は、先行するコミットメントが後の認知の変化を予測し、先行する認知が後のコミットメントの変化を予測した——つまり双方向だったと報告している。片方が原因だという形にはなっていない。
では効き目はどれくらいか。2019年に *Journal of Social and Personal Relationships* 36(9) へ出たメタ分析が、30研究・5,288人を統合した。本人の使用と、関係および個人の機能とのあいだの相関は、全体で r = .075(95%信頼区間 .039〜.11)——四捨五入して .08 である。
.08 という相関が説明する違いは、1%に満たない。 内訳も見ておく。関係の結果 r = .06(.02〜.10、25の効果)、関係の行動 r = .13(.05〜.20、6)、メンタルヘルス r = .07(.02〜.12、13)、健康行動 r = .10(.05〜.14、4)。そして身体的健康は r = .06(−.06〜.13、4)で、信頼区間が0をまたぐ。
標本の性質も原典に書いてある。1件を除くすべての研究が米国で行われ、参加者は主として英語を話す人たちだった。
この数字は、有意である。有意であることと、大きいことは、別である。「有意」の一語は、小ささを消してしまう。
理論として書かれたものが、実証の裏づけとして引かれる
もう一つ、この場面でよく引かれる枠組みがある。結婚に求めるものは高いところまで上がったのに、そこへ注げる時間と注意は減った、という見方である。2014年に *Psychological Inquiry* 25(1) の1〜41ページへ出た論文が提示した。
見取り図としてはよくできている。ただしこの論文は理論論文である。 歴史学と社会学と心理学の既存の知見をまとめて一つのモデルを組み立てたもので、新しく効果を測ってはいない。 同じ号には13本のコメンタリーが並び、著者たちの返答が同じ号の120〜145ページに載っている。議論の途中の提案として、そう扱われている。
それでもこの枠組みは、「昔より結婚は難しくなった」という話の実証の裏づけとして引かれていく。理論論文が証拠になるのは、引用の途中で、それが理論であるという一行が落ちるからである。
「3組に1組」は、実在する。ただし割り算が違う
日本の話に移る。3組に1組が離婚する、という数字がある。
これは出どころのない俗説ではない。厚生労働省の人口動態統計特殊報告、令和4年度『離婚に関する統計』の概況に、その一文がそのまま書いてある。ただし根拠は、多くの人が思っているものとは違う。
資料はまず、二つの量を定義する。年齢別婚姻率の合計とは、仮に結婚する年齢を80歳までと設定し、男は18歳から80歳まで、女は16歳から80歳までの年齢(各歳)別婚姻率をそれぞれ合計したもので、1人が生涯にする結婚の回数に相当する。年齢別離婚率の合計も同じ作り方で、生涯にする離婚の回数に相当する。
そのうえで、令和2年のデータについてこう書く——平均して一生の間に男は0.79回の結婚と0.26回の離婚をし、女は0.84回の結婚と0.27回の離婚をすることから、結婚に対する離婚の割合は男女とも0.32となる。すなわち、およそ結婚した3組に1組が離婚していることになる。
つまり「3組に1組」は、その年の離婚件数を、その年の婚姻件数で割った値ではない。 各歳ごとの率を足し上げて作った、架空の一生ぶんの回数の比である。
この割り算に名前が付いていることがある。ただしその語の出どころには行き当たらなかった。 探したのは、同じ特殊報告の概況と用語の定義・算出方法、報道資料、そして厚生労働省の人口動態統計の一覧である。そのどこにも見当たらなかった。存在しないとは書かない。一次情報にたどり着けなかった、と書く。
分子と分母は、同じ集団ではない
では、多くの人が思っているほうの割り算をしてみる。
厚生労働省『令和6年(2024)人口動態統計(確定数)の概況』は、母集団を一文で定義している——本概況は、令和6年1年間に日本において発生した日本人の事象を客体としている。 数字はこうである。婚姻件数48万5092組(人口千対の婚姻率4.0)、離婚件数18万5904組(同じく離婚率1.55)。
割ると 0.383。約38%、2.6組に1組である。「3組に1組」より大きい。多くの人がやっているつもりの割り算では、3組に1組にすらならない。
それでもこの割り算は使えない。理由は、定義の一文から出てくる。分子の18万5904組は、令和6年に離婚届が出された夫婦である。その人たちが結婚したのは、令和6年ではない。 5年前かもしれないし、30年前かもしれない。一方、分母の48万5092組は、令和6年に婚姻届が出された夫婦である。 つまり分子と分母は、別々の集団を数えている。
この形は、公的統計を読むときにくり返し現れる。数字は正しい。定義も公開されている。合わないのは、二つの数字を並べたときの意味のほうである。
時間・変化:定義が落ちていく順番
順番は決まっている。まず定義つきの集計がある——各歳別の婚姻率と離婚率、それぞれの合計。次に、それが比になる。次に、比が「3組に1組」という言い回しになる。次に、その言い回しが別の割り算の結果として理解される。最後に、年も、国も、定義も落ちる。
逆向きにはまず動かない。定義が戻ってくることは、まず起きない。 この単位の we-talk の .08 も同じ道をたどっている。まず相関があり、次に有意という一語が付き、次に大きさが落ち、最後に「私たちと言う人はうまくいく」になる。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、この先の見通しを、統計の当てはまり具合として扱うことである。3組に1組も、38%も、あなたの見通しではない。どちらも、誰をどう数えたかの話である。
標本の偏りを断っておく。ここまでの証拠は、1件を除いてすべて米国で行われた研究と、日本の届出の集計から採られている。両者は測っている国も、対象も、作り方も違う。研究の側は、すでに関係のなかにいる人に一度だけ質問紙を配って測ったものが大半である。そして——続いた関係のデータだけが残る、という逆向きを排除できない。 別れた人は次の調査に現れず、いま答えているのは続いている人だからである。
助けるのは、この先やりたいことを、一人でできることと、誰かと一緒でないとできないことに分けておくという一手である。分けると、たいてい前者のほうが多い。多いこと自体に意味は無い。意味があるのは、分けるまでその比率を知らなかったことのほうである。
最初の一歩は5分。この先やりたいことを3つ書き、2つの欄に分ける。
続いたあとにしか、測られていない
ここまで見てきた数字には、共通の癖がある。
合うかどうかは、会う前ではなく、続いたあとに測られている。 適合も、応答も、続ける意思も、証拠の大半は、すでに関係のなかにいる人に、一度だけ質問紙を配って集められている。しかも訊いているのは、合っているかと、満足しているかを、同じ人に、同じ日に、である。だから「合う相手を選べば満足できる」という順序は、証拠の側から見ると逆にも読める——満足している人が、合っていると答えている。
この単位の数字が、そのことを別の角度から映している。「私たち」という言い方は、続いている関係の中でしか記録されない。 3組に1組も、離婚届が出されたあとにしか数えられない。選ぶ前の自分に届く数字は、思っているよりずっと少ない。
だから、この先を描くときにできることの範囲は、はっきりしている。続くかどうかを当てることはできない。 できるのは、外れたと分かるまでの時間を短くすることと、外れたときにどこへ戻るかを、あらかじめ決めておくことである。
戻る先は、外れ方が教えてくれる
自分の側を整え、相手を見て、実際に関わり、続けるかを決める——ここまで置いてきたのは、そういう順序の道筋だった。
絞り込みの形をしているから、外れると全部やり直しに見える。実際にはそうならない。戻るのは、どこか一つの段である。
求めているものの見積もりが違っていたのなら、いちばん前に戻る。相手の見立てが違っていたのなら、真ん中に戻る。伝え方や関わり方の問題だったのなら、直前の段に戻る。どの段に戻るかを決めるのに要るのは、粘り強さではなく、外れ方の中身を見ることだけである。
そして、そのために必要な材料は、外れたその場にしか無い。あとから思い出して書いたものは、たいてい滑らかになっている。
- 2019年に Journal of Social and Personal Relationships 36(9) へ出たメタ分析は、30研究・5,288人を統合し、本人の「私たち」の使用と関係および個人の機能との相関を全体で r = .075(95%信頼区間 .039〜.11)と報告した。四捨五入して .08 で、説明できる違いは1%に満たない
- 同じメタ分析の内訳は、関係の結果 r = .06(.02〜.10)、関係の行動 r = .13(.05〜.20)、メンタルヘルス r = .07(.02〜.12)、健康行動 r = .10(.05〜.14)、身体的健康 r = .06(−.06〜.13)。身体的健康は信頼区間が0をまたぐ。1件を除くすべての研究が米国で行われ、参加者は主として英語を話す人たちだった
- この発想の古典である1998年の Journal of Personality and Social Psychology 74(4) の研究は、コミットメントと認知的な一体感の関係が双方向だったと報告している。先行するコミットメントが後の認知の変化を予測し、先行する認知が後のコミットメントの変化を予測した
- 結婚に求めるものが上がったのに注げる資源が減った、という有名な枠組みの出どころは、2014年の Psychological Inquiry 25(1) の1〜41ページの理論論文である。効果を測った論文ではなく、同じ号には13本のコメンタリーと、120〜145ページの著者たちの返答が並んでいる
- 「およそ結婚した3組に1組が離婚していることになる」という一文は、厚生労働省の人口動態統計特殊報告、令和4年度『離婚に関する統計』の概況に実在する。ただしその根拠は、令和2年のデータで、男は一生に0.79回の結婚と0.26回の離婚、女は0.84回の結婚と0.27回の離婚をすることから、結婚に対する離婚の割合が男女とも0.32になる、というものである
- その0.79や0.26は、仮に結婚する年齢を80歳までと設定し、男は18歳から80歳まで、女は16歳から80歳までの年齢(各歳)別の婚姻率・離婚率をそれぞれ合計した値である。つまり「3組に1組」は、その年の離婚件数をその年の婚姻件数で割った値ではない
- 厚生労働省『令和6年(2024)人口動態統計(確定数)の概況』は、本概況は令和6年1年間に日本において発生した日本人の事象を客体としていると定義したうえで、婚姻件数48万5092組、離婚件数18万5904組を報告している。実際に割ると0.383で約38%、2.6組に1組になる。しかも分子は過去のあらゆる年に結婚した夫婦、分母は令和6年に婚姻届が出された夫婦で、同じ集団ではない
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 「私たち」と言うようにすれば、関係は良くなる | 30研究・5,288人を統合した2019年のメタ分析で、本人の使用と関係および個人の機能との相関は全体で r = .075、四捨五入して .08 だった。説明できる違いは1%に満たない。身体的健康にいたっては信頼区間が0をまたぐ。しかも古典にあたる1998年の研究は、コミットメントと認知的な一体感の関係が双方向だったと報告しており、言い方を変えれば関係が良くなるという順序にはなっていない |
| 日本では3組に1組が離婚する。離婚件数を婚姻件数で割ればそうなる | この一文は厚生労働省の令和4年度『離婚に関する統計』の概況に実在するが、根拠は割り算ではない。80歳までの各歳別の婚姻率と離婚率をそれぞれ合計した“一生の回数”の比 0.32 である。実際に令和6年の離婚18万5904組を婚姻48万5092組で割ると0.383、約38%、2.6組に1組になり、この割り算では3組に1組にすらならない。しかも分子は過去のあらゆる年に結婚した夫婦、分母は令和6年に結婚した夫婦で、同じ集団ではない |
| 昔より結婚は難しくなった、というのは研究で示されている | この見方の出どころは、2014年に Psychological Inquiry 25(1) の1〜41ページへ出た理論論文である。歴史学・社会学・心理学の既存の知見をまとめてモデルを提示したもので、新しく効果を測ってはいない。同じ号に13本のコメンタリーが並び、著者たちの返答が同じ号の120〜145ページに載っている。議論の途中の提案として扱われている枠組みが、引用の途中で理論であるという一行を落とし、実証の裏づけとして使われていく |
公的な資料に書いてある数字ほど、始末が悪い。出どころが本物なので、確かめた気になってしまうからだ。3組に1組は実在する。ただし資料が数えていたのは、80歳までの各歳の率を足し上げて作った、誰も生きていない一生ぶんの結婚と離婚の回数だった。皮肉なのは、この数字がいちばんよく使われる場面である。決める前の人を落ち着かせるため、あるいは急かすため。どちらに使うにしても、材料は同じ0.32で、その0.32の作り方は、使う側にも、聞く側にも、ほとんど届いていない。届いていないもので、人は将来を決めている。
Q1. 厚生労働省の令和4年度の資料によれば、平均して一生の間に男は ____ 回の結婚と ____ 回の離婚をし、女は ____ 回の結婚と ____ 回の離婚をすることから、結婚に対する離婚の割合は男女とも ____ となる。ここでいう回数は、仮に結婚する年齢を ____ 歳までと設定して、各歳別の率を ____ したものである。穴埋め
Q2. 30研究・5,288人を統合したメタ分析で、本人の「私たち」の使用と関係および個人の機能との相関は、全体でいくつだったか。選択
Q3. 同じメタ分析の5つの下位指標のうち、95%信頼区間が0をまたいでいたのはどれか。選択
Q4. 令和6年の婚姻件数48万5092組と離婚件数18万5904組について、本文が指摘している問題はどれか。選択
Q5. 本文『時間・変化:定義が落ちていく順番』で示された順番を並べよ。(ア)比が「3組に1組」という言い回しになる(イ)各歳別の婚姻率と離婚率をそれぞれ合計した定義つきの集計がある(ウ)年も国も定義も落ちる(エ)その言い回しが、別の割り算の結果として理解される(オ)二つの合計の比が出る並べ替え
紙かメモアプリを開く。この先やりたいことを3つ書く。大きさはそろえなくてよく、今週のことでも数年先のことでもよい。書いたら、それぞれに『一人でできる』『誰かと一緒でないとできない』のどちらかの印を付ける。判断に迷ったものは、迷ったと書いて第三の欄に置く。次に、印を付けたそれぞれについて、いま自分の手元にある材料を1行だけ書く——費用、時間、道具、必要な手続きなど、自分で確かめられるものに限る。誰かと一緒でないとできないものについても、書くのは自分の側の材料だけにする。相手を想定して名前を書いたり、相手に確かめたりはしない。いま近い関係にある相手がいない場合、あるいはいま恋愛をしない選択をしている場合も、この課題はそのまま成立する——3つのうち何が一人で成立するかを見るための記録である。最後に、3つのうち一人でできると分類した件数を数えて書く。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
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- Karan A., Rosenthal R., Robbins M.L. (2019) 'Meta-analytic evidence that we-talk predicts relationship and personal functioning in romantic couples', Journal of Social and Personal Relationships 36(9):2624-2651, doi:10.1177/0265407518795336 — observelab.ucr.edu
- Agnew C.R., Van Lange P.A.M., Rusbult C.E., Langston C.A. (1998) 'Cognitive interdependence: Commitment and the mental representation of close relationships', Journal of Personality and Social Psychology 74(4):939-954, doi:10.1037/0022-3514.74.4.939 — doi.org
- Finkel E.J., Hui C.M., Carswell K.L., Larson G.M. (2014) 'The Suffocation of Marriage: Climbing Mount Maslow Without Enough Oxygen', Psychological Inquiry 25(1):1-41, doi:10.1080/1047840X.2014.863723 — doi.org
- Finkel E.J., Larson G.M., Carswell K.L., Hui C.M. (2014) 'Marriage at the Summit: Response to the Commentaries', Psychological Inquiry 25(1):120-145, doi:10.1080/1047840X.2014.890512 — doi.org
- 厚生労働省「人口動態統計特殊報告 令和4年度『離婚に関する統計』の概況」(政策統括官付参事官付人口動態・保健社会統計室、令和4(2022)年8月24日公表、2026年8月閲覧) — www.mhlw.go.jp
- 厚生労働省『令和6年(2024)人口動態統計(確定数)の概況』(令和7(2025)年9月16日公表、2026年8月閲覧) — www.mhlw.go.jp