計算機に頼んだのは予測ではなく、再構成だった
数分の会話を見れば離婚が9割当たる、という話がある。元の数字は実在する。ただしそれは、誰が離婚したかをすでに知っている状態で、その答えに最もよく合う式を計算機に作らせた結果である。批判した論文は、その手続きを予測ではなく再構成と呼んでいる。
前の単位で、会う回数を増やすことと、相手をもっと知ることが別の操作であることを見た。会ったあとに起きるのが会話である。ここでは、その会話がどこまで先を言い当てるのかを扱う。
この単位が扱うのは一点——「精度◯%」という数字の、手続きと分母である。話し方の型は扱わない。聞き方の作法も扱わない。
93.6% は実在する。ただし、答えを見たあとの分類率である
数字の出どころは特定できる。米国・1992年に *Journal of Family Psychology* 5(3-4) へ出た研究である。新聞広告で募集した56家族のうち52組の夫婦に、過去をどう語るかの面接を行い、そこから9つの変数を取り出した。要旨は、およそ94%の正確さで離婚か安定かを予測できたと述べ、本文には判別関数分析で93.6%の事例が正しく分類されたと書かれている。
ここで手続きを見ておく必要がある。判別関数分析は、どちらの群かがすでに分かっているデータに対して、その分かれ方に最もよく合う式を計算機に作らせる手続きである。 誰が離婚したかは、式を作る時点でもう分かっている。そしてこの論文の本文に、交差検証——別のデータで同じ式を試す手続き——の記述は見当たらない。
「予測」ではなく「再構成」
この点を正面から扱ったのが、米国・2001年に *Journal of Marriage and the Family* 63(2) へ出た論文である。題は、交差検証なしに離婚を予測することの危うさ、という。要旨はこう書く——離婚予測の研究は、夫婦の最終的な離婚が非常に正確に予測できることを示唆している。近年の注目は、予測式を交差検証する必要と、人口における離婚の頻度を考慮する必要を見落としてきた。我々は保管データを分析し、交差検証のあいだに正確さと予測値が急激に落ちることを示す。
核心の一文はもっと短い——より正確に言えば、分析者はソフトウェアに、予測ではなく再構成を求めているのである。計算機は、すでに分かっている群の所属を最適に再構成する式を作るからだ。
数字を並べる。使ったのは1985年の全国代表標本の調査(回答者6,002人)で、そこから最近離婚した176人などを抜き出している。式を作ったデータの上では、90%が正しく分類された(感度92%、特異度89%)。離婚すると当てた組が実際に離婚していた割合は65%。 ところが別のデータで同じ式を試すと、全体の正解率は69.31%、感度は45.95%、特異度は74.55%へ落ちる。離婚すると当てた組が実際に離婚していた割合は28.81%になる。 さらに人口の離婚率16%に重みを戻すと、この値は20.99%まで下がる。
同じ式である。変わったのは、当てはめた先のデータだけだ。 ここが、この棚が何度も通る道の一つである——続いた側と別れた側の両方が最初から分かっているデータの上では、どんな式もよく当たる。
提唱者自身が、1992年の論文にそう書いている
批判者の言葉より強い一文が、提唱者側の論文の中にある。米国・1992年に *JPSP* 63(2) へ出た研究は、1983年にインディアナ州で新聞広告により募集した73組を1987年まで追いかけたものである。73組のうち実際に離婚したのは9組だった。そして本文にこう書いてある——これは事後分析であり交差検証を必要とするけれども、文献にある離婚予測の大きさと比べれば心強い。
「事後分析であり交差検証を必要とする」。 提唱者側が、批判が出る9年前に、自分でそう書いている。 なお、この論文には別離の組数と百分率が整合しない箇所がある(16組を24.7%と記している)。ここでは組数のほうを採る。
いちばん有名な新婚研究でも、83%である
しばしば「90%以上」と語られるが、新婚の夫婦を対象にした最も有名な研究——米国・1998年に *Journal of Marriage and the Family* 60(1) へ出た N=130 の研究——の要旨には、こう書かれている。離婚と安定は83%の正確さで、満足は80%の正確さで予測された。
別の標本では、主要な知見が再現しなかった
米国・2007年に *Journal of Marriage and Family* 69(1) へ出た研究は、同じ枠組みを別の標本で試している。地域から集めた、困難を抱えた背景を持つ85組(既婚または同棲)を、およそ21歳の時点から約2年半追いかけた。要旨の一文は短い——Gottman らの主要な知見は再現しなかった。 具体的には、影響を受け入れないこと、相手の否定的感情を鎮めないこと、否定的な切り出し方のいずれも、関係の状態を予測しなかった。
提唱者側の応答は、同じ誌に載っている(2007年、69(1):73-80)。ただし本文には到達できなかったので、ここでは応答が査読誌に出ているという事実だけを書く。中身を要約しない。
「91%」の出どころを探した
この分野でいちばん流通している数字は 91% である。探した場所を書いておく。精度を報告している査読論文(1992年の面接の研究=93.6%、1992年の生理指標の研究、1998年の新婚の研究=83%)、交差検証を扱った2001年の論文が並べている先行研究の一覧、そして提唱者側の団体が公開している質疑応答のページ(2026年8月閲覧)である。最後のページに2026年8月に見たときに載っていたのは 93.6% と 94% と、別の研究についての 90% であって、91% ではなかった。一般の検索で出てくるのは、記事とブログばかりだった。
存在しない、とは書かない。一次情報にたどり着けなかった、と書く。
それでも会話は関係と結びついている。ただし小さく
値切りは、会話が無意味だという結論ではない。米国・2022年に *Journal of Marriage and Family* 84(2) へ出たメタ分析は、64の二者データの研究、1,784の推定値を集めた。関係の質との相関は、肯定的なやりとりで r = .15(本人内)と .09(相手側)、否定的なやりとりで r = −.17 と −.16。関係の解消との関連は、肯定的なやりとりで d = 0.24(p = .105)で有意でなく、否定的なやりとりで d = −0.41(p < .001) だった。
結論の一文はこうである——これらの効果は小さく、肯定的・否定的なやりとりの単一の早期の測定は、のちの関係の機能をわずかに予測するにすぎないことを示唆する。
時間・変化:1992年から2022年まで、数字がどう動いたか
順番はこうである。1992年、52組で93.6%が出る。同じ年、別の73組の研究に「事後分析であり交差検証を必要とする」と書かれる。1998年、130組で83%が出る。2001年、交差検証をすると65%が29%へ、重みを戻すと21%へ落ちることが示される。2007年、別の85組で主要な知見が再現しない。2022年、64研究のメタ分析が、効果は小さいと結論する。
助言のほうは、この30年ほとんど動いていない。残ったのは「数分で分かる」という一句と、90%台の数字だけである。 落ちるのは、たいてい標本の大きさと、その式がどのデータの上で作られたかである。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、当たった割合を、当たる能力だと読むことである。式を作ったデータの上での正解率は、手続きの性質上、高く出る。知りたいのは、まだ見ていないデータでどうかのほうだ。
標本の偏りを断っておく。ここまでの証拠は、米国の、新聞広告や地域の募集に応じた、異性の夫婦から採られたものが大半で、規模は52組・73組・85組・130組である。日本の夫婦の会話を対象にした査読研究はごく少ない。 そして——続いた関係のデータだけが残る、という逆向きを排除できない。 別れた組は追跡から抜け、質問紙に答えているのは続いている人だけである。
助けるのは、会話の中身ではなく、時間の配分だけを記録してみるという一手である。中身の評価は、あとから満足度の側に引っ張られる。時間はそうならない。自分がどれだけ話していたかは、印象ではなく分数で残る。
最初の一歩は5分。今日の会話を1つ選び、自分が話していた時間と相手が話していた時間を、おおよそで書き留める。
次の単位は 123「感情的応答性」——話したことに対して、どう返ったか、返らなかったかという話へ進む。
- 93.6% の出どころは米国・1992年の Journal of Family Psychology 5(3-4):295-318。新聞広告で募集した56家族のうち52組に過去の語りの面接を行い、9つの変数で判別関数分析をかけた結果の分類率である。要旨は約94%の正確さと述べる。この論文の本文に交差検証の記述は見当たらない
- 米国・2001年に Journal of Marriage and the Family 63(2):473-479 へ出た論文の核心の一文は「より正確に言えば、分析者はソフトウェアに、予測ではなく再構成を求めているのである。計算機は、すでに分かっている群の所属を最適に再構成する式を作るからだ」
- 同じ2001年の論文は、1985年の全国代表標本の調査(回答者6,002人)を使い、式を作ったデータでは正解率90%・感度92%・特異度89%・離婚すると当てた組が実際に離婚していた割合65%だったのに対し、別データでの検証では正解率69.31%・感度45.95%・特異度74.55%・同割合28.81%へ落ち、人口の離婚率16%に重みを戻すと20.99%になると報告した
- 提唱者側の米国・1992年の JPSP 63(2):221-233(1983年にインディアナ州で新聞広告により募集した73組、うち実際に離婚したのは9組)には「これは事後分析であり交差検証を必要とするけれども、文献にある離婚予測の大きさと比べれば心強い」と書かれている。批判より9年早い自己申告である
- 最も有名な新婚の研究(米国・1998年、Journal of Marriage and the Family 60(1):5-22、N=130)の要旨は「離婚と安定は83%の正確さで、満足は80%の正確さで予測された」であり、90%以上ではない
- 米国・2007年に Journal of Marriage and Family 69(1):55-72 へ出た研究は、困難を抱えた背景を持つ地域標本85組を約2年半追跡し、要旨に「Gottman らの主要な知見は再現しなかった」と書いた。影響を受け入れないこと、相手の否定的感情を鎮めないこと、否定的な切り出し方のいずれも関係の状態を予測しなかった。提唱者側の応答は同じ誌の 69(1):73-80 にある
- 米国・2022年の Journal of Marriage and Family 84(2):533-551 のメタ分析(64の二者データ研究・1,784の推定値)では、関係の質との相関は肯定的なやりとりで r = .15(本人内)/.09(相手側)、否定的なやりとりで r = −.17/−.16。解消との関連は肯定的で d = 0.24(p = .105、有意でない)、否定的で d = −0.41(p < .001)。結論は「これらの効果は小さく…わずかに予測するにすぎない」
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 数分の会話を見れば、離婚を90%以上の精度で当てられる | 93.6% という数字は実在するが、それは米国・1992年に新聞広告で集めた52組について、誰が離婚したかが分かっている状態で、その分かれ方に最もよく合う式を9変数から作らせた分類率である。2001年の論文はこの手続きを予測ではなく再構成と呼び、別データで検証すると、離婚すると当てた組が実際に離婚していた割合は65%から28.81%へ、人口の離婚率16%に重みを戻すと20.99%へ落ちることを示した |
| 有名な新婚研究が90%以上の精度を出しているはずだ | 米国・1998年の N=130 の新婚研究の要旨に書かれているのは、離婚と安定が83%、満足が80%である。また米国・2007年に別の85組(困難を抱えた背景を持つ地域標本)で試したところ、要旨に「Gottman らの主要な知見は再現しなかった」と書かれた。よく流通している91%という数字については、査読論文・2001年の批判論文が並べた先行研究の一覧・提唱者側の団体の公開ページ(2026年8月閲覧)のいずれにも見当たらず、一次情報にたどり着けなかった |
| 予測が当たらないなら、会話は関係と関係がないということだ | そうではない。米国・2022年の64研究・1,784推定値のメタ分析では、関係の質との相関は肯定的なやりとりで r = .15、否定的なやりとりで r = −.17(いずれも本人内)。解消との関連は否定的なやりとりで d = −0.41(p < .001)だが、肯定的なやりとりでは d = 0.24(p = .105)で有意でない。結論は、効果は小さく、単一の早期の測定はのちの関係の機能をわずかに予測するにすぎない、というものである |
皮肉なのは、この数字が生き残っている場所のほうである。93.6% も 83% も、査読誌の中では標本の大きさと手続きの但し書きを連れて歩いている。外に出た瞬間に但し書きだけが落ち、数字は「数分で分かる」という一句と一緒に旅を続けた。旅の途中でどこかから 91% という値が加わり、その出どころには今日も行き当たらない。当たらないものを当たったことにする方法は、実のところ一つしかない——答えを先に見ておくことである。
Q1. 米国・2001年の論文は、判別関数分析の手続きについて「分析者はソフトウェアに、予測ではなく【 ① 】を求めているのである」と書いた。同じ論文で、離婚すると当てた組が実際に離婚していた割合は、式を作ったデータでは65%、別データでの検証では【 ② 】、人口の離婚率16%に重みを戻すと【 ③ 】だった。穴埋め
Q2. 93.6% という数字が出てきた米国・1992年の研究の標本として、正しいものはどれか。選択
Q3. 米国・2022年の64研究のメタ分析で、関係の解消との関連について正しく述べているものはどれか。選択
Q4. この単位で扱った五つの出来事を、発表された年の早い順に並べよ。(ア)別の85組で主要な知見が再現しなかった(イ)52組で93.6%の分類率が出た(ウ)64研究のメタ分析が、効果は小さいと結論した(エ)交差検証をすると的中率が65%から29%へ落ちることが示された(オ)新婚130組で83%が報告された並べ替え
Q5. 「91%」の出どころを探した四つの場所を、本文で述べた順に並べよ。(ア)提唱者側の団体が公開している質疑応答のページ(イ)精度を報告している査読論文(ウ)一般の検索(エ)2001年の批判論文が並べた先行研究の一覧並べ替え
紙かメモアプリに、今日の日付と会話の場面を1行で書く(誰と、は書かない。仕事の打ち合わせでも、店先のやりとりでもよい)。次に2つの欄を作る。左は『自分が話していた時間』、右は『相手が話していた時間』。分単位のおおよそでよい。正確さは要らない。会話の中身は書かない。相手を評価する言葉も書かない。話す時間を増やしたり減らしたりする必要はなく、今日すでに起きた会話を1つ選んで書くだけである。いま近い関係の相手がいない場合や、いまは恋愛をしないと決めている場合は、直近で継続的に関わっている人とのやりとりを1つ選べば同じ形で成立する。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Buehlman K.T., Gottman J.M., Katz L.F. (1992) 'How a couple views their past predicts their future: Predicting divorce from an oral history interview', Journal of Family Psychology 5(3-4):295-318, doi:10.1037/0893-3200.5.3-4.295 — www.johngottman.net
- Heyman R.E., Slep A.M.S. (2001) 'The Hazards of Predicting Divorce Without Crossvalidation', Journal of Marriage and the Family 63(2):473-479, doi:10.1111/j.1741-3737.2001.00473.x — pmc.ncbi.nlm.nih.gov
- Gottman J.M., Levenson R.W. (1992) 'Marital processes predictive of later dissolution: Behavior, physiology, and health', Journal of Personality and Social Psychology 63(2):221-233 — bpl.studentorg.berkeley.edu
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