消えたのは効果のほうで、信念だけが再現した
会う回数を増やせば好かれる、という助言がある。その根拠とされる1968年の実験が実際に見せていたのは、7文字のトルコ語風の造語と、卒業アルバムから借りた顔写真だった。誰も、そこに一度も話しかけていない。
ここまでの二つの段で、自分の側を整え、相手をどう見るかを扱ってきた。この段から先は、実際に会う話になる。
この単位が扱うのは一点——会う回数を増やすことと、相手をもっと知ることは、同じ操作ではない。どちらも近づくと呼ばれているが、測られ方が違い、出てくる結果も違う。
元の実験が見ていたのは、トルコ語風の無意味語だった
単純接触効果の出どころは、米国・1968年に *Journal of Personality and Social Psychology* の別冊へ出た論文である。中心の主張は一文で書かれている——個人が刺激対象に単に反復して接触することは、その対象への態度を高める。
問題は、その刺激が何だったかである。第一実験は7文字のトルコ語風の造語12語。第二実験は漢字で、別の研究から借りてきたものだった。第三実験は男性の顔写真であり、これはミシガン州立大学の卒業アルバムに載っていた卒業予定者の写真である。参加者はミシガン大学の学生で、第一実験は72人、一度に一人ずつ実施された。
つまり、この実験のどこにも会話が無い。挨拶も無いし、相手はこちらを見ていないし、次に会う予定も無い。測られたのは、見た回数と好みの評定の関係であって、人と人のあいだで起きることではない。 効果そのものを疑う必要はない。疑うべきなのは、そこから「会う回数を増やせば好かれる」へ渡る一歩のほうである。
逆説のほう——もっと知ると、好意は下がる
対人の側で正面から測ろうとした研究が、米国・2007年に *JPSP* 92(1) へ出ている。題は、少ないほうが多い、である。要旨の一文はこうだ——人はもっと知れば好意が増すと信じているのに、他者についての情報が増えると、平均としては好意が減る。
数字を見ると、規模の感触が変わる。ある研究では、知っている特性の数と好意のあいだに負の相関が出た(r(76)、p < .05)。別の研究でも同じ向きだった(r(304)、p < .05)。標本は、米国の大学のキャンパスで集めた76人と、オンラインの出会いサービス経由の304人である。 課題は、性格を表す語のリストを見て評定することだった。対面の交際を追いかけた研究ではない。
値切り:801人の事前登録の追試で、何が消え、何が残ったか
2025年4月、*Royal Society Open Science* 12(4) に論文番号 250441 として、この逆説の追試が出た。事前登録の報告書——分析の手順を結果が出る前に登録して公開しておく形式である。標本は米国のオンライン調査基盤で集めた学部生 801人。元の5つの研究のうち3つを直接、2つを概念的に追試している。
結果は要旨にそのまま書いてある。全体として、原典の知見への支持は弱かった。 中心の指標はこう報告されている——知っている特性の数が好意に影響するという徴候は見られなかった(原典 r = −0.43〜−0.005、追試 r = −0.05〜0.06)。人物についての情報の量と好意の関連は、r(799) = −0.027、95%信頼区間 [−0.097, 0.042]、p = .325 だった。区間はきれいに0をまたいでいる。
ところが、消えなかったものがある。要旨はこうも書いている——原典と一致して、参加者は、より多く知っている相手のほうを好きになるだろうと信じていた(原典 h = 0.52〜0.70、追試 h = 0.55〜0.75)。信念のほうは頑健に再現し、実際の効果だけが消えた。
ここがこの単位の核心である。値切られたのは効果の向きではない。信念と効果のあいだの隔たりのほうだ。私たちは、知れば好きになるはずだと思っている。その思い込みは実験室でくり返し再現する。再現しないのは、思ったとおりに好意が動く、という部分である。
生の対面では逆を向く。ただし会っていたのは同性の初対面どうしである
同じ問いを、リストの評定ではなく実際のやりとりで測り直した研究が、米国・2011年に *JPSP* 101(3) へ出ている。要旨は明快だ——知見は、なじみが魅力につながるという仮説を強く支持した。参加者が多くやりとりするほど、互いに強く惹かれた。
ただし設計を見ておく必要がある。この実験でやりとりしていたのは、それまで面識の無かった同性どうしの2人である。 第一研究は25組48人(t(23) = 2.23, p = .04)、第二研究は110組(F(1, 101) = 5.15, p = .03)。交際の場面を再現したものではない。
この対立には後日談がある。逆説の側の著者たちは同じ誌に反論を書き、実験の条件が典型的な社会的場面ではないと述べた。そして2015年、両陣営が *Perspectives on Psychological Science* 10(1) に敵対的協働として合流する。冒頭の一文はこうだ——この論文は、長年の問いについて相反する見解を持つ二つの研究者集団のあいだの敵対的協働として始まった。 決着は「どちらが正しいか」ではなく、どういう条件で向きが変わるかの形になった。
どこで出会っているかは、この30年で入れ替わった
会う回数の話をするなら、そもそもどこで会っているのかを見ておくほうがよい。米国・2019年に *PNAS* 116(36) へ出た研究は、英語を読める米国成人を対象にした全国代表標本の調査を使っている。2017年の調査には、異性の相手がいる回答者が3,086人含まれていた。
表に出ている構成比のうち、はっきりしているのは二つである。2017年、オンライン経由が39%。友人経由が20%(1995年は33%)。著者たちは、オンラインでの出会いが友人経由を上回ったのは2013年ごろだと述べている。
これは米国の数字である。日本で同じ構成比になるかは、別に確かめる必要がある。 そして、この表が語っているのは経路の構成比であって、どの経路が良いかではない。
時間・変化:1968年から2025年まで、何が測られてきたか
順番はこうである。1968年、無意味語と漢字と卒業アルバムの顔写真で効果が示される。ここには対人の相互作用が無い。2007年、対人の側で測り直され、逆の向きが報告される。ただし刺激は性格語のリストである。2011年、生の対面で測り直され、また向きが戻る。ただし相手は同性の初対面である。2015年、両陣営が合流して、条件の問題に書き換えられる。2025年、事前登録の追試が801人で行われ、2007年の逆説の中心部分が消える。
一方で、助言のほうは57年間ほとんど動いていない。回数を増やせ、という一文だけが残っている。 落ちるのは、たいてい刺激が何だったかと、誰と誰が何分いたかである。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、居合わせた回数を、近づけた量として数えてしまうことである。1968年の実験で増えていたのは提示回数であって、関係ではない。2025年の追試で消えたのは、知識の量と好意の結びつきである。回数も情報量も、それ自体が近さの単位ではない。
標本の偏りを断っておく。ここまでの証拠は、米国と欧州の、大学生か、オンラインの募集に応じた人から採られたものが大半で、実験室の初対面と実際の交際は別物であり、効果は短い期間で測られている。日本の出会いを対象にした査読研究はごく少ない。 そして——続いた関係のデータだけが残る、という逆向きを排除できない。 別れた人は追跡から抜け、質問紙に答えているのは続いている人だけである。
助けるのは、居合わせることと、言葉を交わすことを、別々に数えておくという一手である。二つは同じ日に同じ場所で起きるので、まとめて記憶されやすい。分けて数えると、自分の一日のどちらが多いのかが、記憶ではなく記録の側から見える。増やす必要はない。見えるようにするだけでよい。
最初の一歩は5分。今日、人と同じ場所に居合わせた回数と、そのうち言葉を交わした回数を、それぞれ数えて書き留める。
次の単位は 122「対話表現力」——会ったあと、その場で交わされる会話が、どこまで先を言い当てるのかという話へ進む。
- 単純接触効果の原典は米国・1968年の Journal of Personality and Social Psychology 別冊で、主張は「個人が刺激対象に単に反復して接触することは、その対象への態度を高める」。ただし刺激は7文字のトルコ語風の造語12語、漢字、そしてミシガン州立大学の卒業アルバムから採った男性の顔写真であり、対人の相互作用は一度も含まれていない(第一実験の参加者は72人)
- 米国・2007年に JPSP 92(1):97-105 へ出た研究は、要旨で「人はもっと知れば好意が増すと信じているのに、他者についての情報が増えると平均としては好意が減る」と述べた。標本は米国のキャンパスの76人とオンラインの出会いサービス経由の304人で、課題は性格を表す語のリストの評定である
- 2025年に Royal Society Open Science 12(4):250441 へ出た事前登録の追試(米国の学部生801人)は、要旨で「全体として、原典の知見への支持は弱かった」と述べ、知っている特性の数と好意の関連は原典の r = −0.43〜−0.005 に対し追試では r = −0.05〜0.06 だった
- 同じ追試で、情報の量と好意の関連は r(799) = −0.027、95%信頼区間 [−0.097, 0.042]、p = .325。信頼区間は0をまたいでいる
- 同じ追試で再現したのは信念のほうである——「原典と一致して、参加者は、より多く知っている相手のほうを好きになるだろうと信じていた」(原典 h = 0.52〜0.70、追試 h = 0.55〜0.75)。値切られたのは効果の向きではなく、信念と効果のあいだの隔たりである
- 米国・2011年に JPSP 101(3):557-570 へ出た研究は、生のやりとりでは逆になると報告した(第一研究25組48人・t(23) = 2.23, p = .04/第二研究110組・F(1, 101) = 5.15, p = .03)。ただしやりとりしていたのは面識の無かった同性どうしの2人であり、交際の場面ではない。逆説の側は同じ誌に反論を書き、2015年に両陣営が Perspectives on Psychological Science 10(1):3-19 で敵対的協働として合流した
- 米国・2019年に PNAS 116(36):17753-17758 へ出た研究は、英語を読める米国成人の全国代表標本(2017年調査の異性の相手がいる回答者3,086人)で、2017年の出会いの経路はオンライン経由39%、友人経由20%(1995年は33%)と報告した。オンラインが友人経由を上回ったのは2013年ごろとされる。日本で同じ構成比になるかは別に確かめる必要がある
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 単純接触効果があるのだから、会う回数を増やせば好かれる | 米国・1968年の原典で提示されていたのは、7文字のトルコ語風の造語12語、別の研究から借りた漢字、そしてミシガン州立大学の卒業アルバムから採った男性の顔写真である。参加者はそれを見て好みを評定した。会話も挨拶も次の約束も無い。効果そのものは報告されているが、そこから人と人が会う場面へ渡る一歩は、この論文の中では一度も測られていない |
| いや、逆だ。もっと知ると相手を嫌いになるほうが本当である | その逆説を報告した米国・2007年の研究(キャンパスの76人とオンラインの出会いサービス経由の304人、性格語のリストの評定)は、2025年の事前登録の追試で中心部分が再現しなかった。学部生801人で、知っている特性の数と好意の関連は r = −0.05〜0.06、情報量と好意は r(799) = −0.027、95%信頼区間 [−0.097, 0.042]、p = .325。再現したのは「知れば好きになるはずだ」という信念のほう(h = 0.55〜0.75)である |
| 生の対面では逆になるという研究があるのだから、やはりたくさん会えばよい | 米国・2011年のその研究でやりとりしていたのは、面識の無かった同性どうしの2人である。第一研究は25組48人、第二研究は110組で、交際の相手を選ぶ場面を再現したものではない。しかも逆説の側の著者は同じ誌に反論を出し、2015年には両陣営が敵対的協働として合流して、問いを「どちらが正しいか」から「どういう条件で向きが変わるか」へ書き換えている |
皮肉なのは、この助言がここまで長生きした理由のほうである。回数を増やせ、という一文には、誰でもできて、費用がかからず、失敗しても原因が特定できない、という三つの美点がある。うまくいけば回数のおかげになり、うまくいかなければ回数が足りなかったことになる。1968年に卒業アルバムの顔写真で測られた効果は、そうやって57年かけて、人に会う話へ引っ越してきた。引っ越しの途中で置いてこられたのは、刺激が何だったかという一行だけである。
Q1. 単純接触効果の原典(米国・1968年)で使われた刺激は、7文字の【 ① 】12語、別の研究から借りた【 ② 】、そして卒業アルバムから採った【 ③ 】の三つだった。穴埋め
Q2. 2025年の事前登録の追試(米国の学部生801人)では、人物についての情報の量と好意の関連は r(799) = 【 ① 】、95%信頼区間は【 ② 】、p = .325 だった。穴埋め
Q3. 同じ追試で再現したのは効果ではなく【 ① 】のほうだった。参加者は、より多く知っている相手のほうを好きになるだろうと信じており、その効果量は原典 h = 0.52〜0.70 に対し追試では h = 【 ② 】だった。穴埋め
Q4. 生のやりとりでは「なじみが魅力につながる」と報告した米国・2011年の研究について、その実験でやりとりしていたのは誰と誰か。第一研究と第二研究の規模も答えよ。一問一答
Q5. 米国の全国代表標本の調査で、2017年に異性の相手と出会った経路のうち、オンライン経由と友人経由の構成比の組み合わせとして正しいものはどれか。選択
紙かメモアプリに、今日の日付と2つの欄を作る。左の欄は『同じ場所に居合わせた回数』、右の欄は『そのうち言葉を交わした回数』。今日1日をふり返り、それぞれの回数を数えて書く。居合わせたとは、同じ部屋・同じ車両・同じ売り場に一定の時間いたことを指す。言葉を交わしたとは、あいさつ一言でも含める。相手が誰だったかは書かない。相手に話しかける必要も、回数を増やす必要もない。数えるだけである。いま近い関係の相手がいない場合や、いまは恋愛をしないと決めている場合は、そのまま同じ形で数えれば成立する(この課題は相手の有無を前提にしていない)。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
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- Zajonc R.B. (1968) 'Attitudinal Effects of Mere Exposure', Journal of Personality and Social Psychology Monograph Supplement 9(2, Pt.2):1-27, doi:10.1037/h0025848 — www.psy.lmu.de
- Norton M.I., Frost J.H., Ariely D. (2007) 'Less is more: The lure of ambiguity, or why familiarity breeds contempt', Journal of Personality and Social Psychology 92(1):97-105, doi:10.1037/0022-3514.92.1.97 — web.mit.edu
- Horsham Z., Haydock-Symonds A.N., Imada H., Tai H.C., Lau W.L., Shum T.L., Zeng Y., Chow H.T.K., Feldman G. (2025) 'Does learning more about others impact liking them? Replication and extension Registered Report of Norton et al.\'s (2007) lure of ambiguity', Royal Society Open Science 12(4):250441, doi:10.1098/rsos.250441 — pmc.ncbi.nlm.nih.gov
- Reis H.T., Maniaci M.R., Caprariello P.A., Eastwick P.W., Finkel E.J. (2011) 'Familiarity Does Indeed Promote Attraction in Live Interaction', Journal of Personality and Social Psychology 101(3):557-570, doi:10.1037/a0022885 — www.sas.rochester.edu
- Norton M.I., Frost J.H., Ariely D. (2011) 'Does familiarity breed contempt or liking? Comment on Reis, Maniaci, Caprariello, Eastwick, and Finkel (2011)', Journal of Personality and Social Psychology 101(3):571-574, doi:10.1037/a0023202 — pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- Finkel E.J., Norton M.I., Reis H.T., Ariely D., Caprariello P.A., Eastwick P.W., Frost J.H., Maniaci M.R. (2015) 'When Does Familiarity Promote Versus Undermine Interpersonal Attraction? A Proposed Integrative Model From Erstwhile Adversaries', Perspectives on Psychological Science 10(1):3-19, doi:10.1177/1745691614561682 — journals.sagepub.com
- Rosenfeld M.J., Thomas R.J., Hausen S. (2019) 'Disintermediating your friends: How online dating in the United States displaces other ways of meeting', Proceedings of the National Academy of Sciences 116(36):17753-17758, doi:10.1073/pnas.1908630116 — web.stanford.edu