事前に書いた条件は、その日の相手を予測しなかった。行き先だけは予測した
条件を書き出して優先順位をつけましょう、という助言がある。書き出したリストが実際の選択とどれだけ合っていたかを測った研究は、ちゃんと存在する。合っていなかった、というのがその結果で、しかも直接の追試まで同じ結果を出している。
前の単位で、有名な実験の効果が、数え直すと34名の内訳の話だったことを見た。ここでは、相手を見る段の最後——会う前に握りしめている条件のほうに移る。
この単位が扱うのは一点——事前に書き出した条件が、実際の相手への関心をどこまで予測したのかである。条件の立て方は扱わない。妥協の仕方も扱わない。
値切り:理想の条件をリストにすれば良い相手を選べる
米国で2008年に *Journal of Personality and Social Psychology* へ出た研究は、そこを一度に測っている。学部生163名(女性81・男性82)を集め、まず事前に、理想の相手とスピードデートの理想の相手について、身体的魅力と稼得見込みをどれだけ重視するかを申告してもらった。 そのうえで1回4分のスピードデートを1人あたり9回から13回。 さらにイベント後の30日間、72時間ごとに追跡調査を行い、スピードデートで会った相手とイベント外で出会った相手の両方について、関心の度合いを繰り返し測っている。
要旨の前半は、俗説の側を支持している。理想の相手について述べるとき、参加者は昔から報告されてきたとおりの性差を示した。 ここは再現した。
要旨の後半で向きが変わる。実際に会った相手への関心と、その相手の魅力や稼得見込みとの結びつきには、性差が見られなかった。 そして最後の一文——イベント前に測った理想の選好は、当日、実際に何がその人の欲求を引き起こしたのかを予測できなかった。
数字も出ている。事前に述べた重視度と、実際の相手への関心のあいだで計算された相関は72個。そのうち有意で正だったのが2個、有意で負だったのが1個である。 残る69個は、有意ですらない。
ここは正確に読んでほしい。魅力も稼得見込みも、関心と無関係だったのではない。 無関係だったのは、その人が事前に「重視する」と言ったかどうかのほうである。
直接の追試も、同じ結果だった
2015年に *SAGE Open* へ出た研究は、この2008年の結果の直接の追試である。307名を募集し、同じくスピードデートで対面のやりとりを作り、30日間の追跡調査で関心を測った。
結果は原著を支持した。参加者は、魅力的だと見なした相手や、稼ぐ見込みがあると見なした相手により強い関心を持ったが、これらの結びつきは性別によって調整されなかった。 論文は、進化理論が予測する性差は、実際に対面でやりとりするときには成り立たないかもしれない、と述べている。
追試が失敗して原典が崩れる話ではない。追試が成功して、原典の値切りのほうが固まった話である。
仮想の相手なら、差は安定して出る
2014年に *Psychological Bulletin* へ出たメタ分析は、対比をはっきりさせた。仮想の相手を評価させると、これらの性質が恋愛的な評価に及ぼす影響には、男女で確かに差が出る。
ところが、魅力と関係の評価の結びつきそのものを統合すると、こうなる。身体的魅力は、どちらの性でも中程度から強い効果量(r = .40)で恋愛的な評価を予測した。稼得見込みは、どちらの性でも小さい効果量(r = .10)だった。 そして——相関における性差は小さく(差にして .03)、一律に有意でなかった。
規模も書いておく。身体的魅力については79本の論文から97の標本、合わせて29,414名。稼得見込みについては48本から56の標本、合わせて50,113名である。
仮想の相手を紙の上で評価させると差が出て、実在の相手への評価では差が消える。 同じ人の、同じ性質についての話である。
では、条件は何をしているのか
条件が何もしていない、という話ではない。働き方が、思われているのと違う。
2026年に *Personality and Social Psychology Bulletin* へ出た実験は、そこを直接操作した。理想の条件そのものを条件づけの手続きで作り出すという設計である。第1研究では造語の性質を、第2研究では若さという既存の性質を、良い経験と対にして提示し、理想の重みを実験的に動かした。参加者は男性に惹かれる人を対象に募集され、第1研究1,639名(平均28.5歳)、第2研究2,027名(平均27.4歳)。 オンライン初出は2025年、印刷版は2026年である。
四つの説明を突き合わせた結果、非常に強く支持されたのは二つだった。一つは、動機づけられた投影——理想を持つと、相手がその性質を持っていると思い込むようになる。もう一つは、状況の選択——その性質を持つ相手に会える場に行くようになる。 相手がその性質を持っていると思う度合いに応じて満足する、という重みづけの説明は、2つの研究のうち1つでしか支持されなかった。
同じ形が、2007年に *Personal Relationships* へ出た研究にも出ている。米国の商用スピードデート事業の全データベース、12,892名分を使い、事前に掲げた選好が、参加するイベントの選択と、そのイベント内での相手の選択を、それぞれどれだけ予測するかを比べた。 結論はこうである。掲げた選好は、どのイベントに参加するかの決定を予測した。一方、イベント内での決定は実質的に予測しなかった。
条件は、採点の関数としてではなく、行き先の設定として働いている。 そして、行った先で会った人については、条件を満たしていると思うほうへ動く。
送る先は、自分より上に寄る
条件の話をもう一段だけ外に出す。2018年に *Science Advances* へ出た研究は、米国の4都市(ニューヨーク、ボストン、シカゴ、シアトル)で、無料のオンラインの出会いサービス上の1か月分のメッセージを分析した。ここでの数値はプレプリント版から取っている。
研究が使う望ましさという指標は、誰が優れているかを測ったものではない。メッセージがどこへ集まったかを数えて作った順位である。 そのうえで結果はこうなった。男女とも、平均して自分より約25%望ましい相手にメッセージを送っていた(内訳は26%と23%)。そして、送り手と受け手の望ましさの差が開くほど、返信を受け取る確率ははっきり下がる。 より望ましい相手へ送られたメッセージの返信率は、21%を超えることがなかった。
条件を高く置くこと自体は、誰でもやっている。 その分だけ返信が減ることも、同じデータに出ている。どちらか一方だけを持ち出すと、話が助言になってしまう。
時間・変化:条件は、会う前と会ったあとで役割が変わる
時間の軸で並べ直すと、条件の役割は途中で入れ替わる。
会う前——条件は行き先を決めている。どのイベントに行くか、どこに登録するか、誰にメッセージを送るか。ここでは条件は確かに働いている(2007年・2026年)。会った瞬間——条件と関心の結びつきが切れる。事前に述べた重視度は、その日の欲求を予測しない(2008年・2015年)。会ったあと——条件は、目の前の相手の見え方のほうへ回る。相手がその性質を持っていると思うようになる(2026年)。
条件を捨てる必要はない。役割が変わる場所を知っておけばよい。 そして、その場所は「実際に会った瞬間」である。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、条件のリストを採点表として使うことである。上で見たとおり、事前に述べた重視度は、実際に会った相手への関心を予測しなかった。採点表として使うと、当たらない道具を、当たる道具として使うことになる。
もう一つ妨げるのは、この話を「だから条件を下げよう」と読むことである。そうは書かれていない。 書かれているのは、条件が採点ではなく行き先の設定として働いている、というところまでである。
標本の偏りを断っておく。ここまでの証拠は、米国の大学生と、オンラインで募集に応じた人から採られたものが大半で、異性の相手とだけ会う設計のスピードデートが中心である。2026年の実験は男性に惹かれる人だけを募集しており、そこから他の場合へは一般化できない。日本で同じ結果になるかは、別に確かめる必要がある。 そして——続いた関係のデータだけが残る、という逆向きを排除できない。 30日の追跡に答え続けた人と、途中で答えなくなった人は、同じではない。
助けるのは、自分の条件のうち、実際に会う前に確かめられるものと、会ってからでないと分からないものを、一度だけ分けてみるという一手である。分けると、行き先の設定に使える条件がどれかが見える。 残りは、会ってから観察する項目の一覧として置いておけばよい。
最初の一歩は5分。条件を10個書き出し、実際に会う前に確かめられるものに印を付ける。 数を数えて書き添える。
次の単位は 121「接触・近接の行動力」——ここから先は、実際に会う話へ進む。
- 米国・2008年に Journal of Personality and Social Psychology へ出た研究は、学部生163名(女性81・男性82)に事前の理想を申告させ、1回4分のスピードデートを1人あたり9〜13回行い、30日間72時間ごとに追跡した。理想を述べるときには従来どおりの性差が再現したが、実際に会った相手への関心と、その相手の魅力や稼得見込みの結びつきには性差が見られなかった
- 同じ2008年の研究の要旨の最後の一文は、イベント前に測った理想の選好は、当日に実際に何がその人の欲求を引き起こしたのかを予測できなかった、である。事前に述べた重視度と実際の関心のあいだで計算された72個の相関のうち、有意で正だったのは2個、有意で負だったのは1個だった
- 2015年に SAGE Open へ出た307名の直接の追試も、原著を支持した。参加者は魅力的だと見なした相手や稼ぐ見込みがあると見なした相手により強い関心を持ったが、これらの結びつきは性別によって調整されず、進化理論が予測する性差は対面のやりとりでは成り立たないかもしれない、と結論された
- 2014年に Psychological Bulletin へ出たメタ分析では、身体的魅力は男女どちらでも r = .40、稼得見込みはどちらでも r = .10 で恋愛的な評価を予測し、相関における性差は .03 と小さく一律に有意でなかった。規模は身体的魅力が79本から97標本・29,414名、稼得見込みが48本から56標本・50,113名である
- 2026年に Personality and Social Psychology Bulletin へ出た実験(第1研究1,639名・第2研究2,027名、男性に惹かれる人を対象に募集、オンライン初出2025年)は、条件づけで理想そのものを操作した。非常に強く支持されたのは、動機づけられた投影と状況の選択の二つで、相手がその性質を持っていると思う度合いに応じて満足するという説明は、2研究のうち1つでしか支持されなかった
- 2007年に Personal Relationships へ出た研究は、米国の商用スピードデート事業の全データベース12,892名分を用い、事前に掲げた選好はどのイベントに参加するかの決定を予測したが、イベント内での相手の決定は実質的に予測しなかったと報告した。条件は採点の関数ではなく行き先の設定として働いている
- 2018年に Science Advances へ出た研究は、米国4都市の1か月分のメッセージを分析し、男女とも平均して自分より約25%望ましい相手に送っていた(26%と23%)こと、望ましさの差が開くほど返信率が下がり、より望ましい相手への返信率は21%を超えなかったことを報告した。ここでの望ましさは、メッセージがどこへ集まったかを数えて作った順位である
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 理想の条件をリストにして優先順位をつければ、良い相手を選べる | 米国・2008年の研究は、学部生163名に事前の重視度を申告させ、1回4分のスピードデートを9〜13回行い、30日間追跡した。事前の重視度と実際の相手への関心のあいだの相関72個のうち、有意で正だったのは2個、有意で負だったのは1個である。要旨は、イベント前に測った理想の選好は、当日に実際に何が欲求を引き起こしたのかを予測できなかった、と書いている。2015年の307名による直接の追試も同じ結果だった。ただし、魅力や稼得見込みそのものが関心と無関係だったわけではない。無関係だったのは、その人が事前に重視すると言ったかどうかのほうである |
| 相手に求めるものには、性別によってはっきりした違いがある | 2014年のメタ分析では、仮想の相手を評価させると男女で差が出る一方、統合すると身体的魅力はどちらの性でも r = .40、稼得見込みはどちらでも r = .10 で恋愛的な評価を予測し、相関における性差は .03 と小さく一律に有意でなかった。規模は79本から97標本・29,414名と、48本から56標本・50,113名である。紙の上で評価させると差が出て、実在の相手への評価では消える。読者を性別で分類できる話ではない |
| この話は、要するに条件を下げろということだ | そうは書かれていない。2026年の実験で非常に強く支持されたのは、条件が、その条件の相手に会える場を選ぶ形と、会った相手がその条件を持っていると思い込む形で働いている、という二つである。2007年に12,892名分のデータを分析した研究も、掲げた選好は参加するイベントの決定を予測したが、イベント内での決定は実質的に予測しなかったと報告している。条件は採点の関数ではなく行き先の設定として働いている、というところまでが証拠の範囲である |
皮肉なのは、条件のリストがいちばん役に立つ使い方が、いちばん地味なところにあることである。誰を選ぶかには効かない。どこへ行くかには効く。ところが、書き出したリストを眺めているとき、人が想像しているのはたいてい前者のほうである。リストは、行き先の看板としてはよくできている。採点表としては、72個のうち3個しか当たらない。
Q1. 米国・2008年のスピードデート研究では、事前に述べた重視度と実際に会った相手への関心のあいだで計算された相関は72個あり、そのうち有意で正だったのは2個、有意で負だったのは( )個だった。穴埋め
Q2. 2014年のメタ分析が報告した、身体的魅力と稼得見込みの効果量と、相関における性差の大きさを答えよ。一問一答
Q3. 2026年に Personality and Social Psychology Bulletin へ出た実験で、非常に強く支持された二つの説明はどれか。選択
Q4. 米国・2008年の研究の手続きを、実施された順に並べよ。(ア)1回4分のスピードデートを1人あたり9〜13回行う(イ)30日間、72時間ごとに追跡調査を行う(ウ)理想の相手について身体的魅力と稼得見込みの重視度を申告してもらう(エ)事前の重視度と実際の関心のあいだの相関を計算する並べ替え
Q5. この単位で扱った4つの研究を、発表された年の早い順に並べよ。(ア)米国4都市の1か月分のメッセージから望ましさの順位を作った研究(イ)商用スピードデート事業の12,892名分で、掲げた選好が何を予測したかを比べた研究(ウ)条件づけで理想そのものを操作した実験(エ)163名のスピードデートで72個の相関を計算した研究並べ替え
紙かメモアプリを開く。相手に求めるもの、あるいは一緒に時間を過ごす人に求めるものを、思いつくまま10個書き出す。順位はつけない。良し悪しの評価も書かない。書き終えたら、10個それぞれの左に、実際に会う前に確かめられるものだけチェックを入れる。会う前に確かめられるとは、公開されている情報や、会う前のやりとりの中で事実として分かる種類のもの、という意味である。会ってからでないと分からないもの、相手が自分をどう思うかに関わるものには、何も付けない。最後に、チェックを付けた数を数えて書き添える。特定の誰かに当てはめる必要はなく、当てはめた場合もその人については何も書かない。誰にも見せない。交際相手のいない読者や、いま恋愛をしない選択をしている読者は、続けたい活動や一緒に働きたい人に求めるもので同じ形にすれば、そのまま成立する。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
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- Eastwick P.W., Finkel E.J. (2008) 'Sex Differences in Mate Preferences Revisited: Do People Know What They Initially Desire in a Romantic Partner?', Journal of Personality and Social Psychology 94(2):245-264, doi:10.1037/0022-3514.94.2.245 — doi.org
- Selterman D.F., Chagnon E., Mackinnon S.P. (2015) 'Do Men and Women Exhibit Different Preferences for Mates? A Replication of Eastwick and Finkel (2008)', SAGE Open 5(3), doi:10.1177/2158244015605160 — doi.org
- Eastwick P.W., Luchies L.B., Finkel E.J., Hunt L.L. (2014) 'The predictive validity of ideal partner preferences: A review and meta-analysis', Psychological Bulletin 140(3):623-665, doi:10.1037/a0032432 — doi.org
- da Silva Frost A., Eastwick P.W. (2026) 'Experimental Tests of the Role of Ideal Partner Preferences in Relationships', Personality and Social Psychology Bulletin 52(8):2348-2363, doi:10.1177/01461672251339575 — doi.org
- Kurzban R., Weeden J. (2007) 'Do advertised preferences predict the behavior of speed daters?', Personal Relationships 14(4):623-632, doi:10.1111/j.1475-6811.2007.00175.x — doi.org
- Bruch E.E., Newman M.E.J. (2018) 'Aspirational pursuit of mates in online dating markets', Science Advances 4(8):eaap9815, doi:10.1126/sciadv.aap9815 — doi.org