友人の肥満が伝染するなら、ニキビも頭痛も身長も伝染していた
友人が太るとあなたも太る、という研究は世界中で引用された。同じ手つきを使うと、友人のニキビも、頭痛も、身長までもが「伝染」する。伝染しないはずのものが伝染するとき、疑うべきは友人ではなく計算のほうだ。
続いた関係のなかで、互いに何が起きるか
前の単位で、続けるという決定は4種類の動作に化けることを見た。ではその決定を何年も繰り返した先で、互いに何が起きるのか。ここで登場するのが、この20年でもっとも広く引用され、もっとも激しく批判された主張である。友人はあなたに伝染する、というものだ。
先に立場を書いておく。伝染という言い方は、少なくとも観察データからは正当化しにくい。ただし全部が嘘というわけでもない。順に検算して、残るものだけを持ち帰る。
32年・12,067人。友人が肥満になると、確率は57%上がった
クリスタキスとファウラーが2007年に発表した論文は、フラミンガム心臓研究の参加者12,067人を1971年から2003年までの32年にわたって追い、体格と社会的つながりを同時に地図にした。
結果はこうだ。友人が肥満になった場合、その人が肥満になる確率は57%上がっていた。95%信頼区間は6%から123%と広い。兄弟姉妹では40%、配偶者では37%。地理的な近隣では有意な効果がなかった。肥満の人のかたまりはネットワークのどの時点にも存在し、3人の隔たりまで及んでいた。
翌2008年、同じ二人は同じ集団で禁煙を調べている。配偶者が禁煙すると本人が喫煙している確率は67%下がり、兄弟姉妹では25%、友人では36%、小規模な職場の同僚では34%下がっていた。近隣ではやはり効果がない。この32年間で喫煙率は45%から21%へ落ちており、しかも人々は集団ごと、いっせいに辞めていた。
ここまでは気持ちのいい話である。問題はこの先だ。
同じ手つきで、ニキビも頭痛も身長も「伝染」した
コーエン゠コールとフレッチャーが2008年に発表した論文は、皮肉な検算をやってみせた。同じ標準的なやり方——本人の健康状態を友人の健康状態と諸々の統制変数で回帰する——を、伝染するはずのない結果に当てはめたのだ。
使ったのは米国の青少年を追った大規模調査で、友人を挙げた対象者は4,300人から5,400人ほど。出てきた数字はこうだった。友人にニキビの問題があると、本人のニキビのオッズ比は1.47。友人に頭痛があると、本人の頭痛のオッズ比は1.62。身長にいたっては、友人の身長の20%分だけ本人の身長が上がる、という関係が出た。
身長は伝染しない。これは議論の余地がない。ということは、この計算の形そのものが、伝染していないものを伝染として拾っているということになる。実際、著者たちが本人と友人の双方に同時に効く環境の要因をモデルに加えると、これらの見かけの効果は一様に小さくなり、消えた。結論は控えめだが致命的だ。実験でないデータで、友人どうしの健康状態の相関に因果を帰属するときは注意が要る。
統計側からの返答:同類性と伝染は、原理的に見分けがつかない
批判はもう一段深いところからも来た。
ライオンズが2011年に発表した論文は、クリスタキスとファウラーの一連の研究——肥満、禁煙、幸福、孤独——について、3人の隔たりまで伝わるという結論はその統計分析からは導けないと論じた。それどころか、彼らのデータはそうした伝達の存在に対する反証をいくらか含んでいる、とまで書いている。統計の誤用はたいてい故意ではない、というのがこの論文の書き出しである。
シャリジとトマスが同じ2011年に示したのは、もっと一般的な事実だった。ネットワーク上の現象には三つの要因が絡む。似た者どうしが結びつくという同類性、影響が伝わるという伝染、そして本人の属性が本人の行動を決めるという直接の効果。この三つは一般に互いに混同されており、区別するには社会過程の構造か、手元の統制変数の十分さについて、強い仮定を置くしかない。回帰係数の非対称性で因果を識別しようとする手つきも、当てにならない。
友人が似ているのは、影響し合ったからかもしれないし、最初から似ていたから友人になったのかもしれないし、同じ町の同じ職場という同じ環境にいるからかもしれない。観察データを眺めているかぎり、この三つは重なったままである。
それでも残るもの:天気を道具に使った110万人
値切ったあとに何が残るのか。残す方法は一つしかない。外から偶然の揺さぶりを入れることだ。
アラルとニコライデスが2017年に報告した研究は、その揺さぶりに天気を使った。走った距離を自動で記録し共有する仕組みの利用者およそ110万人を5年間追い、3億5,000万kmを超える走行と、約340万本の友人関係を分析している。友人は別々の街に住んでいることが多く、その街の天気は互いに無関係に変動する。だから、天気のせいで友人がたまたま多く走った日を取り出せば、その日の本人の走りに何が起きるかを、比較的きれいに測れる。196か国・47,000を超える気象観測点のデータを使った。
出てきた数字は控えめだ。友人が1km多く走ると、本人は0.3km多く走る。10分多く走ると3分、10kcal多く燃やすと3.5kcal。57%のような派手さはない。そして影響は対称ではなかった。男性は男性にも女性にも影響を与え、女性は主に女性に影響を与え、男性は女性に影響を与えていなかった。
伝染は存在する。ただし、観察データが言っていたよりずっと小さく、しかも方向がある。
配置しても、人は同類のなかへ潜る
もう一つ、押し上げを設計しようとした人たちの記録がある。カレル、サセルドート、ウェストが2013年に報告した実験だ。
彼らはまず、過去のデータから「学力の低い学生は、学力の高い仲間に囲まれると伸びる」という関係を見つけた。そこで米国の士官学校で、2学年・2,447人を対象に、学力の低い学生を高い学生と同じ30人の集団に意図的に配置する介入を行った。予測では、低学力層の成績は0.053点上がり、他の層に害はないはずだった。
実際には逆になった。低学力層の成績は0.061点下がった。予測とほぼ同じ大きさの、符号だけ逆の効果である。想定外に得をしたのは中位層で、0.082点上がった。
何が起きたのか。配置された低学力の学生たちは、同じ集団のなかでさらに低学力の相手を勉強仲間に選んでいた。その確率は17.1ポイント高く、高学力の相手を選ぶ確率は3.9ポイント低かった。高学力の仲間は目の前にいたのに、避けられていたのだ。設計者は接触の機会を作れるが、誰と組むかまでは決められない。
これは、押し上げを他人任せの配置で作ろうとする発想への、はっきりした反証である。
ミケランジェロ現象:相手はあなたの理想像を彫っている
では、対等な友人どうしのあいだで実際に働いている作用は何か。ラズバルト、フィンケル、クマシロが2009年に整理した枠組みが、この単位でいちばん使える。
彼らが言うのは、近しい相手は互いの自己を彫刻している、ということだ。彫るための道具は二つある。ひとつは知覚の側で、相手が自分をその人の理想像と両立する見方で見ること。もうひとつは行動の側で、相手が理想像に沿った振る舞いを引き出すように振る舞うこと。この二つが揃うと肯定になり、無関心や悲観や不賛成が返ってくると、その逆になる。
証拠のほうは地味だ。夫婦が自分の理想の目標について話す様子を録画し、4か月後に追った研究では、会話中に相手からの肯定が多かった人ほど、その目標に近づいていた。そして重要なのは、この作用が恋人だけのものではない点である。友人のペアを使い、一方を対象、もう一方を観察者として測った質問紙研究でも、肯定と理想への接近は結びついていた。この枠組みは恋人、血縁、友人、同僚を含む多様な相手に当てはまるとされている。ただし、相互依存の強い関係ほど強く働く。
言い換えると、押し上げの実体は励ましではない。相手があなたをどう見ているかと、その見方に沿った振る舞いをどれだけ引き出しているかである。あなたが友人に「もっと頑張れ」と言うことより、あなたが友人のどの側面に反応するかのほうが効いている。
時間・変化:二つの速さがある
ここまでの証拠を時間で並べると、速さの違う二つの作用が見える。走行距離の伝染は同じ日のうちに出た。相手が今日多く走れば、あなたも今日少し多く走る。一方、理想像への接近が測られたのは4か月後である。片方は日単位、もう片方は月単位で動く。
この区別は実務的だ。日単位の作用は、一緒にやることでしか起きない。月単位の作用は、相手があなたの何に注目するかという習慣の側にある。前者は予定表で、後者は言葉づかいで動かす。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるのは、押し上げを人選の問題として考えることだ。士官学校の実験が示したのは、正しい人のそばに置かれても人は自分と似た相手のところへ潜る、という事実だった。もうひとつは、伝染という言葉を信じすぎること。友人が5人集まれば自分がその平均になる、という言い回しは、この文献のどこからも出てこない。
助けるのは、相手の理想像を口に出せる形で持っておくことだ。相手が本当はどうなりたいと言っていたかを、こちらが覚えている。そして、そこに向かう振る舞いが出たときにだけ、はっきり反応する。それだけで肯定の二成分は揃う。もうひとつは、日単位の作用を予定に埋めること。走る、作る、勉強する。何でもいいが、一緒にやる回数がそのまま効き目になる。
限界も断っておく。ここで引いた研究の標本は、米国の中年白人が中心のコホート、米国の青少年調査、運動記録アプリの利用者、士官学校の学生と、いずれも特定の集団に偏っている。数字の向きは参考になるが、大きさはあなたの生活にそのまま移らない。
最初の一歩は10分で終わる。友人を1人選び、その人が最近こうなりたいと口にしたことを1つ思い出して書き、それに沿った振る舞いを1つ挙げて、今日そこにだけ具体的に反応する。
次の単位では、個々の友人ではなく、友人たちの配置そのものを扱う。誰と誰のあいだに自分が立っているかという話だ。
- Christakis & Fowler 2007(New England Journal of Medicine):フラミンガム心臓研究の12,067人を1971-2003年の32年追跡。友人が肥満になると本人の確率は57%上昇(95%CI 6-123%)、兄弟姉妹40%、配偶者37%、地理的近隣は有意でなかった
- Christakis & Fowler 2008(同じ集団の禁煙):配偶者の禁煙で本人の喫煙確率は67%低下、兄弟姉妹25%、友人36%、小規模職場の同僚34%。この32年で喫煙率は45%から21%へ落ちた
- Cohen-Cole & Fletcher 2008:同じ標準的な手法を伝染しないものに当てはめると、友人のニキビでオッズ比1.47、頭痛で1.62、身長は友人の身長の20%分が「伝染」した。本人と友人の双方に効く環境要因を入れると一様に小さくなり消えた
- Lyons 2011(Statistics, Politics, and Policy)は3人の隔たりまで伝わるという結論が統計分析から導けないと論じ、Shalizi & Thomas 2011(Sociological Methods & Research 40:211-239)は同類性・伝染・本人の属性の効果が一般に混同され、区別には強い仮定が要ることを示した
- Aral & Nicolaides 2017(Nature Communications):約110万人・5年・3億5,000万km超・約340万本の関係。友人の街の天気を外からの揺さぶりに使い、友人が1km多く走ると本人は0.3km、10分で3分、10kcalで3.5kcal多いという因果効果を推定した。影響は非対称で、男性は男女双方に、女性は主に女性に影響し、男性から女性への影響は検出されなかった
- Carrell, Sacerdote & West 2013(Econometrica):士官学校で2,447人を対象に低学力層を高学力層と同じ集団へ配置。予測は成績+0.053点だったが実際は-0.061点。低学力の学生は同じ集団内でさらに低学力の勉強相手を選ぶ確率が17.1ポイント高く、高学力の相手を選ぶ確率は3.9ポイント低かった
- Rusbult, Finkel & Kumashiro 2009(Current Directions in Psychological Science 18:305-309)のミケランジェロ現象:相手の肯定は、理想像と両立する見方をする知覚の成分と、理想に沿った振る舞いを引き出す行動の成分からなる。恋人だけでなく友人のペアでも肯定と理想への接近が結びついていた
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 友人の行動は伝染する。だから付き合う相手を選べば自分が変わる | 同じ計算をニキビ・頭痛・身長に当てはめると、伝染しないものまで伝染した。身長は友人の身長の20%分「伝染」し、環境要因を入れると消えた。観察データでは、同類性と共有環境と伝染は原理的に重なったままである |
| 自分は最も一緒にいる数人の平均になる | そのような主張は、ここで引いた文献のどこからも出てこない。外からの揺さぶりで測った効果は、友人が1km多く走ると本人が0.3km多く走る、という程度のものだった。しかも方向があり、男性から女性への影響は検出されなかった |
| 伸びたければ、優秀な人のそばに身を置けばいい | 2,447人を対象に低学力層を高学力層と同じ集団へ配置した実験では、成績は予測と逆に0.061点下がった。配置された学生たちは、同じ集団のなかでさらに低学力の相手を勉強仲間に選んでいた(確率で17.1ポイント高い)。接触の機会は設計できても、誰と組むかは設計できない |
友人が自分を良くしてくれるという話は、あまりに気持ちがいいので、検算されないまま20年ほど流通した。検算してみると、残ったのは1kmにつき0.3kmという地味な数字と、相手があなたのどこに反応するかという、もっと地味な作用だった。誰かの人生を押し上げたいなら、名言を送るより、その人が言っていた「こうなりたい」を覚えておくほうが効く。覚えているというのは、実のところ、いちばん安くていちばん実行されない支援である。
Q1. Christakis & Fowler(2007)では、12,067人を32年追跡し、友人が肥満になると本人の確率は____%上昇(95%CI ____〜____%)、兄弟姉妹では____%、配偶者では____%だった。穴埋め
Q2. Cohen-Cole & Fletcher(2008)は、伝染の主張をどのように値切ったか。使った3つの結果と、それぞれの数字を答えよ。一問一答
Q3. Aral & Nicolaides(2017)は、同類性や共有環境と伝染を分けるために何を使ったか。また、推定された効果の大きさを1つ挙げよ。一問一答
Q4. Carrell, Sacerdote & West(2013)の士官学校の実験で、低学力層を高学力層と同じ集団に配置した結果はどうなったか。選択
Q5. ミケランジェロ現象について、本文の説明に沿って要素を順に並べよ。(理想像への接近/相手が理想像に沿った振る舞いを引き出す(行動の成分)/相手が理想像と両立する見方で本人を見る(知覚の成分)/肯定)並べ替え
友人を1人選ぶ。その人が最近「こうなりたい」「こうしたい」と口にしたことを1つ、相手の言葉のまま1行で書き出す。思い出せなければ、直近のやりとりを遡って探す。次に、その理想に近づく方向の振る舞いを、その人が実際にやったことのなかから1つ挙げる。最後に、今日そのひとつだけを名指しで相手に伝える。励ましや助言は付け足さない。反応する対象を絞ることが目的なので、褒める量を増やさないこと。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
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- Christakis N.A., Fowler J.H. (2007) 'The Spread of Obesity in a Large Social Network over 32 Years', New England Journal of Medicine 357(4):370-379 — www.nejm.org
- Christakis N.A., Fowler J.H. (2008) 'The Collective Dynamics of Smoking in a Large Social Network', New England Journal of Medicine 358(21):2249-2258 — www.nejm.org
- Cohen-Cole E., Fletcher J.M. (2008) 'Detecting implausible social network effects in acne, height, and headaches: longitudinal analysis', BMJ 337:a2533(同一分析の作業論文版 'Are All Health Outcomes Contagious? Detecting Implausible Social Network Effects in Acne, Height, and Headaches' に数値の記載がある) — papers.ssrn.com
- Lyons R. (2011) 'The Spread of Evidence-Poor Medicine via Flawed Social-Network Analysis', Statistics, Politics, and Policy 2(1), Article 2 — arxiv.org
- Shalizi C.R., Thomas A.C. (2011) 'Homophily and Contagion Are Generically Confounded in Observational Social Network Studies', Sociological Methods & Research 40(2):211-239 — arxiv.org
- Aral S., Nicolaides C. (2017) 'Exercise contagion in a global social network', Nature Communications 8:14753 — www.nature.com
- Carrell S.E., Sacerdote B.I., West J.E. (2013) 'From Natural Variation to Optimal Policy? The Importance of Endogenous Peer Group Formation', Econometrica 81(3):855-882 — faculty.econ.ucdavis.edu
- Rusbult C.E., Finkel E.J., Kumashiro M. (2009) 'The Michelangelo Phenomenon', Current Directions in Psychological Science 18(6):305-309 — faculty.wcas.northwestern.edu