150という数字の信頼区間は、4人から520人だった
友情の話には、なぜか数字がよく出てくる。人が維持できる関係は150人まで。あなたは最も一緒にいる5人の平均。どちらも短く、覚えやすく、そして出所を辿ると急に心もとなくなる。今日は、その2つを解体してから、残った本物を2つだけ渡す。
この単位は、バイアスの総覧を書かない
前の単位で見たのは、異質な相手と関わることの効き目と、その効き目を測った実験の在庫がどれだけ薄いかという話だった。値切る作業には慣れてきたはずなので、ここではそれを自分の頭のほうに向ける。
ただし先に宣言しておく。認知バイアスの一覧表はここでは扱わない。総覧は思考法の棚が引き受ける。この単位が引き受けるのは、友情の場面にだけ狙い撃ちで効いてくる歪みを数個だけだ。しかも最初の2つは、歪みですらない。ただの流通している数字である。
ダンバー数150を、二段階で値切る
人が安定して維持できる関係の数は約150人——この主張は、いま友情について語られるほぼすべての文章に顔を出す。出所を確かめるところから始める。
ダンバーが1992年に発表した論文が示したのは、実は150という数字そのものではない。示されたのは回帰式だ。霊長類の各属について、新皮質の体積が脳の残りに対してどれだけ大きいかという比を取り、その属の平均群れサイズと突き合わせる。得られた式が、対数をとった群れサイズ = 0.093 + 3.389 × 対数をとった新皮質比、決定係数は r² = 0.764 だった。ヒトの値をこの式に入れて出てきた数が、のちに150として流通することになる。
一段階目の値切り。リンデンフォース、ヴァーテル、リンドが2021年に発表した再解析は、同じ枠組みで推定をやり直した。手法を変えると、点推定そのものが大きく動く。ベイズ的な方法では平均群れサイズは69人から109人のあいだ、系統関係を考慮した一般化最小二乗法では16人から42人のあいだになった。150という数字は、そもそもどちらの範囲にも入らない。
二段階目。より効くのは、点推定ではなく不確かさのほうだ。ベイズ的推定の95%信頼区間は4人から520人。系統的手法では2人から336人。著者たちの結論は身も蓋もない——これほど巨大な信頼区間は、いかなる一つの数字を特定することも無意味にする。この方法から人間の集団サイズの認知的上限を導くことはできない。
読み替えるとこうなる。150という数字が間違っている、という話ではない。150という数字を出すために使われた道具では、4も520も同じくらい正しいのだ。
「あなたは最も一緒にいる5人の平均」を、探しにいく
もう一つの数字はもっと素朴だ。あなたは、最も長い時間を一緒に過ごす5人の平均である——自己啓発の文脈で、20年以上使われ続けている一文である。
この主張の出所を探すと、行き着くのは経営コンサルタントのジム・ローンに帰属される言い回しで、査読を経た実証研究ではない。学術データベースを検索しても、この命題を検証した研究は見つからない。出てくるのは、この一文を引用して始まるビジネス記事と、この一文の是非を論じるブログばかりである。
公平を期すために書いておくと、この一文が指している現象——身近な人の行動や状態が自分に移ること——を扱った研究は実在する。ただしそれは、5という数でも、平均という演算でも、時間の長さという指標でもない形で研究されており、しかも活発な論争のただ中にある。その中身はこの棚の後半、相互成長の単位でまとめて扱う。
ここで言えることは一つだけだ。5という数字にも、平均という言い方にも、根拠はない。根拠がないものを人生の設計図にすると、たいていの場合、いま身近にいる人を切る口実になる。
出所を確かめるというこの作業自体にも、副産物がある。150も5も、確かめるまでは同じ顔をしていた。どちらも短く、覚えやすく、断定形で、出典が添えられていない。違いは、遡ってみたときに、一方からは査読を経た回帰式とそれをめぐる再解析が出てきて、もう一方からは引用でつながった記事しか出てこなかったことだけである。友情について流通している数字を見かけたら、まずこの二つのどちらなのかを分ける。分けるのに必要なのは統計の知識ではなく、出所を1回だけ遡る手間のほうだ。
ここからが本物:誘いは、思っているより断られない
数字を2つ捨てたので、代わりに検算に耐えたものを2つ置く。どちらも、この棚の中心にある「声をかけるかどうか」に直接効く。
一つ目。フリンとレイクが2008年に発表した研究は、頼みごとをする側と頼まれる側の予想を突き合わせた。実験室でも街頭でも、参加者に直接の依頼をさせ、事前に何人が応じてくれると思うかを予想させる。
人は、依頼が受け入れられる確率を最大で50%ほど過小に見積もっていた。しかもこの誤りは実験的に作り出せる。同じ場面を、依頼する側の視点から見るか、頼まれる側の視点から見るかを操作するだけで、予想が動いた。
原因の説明が面白い。依頼する側は、相手が引き受けるのにかかる手間ばかりを見ている。見落としているのは、断ることの社会的なコスト——目の前で「いいえ」と言うことの気まずさ——のほうだ。断るのは、外から見るよりずっと難しい。
ボーンズが2016年にまとめた総説によれば、この研究プログラムのなかで参加者は延べ14,000人を超える見知らぬ相手に依頼を行っており、過小評価の幅は平均しておよそ48%だった。
この誤りは、どちらか一方が計算を間違えているという話ではない。依頼する側が見ているのは、相手が引き受けるための手間だ。時間、労力、面倒。どれも外から見積もれる。頼まれる側の手元には、もう一枚の勘定書きがある。目の前で断るときの気まずさは、断る本人にしか金額が分からない。視点を入れ替える操作で予想が動いたというのは、この二枚目を実験的に見せたということである。ただし、ここで測られた依頼はどれも、その場で答えが返る種類のものだった。返事に何日もかかる頼みごとや、断りの理由を書かずに既読のまま放置できるメッセージでは、二枚目の勘定書きの金額は変わりうる。それを比べた実験は、この束の中に入っていない。
友情の文脈に翻訳すると、こうなる。あなたが誘いを出さない理由の見積もりは、たぶん2倍近く悲観的である。
そして、連絡は思っているより喜ばれる
二つ目。リュー、リム、ミン、ミンが2023年に発表した研究は、13の事前登録済み実験で、およそ6,000人を対象にした。扱ったのは、しばらく連絡していない相手に自分から声をかける場面である。
結果は一貫していた。連絡を取る側は、自分の連絡が相手にどれだけ感謝されるかを過小に見積もっていた。短いメッセージで様子を尋ねるだけでも、ちょっとした贈り物を送る場合でも、同じ方向にずれる。
媒介していたのは驚きだった。相手にとって予期していなかった連絡ほど、受け取ったときの感謝は大きい。そして連絡を取る側は、その驚きの大きさを勘定に入れていない。社会的な距離が離れているほど、つまり疎遠であるほど、このずれは大きくなる。
再現性も確認されている。この研究の第4a実験は、独立した追試で n = 742 まで標本を拡大して検証され、方向は同じで有意だった。効果量は原研究の d = 0.32 に対し、追試では d = 0.25。やや小さくなったが、消えてはいない。
二つの発見を並べると、皮肉な形が浮かぶ。あなたは、誘いが断られる確率を高く見積もり、その誘いが相手にとって嬉しい度合いを低く見積もっている。両方向から、同じ結論——連絡しないほうがいい——へ押されている。
この形は、大人の交友にとくに重くのしかかる。学生時代の関係は、放っておいても翌日また同じ教室で顔を合わせる。就労後の関係は、誰かが能動的に一通送らないかぎり、次の接点が発生しない。誰も送らない理由が、双方の側で同じ誤った見積もりだとすれば、消えていった関係の相当数は、嫌われたからではなく、両者が同時に遠慮したから消えたことになる。
時間・変化:この歪みは、放っておくと自分で自分を証明する
時間の話をしておく。ここまでの2つの誤りには、厄介な性質がある。誤りを訂正する材料が、誤りそのものによって断たれるのだ。
断られると思って誘わなければ、断られなかったという反証は永久に手に入らない。喜ばれないと思って連絡しなければ、喜ばれたという証拠も届かない。しかも疎遠な期間が長引くほど、驚きの効果は大きくなるのに、こちらの心理的な敷居はさらに上がっていく。効き目が増える方向と、実行の確率が下がる方向が、時間とともに開いていく。
友情に契約がないことの帰結が、ここでもう一度顔を出す。何もしないことが既定の選択肢である以上、誤った悲観は、放っておけば必ず正しくなる。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるのは、覚えやすい数字を自分の交友の設計に使うことだ。150という上限も、5人という母集団も、あなたの生活について何一つ測っていない。にもかかわらず、これらの数字は決まって同じ用途に使われる——人を減らす口実である。
もうひとつは、誘わない判断を「相手の都合を考えた結果」として記録すること。研究が示しているのは、その判断の材料が相手の都合ではなく、自分の見積もりだという事実のほうだ。しかもその見積もりは、およそ半分ずれている。
標本の断りも入れておく。ダンバー数の議論は霊長類の脳の比較データに依存しており、ヒトの実際の交友の数を直接数えたものではない。依頼と連絡の研究は北米の参加者と自己報告に偏っている。向きは信用してよいが、あなたの数字がそのまま48%になるわけではない。
もう一段だけ具体に書いておく。ダンバーの式の材料は、霊長類の属ごとの脳の比と群れの平均サイズであって、ヒトが実際に何人と付き合っているかを数えた記録は1件も入っていない。再解析が示したのも、ヒトの上限が何人かではなく、この道具では上限を決められないという一点だった。依頼の研究は、延べ14,000人を超える見知らぬ相手に実際に声をかけた分厚いデータだが、場面は実験室と街頭に限られ、依頼の中身も短時間で済むものが中心である。1時間の手伝いや、大きな額の立て替えを頼んだときにも同じ48%が出るとは、どこにも書かれていない。連絡の研究は13の事前登録実験で約6,000人、しかも独立した追試まで済んでいて、この単位でいちばん頑丈な柱だ。それでも追試の効果量は d = 0.32 から d = 0.25 へ下がっている。再現するたびに少し痩せるのは、この分野では珍しいことではない。参加者はいずれも北米が中心で、測定はほぼ自己報告である。日本の職場で、10年連絡していない同期に一通送ったときに何が返ってくるかは、まだ誰も測っていない。
助けるのは、誘いを判断ではなく実験として出すことだ。断られる確率を先に紙に書いてから誘えば、あなたの見積もりの癖が数字で残る。数回で十分に分かる。
最初の一歩は5分。しばらく連絡していない相手を1人選び、返事が来る確率を先に%で書く。それから短い連絡を1通送る。返事が来たかどうかと、最初に書いた%を並べて残す。それだけでいい。
次の単位からは橙の区間に入る。ここまでで作った物差しを、会う回数と共有する時間という、記録できる量に変換していく。
- Dunbar 1992(Journal of Human Evolution)が示したのは150という数字ではなく回帰式だった。対数をとった平均群れサイズ = 0.093 + 3.389 × 対数をとった新皮質比、決定係数 r² = 0.764。ヒトの値を入れて得られた数が、のちに150として流通した
- Lindenfors, Wartel & Lind 2021(Biology Letters)の再解析では、ベイズ的方法での平均群れサイズ推定が69〜109人、系統関係を考慮した一般化最小二乗法では16〜42人。150はどちらの範囲にも入らない
- 同再解析の95%信頼区間は、ベイズ的方法で4〜520人、系統的方法で2〜336人。著者らは、これほど巨大な信頼区間は一つの数字を特定することを無意味にし、この方法から集団サイズの認知的上限は導けないと結論した
- 「あなたは最も一緒にいる5人の平均」は経営コンサルタントのジム・ローンに帰属される言い回しで、この命題を検証した査読研究は見つからない。5という数にも、平均という演算にも、根拠はない
- Flynn & Lake 2008(JPSP):人は直接の依頼が受け入れられる確率を最大で50%ほど過小評価する。依頼する側は相手が引き受ける手間ばかりを見て、断ることの社会的コストを見落としている
- Bohns 2016(Current Directions in Psychological Science):この研究プログラムで参加者は延べ14,000人を超える見知らぬ相手に依頼を行い、過小評価の幅は平均しておよそ48%だった
- Liu, Rim, Min & Min 2023(JPSP):13の事前登録実験・約6,000人。しばらく連絡していない相手に声をかける側は、相手の感謝を過小評価する。媒介は驚きで、社会的距離が離れているほどずれは大きい。第4a実験の独立追試(n = 742)でも有意に再現され、効果量は原研究の d = 0.32 に対し d = 0.25 だった
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 人が維持できる人間関係は150人までで、それは脳の構造で決まっている | 再解析では点推定が16〜42人と69〜109人に割れ、95%信頼区間は4〜520人(ベイズ)と2〜336人(系統的手法)に広がった。150が間違いというより、この方法では4も520も同じくらい正しい |
| あなたは最も一緒に過ごす5人の平均だから、付き合う人を選び直すべきだ | この一文は経営コンサルタントに帰属される言い回しで、検証した査読研究は見つからない。5という数にも平均という演算にも根拠がなく、実際には身近な人を切る口実に使われることが多い |
| 誘っても断られるだろうから、相手の都合を考えて声をかけない | 依頼が受け入れられる確率は最大で50%ほど過小に見積もられ、延べ14,000人超の依頼で過小評価の幅は平均およそ48%だった。断ることの気まずさは、外から見るよりずっと大きい |
この単位で捨てた2つの数字には、共通点がある。どちらも人を減らす方向にしか使われない、という点だ。150という上限は「もう入らない」と言うために持ち出され、5人の平均は「この人はもういい」と言うために持ち出される。一方で、検算に耐えた2つの発見は、両方とも同じ方向を指していた——連絡してみろ、である。覚えやすい数字は都合よく、正しい数字は面倒くさい。この非対称が、友情がしばしば自然消滅する理由の、少なくとも一部を説明している。
Q1. Lindenforsら(2021)の再解析が示した、ヒトの平均群れサイズの点推定と95%信頼区間を、2つの手法それぞれについて答えよ。一問一答
Q2. Dunbar(1992)が実際に示したのは150という数字ではなく回帰式だった。式は、対数をとった群れサイズ = ____ + ____ × 対数をとった新皮質比で、決定係数は r² = ____である。穴埋め
Q3. 「あなたは最も一緒にいる5人の平均」について、本文が調べた結果はどれか。選択
Q4. 依頼の受け入れられやすさについて、本文が挙げた過小評価の大きさと、その原因の説明を答えよ。一問一答
Q5. 本文が示した「誤った悲観が自分で自分を証明する」循環を、正しい順に並べよ。(反証が手に入らない/断られると予想する/予想がそのまま残る/誘わない)並べ替え
3か月以上連絡していない相手を1人選ぶ。送る前に、返事が来る確率を%で紙かメモに書く(例:40%)。それから、2文以内の短い連絡を1通送る(用件を作らず、思い出した理由をそのまま書くだけでよい)。送ったあと、書いた確率と、実際に返事が来たかどうかを並べて記録する。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Dunbar R.I.M. (1992) 'Neocortex size as a constraint on group size in primates', Journal of Human Evolution 22(6):469-493 — vidauniversoydemas.wordpress.com
- Lindenfors P., Wartel A., Lind J. (2021) 'Dunbar's number deconstructed', Biology Letters 17(5):20210158 — zenodo.org
- Flynn F.J., Lake V.K.B. (2008) 'If you need help, just ask: Underestimating compliance with direct requests for help', Journal of Personality and Social Psychology 95(1):128-143 — www.gsb.stanford.edu
- Bohns V.K. (2016) '(Mis)Understanding Our Influence Over Others: A Review of the Underestimation-of-Compliance Effect', Current Directions in Psychological Science 25(2):119-123 — papers.ssrn.com
- Liu P.J., Rim S., Min L., Min K.E. (2023) 'The surprise of reaching out: Appreciated more than we think', Journal of Personality and Social Psychology 124(4):754-771 — papers.ssrn.com
- Clearer Thinking Transparent Replications, Report #7: Replication of a study from 'The Surprise of Reaching Out: Appreciated More Than We Think' (JPSP, Liu et al. 2023) — replications.clearerthinking.org