友情には200時間かかるらしい。日本の大人が交際に使うのは、1日10分だ
友達になるには何時間、という数字がよく流通している。出どころの研究を開くと、たしかにそれらしい推定値が並んでいる。同じ論文には、一緒に過ごした時間の種類によっては、関係の近さがむしろ下がっていた、とも書いてある。
緑の区間は終わった。ここからは、動かす
前の単位で、この棚に効く歪みを数個だけ選んで検算した。ダンバー数も、あなたは最も一緒にいる5人の平均だという言い回しも、机の上では威勢がいいのに、明日の予定には一行も指示を出さない。測る作業はここで終わりだ。橙の区間は、動かす区間である。
動かすといっても、最初にやることは大げさではない。会う。何かを一緒にやる。それだけだ。ただしこの単位が扱うのは、何回会うか、どのくらいの間隔で会うかという設計ではない。積み上がっていく時間の総量と、その時間の中身のほうである。
「友達になるには◯時間」という数字は、どこから来たのか
ホールが2019年に Journal of Social and Personal Relationships で報告した研究は、二つの標本からできている。ひとつは、直近で引っ越したばかりの成人355人への調査。もうひとつは、大学1年生112人を9週間・3時点で追った縦断調査だ。
報告された推定値は、関係の段階が次へ移る確率が5割を超える地点として計算されている。成人の標本では、知り合いから軽い友人まで約94時間、軽い友人から友人まで約164時間、友人から親しい友人・親友までが約219時間。大学1年生の標本ではもっと短く、約43時間、約57時間、約119時間だった。
世に流通している「50時間で知人が友人になり、200時間で親友になる」という要約は、この二つの標本の数字を丸めて混ぜたものである。元の論文に、そんな一組の閾値は載っていない。数字が一人歩きするときは、たいてい途中で標本が消える。
その推定は、思ったより弱い
この数字を持ち帰る前に、弱さのほうを先に書いておく。しかも大半は、著者自身が論文の中で断っている。
第一に、一緒に過ごした時間はすべて本人の申告である。誰も横で計っていない。第二に、成人の標本は回顧的だ。著者は、知り合ってからの週数が増えるほど時間の見積もりが不正確になりやすい、と明記している。第三に、一緒にいた時間は、関係の段階が実際に移ったあとも積み上がり続ける。だから閾値の点推定は上振れしている可能性が高い、とも書かれている。第四に、両方の標本とも、うまくいった関係だけを見ている。同じだけ時間を使ったのに友人にならなかった相手は、この計算に一度も入っていない。第五に、標本は米国の、引っ越したばかりの成人と大学1年生である。
そして、いちばん大事な問題は種類が違う。ここにあるのは時間と段階の対応であって、時間を注げば段階が上がるという因果ではない。仲良くなったから一緒にいる時間が増えた、という逆向きの説明を、このデータは切り分けられない。閾値はゴールテープではなく、あとから引かれた線だ。
それでも、この推定を捨てる必要はない。捨てるべきなのは「200時間を超えれば親友になる」という読み方のほうである。残るのはもっと地味な結論だ——友情は、時間という高い通貨で買われている。
日本の大人には、1日10分しかない
そこに、もっと居心地の悪い数字を重ねる。総務省の令和3年社会生活基本調査によると、日本の10歳以上の「交際・付き合い」の時間は、週全体の1日平均で10分だった。2016年の調査では17分だったから、5年で7分減っている。男性は15分から8分へ、女性は19分から12分へ。減り方は男女でそろっている。
1日10分は、1年で約61時間にしかならない。ホールの成人標本に当てはめれば、知り合いが軽い友人に変わる手前で1年が終わる。もちろんこの10分は国民全体の平均で、実際の分布は極端に偏っているし、コロナ禍のただ中に取られた調査でもある。それでも、平均の位置がここにあるという事実は、大人の友情が「気が合えば自然にできるもの」ではないことを、残酷なくらい簡潔に示している。
時間は増えない。だから、中身の話になる。
同じ1時間でも、符号が変わる
ホールの研究には、要約記事からいつも落ちる部分がある。一緒に過ごした時間を活動の種類で分けると、関係の近さの変化との関連は、全部が同じ向きを向いていなかった。
近況を伝え合う、まじめな話をする、ふざけ合う。こうした時間は、関係の近さが増すことを強く予測していた。一方で、ニュースやスポーツやテレビ番組についての軽い雑談に費やされた時間は、近さの減少と結びついていた。そして職場や授業という、居合わせることが強制されている場での時間は、感情的な近さを押し上げていなかった。
実務的には、ここがこの単位でいちばん使える一行だ。時間を増やせない大人にとって、同じ1時間の中身を入れ替えることは、時間を倍にすることとほぼ同じ働きをする。逆に言えば、雑談で埋めた3時間は、3時間ぶんの前進ではないどころか、後退でありうる。
近接の古典を、そのまま持ち帰らない
この分野の原点として引かれ続けている研究がある。フェスティンガー、シャクター、バックが1950年に報告した住宅研究だ。第二次大戦後、復員兵の学生とその家族が入居した住宅で、誰と親しくしているかを全戸に聞いた。
集合住宅のウェストゲート・ウエストでは、選ばれうる相手のうち実際に選ばれた割合が、隣の部屋で41.2%、二つ隣で22.5%、三つ隣で16.2%、四つ隣で10.3%と、距離とともに単調に下がった。戸建てのウェストゲートでは、通りのほうを向いた端の家の住人が受けた選択が平均0.60、中庭に面した内側の家では平均1.56。玄関がどちらを向いているかで、名前を挙げられる回数が倍以上ちがった。
現代の読み方には注意がいる。この標本は1946年の米国で、住人はほぼ同時に入居し、同じ大学に通い、移動手段も通信手段も限られていた。近接以外の変数がほとんど動かない、実験室のような条件だ。いまの大人の生活はそうではない。近接はまだ効くが、当時よりずっと弱いと見積もったほうがいい。
古典から持ち帰るべきは、41.2%という数字ではなく、玄関の向きのほうである。誰と親しくなるかは、意志より先に動線が決めている。そして動線は、意志よりも書き換えやすい。
一緒にやると、味まで変わる
では、活動を共有することは何をしているのか。ブースビー、クラーク、バーグが2014年に行った実験は、意地悪なくらい単純だ。女子学生23人が、同じチョコレートを2回味わう。1回目は隣の人が同じチョコレートを同時に味わい、2回目はその人が別の作業をしている。銘柄は違うと伝えられているが、実際には同じチョコレートである。
結果、同時に味わったときのほうが好ましさの評定は高かった(7.00 対 5.46、d = 0.56)。風味の評定も高かった(6.83 対 5.57、d = 0.54)。続く実験ではまずいチョコレートを使った。今度は、共有したほうが評定は低かった(2.45 対 3.16、d = 0.34)。共有は良くするのではない。増幅する。しかも参加者は、隣の人の存在が自分の評価を動かしたとは、ほとんど思っていなかった。
体を合わせることにも効果がある。ウィルターマスとヒースが2009年に報告した三つの実験では、歩調を合わせて歩く、一緒に歌う、コップを揃えて動かすといった同期行動のあと、参加者はその後の集団の経済ゲームで、自分が損をする場面でも協力する方向へ動いた。快い感情が生じなくても効果は出ており、著者らは、同期が集団への愛着を強めるからだと述べている。
ここも値切っておこう。レヌングとゲーリッツが2016年に発表したメタ分析は、1988年から2015年までの42本の文献・60の独立した実験を統合し、同期の向社会的な効果を g = 0.48(95%信頼区間 0.39〜0.56)と推定した。ただし行動を指標にした分析では、出版バイアスを補正すると g = 0.31(0.15〜0.47)まで下がる。効果はある。ただし、宣伝されているほど大きくはない。
回数を積めば効く、という横流し
接触を重ねれば好意が増える、という話も、この文脈でよく持ち出される。ボーンスタインが1989年に134本の論文・208の独立した効果量を統合した分析は、たしかにその向きを支持している。ただし条件依存が激しい。呈示の最大回数が100回を超える研究では効果はかえって弱く、子どもを対象にした研究では効果が逆向きだった(r = -.052、成人は r = .300)。絵画や図形ではほぼゼロ(r = -.010)である。
つまり、繰り返しは無条件の魔法ではない。時間の総量を積むという発想を、そのまま接触回数の話へ横流しするのは早い。積むべきは回数ではなく、中身のある時間のほうだった。
時間・変化:何が起きていくのか
ここまでの材料を、経過という軸に並べ直すと形が見える。ホールの大学1年生の標本では、最初の数週間で一気に時間が積み上がり、9週のあいだに段階の移行が観察された。成人の標本では、同じ移行にその2倍以上の時間がかかっている。学校という装置を離れると、同じ距離を進むのに倍以上の時間が要る、ということだ。
そして日本の平均は、5年で17分から10分へ下がった。装置は失われ、原資も減っている。この二つを重ねると、大人になってからの友情でやるべきことは自動的に決まる。総量で勝負しない。中身の濃い時間を、意図して確保する。雑談の3時間より、近況とまじめな話とふざけ合いが入った30分のほうが、この文献の形には合っている。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるのは、時間が空いたら会おうという言い回しだ。1日10分の平均が示しているのは、空く時間などもう存在しないという事実である。もうひとつは、居合わせるだけで十分だという期待。職場や授業で過ごした時間は、感情的な近さを押し上げていなかった。同じ場所にいることと、一緒に何かをすることは、別のことだ。
助けるのは、活動を先に決めてしまうことだ。何を一緒にやるかが決まっていれば、会話の中身は自動的に雑談から外れる。同じものを同時に味わう、同じ体験を同時に受ける、体の動きが揃う——こうした形は、共有の効果が出やすい形として実験室で確認されている。食事、運動、音楽、作業、どれでもいい。重要なのは、二人が同じ対象に、同じ時間に向いていることである。
ここで引いた研究は、米国の大学生と成人、英国の成人が中心で、日本の統計だけが国内のものだ。数字の向きは信用できるが、大きさをそのまま自分に当てはめる必要はない。
最初の一歩は今日のうちに終わる。友人か、友人になりうる相手をひとり選び、来週までに一緒にやる活動をひとつ決めて、日時ごと送る。会おう、ではなく、これをやろう、と書くこと。
次の単位では、確保したその時間の中で何を話すかを扱う。深い話は、あなたが思っているほど気まずくない——という、少し腹の立つ研究の話になる。
- Hall 2019(Journal of Social and Personal Relationships)は二つの標本からなる。引っ越したばかりの成人355人(回顧的)では、知り合い→軽い友人が約94時間、→友人が約164時間、→親しい友人・親友が約219時間。大学1年生112人の9週間・3時点の縦断では約43時間、約57時間、約119時間だった
- その推定の弱さは著者自身が書いている。時間はすべて自己申告、成人標本は回顧的で週数が増えるほど見積もりが不正確になり、時間は段階の移行後も積み上がるため閾値は上振れしうる。さらに、うまくいった関係しか見ていない。時間と段階の対応であって、因果ではない
- 同じ研究で、活動の種類によって符号が変わった。近況を伝え合う・まじめな話・ふざけ合いは近さの増加を強く予測し、ニュースやスポーツやテレビの軽い雑談は近さの減少と結びつき、職場や授業で過ごした時間は感情的な近さを押し上げなかった
- 総務省の令和3年社会生活基本調査では、10歳以上の「交際・付き合い」は週全体の1日平均10分。2016年は17分で、5年で7分減った(男性15→8分、女性19→12分)。1日10分は1年で約61時間にしかならない
- Festinger, Schachter & Back 1950:ウェストゲート・ウエストで実際に選ばれた割合は隣の部屋41.2%、二つ隣22.5%、三つ隣16.2%、四つ隣10.3%。戸建てでは通りに向いた端の家が平均0.60、中庭に面した家が平均1.56の選択を受けた。ただし1946年の米国で近接以外がほとんど動かない特殊な条件だった
- Boothby, Clark & Bargh 2014:同じチョコレートでも、隣の人が同時に味わっているときのほうが好ましさ7.00 対 5.46(d = 0.56)、風味6.83 対 5.57(d = 0.54)と高い。まずいチョコレートでは共有時のほうが低く2.45 対 3.16(d = 0.34)。共有は良くするのではなく増幅する
- Wiltermuth & Heath 2009 の3実験では、同期行動のあと自分が損をする場面でも協力が増えた。ただし Rennung & Göritz 2016 のメタ分析(42文献・60実験)では g = 0.48(95%CI 0.39〜0.56)で、行動指標は出版バイアス補正後 g = 0.31(0.15〜0.47)まで下がる
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 友達になるには50時間、親友になるには200時間かかる | 元の研究には、その一組の閾値は載っていない。成人355人の標本では約94/164/219時間、大学1年生112人の標本では約43/57/119時間と、標本によって2倍以上ちがう。しかも時間はすべて自己申告で、段階の移行後にも積み上がるため上振れしうる、と著者が断っている |
| とにかく一緒にいる時間を増やせば、近づける | 同じ研究で、軽い雑談に費やされた時間は近さの減少と結びついていた。職場や授業で強制的に居合わせた時間も、感情的な近さを押し上げていない。増やすべきは総量ではなく、近況・まじめな話・ふざけ合いが入った時間のほうだ |
| 同じ体験を共有すれば、関係は良くなる | 23人の実験では、同じチョコレートでも共有すると評定が上がった(7.00 対 5.46)が、まずいチョコレートでは共有したほうが下がった(2.45 対 3.16)。共有は方向を選ばない増幅装置である。同期行動の効果も、出版バイアスを補正すると g = 0.48 から 0.31 へ下がる |
この単位の結論を、身も蓋もない形で書くとこうなる。友情は時間で買われており、あなたの手持ちは1日10分で、しかもその10分は毎年減っている。救いがあるとすれば、支払い方には選択の余地があることだ。同じ額でニュースの感想を買うこともできるし、近況とばか話を買うこともできる。前者はレシートに、後退と印字される可能性がある。時間が足りないのは、たぶん一生そのままだ。だから、せめて何にそれを使ったかくらいは、自分で決めておいたほうがいい。
Q1. Hall(2019)の成人355人の標本では、知り合いから軽い友人までが約____時間、友人から親しい友人・親友までが約____時間。大学1年生112人の標本では、それぞれ約____時間、約____時間だった。穴埋め
Q2. 本文が挙げた、この時間推定の弱さを3つ以上答えよ。一問一答
Q3. Hall(2019)で、一緒に過ごした時間の中身と関係の近さの関連について、本文が挙げた組み合わせはどれか。選択
Q4. 日本の「交際・付き合い」の時間について本文が挙げた数字と、それを Hall の推定に当てはめるとどうなるかを答えよ。一問一答
Q5. Festinger ら(1950)のウェストゲート・ウエストで報告された、部屋の距離ごとに実際に選ばれた割合を、大きい順に並べよ。(10.3% / 22.5% / 41.2% / 16.2%)並べ替え
友人、または友人になりうる相手をひとり選ぶ。今日のうちに、来週までに一緒にやる活動をひとつ決めて、日時つきで送る。文面に、会おう・そのうち・落ち着いたら、という語を入れないこと。代わりに、何を一緒にするか(食事・運動・展示・作業・移動のいずれか)と、候補の日時を2つ書く。返事が来る前でも、送った時点で完了とする。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Hall J.A. (2019) 'How many hours does it take to make a friend?', Journal of Social and Personal Relationships 36(4):1278-1296 — journals.sagepub.com
- Hall J.A. (2019) 'How many hours does it take to make a friend?', Journal of Social and Personal Relationships 36(4):1278-1296(Limitations の記述) — journals.sagepub.com
- 総務省統計局(2022)『令和3年社会生活基本調査 生活時間及び生活行動に関する結果 結果の概要』表1-1 男女、行動の種類別生活時間 — www.stat.go.jp
- Festinger L., Schachter S., Back K. (1950) 'Social Pressures in Informal Groups: A Study of Human Factors in Housing', Harper(Table 1 ほか) — archive.org
- Boothby E.J., Clark M.S., Bargh J.A. (2014) 'Shared Experiences Are Amplified', Psychological Science 25(12):2209-2216 — clarkrelationshiplab.yale.edu
- Wiltermuth S.S., Heath C. (2009) 'Synchrony and Cooperation', Psychological Science 20(1):1-5 — journals.sagepub.com
- Rennung M., Göritz A.S. (2016) 'Prosocial Consequences of Interpersonal Synchrony: A Meta-Analysis', Zeitschrift für Psychologie 224(3):168-189 — opus.bibliothek.uni-augsburg.de
- Bornstein R.F. (1989) 'Exposure and affect: Overview and meta-analysis of research, 1968-1987', Psychological Bulletin 106(2):265-289 — doi.org