5分話した相手は、あなたが採点した点数より高い点を、あなたにつけていた
会話のあとで出来を振り返る癖は、誠実な人の習慣に見える。厄介なのは、その振り返りの材料が相手の反応ではなく、自分の頭の中で流れていた実況中継だという点だ。実況はたいてい辛口で、しかも当人にしか聞こえていない。
前の単位で作った土台には、目盛りがついていない
前の単位で扱ったのは、制度的な拘束のない関係に賭けるための信頼の土台だった。契約も式もない友情では、続けるという判断を毎回やり直すことになる。その判断の材料はいつも同じ——相手が自分をどう見ているか、という読みである。
ところがこの読みには、方向の決まった狂いがある。しかも狂いの向きは一つしかなく、常に自分に不利な側へ倒れる。緑の区間はここから始まる。最初に較正するのは、相手の温度計ではなく、こちらの目盛りのほうだ。
5分話しただけで、ずれは出る
ブースビー、クーニー、サンドストローム、クラークが2018年に発表した5つの研究は、この狂いに名前をつけた。ライキング・ギャップ——相手が自分に向けた好意を、自分が過小に見積もる幅のことだ。
手続きは素っ気ない。初対面の2人を実験室で会わせ、5分だけ会話させる。終わったら別々の部屋に分け、相手をどれくらい好きになったかと、相手が自分をどれくらい好きになったと思うかを、それぞれ評定させる。両側の数字が揃うので、ずれが引き算で出る。
参加者36人の第1研究では、実際に向けられた好意の平均が5.82、自分が受け取ったと推測した好意の平均が5.17だった。差は b = −0.65、t(34) = −5.83。84人の第2研究でも b = −0.57、t(84) = −8.32 と再現される。会話の長さを固定しなかった第3研究——平均およそ23分——でも b = −0.38 で、しかも「楽しかったか」の評価にも同じ向きのずれが出た(b = −0.52)。
長く話せば解消する、という話ではない。長く話した分だけ、外すための材料が増えるだけである。
ずれの出どころは、相手の顔ではなく自分の実況
なぜ外すのか。第2研究は、会話中に頭に浮かんだ考えを本人に書き出させている。書き出された内容は、自分の側に厳しく偏っていた。あそこで黙りすぎた、変な相槌を打った、話題を戻し損ねた——そういう類の記述である。
そして、この偏りが好意の過小評価を媒介していた。間接効果は b = −0.14、信頼区間は −0.22 から −0.07。数字の意味は単純だ。相手の好意を低く見積もらせているのは、相手の表情でも声の調子でもなく、自分の頭の中で流れていた実況のほうである。
ここに厄介な非対称がある。相手の会話も、相手の頭の中では同じように辛く採点されている。ところがその実況はあなたには聞こえない。あなたに聞こえるのは相手の発話だけで、発話は実況よりずっと感じがいい。結果として、双方が「相手はうまくやっていて、自分はしくじった」という同じ結論に達する。
時間・変化:同室で8か月暮らしても、縮みはしたが消えなかった
実験室の5分は特殊すぎる、という反論は当然だ。第5研究がそこに答える。大学1年生102人を、9月から翌年5月まで追いかけた。相手は同じ寮のスイートメイト——毎日顔を合わせ、台所と洗面所を共有し、生活の音まで知っている相手である。
測定は5時点。9月、10月、12月、2月、そして5月。9月から2月までの4時点すべてで、ずれは有意なまま残った。全体では b = −0.36、t(1131) = −6.16 である。消えたのは最終時点の5月だけだった(p = .87)。
ここが時間の話になる。ライキング・ギャップは初対面の緊張が生む一時的な誤差ではない。数か月にわたって生き延び、生活を共にしても居座り、そのあとでようやく晴れる。友情が固まる速度と、この誤差が消える速度は、どうやらだいたい同じらしい。逆に言えば、大人になってから作る関係の多くは、ずれが消える前に打ち切られている。
職場のチームでも、同じことが起きている
大人の交友の主戦場は学校の外にある。マストロヤンニ、クーニー、ブースビー、リースが2021年に報告した3つの研究は、そこを直接扱った。
3人1組で会話させた159人では、実際の好意の平均が5.32、推測が4.78(b = −0.54)。おまけがひとつ付く。参加者は、自分こそがその組の中でいちばん好かれていないメンバーだと考える傾向があった。全員がそう考える組が成立してしまう以上、この信念の少なくとも大部分は事実に反している。
工学系の設計チーム140人でも、実際5.77に対して推測5.31(b = −0.47)。一緒に働いた期間が1学期以下の組では差が0.72、1学期を超える組では0.41。縮みはするが、消えない。
そして働く大人312人。3〜5人のチームについて答えてもらうと、差は0.17まで縮む(p = .003)。小さい。ただしこの小さな差が、助けを求めやすさ(b = 0.36)、率直な会話のしやすさ(b = 0.35)、自分が価値ある存在だと感じる度合い(b = 0.44)、チームへの帰属感(b = 0.49)を予測していた。しかも上司と部下のあいだでは有意にならず、いちばん大きく出たのは同僚どうし——職場のなかで友情にいちばん近い形をとる関係のほうだった。
会話の終わり時も、同じ向きに外している
読み違えているのは好意の量だけではない。会話をいつ切り上げたいかについても、人は相手を大きく読み違える。
マストロヤンニ、グリマルディ、シュローダー、クーニー、エプリー、ギルバートが2021年に報告した2つの研究がある。親しい相手との会話を思い出してもらった806人と、実験室で見知らぬ相手と話した252人だ。
実験室の会話のうち、両者が同時に終わりたかったのは1.59%だけだった。どちらか一方が望んだ時点で終わったのは29.37%。46.83%では、両者とも実際より早く終わってほしいと思っていた。望ましかった長さと実際の長さのずれは、会話全体の46.03%に達している。思い出してもらった会話でも56.01%だった。
そして相手の希望を外した幅は、平均9.38分、率にして63.84%。実際の食い違いは、当人たちが思っていたよりも2倍以上大きかった。
読み方はこうだ。会話が長引いたのは、あなたが空気を読めなかったからではない。早く切り上げられたのも、あなたが退屈だったからではない。双方が相手の希望を知らないまま、惰性で続けているだけである。
褒めと感謝は、渡す側だけが怖がっている
親和のシグナルは、受け取るだけでなく出すこともできる。出すほうにも、同じ向きの誤差が乗っている。
チャオとエプリーが2021年に報告した野外実験は、公園で募った105組・210人を対象にした。平均年齢36.84歳、平均10.78年の付き合いがある相手——友人30組、家族10組、交際中35組、婚約または既婚27組である。片方に、相手を褒める役をやってもらう。
渡す前に予想させた相手の気分は10点満点で7.79。実際の相手の気分は8.81だった。逆に気まずさは5点満点で3.46と予想されたのに、実際は2.06。渡す側は、喜びを1点ぶん低く、気まずさを1.4点ぶん高く見積もっている。褒め言葉が相手に与える「有能だと見なされている感じ」に至っては、ずれは1.97点に達した。
ブースビーとボーンズが2021年に発表した5つの研究も同じ形を出している。褒める側は、相手が感じる嬉しさを低く、相手が感じる煩わしさを高く見積もる。しかも第4研究によれば、この読み違いを駆動していたのは渡す側の不安と自信のなさで、同じ場面を外から予想した第三者はきちんと正確だった。当事者だけが外す。
感謝も同じだ。クマーとエプリーが2018年に報告した3つの実験では、感謝の手紙を書いた人は、受け取る側の驚きを過小に、気まずさを過大に、そして受け取る側の気分の良さを過小に見積もっていた。そしてこの予想の中身が、実際に感謝を伝えるかどうかを左右していた。伝えない理由は、相手の反応ではなく、こちらの予想のほうにある。
この歪みを、万能の法則にしない
気持ちよく受け取りすぎないための注記を、三つ置いておく。
第一に、消える。寮の研究では、9か月目のずれは統計的にゼロと区別できなかった。これは時間と情報が入れば較正される種類の誤差であって、人間の宿命ではない。
第二に、小さくなる。働く大人312人での差は0.17である。5分の初対面での0.65とは桁がひとつ違う。関係が定常状態に入った場面でこの歪みを大げさに扱うのは、筋が悪い。
第三に、どこでも同じ形では出ない。上司と部下のあいだでは有意にならなかった。地位の差がある関係では、別の力学がこの誤差を上書きするらしい。
そして標本の断りを一つ。ここで挙げた研究の参加者は北米と英国の大学生および勤労者に偏り、測定はほぼ全て自己報告である。ずれの向きは信用してよいが、あなたの数値がそのまま5.82と5.17になるわけではない。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるのは、会話の出来を自分の記憶で採点する習慣だ。記憶の中の会話には、相手の内心が入っていない代わりに、自分の実況が丸ごと入っている。採点の材料が最初から偏っている以上、何度思い返しても点は上がらない。
もうひとつは、褒めや感謝を「重い」と判断して飲み込むこと。飲み込む理由のほとんどは、渡す側の不安から来ている。第三者には正確に予想できることを、当事者だけが外している。
助けるのは、内心の推測を外部の観察で置き換えることだ。相手が次の予定を提案したか。自分から質問を足したか。会話のあとで連絡が来たか。どれも自分の実況が混ざりにくい種類の材料である。
標本の断りも、もう一段だけ厚くしておく。ここまでの数字を出した参加者は、北米と英国の大学の実験室に来た初対面の学生、同じ寮に住む1年生102人、工学系の設計チーム140人、働く大人312人、そして公園で声をかけられた105組である。大学と職場という、相手が毎日そこにいることを制度が保証している場所に、標本のほとんどが寄っている。転職や引っ越しのあとで、月に一度会うかどうかという相手との読みを測ったデータは、この中にほとんど入っていない。だから9か月でずれが消えたという結果を、会う頻度が10分の1の関係にそのまま延長することはできない。消えるために必要だったのは月数ではなく、その月数のあいだに積み上がった観察の量のほうだからだ。測り方にも同じ癖がある。好意も、気まずさも、楽しさも、ほぼ全部が本人のつけた点数で、第三者が外から観察した値ではない。褒めの実験で当事者だけが外し、第三者が正確だったことを思い出せば、自己報告という物差しの限界は自分でも見当がつく。そして日本の職場や教室で同じ手続きをやり直した記録は、この束の中にない。ずれの向きは信用してよく、幅は自分で測り直すしかない。この単位の自己実験が14日ぶん用意されているのは、その測り直しを自分の標本で1回だけやるためである。
最初の一歩は3分で済む。直近の会話をひとつ選び、相手が自分をどれくらい好いたかを1から10で書く。そのあと、相手の行動として観察できた事実を3つ書き足し、もう一度だけ点をつけ直す。
次の単位では、この目盛りを相手選びのほうへ向ける。誰と合うのか、そして「合う」という言葉が実のところ何を指しているのか、という話だ。
- Boothby, Cooney, Sandstrom & Clark 2018(Psychological Science・5研究):初対面の5分会話のあと、実際に向けられた好意の平均5.82に対し、自分が受け取ったと思う好意の平均は5.17。差は b = −0.65、t(34) = −5.83。84人の追試でも b = −0.57、平均23分の会話でも b = −0.38
- ずれの出どころは相手の反応ではなく自分の内的独白。会話中に浮かんだ考えの否定的な偏りが過小評価を媒介した(間接効果 b = −0.14、95%CI −0.22〜−0.07)
- 同じ寮のスイートメイト102人を9月・10月・12月・2月・5月の5時点で追跡。全体で b = −0.36、t(1131) = −6.16。9月から2月までの4時点で有意なまま残り、消えたのは5月だけ(p = .87)
- Mastroianni, Cooney, Boothby & Reece 2021(3研究):3人組の会話159人で実際5.32/推測4.78(b = −0.54)。参加者は自分がその組でいちばん好かれていないと考える傾向があった。工学系チーム140人では0.72(1学期以下)から0.41(1学期超)へ縮むが消えない
- 働く大人312人では差は0.17(p = .003)まで縮むが、助けを求めやすさ b = 0.36、率直な会話 b = 0.35、価値ある存在だという感覚 b = 0.44、チームへの帰属感 b = 0.49 を予測した。上司と部下のあいだでは有意にならず、同僚どうしで最大
- Mastroianni et al. 2021(PNAS・806人と252人):実験室の会話で両者が同時に終わりたかったのは1.59%だけ。46.83%では両者とも早く終わってほしいと思っていた。望ましい長さと実際の長さのずれは46.03%、相手の希望を外した幅は平均9.38分・63.84%
- Zhao & Epley 2021 の公園での野外実験(105組・210人、平均年齢36.84歳、平均10.78年の関係):褒める前に予想した相手の気分7.79に対し実際は8.81、気まずさは予想3.46に対し実際2.06。Kumar & Epley 2018 の感謝の手紙でも同じ向きのずれが出た
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 会話がうまくいったかどうかは、終わったあとに自分で振り返れば分かる | 振り返りの材料は自分の内的独白に偏っている。その否定的な偏りが好意の過小評価を媒介していた(間接効果 b = −0.14)。相手の実況は聞こえないので、比較はいつも自分に不利になる |
| ライキング・ギャップは人間の宿命で、どうにもならない | 寮の研究では9か月目にずれが消え(p = .87)、働く大人のチームでは差が0.17まで縮み、上司と部下のあいだでは有意ですらなかった。時間と情報が入れば較正される種類の誤差である |
| 褒めたり感謝を伝えたりすると、相手を困らせる | 105組の野外実験では、気まずさは3.46と予想されて実際は2.06、気分は7.79と予想されて実際は8.81だった。しかもこの読み違いは渡す側の不安から生じており、第三者は正確に予想できていた |
この単位の結論には、使いにくい副作用がある。相手はあなたを思ったより好いている、と知ったところで、あなたの内的実況は今夜も同じ辛口で流れるからだ。せいぜいできるのは、実況の音量を上げないことと、その放送が自分の頭の中だけで完結していると思い出すことくらいだろう。ちなみに相手も、いま同じ番組を聞いている。二人とも自分の回だけが失敗作だと思っているという点で、あなたたちの相性はすでに悪くない。
Q1. Boothbyら(2018)の5分会話実験では、実際に相手が向けた好意の平均は____、自分が受け取ったと推測した好意の平均は____で、差は b = ____だった。穴埋め
Q2. 寮のスイートメイトを追跡した第5研究は何時点で測定し、ずれはいつ消えたか。それは何を意味するか。一問一答
Q3. Mastroianniら(2021)の働く大人312人の研究について、本文が述べた内容として正しいものはどれか。選択
Q4. 会話の終わり時について、本文が挙げた3つの割合(両者が同時に終わりたかった/どちらか一方の希望どおり/両者とも早く終わってほしかった)を答えよ。一問一答
Q5. Zhao & Epley(2021)の公園での野外実験で報告された数字を、本文の記述に合うように「予想 → 実際」の順で並べよ。(気分:予想7.79/気まずさ:実際2.06/気分:実際8.81/気まずさ:予想3.46)並べ替え
この1週間のうちにあった会話をひとつ選ぶ。まず、相手が自分をどれくらい好いたと思うかを1から10で書く。次に、相手の行動として外から観察できた事実だけを3つ書き足す(次の予定を提案した/自分から質問を足した/会話のあとで連絡が来た/別れ際に立ち止まった、など、内心の推測は不可)。最後に、その3つを見ながらもう一度点をつける。2つの点数の差をそのまま記録する。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Boothby E.J., Cooney G., Sandstrom G.M., Clark M.S. (2018) 'The Liking Gap in Conversations: Do People Like Us More Than We Think?', Psychological Science 29(11):1742-1756 — clarkrelationshiplab.yale.edu
- Mastroianni A.M., Cooney G., Boothby E.J., Reece A.G. (2021) 'The liking gap in groups and teams', Organizational Behavior and Human Decision Processes 162:109-122 — www.sciencedirect.com
- Mastroianni A.M., Gilbert D.T., Cooney G., Wilson T.D. (2021) 'Do conversations end when people want them to?', Proceedings of the National Academy of Sciences 118(10):e2011809118 — dtg.sites.fas.harvard.edu
- Zhao X., Epley N. (2021) 'Insufficiently complimentary?: Underestimating the positive impact of compliments creates a barrier to expressing them', Journal of Personality and Social Psychology 121(2):239-256 — uploads-ssl.webflow.com
- Boothby E.J., Bohns V.K. (2021) 'Why a Simple Act of Kindness Is Not as Simple as It Seems: Underestimating the Positive Impact of Our Compliments on Others', Personality and Social Psychology Bulletin 47(5):826-840 — journals.sagepub.com
- Kumar A., Epley N. (2018) 'Undervaluing Gratitude: Expressers Misunderstand the Consequences of Showing Appreciation', Psychological Science 29(9):1423-1435 — journals.sagepub.com