47%と9%は、けんかをしていない。数える単位が職業から業務に変わっただけである
「市場を客観的に見なさい」と助言される。開いてみれば、そこにはたしかに数字がある。ただし、その数字が誰を数え、何を一件と数えているかは、たいてい表紙ではなく、いちばん下の細かい注記に書いてある。
前の単位で、その職場の「らしさ」をどう見極めるかを扱った。ここでは相手側の最後の一枚——その職場が置かれている市場のほうへ、対象を一段広げる。
持ち場を先に狭めておく。景気の読み方や確率の見積もりは開運の棚の持ち場で、ここでは扱わない。就職の助言が、決まった人の側からしか書かれていないという、この棚が何度も戻る一点にも、1文だけ触れて先へ進む。この単位が引き受けるのは一つだけである——市場を客観的に見なさいと言われて開いた統計が、誰を、何を一件として数えているか。
47% と 9% は、けんかをしていない
2013年に作業論文として世に出て、2017年に *Technological Forecasting and Social Change* 114 に載った研究がある。米国の702の職業について、コンピュータ化される確率を推計したものだ。手続きはこうである。702のうち70の職業に著者らが自分の手で「自動化できる/できない」の札を付け、それを学習させた分類器で残りに確率を割り当てた。確率0.7以上を高リスクと区切り、そこに属する職業の雇用を足し上げると、米国の総雇用の47%になった。
原文はこう書いている。「われわれの推計によれば、米国の総雇用の47%は高リスクのカテゴリに入る。つまり、関連する職業は特定されていない年数、おそらく10年か20年のあいだに自動化されうる」。「なくなる」とは書かれていない。「高リスクのカテゴリに入る」と書かれている。同じ論文は、将来の職業構成の変化を予測する試みは一切していない、とも断っている。
2016年に OECD の作業論文(No.189)として出た再推計は、この47%を否定していない。数える単位を変えただけである。原文の言い方では、先行研究は職業を単位にしたやり方で、「単一の業務ではなく職業まるごとが自動化される」と仮定している。だが高リスクとされた職業も、自動化しにくい業務をかなりの割合で含んでいる。そこで著者らは業務を単位にして解き直した。OECD加盟21か国の平均で、自動化可能な仕事は9%だった。国ごとの幅は韓国の6%からオーストリアの12%までである。
47%と9%は、予測が外れた話ではない。職業を1件と数えるか、業務を1件と数えるかで、値が5分の1になった話である。そして9%のほうも、米国だけを測り直した値ではなく21か国の平均だ、という断りが要る。2015年に *Journal of Economic Perspectives* 29(3) へ出た論説は、この領域の癖を一言で書いている——記者も、専門家とされる論者も、機械が人の労働を置き換える度合いを過大に言いがちである、と。
日本の「求人倍率」は、ハローワークの中の数字である
日本では、市場の混み具合を表す数字として有効求人倍率がよく引かれる。作っているのは厚生労働省の「一般職業紹介状況」で、その説明はこうである——「厚生労働省では公共職業安定所(ハローワーク)における求人、求職、就職の状況をとりまとめ、求人倍率などの指標を作成し」。
つまり、ハローワークに出された求人と、ハローワークに登録した求職者だけを数えている。求人サイトにしか出ていない募集も、そこにしか登録していない人も、この分数には入らない。2026年7月31日に公表された令和8年6月分(季節調整値)は、有効求人倍率1.18倍、新規求人倍率2.16倍、正社員有効求人倍率1.00倍である。
もう一つ、この統計自身が注記で断っていることがある。逐語で引く。「正社員有効求人倍率は正社員の月間有効求人数をパートタイムを除く常用の月間有効求職者数で除して算出しているが、パートタイムを除く常用の月間有効求職者には派遣労働者や契約社員を希望する者も含まれるため、厳密な意味での正社員有効求人倍率より低い値となる」。分子は正社員、分母は正社員だけではない。作っている側が、そう書いている。
「平均賃金」は、6月ひと月の、残業代も賞与も抜いた額である
同じことが賃金でも起きる。厚生労働省の令和6年賃金構造基本統計調査は、概況の冒頭でこう定義している。「本概況に用いている『賃金』は、調査実施年6月分の所定内給与額の平均をいう」。所定内給与額とは、6月分として支給された現金給与額から超過労働給与額——時間外勤務手当、深夜勤務手当、休日出勤手当、宿日直手当、交替手当——を差し引いた額で、所得税等を控除する前の額である。賞与や期末手当は、この額に含まれず、前年1年間ぶんとして別に集計される。
集計の対象も広くはない。「10人以上の常用労働者を雇用する民営事業所(50,682事業所)について集計した」と書かれている。この範囲で、一般労働者の賃金は男女計月額330.4千円(男363.1千円/女275.3千円)だった。
「年収の平均」と読み替えると、二重に誤ることになる。残業代が抜けていて、賞与も抜けていて、しかも6月ひと月ぶんの額だからである。なお、この値が年齢や勤続年数や企業規模を合成したものだと断定はしない——表章区分がそうなっている、というところまでにしておく。
時間・変化:人の出入りも、数える枠が先に決まっている
動きの側の統計も同じである。厚生労働省の令和6年雇用動向調査は、5人以上の常用労働者を雇用する事業所を対象に、16の大産業から約15,000事業所を抽出して行われた。この範囲で、令和6年の入職率は14.8%、離職率は14.2%、0.6ポイントの入職超過だった。
数え方の定義が効いてくる。入職者とは「調査対象期間中に事業所が新たに採用した者をいい、他企業からの出向者・出向復帰者を含み、同一企業内の他事業所からの転入者を除く」。会社の中で異動しても入職にはならず、出向で来れば入職になる。さらに転職入職者は「入職者のうち、入職前1年間に就業経験のある者」と定義されている。1年以上働いていなかった人が入職しても、この統計では「転職入職者」に数えられない。
数字が動くのを追いかける前に、枠が動いていないかを見る。それが時間の側の読み方である。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、統計の名前を定義だと思うことである。「求人倍率」「平均賃金」「離職率」は、どれも中身より広く聞こえる名前をしている。第二の妨げは、単位の違いを意見の対立として読むことだ。47%と9%は立場の違いではなく、職業と業務という数える単位の違いである。
標本の偏りを断っておく。この単位で挙げた自動化の推計は米国とOECD加盟国のもので、日本を単独で測り直したものではない。日本の数字はいずれも公的統計だが、対象の範囲はいま見たとおり狭い。そして就職についての研究の多くは、欧米の、すでに働いている人か大学生を対象に、短い期間で採られている。何より、もともと選択肢の多い人ほど、その方法を試せる、という逆向きを排除できない。統計を三十分ながめる余裕そのものが、誰にでもあるわけではない。
助けるのは、順序を入れ替えることである。数値を読む前に、注記を読む。誰を数えたか、何を1件としたか、いつの時点かの3つが分かってから、初めて値を見る。それだけで、同じ表から取り出せる情報が変わる。
最初の一歩は5分。関心のある職種について公的統計を1つ開き、その統計が誰を数えているか——母集団——を1行だけ書き写す。値はまだ見なくていい。
次の単位は 090「適合性の統合判断力」——ここまでで、自分の側の材料と、相手の側の材料がそろった。次の段では、その不揃いな材料を一つの判断に畳む番になる。畳み方のほうにも、四半世紀ぶんの書き換えがある。
- 米国の702職業を対象にした2017年の推計(Technological Forecasting and Social Change 114)では、702のうち70職業に著者らが手で札を付けて学習させ、確率0.7以上を高リスクと区切った結果、総雇用の47%が高リスクのカテゴリに入った。原文は「なくなる」ではなく「高リスクのカテゴリに入る」と書き、期間は「特定されていない年数、おそらく10年か20年」としている
- 同じ問いを業務を単位にして解き直したOECDの2016年作業論文(No.189)では、加盟21か国の平均で自動化可能な仕事は9%だった。国ごとの幅は韓国6%からオーストリア12%。47%と9%の差は予測の当たり外れではなく、職業を1件と数えるか業務を1件と数えるかの差である
- 2015年に Journal of Economic Perspectives 29(3) へ出た論説は、記者も専門家とされる論者も機械による労働の置き換えを過大に言いがちだと指摘し、自動化は労働を代替すると同時に補完もすると論じている
- 日本の有効求人倍率は、厚生労働省「一般職業紹介状況」が公共職業安定所(ハローワーク)における求人・求職・就職だけをとりまとめた数字である。2026年7月31日公表の令和8年6月分(季節調整値)は有効求人倍率1.18倍、新規求人倍率2.16倍、正社員有効求人倍率1.00倍
- 同統計の注記は、正社員有効求人倍率の分母である「パートタイムを除く常用の月間有効求職者」に派遣労働者や契約社員を希望する者も含まれるため、厳密な意味での値より低くなると自ら断っている。分子と分母で「正社員」の範囲が揃っていない
- 日本の令和6年賃金構造基本統計調査でいう「賃金」は、調査実施年6月分の所定内給与額である。時間外・深夜・休日出勤・宿日直・交替の各手当を差し引いた額で、賞与は含まない。集計対象は10人以上の常用労働者を雇用する民営事業所50,682事業所、一般労働者の男女計は月額330.4千円(男363.1千円/女275.3千円)
- 日本の令和6年雇用動向調査は5人以上の事業所約15,000を対象とし、入職率14.8%・離職率14.2%。入職者は同一企業内の他事業所からの転入者を除き、他企業からの出向者を含む。転職入職者は「入職前1年間に就業経験のある者」に限られ、1年以上働いていなかった人は入らない
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 47%の仕事が10〜20年でなくなる、と研究で確かめられている | 原文は「なくなる」ではなく「高リスクのカテゴリに入る」と書いている。期間も「特定されていない年数、おそらく10年か20年」という言い方で、論文自身が将来の職業構成の変化は予測していないと断っている。米国の702職業のうち70に著者らが手で札を付け、それを学習させた分類器で残りに確率を割り当てた推計である |
| 47%と9%は、どちらかが間違っている | どちらも実在する推計で、争ってもいない。職業を1件と数えれば米国の総雇用の47%、業務を1件と数えればOECD加盟21か国の平均で9%になる。値が5分の1になったのは、数える単位が変わったからである。ただし9%は21か国の平均であって、米国を単独で測り直した値ではない |
| 有効求人倍率を見れば、日本の労働市場の混み具合が分かる | この数字が数えているのは、公共職業安定所(ハローワーク)に出された求人と、そこに登録した求職者だけである。しかも正社員有効求人倍率は、分母にあたる求職者に派遣労働者や契約社員を希望する者も含まれると、統計を作っている側が注記で断っている |
統計には、ありがたい性質がある。名前が短いのだ。「求人倍率」「平均賃金」「離職率」——どれも三文字か四文字で、口に出しやすく、会話の途中で立ち止まらせない。中身のほうは、そうはいかない。ハローワークに登録した人だけ、6月ひと月ぶんの残業代抜き、5人以上の事業所で同じ会社の中の異動は除く。この長さを名前に入れたら、誰も引用しなくなるだろう。だから短いままにしてある。皮肉なのは、客観的であれと勧められて開く数字ほど、いちばん下の細字を読まないと、何を客観的に見たことになるのか分からない、というところである。
Q1. 2017年に Technological Forecasting and Social Change 114 へ出た推計は、米国の ____ の職業を対象とし、そのうち ____ の職業に著者らが手で札を付けて学習させた。結果は「総雇用の47%が ____ に入る」であって、「なくなる」ではない。穴埋め
Q2. 同じ問いを ____ を単位にして解き直したOECDの2016年の作業論文では、加盟 ____ か国の平均で自動化可能な仕事は ____ % だった。47%との差は予測の当たり外れではなく、数える単位の違いである。穴埋め
Q3. 日本の令和6年賃金構造基本統計調査でいう「賃金」は、調査実施年 ____ 月分の ____ である。時間外・深夜・休日出勤などの手当は差し引かれ、____ も含まれない。穴埋め
Q4. 日本の令和6年雇用動向調査で、同じ会社の別の事業所へ異動した人は「入職者」に数えられるか。定義の言葉を使って答えなさい。一問一答
Q5. 日本の「正社員有効求人倍率」について、統計を作っている厚生労働省自身が注記で断っているのはどれか。選択
関心のある職種か働き方について、公的機関が出している統計を1つ選んで開く。求人の統計でも、賃金の統計でも、人の出入りの統計でもよい。値のページではなく、調査の概要か用語の解説のページを探し、その統計が誰を数えているか——対象となる事業所の規模、対象となる人の範囲、いつの時点か——を、原文の言葉のまま1行だけ書き写す。書き写したら、その1行の横に「この範囲に自分は入っているか」を、入る・入らない・分からない、のどれかで書き添える。値はまだ見なくてよい。いま働いていない場合も、これから初めて働く場合も、同じ手順でできる——自分が入るかどうか分からなければ「分からない」と書けばよく、それも一つの結果である。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Frey C.B., Osborne M.A. (2017) 'The future of employment: How susceptible are jobs to computerisation?', Technological Forecasting and Social Change 114:254-280(作業論文版は2013年) — doi.org
- Arntz M., Gregory T., Zierahn U. (2016) 'The Risk of Automation for Jobs in OECD Countries: A Comparative Analysis', OECD Social, Employment and Migration Working Papers No.189 — doi.org
- Autor D.H. (2015) 'Why Are There Still So Many Jobs? The History and Future of Workplace Automation', Journal of Economic Perspectives 29(3):3-30 — doi.org
- 厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年6月分)について」(2026年7月31日公表、2026年8月閲覧) — www.mhlw.go.jp
- 厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査 結果の概況」(2026年8月閲覧) — www.mhlw.go.jp
- 厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概要」(用語の解説・調査の概要を含む、2026年8月閲覧) — www.mhlw.go.jp