初心者が身体を固めるのは、下手だからではない。関節が多すぎるからだ
初心者は身体を固める。肩をすくめ、脇を締め、手首をロックする。これを緊張のせいにするのは簡単だが、制御の側から見ると、まったく合理的な手だ。動かせる関節が多すぎるとき、いちばん安い解決は、動かせる数を減らすことである。上達とは、その封印を一つずつ解いていく作業のことだ。
見分けられるようになったものを、身体で作る
前の単位では、外の世界の差を取り出す精度を扱った。0.25秒で異常を言い当てる目、8時間で埋まる音の弁別閾、そして84%が別の会場では無賞だった金メダル。ここからは、その見分けたものを自分の身体で再現する側に移る。
最初に立ちはだかるのは、運動制御でもっとも古い問題である。関節が多すぎる、という問題だ。
自由度問題——身体は、課題に対して過剰である
ロシアの生理学者ニコライ・ベルンシュタインが1967年の著作で定式化した問題は、こう言い換えられる。腕を伸ばして一点に触れる、という単純な課題に対して、人体が持つ関節と筋の組み合わせは、必要な数をはるかに超えている。同じ点に触れる方法は、無数にある。制御する側から見れば、これは自由ではなく負担だ。選択肢が多すぎて、決まらない。
ベルンシュタインの提案は明快だった。運動技能の学習の第一段階は、余分な自由度を凍結することで特徴づけられる。関節を固め、動く方向を減らし、複数の関節をひとまとまりの塊として動かす。すると制御すべき変数の数が落ちる。そして練習が進むと、凍結された自由度が段階的に解放され、身体の各部の慣性や重力といった受動的な力を利用できるようになる。
稽古場の風景に翻訳すると、こうなる。初心者が肩をすくめ、脇を締め、手首をロックしているのは、緊張しているからではない——いや、緊張してもいるが、それ以上に、制御の負担を減らすための合理的な方略である。だから「力を抜け」という指示は、正確には「制御できる変数を増やせ」という要求であり、感覚の解像度が足りないうちは実行できない。前の二つの単位がここに効いてくる。
固める段階は、測定されている
この二段階は、実際に測られている。フェレイケン、ファン・エメリック、ホワイティング、ニューウェルが1992年に Journal of Motor Behavior で報告した、スキーシミュレーターを使った学習実験は、この分野の基準になった研究である。学習の初期には関節の可動範囲が小さく、練習後に大きくなる。そして初期には関節どうしの相互相関が高く——つまりまとめて動いていて——練習とともに下がっていった。凍結してから、解放する。
最近の例も一つ。ハフカンプ、カサノヴァ、ボーツマが2023年に Frontiers in Psychology で報告した実験は、24人の大学生が2人1組でボールと梁を操る課題に取り組む様子を追った。単独練習の経験を持たずにいきなり組んだペアは、試行時間の53%を凍結——相手が動くあいだ自分は止まる——に費やした。先に単独で練習した群では、凍結は27%まで下がり、互いに逆向きに同時に動く相補的な動きが試行時間の60%を超えた。
凍結は、下手さの症状ではない。負荷が高いときに誰でも取る手であり、負荷が下がると自然に減る。
共収縮は、下手なときに上がり、うまくいくと下がる
もう少し細かい層を見る。共収縮——ある関節をまたぐ拮抗する筋が同時に緊張する状態である。関節が固くなり、外乱に強くなるかわりに、エネルギーを食い、細かい修正が効かなくなる。いわゆる力みの正体の一つだ。
大須、フランクリン、加藤、五味、道免、吉岡、川人が2002年に Journal of Neurophysiology で報告した実験は、これを直接測っている。6人が、水平面内で普段とは違う曲線的な腕の軌道をなぞる課題を、96から120試行練習した。動作はおよそ0.5メートルを0.5秒である。
長期の変化ははっきりしていた。共収縮の指標は全体として下降し、肩では6人中5人、肘では6人中4人で試行数との有意な負の相関が出た。ここが重要なのだが、関節にかかるトルクの波形自体はほとんど変わっていない。同じ動きを、より少ない筋活動で作れるようになっていた。
そして短期の変化がもっと面白い。数試行の範囲で、成績が悪かった直後には共収縮が上がり、良かった直後には下がる。効果がもっとも強いのは動作の減速期だった。
稽古の実感と、これはよく合う。うまくいかないと固まる。固まるとさらにうまくいかない。ただしこれは悪循環ではなく、制御系の合理的な保険である——正確な指令が作れないあいだは、身体を固くして誤差の影響を抑えるほうが安全だ。著者たちの解釈もそこにある。学習が進むにつれ、中枢神経系は筋の粘弾性と反射に頼る割合を減らし、学習された内部モデルによる先読みの割合を増やす。
ついでに範囲を切っておく。健康の棚で扱う運動——体力や健康のための運動——とは別物である。あそこで問題になるのは量と強度だ。ここで問題になるのは、同じ動作をどれだけ少ない緊張で作れるかという、質の話である。
ここで値切る:「筋肉が覚える」は、二つの別の話を混ぜている
練習をめぐる言い回しで、もっとも広く流通し、もっとも雑に使われているのが「マッスルメモリー」である。この一語は、まったく別の二つの現象を指している。
一つめ。技の記憶は、筋肉ではなく神経系にある。ミュールバッハーらが2002年に Nature で報告した実験が、これを直接示した。参加者に素早い指の運動を練習させ、加速と力の発揮が急速に改善したところで、一次運動野に低頻度の反復経頭蓋磁気刺激を当てる。すると、練習で得た改善の保持だけが選択的に壊れた。基礎的な運動、課題そのものの遂行、その後の練習による学習、すでに獲得済みの技能の想起——いずれも影響を受けなかった。壊れたのは、新しく学んだものが定着する過程だけである。筋肉には一切触れていない。
二つめ。筋肥大には、たしかに筋の側の記憶らしきものがある。グンダーセンが2016年に Journal of Experimental Biology でまとめた筋核仮説がそれだ。未訓練の筋線維は、太くなる前に衛星細胞から筋核を取り込む。いったん取り込まれた筋核は、その後ひどく萎縮しても保持される。総説によれば、ヒトの筋核は少なくとも15年は安定で、永続的である可能性さえある。除神経の実験では、筋線維の体積が50%以上失われても筋核の数は変わらなかった。後肢懸垂からの再負荷では、新たな筋核を動員せずに60%の径の成長が起きている。
この二つは、まったく別の話である。前者は技の記憶、後者は太さの記憶だ。前者の座は脳と脊髄にあり、後者の座は筋線維の中にある。「筋肉が覚えているから、久しぶりでも身体が動く」という言い方は、二つを取り違えている。久しぶりでも動くのは神経系が覚えているからで、久しぶりでも太くなりやすいのは筋核のほうかもしれない、というのが正確な言い方になる。
しかも、二つめには論争がある。ダンガンらが2019年に American Journal of Physiology: Cell Physiology で報告したマウスの実験では、8週間の漸増負荷輪回し訓練のあと12週間の脱訓練を行うと、足底筋の筋核は減り、未訓練の表現型に戻った。筋核が永続するという主張は、少なくとも普遍的ではない。
芸道の読者にとっての実用的な帰結は、簡単だ。技の維持と、身体の維持は、別々に管理する必要がある。
時間・変化:凍結から解放への道筋は、思ったより検証が薄い
凍結してから解放する、という物語は、あまりに座りがいいので、教科書的な定説として扱われがちである。在庫を確認しておこう。
ギマランイスらが2020年に Motor Control に発表した系統的総説は、同じ種類・同じ目的の技については一貫した結果が得られていると評価しつつ、この主題を扱った研究の数が限られ、多くは設計が不揃いであることを指摘している。さらに、脳卒中後の全身協調の発達を扱った2023年のスコーピングレビューでは、1,086件の候補から条件を満たしたのは5研究だけで、そのうち動きの変動性を測っていたのは3研究。観察の内訳は、凍結から解放への移行を支持するものが2つ、支持しないものが2つだった。著者らは、この過程が脳卒中後に当てはまるかどうかは確認も否定もできないと結論している。
時間軸で言えば、凍結から解放までにかかる期間そのものが、まだきれいに測られていない。分かっているのは順序であって、日数ではない。だから自分の稽古を評価するときも、「何週間で解放されるはずだ」という基準は持たないほうがいい。持つべきなのは方向だけである——同じ動作が、より少ない緊張と、より広い可動で作れるようになっているか。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるのは、力みを人格の問題として扱うことだ。共収縮は、成績が悪かった直後に上がる。つまり順序としては、失敗が先で、力みが後である。力むから失敗するのではなく、失敗したから固くなる場面のほうが、たぶん多い。
もうひとつは、全部の自由度を一度に解こうとすることだ。ベルンシュタインの筋書きは、段階的な解放である。一度に一つ返す。
標本の断りを入れておく。ここで引いた研究は欧米の実験室と小標本に偏っている。腕の共収縮の実験は6人、ペアの協調は24人、脳卒中後のレビューは5研究しかない。筋核の議論はヒトとげっ歯類のデータが混在し、結論が割れている。向きは信用してよいが、数字をそのまま自分に当てはめる根拠はない。
助けるのは、外側から順に解くことだ。多くの技で、握り・手首・肩・顎は、課題の要求に対して過剰に固められている。まずそこを一つだけ返して、動作が壊れるかどうかを見る。壊れないなら、その緊張は不要だったということになる。
最初の一歩は10分。今日の構えを1枚だけ写真に撮る。撮る前に、自分がいちばん固めていると思う関節を一つ書いておく。撮ったあと、実際に固まって見える箇所に印を一つだけつける。予想と実物が一致するかどうかが、前の単位で測った感覚の精度の、そのまま答え合わせになる。
次の単位は068「タイミング精度」。関節を解いたあとに残る問題は、いつ動くかだ。人はメトロノームに合わせて叩くとき、平均して先に叩く。そのずれの大きさと、それが何を意味するのかを見る。
- Bernstein 1967(The Co-ordination and Regulation of Movements):人体の関節と筋の組み合わせは課題の要求に対して過剰であり、運動学習の第一段階は余分な自由度を凍結することで特徴づけられる。練習が進むと凍結が段階的に解放され、慣性や重力などの受動的な力を利用できるようになる
- Vereijken et al. 1992(Journal of Motor Behavior):スキーシミュレーターの学習で、関節の可動範囲は学習初期に小さく練習後に大きくなり、関節どうしの相互相関は初期に高く練習とともに低下した。凍結してから解放するという二段階が測定された
- Hafkamp, Casanova & Bootsma 2023(Frontiers in Psychology・24人):単独練習の経験なしに組んだペアは試行時間の53%を凍結(相手が動くあいだ自分は止まる)に費やしたが、先に単独練習した群では凍結が27%に下がり、相補的な同時運動が試行時間の60%を超えた
- Osu et al. 2002(Journal of Neurophysiology・6人、96〜120試行):共収縮の指標は練習とともに低下し、肩で6人中5人、肘で6人中4人が試行数と有意な負の相関を示した。関節トルクの波形はほぼ同一のまま筋活動だけが減った。数試行の短期では、成績が悪かった直後に共収縮が上がり、良かった直後に下がる(効果は減速期で最も強い)
- Muellbacher et al. 2002(Nature):一次運動野への低頻度反復経頭蓋磁気刺激は、練習で得た改善の保持だけを選択的に妨げ、基礎的運動・課題遂行・その後の練習による学習・既得技能の想起には影響しなかった。技の記憶は筋ではなく中枢神経系にある
- Gundersen 2016(Journal of Experimental Biology):筋核仮説では、未訓練の筋線維は肥大に先立って衛星細胞から筋核を取り込み、その後ひどく萎縮しても筋核は保持される。ヒトの筋核は少なくとも15年安定で、除神経では線維体積が50%以上失われても筋核数は不変、再負荷では新規の筋核なしに60%の径成長が起きた
- Dungan et al. 2019(American Journal of Physiology: Cell Physiology):マウスで8週間の漸増負荷輪回し訓練後に12週間の脱訓練を行うと、足底筋の筋核は減少し未訓練の表現型に戻った。筋核が永続するという主張は普遍的ではなく、論争が続いている
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 初心者が身体を固めるのは、緊張しているか下手だからだ | 関節と筋の組み合わせは課題の要求に対して過剰である。凍結は制御すべき変数の数を減らす合理的な方略で、負荷が下がれば自然に減る。単独練習の経験なしに組んだペアは試行時間の53%を凍結に費やしたが、先に単独練習した群では27%に下がった |
| 力むから失敗する | 6人の腕の運動学習では、数試行の範囲で、成績が悪かった直後に共収縮が上がり、良かった直後に下がった。順序としては失敗が先で力みが後である。正確な指令が作れないあいだ身体を固くするのは、制御系の合理的な保険にあたる |
| マッスルメモリーがあるから、久しぶりでも筋肉が動きを覚えている | この一語は二つの別の現象を混ぜている。技の記憶は中枢神経系にあり、一次運動野への磁気刺激は新しく学んだ改善の保持だけを選択的に壊した。一方、筋肥大には筋核仮説という別の話があるが、こちらはマウスで脱訓練後に筋核が減るという反証もあり論争中である。技の維持と身体の維持は別々に管理する必要がある |
「力を抜け」という指導は、たいてい二重に不親切である。第一に、抜くべき力は本人には小さく感じられている。第二に、抜けと言われた自由度は、本人が制御を諦めた代わりに封じたものなので、封を解けばその瞬間だけ動作は悪くなる。つまり正しい助言に従うと、まず下手になる。稽古場で「昔のほうがうまかった気がする」と言い出す人が定期的に現れるのは、たぶんこれが理由の一つだ。固めるのをやめた人は、一度だけ、確実に下手になる。やめなかった人は、ずっと同じ上手さでいられる。
Q1. ベルンシュタインの自由度問題と、それに対する運動学習の筋書きを、正しい順に並べよ。(凍結を段階的に解放し、慣性や重力などの受動的な力を利用する / 余分な自由度を凍結して制御すべき変数を減らす / 関節と筋の組み合わせが課題の要求に対して過剰で、同じ結果を出す方法が無数にある / 練習が進む)並べ替え
Q2. Hafkamp ら(2023)の24人の実験では、単独練習の経験なしに組んだペアは試行時間の____%を凍結に費やしたが、先に単独練習した群では____%にとどまり、相補的な同時運動が試行時間の____%を超えた。穴埋め
Q3. Osu ら(2002)の実験が示した共収縮の長期変化と短期変化を、数値を含めて答えよ。一問一答
Q4. 本文が「マッスルメモリー」という一語を二つに割った理由として、正しい組み合わせはどれか。選択
Q5. 凍結から解放への移行の証拠について、脳卒中後を対象としたスコーピングレビューでは、____件の候補から条件を満たしたのは____研究のみで、運動の変動性を測っていたのは____研究、観察の内訳は支持が____、不支持が____だった。穴埋め
今日の練習や作業で、自分の構え(または動作の途中の一瞬)を写真に1枚だけ撮る。自撮りタイマーでも、誰かに撮ってもらってもよい。撮る前に、自分がいちばん固めていると思う関節を1つだけ紙かメモに書いておく(例:右肩/手首/顎)。撮ったあと、写真の中で実際に固まって見える箇所に印を1つだけつける。予想と一致したかどうかを一言添える。動画は撮らない——1枚だけにする。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
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- Bernstein N.A. (1967) 'The Co-ordination and Regulation of Movements', Pergamon Press/同定式化の記述は Hafkamp M.S.J., Casanova R., Bootsma R.J. (2023) 'Freezing and freeing of degrees of freedom in joint action learning', Frontiers in Psychology 14:1287148 による — www.frontiersin.org
- Vereijken B., van Emmerik R.E.A., Whiting H.T.A., Newell K.M. (1992) 'Free(z)ing degrees of freedom in skill acquisition', Journal of Motor Behavior 24(1):133-142/結果の記述は Gray R. (2020) Frontiers in Psychology 11:1295 による — www.frontiersin.org
- Hafkamp M.S.J., Casanova R., Bootsma R.J. (2023) 'Freezing and freeing of degrees of freedom in joint action learning', Frontiers in Psychology 14:1287148 — doaj.org
- Osu R., Franklin D.W., Kato H., Gomi H., Domen K., Yoshioka T., Kawato M. (2002) 'Short- and long-term changes in joint co-contraction associated with motor learning as revealed from surface EMG', Journal of Neurophysiology 88(2):991-1004 — bicr.atr.jp
- Muellbacher W., Ziemann U., Wissel J., et al. (2002) 'Early consolidation in human primary motor cortex', Nature 415(6872):640-644 — www.nature.com
- Gundersen K. (2016) 'Muscle memory and a new cellular model for muscle atrophy and hypertrophy', Journal of Experimental Biology 219(2):235-242 — journals.biologists.com
- Dungan C.M., Murach K.A., Frick K.K., et al. (2019) 'Elevated myonuclear density during skeletal muscle hypertrophy in response to training is reversed during detraining', American Journal of Physiology: Cell Physiology 316(5):C649-C654 — pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- Guimarães A.N., Ugrinowitsch H., Dascal J.B., Porto A.B., Okazaki V.H.A. (2020) 'Freezing Degrees of Freedom During Motor Learning: A Systematic Review', Motor Control 24(3):457-471/および Brain Sciences 13(12):1713 (2023) 'Do Bernstein's Stages of Learning Apply after Stroke? A Scoping Review' — www.mdpi.com