「ルールは多いほど安全」——だが負担だけのレッドテープは逆効果。数でなく機能で、赤を緑に張り替える
不祥事のたびにルールが足され、規程集は分厚くなる一方だ。だが厚い規程集は、安全の厚みだろうか。研究が示すのは、多さは安全ではないということ。守るコストばかりで目的を果たさないルール——レッドテープ——は、無駄なだけでなく、人を組織から遠ざけ逆効果にもなる。大事なのは数でなく機能だ。この単位は、規程を減らせという話ではなく、赤いルールを緑に張り替える見方を渡す。
前の単位から、この単位へ
前の単位では、不祥事の原因を、個人でなく仕組みに探ることを扱った。ここでは、その直後に起きがちな反射——「わかった、ならルールを足そう」という反応を、いったん見直すことを扱う。何かあるたびに規程を一条ずつ増やしていくと、規程集はどんどん分厚くなる。だが、厚い規程集は、安全の厚みだろうか。
不祥事が起きると、再発防止として新しいルールが足される。次の問題が起きると、また足される。ルールを足すのは、目に見える対応で、上にも外にも「手を打った」と示しやすい。こうして規程は積み上がる一方で、減ることはめったにない。減らして何かあったら責められるが、増やして無駄になっても責められない——その非対称が、規程を太らせ続ける。「ルールは多いほど安全」——そう考えたくなる。だが、この単位が立てる見方はこうだ——多さは、安全ではない。効くルールを設計できているかが、安全を分ける。 ここでほどく言葉を置く。レッドテープとは、守る手間ばかりかかって、本来の目的にはつながっていない、負担だけのルールのこと。グリーンテープとは、その逆——ちゃんと目的につながって効いている、良いルールのことだ。規程を減らせという話ではない。赤いテープを、緑のテープに張り替える——それが、この単位の見方である。
「多いほど安全」——だが、レッドテープが生まれる
Bozeman が1993年に、政府のレッドテープという現象を理論として整理した(もともとは役所の非効率を指す言葉の、学術的な立て直しである)。彼の見方の芯は、レッドテープとは「守るコストはかかるのに、本来の目的を果たしていないルール」だ、という点にある。ルールが悪いのは、多いからでも、厳しいからでもない。手間に見合う機能がないから悪いのだ。
この見方は、規程が悪だと言っているのではない。多くのルールは、ちゃんと目的を果たしている。問題は、目的を見失ったまま、手間だけが残ったルールだ。制定した当初は意味があっても、事情が変わり、なぜそうするのか誰も説明できなくなっても、手続きだけが生き延びる。そういうルールが、赤くなる。
Pandey と Scott が2002年に、このレッドテープという概念と、その測り方をめぐる研究を総覧し、言葉が人によってばらばらに使われてきたことを整理して、「負担があるか」と「機能しているか」を分けて捉える必要を示した。ここが勘所だ。ルールの良し悪しは、量では測れない。同じ一条でも、目的につながっていれば緑、つながっていなければ赤。だから、規程集の分厚さを見ても、その組織が安全かどうかは分からない。分厚くても緑ばかりの組織もあれば、薄くても赤だらけの組織もある。問うべきは「ルールが何本あるか」ではなく、「その一本一本が、何のために効いているか」である。数を誇るのも、数を憎むのも、どちらも的を外している。
負担的ルールは、逆効果になる
赤いルールは、ただ無駄なだけではない。積極的に、害をなす。DeHart-Davis が2005年に、ルールの機能不全を感じている管理者ほど、組織から心が離れていく(疎外される)傾向があることを示した。守っても意味がないと感じるルールに囲まれると、人は真面目に従う気を失い、組織そのものへの信頼も薄れる。ルールで縛るほど、皮肉にも、規律の土台になる信頼が痩せていく。
さらに、レッドテープの感じ方は、中身だけでは決まらない。Kaufmann と Feeney が2014年に、同じ手続きでも、結果が自分にとって良いか悪いかで、それをレッドテープと感じる度合いが変わることを示した。うまくいったときは気にならない手続きも、望まぬ結果が出たとたん「あの無駄なルールのせいだ」と見える。同じ承認手続きでも、案件が通れば「必要な確認」、落ちれば「余計な障害」に見える、というわけだ。だから「現場がうるさく言うルールを削る」だけでは足りない。声の大きさは、結果への不満と混ざっているからだ。逆に、静かに守られている効くルールは、誰も褒めないので、見直しのときに軽んじられやすい。削るべきは、感情ではなく、機能で見極めた赤いルールである。
効くルール=グリーンテープには、条件がある
では、緑のルールとは何か。DeHart-Davis が2009年に、効くルール=グリーンテープの条件を整理した。それは、おおむね五つ——きちんと書かれている(書面化)/緩すぎず厳しすぎない適度な統制/誰にでも一貫して適用される/読めば理解できる/そして何より、目的とはっきりつながっている。この五つが揃うと、ルールは負担ではなく、支えになる。迷ったときの拠りどころになり、判断の速さも上がる。良いルールは、縛るためではなく、迷わせないためにある。
とりわけ効くのが、最後の一つ——目的とのつながりだ。人は、なぜそうするのかが腑に落ちれば、多少の手間でも進んで守る。逆に、理由の見えないルールは、隙あらば省かれる。だから、ルールに「何のために」を一言添えるだけで、同じ手続きが、押しつけから納得に変わることがある。
裏返せば、赤いルールは、このどこかが欠けている。誰も読めない、人によって運用がぶれる、そもそも何のためか誰も言えない——そういうルールだ。だから、ルールを見直すときの問いは、「これは要るか、要らないか」の二択ではない。「これは緑にできるか」である。目的を書き添える、例外をなくして一貫させる、言葉を平たくする——赤かった一条が、緑に変わることは多い。捨てるより、直すほうが、たいてい実りが大きい。捨てると、また同じ穴が開いたとき、ゼロから作り直すことになる。直せば、効き目を取り戻したうえで、積み上げた経験も残る。
レッドかグリーンかは、測れる
「機能で見極めよ」と言われても、感覚では心もとない。だが、これは測れる。van Loon たちが2016年に、レッドテープを「守る負担」と「機能の欠如」という二つの物差しで測る方法を作り、確かめた。負担が重く、機能が乏しいものが、赤。負担があっても機能していれば、それは赤ではない。この二軸で一本一本を見ると、感情や声の大きさに流されずに、赤と緑を仕分けられる。
大切なのは、負担そのものが悪ではないということだ。手間のかかるルールでも、それが本当に効いているなら、その手間は必要な手間だ。二重チェックは面倒だが、それで防げている事故があるなら、その面倒は緑の面倒である。逆に、負担が軽くても、何の役にも立っていないルールは、静かな赤である。軽いから、と見逃されて残りやすい。塵も積もれば、軽い赤が何十本と重なって、組織全体を鈍くする。だから点検の目は、「重いかどうか」ではなく、いつも「効いているかどうか」に置く。重い緑は残し、軽い赤も見逃さない——これが、数でなく機能で見るということだ。
時間・変化:1993年から今へ
順に置く。1993年、Bozeman がレッドテープを「コストはかかるが目的を果たさないルール」として理論化する。2002年、Pandey と Scott が、負担と機能を分けて捉える必要を整理する。2005年、DeHart-Davis が、機能不全のルールが人を組織から疎外することを示す。2009年、同じ DeHart-Davis が、効くルール=グリーンテープの条件を整理し、2014年、Kaufmann と Feeney が、レッドテープの感じ方が結果の良し悪しでも変わることを示す。2016年、van Loon たちが、負担と機能不全の二軸で測る尺度を確かめる。
この間に確からしくなったのは、「ルールは多いほど安全」という因果ではない。確からしくなったのは、ルールの価値は数でなく機能で決まり、負担的なルールは逆効果にもなり、効くルールには設計の条件がある——という、より込み入った事実である。研究の舞台は主に役所だが、規程が目的を見失えば逆効果になるという構造は、数人の会社の手順書にも、家業の決まりごとにも、同じように当てはまる。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、「増やす」だけが対策に見えることである。何かあったとき、ルールを一条足すのは、手軽で、やった感がある。減らすのは、誰かの決定を否定するようで、勇気が要る。過去に誰かが良かれと作ったルールを外すには、その人の顔が浮かぶ。だから規程は増え続け、いつしか誰も全部は読めない厚さになる。読めないルールは、守れないルールだ。守れないルールが増えるほど、守らないことが普通になり、前の単位で見た常態化の土壌にもなる。ルールが多すぎて守れない組織は、規律がゆるいのではなく、規律を守れなくしているのだ。もう一つの妨げは、うるさく言われた順に削ること。声の大きさは、機能の低さとは別物である。
助けになるのは、自分の会社の規程を一つ選んで、赤か緑かを採点してみることだ。最初の一歩は10分。手元の規程・ルール・手順を一つ取り、三つだけ問う——「これは何のため?(目的とつながっているか)」「読めば分かる?(理解できるか)」「みんな同じように守っている?(一貫しているか)」。三つとも○なら緑。どれかが×なら、そこが赤くしている場所だ。捨てる前に、その×を○に直せないかを考える。ルールの多さでなく、効き目で、自分の規程を見直す。 それが、赤を緑に張り替える最初の一歩になる。ルールは、増やすより、効かせるものだ。
次の単位は 555「現場が自ら律するには?」——ルールを緑に整えたうえで、その運用を現場の自己点検に委ねられるのか、という話へ進む。
- この単位はSTEP3(橙・運用と検証)で、中心命題はルールの多さは安全でなく効くルールを設計できているかが安全を分けること。レッドテープは守る手間ばかりで本来の目的につながらない負担だけのルール、グリーンテープは目的につながって効いている良いルール。規程を減らせでなく、赤いテープを緑のテープに張り替える
- Bozeman 1993はレッドテープを守るコストはかかるのに本来の目的を果たしていないルールとして理論化した(役所の非効率の学術的立て直し・由緒)。ルールが悪いのは多いからでも厳しいからでもなく手間に見合う機能がないから。Pandey & Scott 2002はレッドテープの概念と測り方を総覧し、負担があるかと機能しているかを分けて捉える必要を示した。問うのはルールが何本あるかでなく一本一本が何のために効いているか
- 負担的ルールは逆効果になる。DeHart-Davis 2005はルールの機能不全を感じる管理者ほど組織から心が離れる(疎外される)傾向を示し、守っても意味がないルールに囲まれると人は従う気を失い組織への信頼も薄れる。縛るほど規律の土台になる信頼が痩せる。研究は主に公的部門で、中小・民間・家業に読み替え断定転用しない
- レッドテープの感じ方は中身だけで決まらない。Kaufmann & Feeney 2014は同じ手続きでも結果が自分にとって良いか悪いかでレッドテープと感じる度合いが変わることを示した。望まぬ結果が出たとたんあの無駄なルールのせいだと見える。だから現場がうるさく言うルールを削るだけでは足りず、声の大きさは結果への不満と混ざっている。削るべきは感情でなく機能で見極めた赤いルール
- 効くルール=グリーンテープには条件がある。DeHart-Davis 2009はおおむね五つ——きちんと書かれている(書面化)/緩すぎず厳しすぎない適度な統制/誰にでも一貫して適用/読めば理解できる/目的とはっきりつながる——を整理した。赤いルールはこのどこかが欠けている。だから見直しの問いは要る/要らないの二択でなくこれは緑にできるかで、捨てるより直すほうがたいてい実りが大きい
- レッドかグリーンかは測れる。van Loon ら 2016はレッドテープを守る負担と機能の欠如という二つの物差しで測る方法を作り確かめた。負担が重く機能が乏しいものが赤で、負担があっても機能していれば赤ではない。負担そのものは悪でなく、手間がかかっても効いているならその手間は必要。負担が軽くても役に立たないルールは静かな赤で見逃され残りやすい。点検の目は重いかでなく効いているかに置く
- 確からしくなったのはルールは多いほど安全という因果でなく、ルールの価値は数でなく機能で決まり負担的ルールは逆効果にもなり効くルールには設計条件があるという事実。1993年Bozeman、2002年Pandey&Scott、2005年DeHart-Davis、2009年DeHart-Davis、2014年Kaufmann&Feeney、2016年van Loonの順。だからこの単位でやるのは、自分の規程を一つ選び、目的とつながるか・読めば分かるか・みな同じように守っているかの三つで採点し赤か緑かを見分けることである
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| ルールは多ければ多いほど、抜け漏れがなくなって安全になる | 多さは安全ではない。Bozeman 1993はレッドテープを守るコストはかかるのに本来の目的を果たしていないルールとして理論化し、ルールが悪いのは多いからでも厳しいからでもなく手間に見合う機能がないからだと示した。Pandey & Scott 2002は負担があるかと機能しているかを分けて捉える必要を示した。問うべきはルールが何本あるかでなく一本一本が何のために効いているかで、数を誇るのも憎むのもどちらも的を外している |
| 無駄に思えるルールでも、あるだけなら害はない。念のため残しておけばよい | 赤いルールは無駄なだけでなく積極的に害をなす。DeHart-Davis 2005はルールの機能不全を感じる管理者ほど組織から心が離れる(疎外される)ことを示し、守っても意味がないルールに囲まれると従う気が失せ組織への信頼も薄れる。縛るほど規律の土台になる信頼が痩せる。負担が軽くても役に立たないルールは静かな赤で、軽いからと見逃されて残りやすい。点検の目は重いかでなく効いているかに置く |
| どのルールを削るかは、現場からうるさく言われた順に決めればよい | Kaufmann & Feeney 2014は同じ手続きでも結果が自分にとって良いか悪いかでレッドテープと感じる度合いが変わることを示した。現場の声の大きさは結果への不満と混ざっていて、機能の低さとは別物である。声の順に削ると効いているルールまで削りかねない。削るべきは感情でなく機能で見極めた赤いルールで、DeHart-Davis 2009のグリーンテープの条件(書面化・適度な統制・一貫適用・理解可能・目的との連結)に照らし、要る/要らないでなく緑にできるかを問う |
皮肉なのは、何かあったときにルールを一条足すのが、いちばん手軽で、いちばんやった感がある、ということである。減らすのは、誰かの決定を否定するようで勇気が要る。だから規程は増え続け、いつしか誰も全部は読めない厚さになる。読めないルールは、守れないルールだ。だが、ルールの価値は数では決まらない。守るコストばかりで目的を果たさないレッドテープは、無駄なだけでなく、真面目に従う気を削ぎ、規律の土台になる信頼まで痩せさせる。しかも赤の感じ方は、結果の良し悪しでも揺れる。効くルール=グリーンテープには、目的とのつながりをはじめとする設計の条件があり、負担そのものは悪ではない——効いていない負担が悪なのだ。分厚い規程集が安全を約束しているように見えるとき、たいていそれは、まだ誰も、その一本一本を、負担と機能に分けて確かめていないだけかもしれない。この単位は、ルールを捨てさせる単位ではない——数でなく機能で見極め、赤を緑に張り替える目を持つための単位である。次の単位は 555「現場が自ら律するには?」——ルールを緑に整えたうえで、その運用を現場の自己点検に委ねられるのか、という話へ進む。
Q1. この単位の中心命題——ルールの ____ は安全ではない。守るコストばかりで目的を果たさないルールを ____、目的につながって効くルールを ____ と呼び、赤を緑に張り替える。穴埋め
Q2. Bozeman 1993 と Pandey & Scott 2002 に基づく『レッドテープ』の捉え方として正しいものはどれか。選択
Q3. 『現場がうるさく言うルールを削れば、規程はよくなる』という考えに対し、DeHart-Davis 2005 と Kaufmann & Feeney 2014 から言える注意を述べよ。一問一答
Q4. DeHart-Davis 2009 の『グリーンテープ』の条件を挙げ、ルール見直しの問いがどう変わるかを述べよ。一問一答
Q5. この単位が扱った事柄を、年の早い順に並べよ。(ア)DeHart-Davis がグリーンテープの条件を整理する(イ)Bozeman がレッドテープを理論化する(ウ)van Loon らが二軸で測る尺度を確かめる(エ)Pandey と Scott が負担と機能を分ける必要を整理する並べ替え
紙かメモアプリに今日の日付を書く。次に、自分の手元にある規程・ルール・手順を一つ選ぶ(決裁のルール、経費の手順、頒布や受発注の取り決めなど、自分が関わるものでよい)。そのルールについて、三つを○×で採点する——(1) これは何のためか、目的とはっきりつながっているか、(2) 読めば理解できるか(曖昧・難解でないか)、(3) 誰にでも一貫して適用されているか(人や場合でぶれていないか)。三つとも○なら緑(効くルール)。どれかが×なら、そこが赤くしている場所。最後に、×だった項目を○に直すとしたら何をどう変えるかを一言書く(目的を書き添える、例外をなくす、言葉を平たくする、など)。ルールを捨てる判断は今はしない。他人を評価・監視する用途には使わず、自分の規程だけで完結させる。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Bozeman B. (1993) ‘A Theory of Government Red Tape’, Journal of Public Administration Research and Theory 3(3):273-303 — doi.org
- Pandey S.K., Scott P.G. (2002) ‘Red Tape: A Review and Assessment of Concepts and Measures’, Journal of Public Administration Research and Theory 12(4):553-580 — doi.org
- DeHart-Davis L. (2005) ‘Red Tape and Public Employees: Does Perceived Rule Dysfunction Alienate Managers?’, Journal of Public Administration Research and Theory 15(1):133-148 — doi.org
- DeHart-Davis L. (2009) ‘Green Tape: A Theory of Effective Organizational Rules’, Journal of Public Administration Research and Theory 19(2):361-384 — doi.org
- Kaufmann W., Feeney M.K. (2014) ‘Beyond the Rules: The Effect of Outcome Favourability on Red Tape Perceptions’, Public Administration 92(1):178-191 — doi.org
- van Loon N.M., Leisink P.L.M., Knies E., Brewer G.A. (2016) ‘Red Tape: Developing and Validating a New Job-Centered Measure’, Public Administration Review 76(4):662-673 — doi.org