「リリースを打てば載る」——だが載っても、書かれるのはあなたの言葉ではなく記者の言葉だ
報道の多くがPR素材でできていると知った人ほど、「では数を打てば載る」と考えてしまう。だが報道現場がPRに頼っているのは、あなたを助けたいからではなく、自前で取材する余裕を失っているからだ。頼られているのは、すでに整った大手の配信であって、机の上に積み上がる無数のリリースではない。しかも、運よく載っても、書かれるのはあなたの言葉ではなく、記者の言葉である。
報道される会社になるとは、何を指すのか
前の単位で、記者との関係の効き目と限界が手に入った。それを、実際にリリースや素材が、どう報道に載る(載らない)のかへ進める。
まず言葉をほどく。リリースとは、会社が報道機関に向けて出す、公式のお知らせのこと。俗説は言う——「リリースを打てば、載る」。この単位が見るのは、その「載る」が、何によって決まるかだ。手がかりになるのが、チャーナリズム(churnalism)——報道の相当な部分が、実は広報の素材や通信社の配信を、あまり手を加えずに流し込んで作られている、という現象である。評判を背負うのは広報担当だけではない。地元紙に取り上げてほしい店主も、業界メディアに載りたい個人事業主も、初めてリリースを書く代表も、ここに立つ。あらかじめ断っておく——チャーナリズムは、「だから素材を流し込めば載る」という攻略法ではない。 それは報道現場が置かれた厳しい事情の話であって、あなたのリリースが載る保証ではない。この単位はリリースの文例も丸写しでは渡さないし、工作の手口も書かない。言うことは三つ。報道されるとは何を指すのか、リリースを打つとどこまで載ると確かめられているのか、その範囲の外で何が起きるか。
「リリースを打てば載る」の裏——報道の相当部分はPR発である
まず、一面では本当の部分から。LewisとWilliams、Franklinが2008年に『A Compromised Fourth Estate?』(Journalism Studies 9(1):1-20) で英国の報道を調べたところ、新聞記事のかなりの部分が、広報の素材や通信社の配信に由来していた。 つまり「素材を出せば、それが記事になる」ことは、確かに起きている。
だが、ここを取り違えてはいけない。これは「だからリリースを流し込めば載る」という話ではない。彼らがこの現象を問題として報告したのは、報道の現場が、人手不足とコスト削減のなかで、自前で取材する余裕を失っているという、報道側の厳しい事情の表れだからだ。記者一人あたりが受け持つ記事は増え、一本にかけられる時間は減り、外から届く整った素材に頼らざるをえない——チャーナリズムは、その苦しさの結果であって、広報のための便利な入口ではない。ここで橙の段の見方を当てておく——報道がPR素材に頼っているという構造は実在するが、それは「あなたの素材が使われる」ことを意味しない。頼られているのは、通信社や大手の、すでに整った配信であって、無数に届くリリースの一つひとつではない。むしろ、素材が溢れているからこそ、選ばれるのはごく一部で、大半は開かれもしない。だから、この構造を「攻略できる穴」として読むのは、二重に間違っている。
だが、載るかは編集の都合——報道の経済構造が決める
では、何が「載る素材」と「載らない素材」を分けるのか。同じ年にLewisとWilliams、Franklinが『Four Rumours and an Explanation』(Journalism Practice 2(1):27-45) で示したのは、何が報道されるかを規定しているのは、メディアの経済構造——コストと人手だ、ということだった。
JacksonとMoloneyが2016年に『Inside Churnalism』(Journalism Studies 17(6):763-780) で、広報と報道の力関係を内側から調べたときも、採用を決めるのは打ち手側ではなく、報道側の都合だった。ニュース価値があるか、その日の紙面や放送枠に空きがあるか、手を加えずに使えるほど整っているか——これらは、リリースを出す側には動かせない。だから「打てば載る」は、打ち手が載せられるのではなく、報道側の事情がたまたま合ったときに、載ることがある、という話にすぎない。載るかどうかは、あなたではなく、相手が決める。
リリースは載っても、書き換えられる
そして、たとえ載っても、原文どおりとはかぎらない。Pander Maatとde Jongが2013年に『How newspaper journalists reframe product press release information』(Journalism 14(3):348-371) で調べたのは、記者が製品リリースの情報を、どう書き換え、どう枠組みを取り替える(再フレーム化する)かだった。
Boumansが2018年に『Subsidizing The News?』(Journalism Studies 19(15):2264-2282) でリリースの影響を実測したときも、リリースは報道の議題や内容に一定の影響を持つ一方で、そのまま載るわけではなかった。記者は、会社が強調したい点を削り、会社が触れたくない点を補い、見出しを付け替える。つまり、「載る」ことと「意図どおりに伝わる」ことは、別である。 会社にとっての「いちばん言いたいこと」が、記者にとっての「いちばんのニュース」とはかぎらない。載った記事は、あなたの言葉ではなく、記者の言葉で書かれている。ときには、会社が「良い話」として出したリリースが、記者の手で「なぜ今これを発表したのか」という別の角度から書かれ、意図とはずれた記事になることさえある。これは記者が意地悪だからではなく、記者の仕事が、発表内容をそのまま伝えることではなく、それが読者にとって何を意味するかを自分の目で見極めることだからだ。だから、載せてもらう努力と同じだけ、どう書き換えられても困らない中身にしておく用意が要る。
誰の声が載るか——アクセスの偏り
もう一段、引いて見る。そもそも、どんな声が報道に届きやすいのか。Van Leuvenとその同僚が2014年に『Towards more balanced news access?』(Journalism 15(7):850-867) で、コスト削減とウェブの普及が報道へのアクセスをどう変えたかを調べたところ、誰の声が報道に載るかには、偏りがあった。
整った素材を安定して供給できる大きな組織の声は届きやすく、そうした余力のない小さな声は、届きにくい。これは、努力が足りないからではなく、報道の経済構造そのものが生む偏りだ。専属の広報がいて、いつでも取材に応じられ、写真もデータも揃っている——そういう相手のほうが、忙しい報道の現場には「使いやすい」。小さな商いが不利なのは、話の中身がつまらないからではなく、渡す形が整っていないことが多いからだ。だからこの単位は、「こうリリースを書けば、あなたも大きく報道される」とは言わない。言えるのは、載るかどうかは相手の都合で決まり、載っても書き換えられ、そもそもアクセスには構造的な偏りがある、という報道の側の事実までである。報道されることを、自分の努力だけで手に入る成果だと考えないほうがいい。裏を返せば、報道されないことも、あなたの価値が低いことの証明ではない。それは、しばしば構造の問題なのだ。
時間・変化:2008年から2018年へ
順に置く。2008年、LewisとWilliams、Franklinが、報道の相当部分がPR・通信社発であること、そしてそれが報道の経済構造(コスト・人手)に規定されることを、二本の論文で示す。2013年、Pander Maatとde Jongが、リリースが記者に再フレーム化されることを示し、2014年、Van Leuvenらが、報道へのアクセスの偏りを調べる。2016年、JacksonとMoloneyが広報と報道の力関係を、2018年、Boumansがリリースの影響を実測した。
この間に確からしくなったのは、「リリースを打てば載る」という約束ではない。確からしくなったのは、報道の相当部分はPR発だが、載るかは報道側の経済構造が決め、載っても書き換えられ、アクセスには構造的な偏りがある、という報道の側の事実である。載せるのは、あなたではなく、相手だ。この事実は、報道を諦める理由ではなく、力の入れどころを「数」から「核」へ移すための手がかりである。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、「報道はPR素材に頼っているのだから、数多く流し込めば載る」と考えることである。頼られているのは整った大手の配信であって、無数のリリースの一つではない。数を打つことは、載る確率を上げない。もう一つの妨げは、載ること自体をゴールにして、載った先で意図どおりに伝わるかを考えないことだ。載っても、書かれるのは記者の言葉である。
助けになるのは、リリースを「打つ」より、記者が再フレーム化しても崩れない核——誰に向けた、何が新しい話なのか——を、一つに絞っておくことである。会社が言いたいことを全部詰め込むと、記者はそこから好きに切り取る。核が一つに定まっていれば、どう切り取られても、その一点は残りやすい。加えて、その核が、書き手にとっても「これは読者にとって意味がある」と思える形になっていれば、削られる前に選ばれる可能性が上がる。自分の自慢ではなく、読む人の役に立つ一点は何か——そこを先に決めておくことが、数を打つより効く。
最初の一歩は、次の単位に進む前に、自分がいちばん伝えたいことを一つ選び、それを「誰に向けた、何が新しい話か」という一文の核に絞ってみること。装飾や自慢を削り、残る一点を探す。他社の報道をウォッチする必要はなく、自分の伝えたいことの核を、自分の手元で一文に絞るだけでよい。
次の単位は 492「憶測とデマに対処するには?」——狙って報道される話から、望まないのに広がる憶測やデマへの対処に進む。
- リリースとは会社が報道機関に向けて出す公式のお知らせ。手がかりはチャーナリズム(churnalism=報道の相当部分が広報素材や通信社配信をあまり手を加えず流し込んで作られる現象)。ただしチャーナリズムは素材を流し込めば載るという攻略法ではなく報道現場の厳しい事情の話で、この単位はリリースの文例丸写しも工作の手口も書かない
- LewisとWilliams・Franklin 2008『A Compromised Fourth Estate?』(Journalism Studies 9(1):1-20)は英国の新聞記事のかなりの部分が広報の素材や通信社の配信に由来することを示した。だからこれは流し込めば載るという話ではなく、報道の現場が人手不足とコスト削減で自前の取材の余裕を失っている表れで、頼られているのは通信社や大手の整った配信であって無数のリリースの一つではない
- 同年のLewisとWilliams・Franklin 2008『Four Rumours and an Explanation』(Journalism Practice 2(1):27-45)は、何が報道されるかを規定するのがメディアの経済構造(コストと人手)だと示した。JacksonとMoloney 2016『Inside Churnalism』(Journalism Studies 17(6):763-780)も採用を決めるのが打ち手側でなく報道側の都合だと示した。ニュース価値・紙面や枠の空き・整い具合は出す側には動かせない
- 打てば載るは打ち手が載せるのでなく、報道側の事情がたまたま合ったときに載ることがあるという話にすぎず、載るかどうかは相手が決める。数を打つことは載る確率を上げない。頼られているのは整った大手の配信であって無数のリリースの一つではないからである
- リリースは載っても原文どおりとはかぎらない。Pander Maatとde Jong 2013『How newspaper journalists reframe product press release information』(Journalism 14(3):348-371)は記者が製品リリースの情報を書き換え枠組みを取り替える(再フレーム化する)ことを調べた。Boumans 2018『Subsidizing The News?』(Journalism Studies 19(15):2264-2282)もリリースが報道に一定の影響を持つ一方でそのまま載るわけではないと実測した
- 記者は会社が強調したい点を削り触れたくない点を補い見出しを付け替える。だから載ることと意図どおりに伝わることは別で、会社にとっての一番言いたいことが記者にとっての一番のニュースとはかぎらない。載った記事は会社の言葉でなく記者の言葉で書かれている
- Van Leuvenら2014『Towards more balanced news access?』(Journalism 15(7):850-867)はコスト削減とウェブの普及のなかで誰の声が報道に載るかに偏りがあると示した。整った素材を安定供給できる大きな組織の声は届きやすく余力のない小さな声は届きにくい。これは努力不足でなく報道の経済構造が生む偏りで、報道されることを自分の努力だけで手に入る成果と考えないほうがよい
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 報道はPR素材に頼っているのだから、リリースを数多く打てば載る | チャーナリズム(報道の相当部分がPR素材・通信社配信でできている現象)は攻略法ではない。Lewisら2008が示したように、それは報道の現場が人手不足とコスト削減で自前の取材の余裕を失っている表れであり、頼られているのは通信社や大手の整った配信であって、無数に届くリリースの一つひとつではない。数を打つことは載る確率を上げない |
| きちんとしたリリースを出せば、あとは自社の望むとおりに記事になる | 載るかは報道側の経済構造(コストと人手)が決める。Lewisら2008・Jackson & Moloney 2016が示すように、ニュース価値・紙面や枠の空き・整い具合は出す側には動かせず、載るかどうかは相手が決める。さらにPander Maat & de Jong 2013・Boumans 2018が示すように、載っても記者が強調点を削り触れたくない点を補い見出しを付け替える。載ることと意図どおりに伝わることは別で、記事は記者の言葉で書かれる |
| 良いリリースを書きさえすれば、小さな会社でも大きく報道される | 報道されることを自分の努力だけで手に入る成果と考えないほうがよい。Van Leuvenら2014は、コスト削減とウェブの普及のなかで誰の声が報道に載るかに偏りがあることを示した。整った素材を安定供給できる大きな組織の声は届きやすく、余力のない小さな声は届きにくい。これは努力不足でなく報道の経済構造が生む偏りである。だからリリースは打つより、切り取られても崩れない核を一つに絞ることのほうが効く |
皮肉なのは、報道の多くがPR素材でできていると知った人ほど、「では数を打てば載る」と考えてしまうことである。だが報道現場がPRに頼っているのは、あなたを助けたいからではなく、自前で取材する余裕を失っているからだ。頼られているのは、すでに整った大手の配信であって、机の上に積み上がる無数のリリースではない。しかも、運よく載っても、書かれるのはあなたの言葉ではなく、記者の言葉である——強調したい点は削られ、触れたくない点は補われ、見出しは付け替えられる。載ることと、伝わることのあいだには、いつも記者の一手が挟まっている。だから、いちばん確かなのは、数を打つことでも、うまく飾ることでもなく、どう切り取られても崩れない、たった一つの核を持っておくことだ。
Q1. 「チャーナリズム(churnalism)」とは何か。この単位が「だから素材を流し込めば載る攻略法だ」と読ませないのはなぜか、報道現場の事情に触れて述べよ。一問一答
Q2. 同年のLewisら2008(Four Rumours)は、何が報道されるかを規定するのがメディアの ____ 構造(コストと人手)だと示した。Jackson & Moloney 2016も、採用を決めるのが打ち手側でなく ____ 側の都合だと示した。だから載るかどうかは ____ が決める。穴埋め
Q3. Pander Maat & de Jong 2013とBoumans 2018が示した「載った後」のこととして、この単位の説明に合うものはどれか。選択
Q4. Van Leuvenら2014を踏まえ、「報道されることを自分の努力だけで手に入る成果と考えないほうがよい」と言える理由を述べよ。一問一答
Q5. 報道の載り方をめぐる研究を、年の早い順に並べよ。(ア)Jackson & Moloneyが広報と報道の力関係を内側から調べる(イ)LewisらがPR発の割合と経済構造を示す(ウ)Boumansがリリースの影響を実測する(エ)Pander Maat & de Jongがリリースの再フレーム化を調べる並べ替え
紙かメモアプリに今日の日付を書く。次に、自分がいちばん世間や報道に伝えたいことを一つ選び、まず言いたいことを全部詰め込んだ形で三〜四文書く。続けて、そこから装飾・自慢・細かい説明を削り、「誰に向けた、何が新しい話なのか」という一点だけを残した一文に絞り直す。最後に、もしこの話が記者に切り取られたり見出しを付け替えられたりしても、この一文の核は残るかを自問し、残りにくければさらに絞る。数を打つことでも飾ることでもなく、どう切り取られても崩れない核を一つ持つことが目的である。他社の報道をウォッチする必要はなく、自分の伝えたいことの核を自分の手元で一文に絞るだけで完結させる。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
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- Lewis J., Williams A., Franklin B. (2008) ‘A Compromised Fourth Estate? UK news journalism, public relations and news sources’, Journalism Studies 9(1):1-20 — doi.org
- Lewis J., Williams A., Franklin B. (2008) ‘Four Rumours and an Explanation: A political economic account of journalists’ changing newsgathering and reporting practices’, Journalism Practice 2(1):27-45 — doi.org
- Jackson D., Moloney K. (2016) ‘Inside Churnalism: PR, journalism and power relationships in flux’, Journalism Studies 17(6):763-780 — doi.org
- Boumans J. (2018) ‘Subsidizing The News? Organizational press releases’ influence on news media’s agenda and content’, Journalism Studies 19(15):2264-2282 — doi.org
- Van Leuven S., Deprez A., Raeymaeckers K. (2014) ‘Towards more balanced news access? A study on the impact of cost-cutting and Web 2.0 on the mediated public sphere’, Journalism 15(7):850-867 — doi.org
- Pander Maat H., de Jong C. (2013) ‘How newspaper journalists reframe product press release information’, Journalism 14(3):348-371 — doi.org