「問い合わせは減らせば良い」——だが削減率は、直したのか隠したのかを区別しない
問い合わせは減らせば良い、費用が下がるのだから、と教わる。だが件数を下げる方法には、自分の側の案内を直して不要な問い合わせを減らすのと、窓口を見つけにくくして来るはずの声を来させないのがある。二つは意味が正反対なのに、削減率という数字の上では同じ減ったに見える。減らし方の質を見ずに件数だけを追うと、窓口を隠す方向に滑る。
前の単位では、顧客の声を集めて届けるという話を扱った。ここでは、その問い合わせの数そのものを減らすという発想が、どこで裏目に出るのかを扱う。
コンタクト削減——英語では contact deflection と呼ぶ。問い合わせが窓口に来る前に、よくある質問のページや自動応答で自己解決へ振り向け、人が受ける件数を減らす取り組みのことだ。件数が減ればコストが下がる。だからこの発想には、強い引力がある。だがこの単位で置く見方は一つ——問い合わせを減らすことと、顧客が満足することは、同じ方向を向くとはかぎらない。 削減そのものが悪いのではない。減らし方に質があり、その質を見ずに件数だけを追うと、窓口を隠して数字を下げる方向に滑る。
「減らせば良い」——だが削減と満足は、同じ方向を向かない
問い合わせの件数は、効率の指標である。少ない人数で多くをさばければ、一件あたりのコストは下がる。2007年、Aksin・Armony・Mehrotra が *Production and Operations Management* 16(6):665-688 で、電話窓口の運営研究を分野横断で総説し、効率とサービスの間にはトレードオフがあることを整理した。同じ人手で件数をさばこうとすれば、一件にかけられる時間や、つながりやすさは削られる。効率の指標を上げる操作の多くは、サービスの何かを差し出している。
ここで大事なのは、不要な問い合わせを減らすことと、必要な問い合わせをさせないことは、まったく別だという点だ。前者は、案内のわかりにくさや説明書の不備といった、自分の側の欠陥を直す作業である。後者は、窓口を見つけにくくして、来るはずの声を来させない操作である。件数はどちらでも下がる。下がった件数だけを見ると、この二つが見分けられなくなる。
強制されたセルフサービスは、態度を悪くする
自己解決の手段——よくある質問、自動応答、手続きの自動化——を用意すること自体は、多くの人にとって便利だ。問題は、それを選択肢として置くのか、唯一の道として強いるのかである。2008年、Reinders・Dabholkar・Frambach が *Journal of Service Research* 11(2):107-123 で、消費者にセルフサービスの利用を強制した場合の帰結を調べ、強制は、その手段そのものへの態度だけでなく、提供する側への態度まで悪くし、離れる意向につながりうることを示した。便利だから使う、と、他に道がないから使わされる、は、体験としてまるで別物である。
セルフの手段は、うまくいっている間は静かだが、つまずいたときに不満が跳ね上がる。2000年の Meuter・Ostrom・Roundtree・Bitner(*Journal of Marketing* 64(3):50-64)は、セルフサービスという接点で顧客が満足する場面と不満を抱く場面を調べており、失敗したときの不満が大きいことを記している(この原典は、次の段の自己解決設計そのものを扱う単位の持ち場なので、ここでは削減の裏面を示す傍証として一度だけ触れる)。逃げ道を用意しないまま自己解決だけに寄せると、つまずいた人の不満が、行き場を失って積もる。
安いチャネルへ移すと、長期に何が起きるか
削減のもう一つの形は、電話のような費用のかかる窓口から、費用の安い窓口へ、客を移すことだ。短期の費用は確かに下がる。だが長期の帰結は別に見る必要がある。2015年、Scherer・Wünderlich・von Wangenheim が *MIS Quarterly* 39(1):177-200 で、セルフサービス利用の長期効果と顧客維持を調べ、安いチャネルへ寄せることが、その後の離反のリスクと結びつきうることを示した。2008年、Ansari・Mela・Neslin が *Journal of Marketing Research* 45(1):60-76 のチャネル移行の研究で、客をどのチャネルへ動かすかが、その後の関係に両刃で効くことを示している。
そもそも自己解決は、いつでも万能ではない。2013年、Collier と Kimes が *Journal of Service Research* 16(1):39-51 で、セルフサービスの評価は利便性という条件しだいで大きく変わることを示した。都合の良い場面では歓迎され、そうでない場面では負担になる。安いチャネルへ動かすという操作は、コストを下げる代わりに、負担を顧客の側へ移していることがある。
「削減率」という指標が、満足の低下を隠す
前の段で、一次解決率のような指標が、たらい回しを解決と数えたり、解決の水増しを招いたりする逆機能を持ちうることを見た。削減率も、同じ系譜にある。「問い合わせを◯%削減」という数字は、それ自体では、不要な問い合わせを直して減らしたのか、来るはずの声を来させずに減らしたのかを区別しない。二つは意味が正反対なのに、指標の上では同じ「減った」に見える。
だから、削減率という一つの数字を目標に据えると、いちばん手早く数字を動かす方法——窓口を見つけにくくする、自動応答から人へ抜ける道を細くする——に、圧力が向かいやすい。指標が、それ自体では良し悪しを持たない削減を、良いことのように見せてしまう。 数字が下がったことと、負担が消えたことは、別に確かめないとわからない。この板挟み——件数を減らせと言われる一方で、来た人を無下にできない——は、窓口に立つ人の工夫の不足ではなく、削減率という指標の立て方から来る、設計の側の問題である。
時間・変化:2000年から2015年へ
順に置く。2000年、Meuter らがセルフサービスの接点での満足と不満を調べ、失敗時の不満の大きさを記す。2007年、Aksin らが窓口運営の総説で効率とサービスのトレードオフを整理する。2008年、Ansari らがチャネル移行の両刃を、Reinders らが強制セルフの逆効果を示す。2013年、Collier と Kimes が自己解決の評価が利便性しだいであることを示し、2015年、Scherer らが安いチャネルへの誘導と長期の離反の結びつきを示す。
この15年で確からしくなったのは、「減らせば良い」という向きではない。 確からしくなったのは、削減には質があり、強制と誘導は負担を顧客の側へ移し、削減率という指標はその移動を隠しうる、という向きのほうである。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、削減率という一つの数字を、そのまま良い変化と読むことである。数字が下がったことは、不要な問い合わせが直ったのかもしれないし、来るはずの声が来させられなかったのかもしれない。件数だけでは、その二つが見分けられない。
助けになるのは、自分の窓口に来た問い合わせを、減らせるもの(自分の側の説明や案内を直せば防げたもの)と、減らしてはいけないもの(人が受け取るべきだったもの)に、自分で仕分けてみることだ。この仕分けは、他人に何かを試したり、窓口を実際に閉じたりする話ではない。あくまで、自分の手元に既にある記録を見るだけである。組織に属していない読者、一人で全部を回している読者でも、自分が受けた問い合わせのメモがあればできる。
最初の一歩は10分。直近に自分の窓口へ来た問い合わせをいくつか選び、左に「その問い合わせの内容」、右に「これは、自分の側の案内や説明を直せば来なかったものか、それとも人が受けるべきものだったか」を並べる。どちらが多いかで、自分の削減の余地が『自分の欠陥の修正』にあるのか、それとも安易な『窓口を隠す』方向に滑りやすいのかが見える。 数を減らす行動は、今日はしない。仕分けるだけである。
次の単位は 411「対応チームを疲弊させないには?」——問い合わせを減らす設計の話の次に、その問い合わせを受け続ける人の消耗を、どう扱うのかを扱う。
- コンタクト削減(contact deflection)は、問い合わせが窓口に来る前によくある質問や自動応答で自己解決へ振り向け、人が受ける件数を減らす取り組みである。件数が減ればコストは下がるが、この単位が置く見方は、問い合わせを減らすことと顧客が満足することは同じ方向を向くとはかぎらない、というものである。削減そのものではなく、減らし方の質が問われる
- 2007年にAksin・Armony・MehrotraがProduction and Operations Management 16(6):665-688で電話窓口の運営研究を総説し、効率とサービスの間にトレードオフがあることを整理した。効率の指標を上げる操作の多くはサービスの何かを差し出している。不要な問い合わせを減らすことと、必要な問い合わせをさせないことは別だが、下がった件数だけを見ると両者が見分けられなくなる
- 2008年にReinders・Dabholkar・FrambachがJournal of Service Research 11(2):107-123で、消費者にセルフサービスの利用を強制した場合の帰結を調べ、強制がその手段への態度だけでなく提供側への態度も悪くし離反意向につながりうることを示した。便利だから使うと、他に道がないから使わされるは、体験として別物である
- 2000年のMeuterら(Journal of Marketing 64(3):50-64)はセルフサービスの接点で満足する場面と不満を抱く場面を調べ、失敗時の不満の大きさを記した。この原典は自己解決設計そのものを扱う単位の持ち場であり、410では削減の裏面を示す傍証として一度だけ触れる。逃げ道を用意せず自己解決だけに寄せると、つまずいた人の不満が積もる
- 2015年にScherer・Wünderlich・von WangenheimがMIS Quarterly 39(1):177-200でセルフサービス利用の長期効果と顧客維持を調べ、安いチャネルへの誘導が離反リスクと結びつきうることを示した。2008年のAnsari・Mela・Neslin(Journal of Marketing Research 45(1):60-76)はチャネル移行が関係に両刃で効くこと、2013年のCollier & Kimesは自己解決の評価が利便性しだいであることを示した
- 削減率は、前の段で見た一次解決率の逆機能と同じ系譜にある。問い合わせを◯%削減という数字は、不要な問い合わせを直して減らしたのか来るはずの声を来させずに減らしたのかを区別しない。二つは意味が正反対なのに指標の上では同じ減ったに見え、いちばん手早く数字を動かす方法に圧力が向かいやすい
- 件数を減らせと言われる一方で来た人を無下にできないという板挟みは、窓口に立つ人の工夫の不足ではなく、削減率という指標の立て方から来る設計の側の問題である。だからこの単位でやるのは、自分の窓口に来た問い合わせを、自分の案内を直せば防げたものと人が受けるべきだったものに、自分で仕分けてみることである
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 問い合わせは減らせば減らすほど良い。件数が下がれば費用が下がり、顧客も自己解決できて楽になる | 問い合わせを減らすことと顧客が満足することは、同じ方向を向くとはかぎらない。2007年のAksinらは効率とサービスにトレードオフがあることを整理し、2008年のReindersらは、セルフサービスを強制すると手段だけでなく提供側への態度も悪くし離反意向につながりうることを示した。不要な問い合わせを直して減らすのと、来るはずの声を来させずに減らすのは正反対だが、件数はどちらでも下がる |
| 安いチャネルへ客を誘導すれば、費用が下がるだけで悪いことは起きない | 短期の費用は下がるが、長期の帰結は別に見る必要がある。2015年のSchererらはセルフサービス利用の長期効果と顧客維持を調べ、安いチャネルへの誘導が離反リスクと結びつきうることを示し、2008年のAnsariらはチャネル移行が関係に両刃で効くことを示した。2013年のCollier & Kimesは自己解決の評価が利便性しだいだと示している。負担は消えたのではなく、顧客の側へ移っていることがある |
| 『問い合わせ◯%削減』という数字が出ていれば、それは良い改善が起きた証拠だ | 削減率は、それ自体では、案内の不備を直して減らしたのか、窓口を隠して来るはずの声を来させずに減らしたのかを区別しない。二つは意味が正反対なのに、指標の上では同じ減ったに見える。だから削減率だけを目標にすると、いちばん手早く数字を動かす方法——窓口を見つけにくくする——に圧力が向かう。まずやるのは、自分の窓口に来た問い合わせを、減らせるものと減らしてはいけないものに自分で仕分けることである |
皮肉なのは、いちばん褒められやすい削減ほど、いちばん確かめられていないことである。件数が減った、という数字は、報告のなかで気持ちよく光る。だが同じ「減った」の裏には、直したから減ったのと、隠したから減ったのが、見分けのつかないまま同居している。負担は消えたのではなく、顧客の側へ、あるいは、来た人を無下にできない窓口の人の側へ、移っただけかもしれない。件数が下がって見えるとき、たいていそれは、まだ誰も、どこへ負担が移ったのかを測っていないだけかもしれない。
Q1. この単位の見方——問い合わせを ____ ことと、顧客が ____ することは、同じ方向を向くとはかぎらない。削減そのものではなく、減らし方の ____ が問われる。穴埋め
Q2. Reinders ら 2008 が示した、消費者にセルフサービスの利用を強制した場合の帰結として、この単位が述べたことはどれか。選択
Q3. 「問い合わせを◯%削減」という削減率が、なぜそれ自体では良い変化と読めないのか。正反対の二つの由来に触れて説明せよ。一問一答
Q4. 安いチャネルへ客を移すという削減について、短期と長期で見え方がどう違うか。Scherer ら 2015 と Ansari ら 2008 に触れて述べよ。一問一答
Q5. この単位が扱った研究を、年の早い順に並べよ。(ア)Reindersらが強制セルフの逆効果を示す(イ)Meuterらがセルフの失敗時の不満を記す(ウ)Schererらが安いチャネルと長期の離反の結びつきを示す(エ)Collier & Kimesが自己解決の評価は利便性しだいと示す並べ替え
紙かメモアプリに今日の日付を書く。次に、直近に自分の窓口へ来た問い合わせをいくつか選ぶ。ページを左右に分け、左に『その問い合わせの内容』を、右に『これは自分の側の案内や説明を直せば来なかったものか、それとも人が受けるべきものだったか』を、思い出せる範囲で書く。窓口を実際に閉じたり、自己解決へ誘導を試したりはしない。あくまで自分の手元に既にある記録を見て仕分けるだけである。最後に、左右それぞれの件数を1つの数字で書き添え、どちらが多かったかに印を付ける。顧客や同僚を観察対象にする必要はない。一人で全部を回している場合も、自分が受けた問い合わせのメモがあればそのまま同じ形で書ける。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Aksin Z., Armony M., Mehrotra V. (2007) ‘The Modern Call Center: A Multi-Disciplinary Perspective on Operations Management Research’, Production and Operations Management 16(6):665-688 — doi.org
- Reinders M.J., Dabholkar P.A., Frambach R.T. (2008) ‘Consequences of Forcing Consumers to Use Technology-Based Self-Service’, Journal of Service Research 11(2):107-123 — doi.org
- Scherer A., Wünderlich N.V., von Wangenheim F. (2015) ‘The Value of Self-Service: Long-Term Effects of Technology-Based Self-Service Usage on Customer Retention’, MIS Quarterly 39(1):177-200 — doi.org
- Ansari A., Mela C.F., Neslin S.A. (2008) ‘Customer Channel Migration’, Journal of Marketing Research 45(1):60-76 — doi.org
- Collier J.E., Kimes S.E. (2013) ‘Only If It Is Convenient: Understanding How Convenience Influences Self-Service Technology Evaluation’, Journal of Service Research 16(1):39-51 — doi.org
- Meuter M.L., Ostrom A.L., Roundtree R.I., Bitner M.J. (2000) ‘Self-Service Technologies: Understanding Customer Satisfaction with Technology-Based Service Encounters’, Journal of Marketing 64(3):50-64 — doi.org