「管理すれば納期は守れる」——だが、その遵守率は、どの定義で測ったか
管理を徹底すれば納期は守れ、遵守率を上げれば客は満足する、と教わる。だがその遵守率は、約束の日を要求日にするか回答日にするか、時間の幅、全量の許容差、送り手が測るか受け手が測るかで、別の数字になる。しかも遵守率が満点でも、受け手が満足しているとはかぎらない。定義を言わない遵守率は、合格とも不合格とも言えない。
前の単位では、その運びにかかる費用を扱った。ここでは、約束した日に届いたかどうか——納期の守り方を扱う。
前の単位と同じ見方が、ここでも効く。「納期遵守率◯%」という数字は、どの定義で測ったかを言わない限り、紙の上の合格点である。 何を約束とし、誰が、どの幅で測ったか。それを決めるのは、たいてい数字を出す側だ——この棚の見方の、二つ目の顔がここにも出る。
「遵守率」は、測り方で数字が変わる
まず用語をほどく。OTIFとは、約束した日時に(On-Time=時間どおり)、欠品なく(In-Full=頼まれた品を全量)届いた割合のことだ。納期遵守率は、約束の期日を守れた注文の割合をいう。どちらも「守れたかどうか」を数える指標に見える。だが、数える前に決めなければならないことが、いくつもある。
何を「約束の日」とするか。 客が最初に要求した日か、こちらが「その日は無理なのでこの日に」と回答した日か。回答日を基準にすれば、遅れは減って見える。どのくらいの幅で「時間どおり」とするか。 きっかりその日だけか、前後1日を許すか、その週のうちならよいか。幅を広く取れば、遵守率は上がる。「全量」の許容差は。 1個でも欠けたら不合格か、95%そろえばよいか。そして、誰が測るか。 送り出した側の記録か、受け取った側の実感か。 これらのつまみを、どれか一つ回すだけで、同じ納品の遵守率は別の数字になる。定義を言わない遵守率は、合格とも不合格とも言えない。
送り手と受け手は、同じ納品を別々に測る
とくに効くのが、「誰が測るか」だ。2006年に Forslund が *International Journal of Physical Distribution & Logistics Management* 誌 36(8):580-595 で、注文を受けてから届けるまでの二者間(送り手と受け手)の性能を調べ、同じ取引を、送る側と受け取る側が別々に測ると、評価にギャップが出ることを実証した。送り手の記録では「約束どおり出荷した」でも、受け手の実感では「頼んだものが揃って使える状態で届いていない」ことがある。2009年には Forslund と Jonsson が *International Journal of Productivity and Performance Management* 誌 58(1):41-53 で、納期をスケジューリングする環境では、性能の測り方そのものが変わることを示した。
つまり、遵守率は測る場所(送り手側か受け手側か)と測る環境で、別の値になる。どちらかが嘘をついているのではない。同じ納品を、違う目盛で見ているだけだ。送り手が自分の出荷記録で「98%」と言い、受け手が自分の受領実感で「うちは、しょっちゅう困っている」と言う——この二つは、両立する。
「正しい遵守率」は、一つに決まらない
「では、正しい測り方はどれか」と問いたくなる。だが、唯一の正解はない。2004年と2007年に Griffis らが *Journal of Business Logistics* 誌(25(2):95-118/28(2):35-56)で、物流の性能指標は会社の目標と、必要としている情報に合わせて選ぶものであって、どんな場面にも当てはまる一つの正解値があるわけではないことを論じた。2008年には Wang らが *International Journal of Logistics Research and Applications* 誌 11(6):457-473 で、輸送の性能指標を用途に合わせて選ぶ方法を示した。指標は、目的から選ぶ。目的が違えば、選ぶ定義も、出る数字も違う。
そして、忘れてはならないのが、遵守率と、受け手の実感は別だということだ。物流のサービス品質——LSQ(Logistics Service Quality=届ける仕事の質を、受け手の知覚から捉えた考え方)——を、2001年に Mentzer・Flint・Hult が *Journal of Marketing* 誌 65(4):82-104 で、届ける相手の区分ごとに仕立てる過程として示した。ここが大事だ。遵守率が満点でも、受け手が満足しているとはかぎらない。梱包の状態、問い合わせへの応対、届いたものの正確さ——受け手が「良い」と感じる要素は、期日の一点だけではない。期日を守ることは必要だが、それだけで実感が付いてくるわけではない。
時間・変化:2001年から今へ
順に置く。2001年、Mentzer らが、届ける仕事の質を受け手の知覚から捉える枠を示す(遵守率と実感の距離)。2004・2007年、Griffis らが、指標は目標と情報の必要に合わせて選ぶもので唯一解はないと論じる。2006年、Forslund が送り手と受け手の測定ギャップを、2009年、Forslund と Jonsson が測り方が環境で変わることを、2008年、Wang らが用途に合わせた指標選びを示す。
この四半世紀で確からしくなったのは、「管理すれば納期は守れる」という因果ではない。 確からしくなったのは、遵守率は基準日・幅・許容差・測る主体で別物になり、送り手と受け手で数字がずれ、しかも遵守率が満点でも受け手の実感が付いてくるとはかぎらない、という向きのほうである。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、遵守率の高さを、約束が守られた実感の証拠だと思ってしまうことである。送り手の記録の「98%」は、送り手が選んだ定義の上での合格点であって、受け手が困っていないことを意味しない。
標本の偏りも断っておく。ここで引いた研究の多くは、企業どうしの継続的な取引を扱っている。個人の受け手に一回だけ届ける場面や、送り手と受け手が同じ一人である場面では、二者間のギャップそのものが起きにくい。かわりに、自分で決めた定義に自分で合格を出す、という別の偏りが入る。
助けになるのは、自分が使っている(あるいは目にする)遵守率が、どの定義で測られているのかを一つ書き出すという一手である。基準日は要求日か回答日か。幅はどれだけか。全量の許容差は。測っているのは送り手側か受け手側か。定義がわかれば、その数字が何を合格にしていて何を見ていないかが、見当をつけられる。
最初の一歩は10分。直近に自分が出した(または受け取った)納品を一つ選び、左に「その納品を『守れた』と数えるとしたら、どの定義になるか——基準日・時間の幅・全量の許容差・測る側」を書く。右に、「その定義を一つ緩める(たとえば幅を前後1日にする)と、合格・不合格が変わるか」を書く。どちらが正しいかは書かない。定義を緩めると判定がひっくり返る箇所に、印を付けるだけである。 取引先に問い合わせる必要はない。自分の納品の記録だけで完結させる。
次の単位は 389「ラストワンマイルを制するには?」——ここまでの運びの効率を土台に、届け先の玄関先で何が起きるのか、その最後のひと区間を積み上げる。
- OTIFとは約束した日時に(On-Time)欠品なく(In-Full=全量)届いた割合、納期遵守率とは約束の期日を守れた注文の割合をいう。だが数える前に、何を約束の日とするか(要求日か回答日か)、時間枠の幅、In-Fullの許容差、誰が測るかを決める必要があり、このつまみを一つ回すだけで同じ納品の遵守率は別の数字になる。定義を言わない遵守率は合格とも不合格とも言えない
- 回答日を基準にすれば遅れは減って見え、時間枠の幅を広く取れば遵守率は上がり、全量の許容差を緩めれば不合格が減る。同じ納品でも、基準日・幅・許容差・測る主体というつまみの設定で、遵守率はいくらでも動く。数字を出す側がこれらの定義を選べてしまうことが、紙上の合格点を生む
- 2006年にForslundがInternational Journal of Physical Distribution & Logistics Management誌36(8):580-595で、注文から納品までの二者間の性能を調べ、同じ取引を送る側と受け取る側が別々に測ると評価にギャップが出ることを実証した。2009年のForslund&Jonssonは、納期をスケジューリングする環境では性能の測り方そのものが変わることを示した
- 遵守率は測る場所(送り手側か受け手側か)と環境で別の値になる。送り手が出荷記録で98%と言い、受け手が受領実感で『しょっちゅう困る』と言うことは両立する。どちらかが嘘をついているのではなく、同じ納品を違う目盛で見ているだけである
- 2004年と2007年にGriffisらがJournal of Business Logistics誌(25(2):95-118/28(2):35-56)で、物流の性能指標は会社の目標と必要な情報に合わせて選ぶもので、どんな場面にも当てはまる唯一の正解値はないと論じた。2008年のWangら(IJLRA誌11(6):457-473)も輸送指標を用途に合わせて選ぶ方法を示した。指標は目的から選び、目的が違えば選ぶ定義も出る数字も違う
- Mentzer・Flint・Hult 2001(Journal of Marketing誌65(4):82-104)の物流サービス品質(LSQ)は、届ける仕事の質を受け手の知覚から捉える。遵守率が満点でも受け手が満足しているとはかぎらない。梱包の状態・問い合わせへの応対・届いたものの正確さなど受け手が良いと感じる要素は期日の一点だけではなく、期日を守ることは必要だがそれだけで実感は付いてこない
- この四半世紀で確からしくなったのは、管理すれば納期は守れるという因果ではなく、遵守率は基準日・幅・許容差・測る主体で別物になり、送り手と受け手で数字がずれ、遵守率が満点でも受け手の実感が付いてくるとはかぎらないという向きである。自分の遵守率がどの定義で測られているかを一つ書き出す
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 納期遵守率◯%は客観的な合格点なので、その数字が高ければ約束はきちんと守られている | OTIF・納期遵守率は測り方で数字が変わる。何を約束の日とするか(客の要求日か、こちらの回答日か)、時間枠の幅(きっかりか前後1日か週内か)、In-Fullの許容差(1個でも欠けたら不合格か95%でよいか)、誰が測るか(送り手の記録か受け手の実感か)——このつまみを一つ回すだけで、同じ納品の遵守率が別の数字になる。定義を言わない遵守率は、合格とも不合格とも言えない |
| 遵守率は取引の客観的な事実なので、送り手が出す数字も受け手が感じる数字も一致するはずだ | Forslund 2006(IJPDLM誌36(8):580-595)は、同じ取引を送る側と受け取る側が別々に測ると評価にギャップが出ることを実証した。Forslund&Jonsson 2009は環境で測り方が変わることを示す。送り手の出荷記録で98%でも、受け手の受領実感では『しょっちゅう困る』ことがあり、この二つは両立する。どちらも嘘をついておらず、同じ納品を違う目盛で見ているだけである |
| 納期遵守率さえ上げれば、受け手(顧客)の満足も自動的に付いてくる | Mentzer・Flint・Hult 2001(Journal of Marketing誌65(4):82-104)の物流サービス品質(LSQ)は、届ける仕事の質を受け手の知覚から捉える。遵守率が満点でも受け手が満足しているとはかぎらない——梱包の状態、問い合わせへの応対、届いたものの正確さなど、受け手が良いと感じる要素は期日の一点だけではない。期日を守ることは必要だが、それだけで実感が付いてくるわけではない |
皮肉なのは、遵守率という数字が、いちばん厳格な顔をしていることである。パーセントで印字され、しきい値の線が引かれ、達成か未達かが判定される。だがその線の位置は、要求日か回答日か、きっかりか前後1日か、送り手の記録か受け手の実感か——誰かが選んだ約束事の上にある。同じ納品が、線を一本ずらすだけで、達成にも未達にもなる。遵守率が合格に見えるとき、たいていそれは、線を引いた本人が、受け手の側に立って測り直していないだけかもしれない。
Q1. OTIFは約束した日時に(____)欠品なく(____)届いた割合をいう。遵守率は、何を約束の日とするか・時間枠の幅・全量の許容差・____ の主体で、同じ納品でも別の数字になる。穴埋め
Q2. 送り手が出荷記録で『98%守れている』と言い、受け手が『うちはしょっちゅう困っている』と言うとき、この二つが両立しうるのはなぜか。Forslund 2006が示したことに触れて述べよ。一問一答
Q3. 『正しい納期遵守率』について、Griffisら2004・2007やWangら2008が示したこととして正しいものはどれか。選択
Q4. 納期遵守率が満点でも受け手が満足しているとはかぎらないのはなぜか。Mentzerら2001の物流サービス品質(LSQ)の考え方に触れて述べよ。一問一答
Q5. この単位が扱った研究を、年の早い順に並べよ。(ア)Forslundが送り手と受け手の測定ギャップを実証する(イ)Mentzerらが物流サービス品質を受け手の知覚から示す(ウ)ForslundとJonssonが測り方が環境で変わることを示す(エ)Griffisらが指標に唯一解がないと論じる(最初の一本)並べ替え
紙かメモアプリに今日の日付を書く。次に、直近に自分が出した(または受け取った)納品を一つ選ぶ。ページを左右に分け、左に『その納品を「守れた」と数えるとしたら、どの定義になるか』——約束の日は要求日か回答日か、時間の幅はきっかりか前後1日か、全量の許容差は、測る側は送り手か受け手か——を書く。右に、『左の定義を一つだけ緩めたら(たとえば時間の幅を前後1日にしたら)、その納品の合格・不合格が変わるか』を書く。どちらが正しいかは書かない。定義を緩めると判定がひっくり返る箇所にだけ印を付ける。最後に、印の数を1つの数字で書き添える。取引先に問い合わせたり、相手の記録を詮索したりする必要はない。自分の納品の記録だけで完結させる。送り手と受け手が同じ一人の場合も、そのまま同じ形で書けばよい。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Forslund H. (2006) ‘Performance gaps in the dyadic order fulfillment process’, International Journal of Physical Distribution & Logistics Management 36(8):580-595 — doi.org
- Forslund H., Jonsson P. (2009) ‘Order-to-delivery process performance in delivery scheduling environments’, International Journal of Productivity and Performance Management 58(1):41-53 — doi.org
- Mentzer J.T., Flint D.J., Hult G.T.M. (2001) ‘Logistics Service Quality as a Segment-Customized Process’, Journal of Marketing 65(4):82-104 — doi.org
- Griffis S.E., Goldsby T.J., Cooper M., Closs D.J. (2007) ‘Aligning Logistics Performance Measures to the Information Needs of the Firm’, Journal of Business Logistics 28(2):35-56 — doi.org
- Griffis S.E., Cooper M., Goldsby T.J., Closs D.J. (2004) ‘Performance Measurement: Measure Selection Based Upon Firm Goals and Information Reporting Needs’, Journal of Business Logistics 25(2):95-118 — doi.org
- Wang Y., Potter A., Naim M. (2008) ‘Aligning transport performance measures with customised retail logistics: a structured method and its application’, International Journal of Logistics Research and Applications 11(6):457-473 — doi.org