「ラストマイルは工夫で制せる」——だが『全体の◯割』は、誰も確定していない丸めた数字だ
ラストマイルは配送コストの最大50%を占めるから、工夫で制すればその半分に手が届く、と語られる。だがこの『◯割』を確定した査読研究は見当たらない。実際に数えられているのは、国交省が測る再配達率のような限られた量だけだ。そして置き配のように一つの数字を下げる工夫は、たいてい受け手の体験という別の軸に負担を移している。
前の単位では、納期の約束——OTIF(受注どおりに、遅れず、欠けずに届いた割合)——をどう測るのかを扱った。ここでは、荷物が最後に届け先へ渡る区間、ラストワンマイルを扱う。ここで段はひとつ進み、運びの効率という「点」の話から、拠点と現場という「線」の話に入る。ラストマイルとは、荷物が最後に届け先へ渡る区間のことだ。この棚が繰り返す見方をここでも一度置いておく——「最適化で◯割削減」の数字は、モデルの中の削減であって、走った後の実測ではない。 ラストマイルは、その実測がいちばん手に入りやすい場所である。
「ラストマイルが全体の◯割」という数字は、どこから来たのか
ラストマイルの話は、たいてい一つの数字から始まる——配送コストの最大50%はラストマイルが占める、と。工夫でこの区間を制すれば、その半分に手が届く、という語り口だ。ところが、この「◯割」を単一の確定値として示した査読研究は見当たらない。学術のレビューは、ラストマイルを配送のなかで最も高コストで、最も非効率になりやすい区間だと繰り返し述べる(Lim・Jin・Srai の2018年のレビュー、Gevaers らの2014年のコストモデル)。だが「何割」かは、配送網の形・顧客密度(同じエリアにどれだけ届け先が集まっているか)・都市か地方か・企業向けか消費者向けかで大きく変わる。丸められた一つの割合は、しばしば業界資料やコンサルの提案から出て、査読された事実のような顔で流通する。由緒(配送で最も高コストという観察)と、効果(工夫で◯割減らせるという主張)は、別の話である。
実際、この種の割合をたどっていくと、原典が別の割合を指していたり、そもそも一次の測定に行き着かなかったりすることが多い。「配送で最も高コストになりやすい」という観察は繰り返し確かめられているが、それは「常に半分を占める」という意味ではない。最も高い、と、いつでも◯割、は違う。 前者は順位の話で、後者は水準の話だ。順位の観察を水準の断定にすり替えたところに、丸めた割合が生まれる。割合そのものを自分の現場の目標にすると、他人の網で作られた数字を追いかけることになる。
再配達率——数えられている唯一の量
では、ラストマイルで実際に数えられている数字は何か。日本には、国土交通省が定点で測っている公式統計がある。宅配便の再配達率——不在などで持ち帰り、もう一度届けた荷物の割合だ。国交省の調査では、令和6年10月期で約10.2%、同年4月期で約10.4%が再配達だった。これは「モデルの中の削減」ではなく、実際に走ったあとに数えられた量である。再配達とは、不在で持ち帰り再度届けること。ここで大事なのは、この数字を受け手のせいにしないことだ。数えられた10.2%は「誰が悪いか」を指す数字ではなく、「この区間で何が起きているか」を測った数字である。数えられた量があるからこそ、「工夫で制する」の中身を後から検証できる。
コストは密度と時間指定で動く
ラストマイルのコストを動かす最大の要因は、工夫の巧拙よりも先に、届け先の密度と時間指定である。Boyer・Prud'homme・Chung が2009年に *Journal of Business Logistics* 誌 30(1):185-201 で示した研究は、顧客密度と配送時間枠のパターンがコストを左右することを評価した。届け先が密に集まっていれば一台で多くを回れるが、まばらなら一軒あたりの走行が伸びる。狭い時間枠を約束すれば、積み合わせの自由が減ってコストが上がる。Pahwa と Jaller が2022年に *Transportation Research Part E* 誌 164:102783 で行った戦略別のコスト比較も、どの配送戦略が安いかは条件によって入れ替わることを示す。つまり「この工夫をすれば必ず安くなる」という一般解は無い。効き方は、自分が置かれた密度と約束した時間枠しだいで変わる。
これは、条件を無視して手法だけを移植しても効かない、ということでもある。密度の高い都市の網で有効だった積み合わせの工夫を、そのまままばらな地方の網に持ち込んでも、同じ削減は出ない。逆に、狭い時間枠を捨てて配達の自由度を上げるだけで、工夫らしい工夫をしなくてもコストが下がることもある。まず自分の密度と、自分が約束している時間枠を書き出す。 手法の是非はそのあとの話だ。
置き配は再配達を減らす。ただし別の軸がある
再配達を減らす手として広く語られるのが置き配——対面せず玄関などに届ける非対面配送——である。不在でも届けられるので、再配達という数えられた量は確かに下がる。ただし、Olsson らが2022年に発表した非対面在宅配送の実証研究は、ラストマイルには受け手の体験という別の軸があることを示す。荷物が確かに届いたという安心、置かれた荷物への信頼——これらは再配達率とは別の物差しで、片方を良くしても自動的にもう片方が良くなるわけではない。Song・Cherrett・McLeod・Guan が2009年に *Transportation Research Record* 誌 2097(1):9-18 で示した集配拠点(受け取り用のロッカーや店舗の窓口)の研究も、失敗配送と再配達を減らす一方で、受け手が取りに行く手間という別の負担を移していることを示す。一つの数字を下げる工夫は、たいてい別の軸に負担を移している。
時間・変化:2009年から令和6年まで
順に置く。2009年、Boyer らが顧客密度と時間枠の効果を、Song らが集配拠点の効果を測る(現場の実証が始まる)。2014年、Gevaers らがラストマイルのコスト構造をモデル化する。2018年、Lim らがラストマイル物流のレビューで、この区間が最も高コストで非効率になりやすいことを整理する。2022年、Pahwa と Jaller が戦略別コストを比較し、Olsson らが非対面配送の受け手体験を測る。そして令和6年(2024年)、国交省の再配達率が約10.2〜10.4%として公表される。この15年で確からしくなったのは、「ラストマイルは全体の◯割だから工夫で制せる」という因果ではない。 確からしくなったのは、コストは密度と時間枠で動き、実際に数えられるのは再配達率のような限られた量だけ、という向きのほうである。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、「最大50%」のような丸めた割合を、自分の現場の測定値だと思い込むことである。その割合は、たいてい別の網・別の密度で作られた数字で、あなたの届け先には当てはまらない。標本の偏りも断っておく。ここまでの実証の多くは、比較的まとまった配送量のある事業のデータから採られている。1日に数個を送る人や、催事の搬入出を段取りする人が、同じ割合で動くとはかぎらない。
助けになるのは、自分の手元にある配達の記録から、実際に数えられる量を数えてみることだ。再配達になったか、一発で受け取れたか、置き配だったか。他人の割合ではなく、自分の記録から始める。
最初の一歩は10分。直近に自分が受け取った、あるいは発送した荷物を思い出せる範囲で並べ、「一発で渡った」「再配達になった」「非対面で置かれた」のどれだったかを数えるだけでよい。どの方法が優れているかは書かない。数えた件数と内訳を書き留める。運送会社や配達員を評価する必要はないし、してはならない。数えられた自分の記録が、丸めた割合よりも確かな出発点になる。
次の単位は 390「倉庫の配置を設計するには?」——荷物を最後に届ける区間の話から、その荷物をどこに置いておくか、拠点の置き場所という一段上の話へ積み上げる。
- ラストマイルとは荷物が最後に届け先へ渡る区間で、学術レビュー(Lim・Jin・Srai 2018/Gevaers ら 2014)は配送で最も高コスト・最も非効率になりやすい区間と繰り返し述べる。だが「全体の最大50%」のような単一の割合を確定した査読研究は無く、割合は網の形・顧客密度・都市/地方・企業向け/消費者向けで大きく変わる。丸めた割合は業界・コンサル発の数字が査読の顔で流通する
- ラストマイルで実際に数えられている量は再配達率である。国土交通省の公式調査で、宅配便の再配達率は令和6年10月期で約10.2%、同年4月期で約10.4%だった。これはモデル内の削減ではなく、走ったあとに数えられた実測で、この数字は受け手の責任を指すものではなく区間で何が起きているかを測ったものである
- Boyer・Prud'homme・Chung が2009年に Journal of Business Logistics 誌 30(1):185-201 で示したように、ラストマイルのコストは顧客密度と配送時間枠のパターンに強く依存する。届け先が密なら一台で多く回れ、狭い時間枠を約束すれば積み合わせの自由が減ってコストが上がる。工夫の巧拙より先に、密度と時間枠が効き方を決める
- Pahwa と Jaller が2022年に Transportation Research Part E 誌 164:102783 で行った戦略別コスト比較は、どの配送戦略が安いかが条件によって入れ替わることを示す。「この工夫をすれば必ず安くなる」という一般解は無く、効き方は自分が置かれた密度と約束した時間枠しだいで変わる
- 置き配(非対面配送)は再配達という数えられた量を下げるが、Olsson らの2022年の実証研究は受け手の体験という別の軸があることを示す。荷物が確かに届いた安心や置かれた荷物への信頼は再配達率とは別の物差しで、片方を良くしても自動的にもう片方が良くなるわけではない
- Song・Cherrett・McLeod・Guan が2009年に Transportation Research Record 誌 2097(1):9-18 で示した集配拠点(受け取りロッカーや店舗窓口)の研究は、失敗配送と再配達を減らす一方で、受け手が取りに行く手間という別の負担を移していることを示す。一つの数字を下げる工夫は、たいてい別の軸に負担を移している
- この15年で確からしくなったのは、ラストマイルは全体の◯割だから工夫で制せるという因果ではなく、コストは密度と時間枠で動き、実際に数えられるのは再配達率のような限られた量だけ、という向きのほうである。数えられた量があるからこそ、工夫の中身を後から検証できる
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| ラストマイルは配送コストの最大50%を占めるのだから、この区間を工夫で制すれば大きく安くできる | 『最大50%』のような割合を単一の確定値として示した査読研究は無い。学術レビュー(Lim・Jin・Srai 2018/Gevaers ら 2014)は最も高コストで非効率になりやすい区間だと述べるが、何割かは網の形・顧客密度・都市か地方か・企業向けか消費者向けかで大きく変わる。丸めた割合は業界・コンサル発の数字が査読の顔で流通するもので、自分の現場の測定値ではない。実際に数えられるのは再配達率のような限られた量である |
| 再配達が多いのは受け手が在宅しないからで、届ける側の工夫より受け手の意識の問題だ | 再配達率は国土交通省の公式統計で令和6年10月期に約10.2%と数えられているが、これは区間で何が起きているかを測った数字であって、誰が悪いかを指す数字ではない。受け手を責める書き方は、数えられた量を責任の割り当てにすり替えている。置き配のような非対面配送は再配達を減らすが、受け手の体験・信頼という別の軸を持つ。数字は『何が測れているか』を示し、『誰のせいか』を決めない |
皮肉なのは、いちばん熱心にラストマイルを『制する』と語る資料ほど、『最大50%』のような丸めた割合を証拠として掲げることである。だがその割合は、たいてい別の網・別の密度で作られた数字で、あなたの届け先には当てはまらない。実際に数えられているのは再配達率のような限られた量で、置き配のような工夫はその数字を下げながら別の軸に負担を移す。ラストマイルが『制された』ように見えるとき、たいていそれは、動かした一つの数字の裏で、まだ誰も数えていない別の軸があるだけかもしれない。
Q1. ラストマイルが配送コストの ____ を占めるという丸めた割合は、査読研究の単一の ____ ではなく、網・密度・都市/地方で大きく ____ 。穴埋め
Q2. ラストマイルで「実際に数えられている量」の例として本文が挙げた公式統計は何か。その数値(令和6年10月期・4月期)と、この数字を受け手の責任に還元してはならない理由を答えよ。一問一答
Q3. Boyer らが2009年に示した、ラストマイルのコストを左右する主要因として本文が挙げたものはどれか。選択
Q4. 置き配や集配拠点が「再配達を下げる」一方で、本文が繰り返し述べる注意は何か。「別の軸」という言葉を使って答えよ。一問一答
Q5. 本文が扱った出来事を、年の早い順に並べよ。(ア)Pahwa と Jaller が戦略別コスト比較を示す(イ)Boyer らが顧客密度と時間枠の効果を測る(ウ)Lim らがラストマイル物流のレビューを整理する(エ)国交省の再配達率 約10.2〜10.4%が公表される並べ替え
紙かメモアプリに今日の日付を書く。次に、直近2週間で自分が受け取った、または自分が発送した荷物を、思い出せる範囲・手元の配達通知やメール・不在票から並べる。各件について『一発で渡った』『再配達になった』『非対面で置かれた(置き配・宅配ボックス・集配拠点受け取り)』のどれだったかを、自分で決めた定義のまま印を付ける。どの方法が優れているかは書かない。運送会社名や配達員の評価も書かない。最後に、三つの内訳の件数を1つずつの数字で書き添える。取引先や配達員を観察する必要はなく、自分の荷物の記録だけで完結させる。一人で発送も受け取りも回している場合も、そのまま同じ形で書けばよい。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
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- Boyer K.K., Prud'homme A.M., Chung W. (2009) ‘The Last Mile Challenge: Evaluating the Effects of Customer Density and Delivery Window Patterns’, Journal of Business Logistics 30(1):185-201 — doi.org
- Lim S.F.W.T., Jin X., Srai J.S. (2018) ‘Consumer-driven e-commerce: A literature review, design framework, and research agenda on last-mile logistics’, International Journal of Physical Distribution & Logistics Management 48(3):308-332 — doi.org
- Gevaers R., Van de Voorde E., Vanelslander T. (2014) ‘Cost Modelling and Simulation of Last-mile Characteristics in an Innovative B2C Supply Chain Environment with Implications on Urban Areas and Cities’, Procedia - Social and Behavioral Sciences 125:398-411 — doi.org
- Pahwa A., Jaller M. (2022) ‘A cost-based comparative analysis of different last-mile strategies for e-commerce delivery’, Transportation Research Part E: Logistics and Transportation Review 164:102783 — doi.org
- Olsson J., Hellström D. 他 (2022) ‘Customer experience dimensions in last-mile delivery: an empirical study on unattended home delivery’, International Journal of Physical Distribution & Logistics Management — doi.org
- Song L., Cherrett T., McLeod F., Guan W. (2009) ‘Addressing the Last Mile Problem: Transport Impacts of Collection and Delivery Points’, Transportation Research Record 2097(1):9-18 — doi.org
- 国土交通省 (2024) ‘宅配便の再配達率の調査(令和6年10月期 約10.2%・令和6年4月期 約10.4%)’, 国土交通省 再配達削減の取組 — www.mlit.go.jp