「分析すれば輸送コストは下がる」——だが、分析で動くのは配賦の見え方だ
輸送コストを分析すれば下がる、と教わる。だが分析で見えるのは、多くの場合、費用の割り付けの付け替えだ。割り振り直しても、その日にかかった実費の総額は1円も変わらない。しかも運賃には、荷主がどれだけ分析しても、その外で市況が動かす成分がある。分析が実在することと、コストが下がった証明は、別物である。
前の単位では、その一台に、どれだけ積めているのかを扱った。ここでは、その運びにかかる費用が、分析で本当に下がるのかを扱う。
前の単位と同じ見方が、ここでも効く。「分析して輸送コストを◯%削減」という数字は、たいてい二つのどちらかだ——費用の割り付けを組み替えた紙の上の改善か、たまたま市況が緩んだ時期にたまたま安く運べた分か。分析が実在することと、コストが実際に下がった証明は、別物である。
「分析で下がる」のは、多くの場合、配賦の見え方だ
まず用語をほどく。配賦とは、共通でかかった費用を、どの荷物・どの便に何割ずつ負担させるかの割り当てのことだ。トラック一台の燃料費・人件費・車両費は、その日に積んだ複数の荷が一緒に使っている。だから「この荷物のコストはいくらか」は、実費が決まっていても、割り付け方を決めるまでは、決まらない。
その割り付けには、いくつもの方法がある。作業の手間で割る(活動基準)、重さで割る、容積で割る、便の数で割る——同じ一日の同じ実費でも、割り付け方を替えると、各荷物の「コスト」は別の数字になる。2000年に Themido らが *Journal of the Operational Research Society* 誌 51(10):1148-1157 で、物流の費用を活動基準で見る事例研究を示し、1996年には LaLonde と Pohlen が *The International Journal of Logistics Management* 誌 7(1):1-12 で、輸送を含む費用をどう捉えるかの論点を整理した。これらが教えるのは、活動基準の分析は「どの作業がいくらかかっているか」をよく見せてくれる、ということだ。
ただし、ここに落とし穴がある。 見えるようになることと、下がることは、別である。 分析は、どんぶり勘定だった費用を作業ごとに割り振り直して、内訳を鮮明にする。だが割り振り直しても、その日にかかった実費の総額は1円も変わっていない。「◯%削減」が、実は「配賦の付け替えで、ある荷物の負担額が下がって見えるようになった」だけのことがある。 別の荷物の負担額は、その分だけ上がっている。全体の運びの費用は、動いていない。可視化は削減の準備にはなるが、可視化そのものは削減ではない。
そもそも、公平な配賦に、一つの正解はない
「正しく割り付ければ、正しいコストが出る」と思いたくなる。だが、割り付けに唯一の正解があるわけではない。2010年に Frisk らが *European Journal of Operational Research* 誌 205(2):448-458 で、複数の主体が輸送費を分担する協働の費用配分を調べ、「公平な分担」を求める配分法が一つではなく、方法ごとに各主体の負担額が別々に出ることを示した。誰がいくら負担するのが公平か、という問いには、複数の答えが並び立つ。
ここが、この単位のいちばん深いところだ。コストは、客観的に「そこにある」のではなく、割り付けの約束事で決まる部分がある。 実費(燃料を何リットル使ったか)は測れる。だが「この荷物のコスト」は、約束事——どの方法で割るか——を選んだ瞬間に初めて数字になる。だから分析で出てきた「この便のコスト」を絶対の事実として扱うと、割り付けの約束事を、自然の目盛と取り違える。
運賃そのものは、分析の外で、市況で動く
もう一つ、分析の届かない場所がある。運賃である。とくにスポット運賃——その都度の市場価格で決まる運賃、契約であらかじめ決めておく運賃の対——は、荷主がどれだけ丁寧に分析しても、その努力の外で上下する。2022年に Resende が *Applied Economics Letters* 誌 31(7):588-593 で、米国のトラックのスポット運賃市場の変動の大きさを評価し、2020年に Acocella らが *Transportation Research Part E* 誌 142:102073 で、荷主と運送会社の関係が市況の中でどう動くかを、2021年に Wang らが同誌 149:102287 で、スポット市場がある中での荷主と運送会社の調整を分析した。
これらが描くのは、運賃には、分析ではどうにもならない市況の成分があるという景色だ。燃料価格、繁忙期、車両の需給、荷主と運送会社の関係——これらが動けば、同じ荷を同じ距離運んでも、時期によって運賃は変わる。だから「分析したら◯%下がった」という数字の中には、分析の成果ではなく、たまたま市況が緩んだだけの分が混じっていることがある。逆に、市況が締まった時期には、どれだけ分析しても運賃は上がる。それは分析不足のせいではない。
時間・変化:1996年から今へ
順に置く。1996年、LaLonde と Pohlen が費用を捉える論点を整理し、2000年、Themido らが物流費用の活動基準の事例を示す(可視化の由緒)。2010年、Frisk らが公平な配分が一意でないことを示す(配賦の約束事性)。2020・2021年、Acocella らと Wang らが荷主と運送会社の関係を、2022年、Resende がスポット運賃の変動の大きさを示す(市況の成分)。
この四半世紀で確からしくなったのは、「分析すれば輸送コストは下がる」という因果ではない。 確からしくなったのは、分析で動くのは主に配賦の見え方で、コストには割り付けの約束事の成分と市況の成分があり、そのどちらも「分析して下げた」の一言では説明できない、という向きのほうである。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、分析で出てきた「この便のコスト」を、割り付けの約束事だと気づかずに、絶対の事実として扱ってしまうことである。約束事を替えれば数字は動く。動いた数字を「改善」と呼ぶと、付け替えを削減と取り違える。
標本の偏りも断っておく。ここで引いた研究の多くは、複数の便や主体が費用を分け合う、まとまった規模の輸送を扱っている。一人で運び、費用が最初から分かれていない小さな事業では、配賦の問題そのものが起きにくい。かわりに、市況の成分が丸ごと効いてくる。
助けになるのは、自分が「輸送コスト」と呼んでいる数字が、割り付けの約束事で決まった分なのか、市況で決まった分なのかを、一度だけ切り分けてみるという一手である。切り分ければ、自分の努力で動かせる部分と、動かせない部分の見当がつく。
最初の一歩は10分。直近に自分が払った(または見積もった)運送の費用を一つ選び、左に「その費用の内訳——燃料や手間のように割り付けで決まる分と、そのときの運賃相場で決まる分」を、思い出せる範囲で分けて書く。右に、「もし来月これを◯%下げると言われたら、どちらの分を触る話か」を書く。どちらが正しいかは書かない。市況で決まっていて自分では動かせない分に、印を付けるだけである。 運送会社に値切りを持ちかける必要はない。自分の費用の記録だけで完結させる。
次の単位は 388「納期を守り切るには?」——費用の次に、約束した日に届いたかどうかが、どの定義で測った遵守率なのかを、この土台の上に積み上げる。
- 配賦とは共通でかかった費用を、どの荷物・便に何割ずつ負担させるかの割り当てである。トラック一台の燃料費・人件費・車両費は複数の荷が一緒に使うため、実費が決まっていても、この荷物のコストは割り付け方を決めるまで決まらない。作業の手間・重さ・容積・便数のどれで割るかで、同じ実費でも各荷物のコストは別の数字になる
- 2000年にThemidoらがJournal of the Operational Research Society誌51(10):1148-1157で物流費用の活動基準の事例研究を、1996年にLaLondeとPohlenがThe International Journal of Logistics Management誌7(1):1-12で費用を捉える論点を示した。活動基準の分析はどの作業がいくらかかっているかをよく見せてくれるが、見えることと下がることは別である
- 分析はどんぶり勘定だった費用を作業ごとに割り振り直して内訳を鮮明にするが、割り振り直してもその日の実費の総額は1円も変わらない。『◯%削減』が実は配賦の付け替えである場合、ある荷物の負担額が下がった分、別の荷物の負担額は上がっており、全体の運びの費用は動いていない。可視化は削減の準備にはなるが、可視化そのものは削減ではない
- 2010年にFriskらがEuropean Journal of Operational Research誌205(2):448-458で、複数の主体が輸送費を分担する協働の費用配分を調べ、公平な分担を求める配分法が一つではなく、方法ごとに各主体の負担額が別々に出ることを示した。コストは客観的にそこにあるのではなく、割り付けの約束事で決まる部分がある
- 運賃、とくにスポット運賃(その都度の市場価格で決まる運賃、契約運賃の対)には、荷主の分析の外で動く市況の成分がある。2022年にResendeがApplied Economics Letters誌31(7):588-593でスポット運賃市場の変動の大きさを、2020年のAcocellaら(TR Part E誌142:102073)・2021年のWangら(同誌149:102287)が荷主と運送会社の関係と調整を分析した
- 運賃には分析ではどうにもならない市況の成分がある。燃料価格・繁忙期・車両の需給・関係が動けば、同じ荷を同じ距離運んでも時期によって運賃は変わる。分析して◯%下がった数字には、分析の成果ではなくたまたま市況が緩んだだけの分が混じることがあり、市況が締まれば分析しても運賃は上がる。それは分析不足のせいではない
- この四半世紀で確からしくなったのは、分析すれば輸送コストは下がるという因果ではなく、分析で動くのは主に配賦の見え方で、コストには割り付けの約束事の成分と市況の成分があり、そのどちらも『分析して下げた』の一言では説明できないという向きである。自分の輸送コストを、約束事で決まる分と市況で決まる分に一度切り分けてみる
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 輸送コストを分析すれば下がる。活動基準などで費用を可視化すれば、それがそのまま削減につながる | 分析で動くのは多くの場合、配賦(共通費用をどの荷物・便に何割ずつ負担させるかの割り付け)の見え方である。割り振り直しても、その日にかかった実費の総額は1円も変わらない。ある荷物の負担額が下がって見えても、別の荷物の負担額はその分上がっている。Themido 2000やLaLonde&Pohlen 1996が示すのは、活動基準の分析は費用を鮮明にするということであって、可視化そのものは削減ではない |
| 正しく割り付ければ、その便の正しいコストという客観的な数字が一つ求まる | Frisk 2010(EJOR誌205(2):448-458)は、複数の主体が輸送費を分担する協働で、公平な分担を求める配分法が一つではなく、方法ごとに各主体の負担額が別々に出ることを示した。コストは客観的に『そこにある』のではなく、割り付けの約束事で決まる部分がある。実費は測れるが、この荷物のコストは、どの方法で割るかを選んだ瞬間に初めて数字になる |
| 運賃が下がらないのは分析が足りないからで、丁寧に分析すれば運賃も下げられる | 運賃、とくにスポット運賃(その都度の市場価格で決まる運賃)には、荷主の分析の外で動く市況の成分がある。Resende 2022・Acocella 2020・Wang 2021は、スポット運賃市場の変動の大きさや、荷主と運送会社の関係が市況で動くことを示した。分析して下がった数字には、たまたま市況が緩んだだけの分が混じることがあり、市況が締まれば分析しても運賃は上がる。それは分析不足のせいではない |
皮肉なのは、輸送コストの分析ほど、努力が数字に化ける実感を与えてくれるものはないことである。表計算の桁が動き、内訳が鮮明になり、削減率が印字される。だがその桁のいくらかは、割り付けの約束事を替えただけの付け替えであり、いくらかは、その月の運賃相場が勝手に緩んだだけの贈り物である。実費の総額は、たいてい黙ったままだ。コストが下がって見えるとき、たいていそれは、約束事を替えたのか、相場に助けられたのかを、まだ誰も分けて数えていないだけかもしれない。
Q1. 分析で動くのは多くの場合 ____(共通費用をどの荷物・便に何割ずつ負担させるかの割り付け)の見え方であって、____ の水準ではない。割り振り直しても実費の ____ は変わらない。穴埋め
Q2. 活動基準などによる輸送コストの『可視化』と『削減』の関係について、この単位が示したこととして正しいものはどれか。選択
Q3. Friskら2010が示した『公平な配分に一つの正解はない』とはどういうことか。そこから『コストは客観的にそこにある』という見方をどう修正すべきか、あわせて述べよ。一問一答
Q4. 『分析したら運賃が◯%下がった』という数字を、そのまま分析の成果と受け取ってはいけないのはなぜか。スポット運賃の性質に触れて述べよ。一問一答
Q5. この単位が扱った研究を、年の早い順に並べよ。(ア)Friskらが公平な配分が一意でないことを示す(イ)LaLondeとPohlenが費用を捉える論点を整理する(ウ)Resendeがスポット運賃の変動の大きさを示す(エ)Themidoらが物流費用の活動基準の事例を示す並べ替え
紙かメモアプリに今日の日付を書く。次に、直近に自分が払った(または見積もった)運送の費用を一つ選ぶ。ページを左右に分け、左に『その費用の内訳』を、割り付け(配賦)で決まる分——燃料・手間・車両のように、どの荷にいくら乗せるかで見え方が変わる分——と、そのときの運賃相場(市況)で決まる分——スポットの運賃・繁忙期の割増など——に分けて、思い出せる範囲で書く。右に、『もし来月これを◯%下げると言われたら、左のどちらの分を触る話になりそうか』を書く。どちらが正しいかは書かない。市況で決まっていて自分では動かせない分にだけ印を付ける。最後に、印の数を1つの数字で書き添える。運送会社に値切りを持ちかけたり、相手の原価を詮索したりする必要はない。自分が払った費用の記録だけで完結させる。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Themido I., Arantes A., Fernandes C., Guedes A.P. (2000) ‘Logistic costs case study—an ABC approach’, Journal of the Operational Research Society 51(10):1148-1157 — doi.org
- LaLonde B.J., Pohlen T.L. (1996) ‘Issues in Supply Chain Costing’, The International Journal of Logistics Management 7(1):1-12 — doi.org
- Frisk M., Göthe-Lundgren M., Jörnsten K., Rönnqvist M. (2010) ‘Cost allocation in collaborative forest transportation’, European Journal of Operational Research 205(2):448-458 — doi.org
- Resende M. (2022) ‘Volatility assessment of US trucking spot freight market’, Applied Economics Letters 31(7):588-593 — doi.org
- Acocella A., Caplice C., Sheffi Y. (2020) ‘Elephants or goldfish?: An empirical analysis of carrier reciprocity in dynamic freight markets’, Transportation Research Part E: Logistics and Transportation Review 142:102073 — doi.org
- Wang K.Y., Wen Y., Yip T.L., Fan Z. (2021) ‘Carrier-shipper risk management and coordination in the presence of spot freight market’, Transportation Research Part E: Logistics and Transportation Review 149:102287 — doi.org