「販促費の効果は最大化できる」——だが最大化できるのは短期の山だけで、その山はおよそ10週で霧散する
価格を下げると売上は跳ね上がる。その山にかけた費用は、いくら戻り、いくら残るのか。560の種類を4年追った研究は、販促の効果は平均およそ10週で霧散し、長期の影響は本質的にゼロだ、と書いた。販促の力は、種類全体を押し上げることではなく、打ち続けているあいだ現状を維持することにある。最大化できるのは、山だけである。
前の単位では、売り場で作った短期の「山」の中身を分けた。ここでは、その山にかけた販促費が、いくら戻ってきて、その戻りが残るのかを扱う。
この棚は16回、同じことを言っている。原理が実在することと、目の前で効くことは別物である。 ここではそれを、お金の側から言い直す。販促の効果は、短期には確かに出る。だが、かけたぶんが長く残るかどうかは、別の話である。
まず、この単位の持ち場をはっきりさせておく。同じ「測る」でも、この棚では三つに分けてある。 何をどう測るかの設計は前のほうの単位、二つのやり方を並べて比べるのは別の単位、そしてこの単位は——かけた販促費に対して、いくら戻るか、その戻りは残るかという、投資対効果(ROI、かけたお金に対する戻り)の側だけを扱う。ここでは、測り方そのものや、比べ方には立ち入らない。
「最大化」できるのは、山だけである
価格を下げる販促を打つと、売上は跳ね上がる。前の単位で見た山である。問題は、その山が引いたあと、平常の売上そのものが少し高いところへ移るのかどうかだ。販促費をかけた見返りが「残る」とは、そういうことである。
2002年に *Journal of Marketing Research* 誌39巻4号421-439頁へ出た Pauwels・Hanssens・Siddarth は、価格販促の恒久的な効果——販促が終わったあとも続く効果——を、売上の三つの成分に分けて調べた。買うか買わないか、どのブランドを選ぶか、どれだけの量を買うか、である。結論は、そのどの成分にも、恒久的な販促の効果はほとんど残らない、というものだった。 山は作れる。だが、山がならした先の高さは、ほとんど動かない。
だから、「販促費の効果を最大化する」と言うとき、最大化できているのは、たいてい短期の山の高さである。 長く残る底上げのほうは、そもそも最大化する対象として、ほとんど存在しない。
山は、およそ10週で霧散する
どれくらいの速さで元へ戻るのかを、正面から測った研究がある。2001年に *Marketing Science* 誌20巻1号1-22頁へ出た Nijs・Dekimpe・Steenkamp・Hanssens は、560の種類を4年ぶんのデータで調べ、価格販促が種類全体の需要に与える効果を追った。抄録はこう書いている——“they rarely exhibit persistent effects. Instead, the effects dissipate over a time period lasting approximately 10 weeks on average, and their long-term impact is essentially zero”(それらが持続的な効果を示すことはめったになく、効果は平均しておよそ10週間かけて霧散し、その長期の影響は本質的にゼロである)。
そして、販促の働きどころについては、こう書いている——“the power of price promotions lies primarily in the preservation of the status quo in the category”(価格販促の力は、主にその種類における現状の維持にある)。
現状の維持。 つまり、販促は、種類全体を新しい高さへ押し上げる道具ではなく、打ち続けているあいだ、いまの位置を保っているだけだ、という見方である。10週で霧散するものを、月ごとに打ち直しているとき、動いているのは平常の高さではなく、山と谷の並びのほうである。
どちらの側にも、恒久的な金銭効果は残らない
「残らない」のは、売った側の一方だけの話ではない。2004年に *Management Science* 誌50巻5号617-629頁へ出た Srinivasan・Pauwels・Hanssens・Dekimpe は、販促が作った側(製造)と、売り場を持つ側(小売)のどちらに得をもたらすのかを、時系列で追った。抄録の第一の発見はこうである——“A first major finding is that a price promotion typically does not have permanent monetary effects for either party”(第一の主要な発見は、価格販促が、どちらの側にも典型的には恒久的な金銭効果を持たない、ということである)。
どちらの側にも、残らない。 短期の山は、作った側にも売り場にも、それぞれの取り分をもたらす。だが、その取り分が恒久的な金銭の底上げになって残ることは、典型的にはない。ROIを長い物差しで測ると、分子——戻ってきたお金——のうち、恒久的に積み上がる分は、ほとんどゼロに近づく。
売上の多くは、放っておいても元の水準へ戻る
なぜ、効果は残らず、元へ戻るのか。その土台には、売上という数字そのものの性質がある。1995年に *Marketing Science* 誌14巻1号1-21頁へ出た Dekimpe・Hanssens は、多くの売上の時系列が定常である——長い目で見ると、ある水準のまわりを行き来し、ショックがあってもやがてその水準へ戻る性質を持つ——ことを示した。これを平均回帰と呼ぶ。マーケティングの効果が、その水準そのものを恒久的に押し上げる「持続」を持つのは、むしろ例外的な場合に限られる。
平均回帰する数字に山を作っても、山はいずれ均される。 これは販促が無力だという話ではない。山そのものには意味がある(前倒しであれ奪い合いであれ、短期の売上は動く)。ただ、その山を「積み上がる資産」として読むと、平均回帰という数字の地力に足を取られる、ということである。
長期の弾力性で見ると、値引きは桁違いに小さい
では、長い目で見て、何が売上を動かすのか。2010年に *Journal of Marketing Research* 誌47巻5号866-882頁へ出た Ataman・van Heerde・Mela は、ブランドの売上に対する各手段の長期の効き目を、弾力性——ある手段を1%動かしたとき、売上が何%動くか——として推定した。抄録はこう書いている——“the total (short-term plus long-term) sales elasticity is 1.37 for product and .74 for distribution”(短期と長期を合わせた売上の弾力性は、製品そのもので1.37、配荷で0.74である)。配荷とは、その商品がどれだけ多くの店に置かれているかである。これに対し、同じ枠組みでの広告は0.13、そして値引きは0.04と、桁違いに小さい。
長い目で売上を動かしていたのは、商品そのものと、どれだけ置かれているかであって、値引きではなかった。 値引きの長期弾力性0.04は、製品の1.37の、およそ30分の1である。
そして、それでもなお、長期の効果がまったく出ないわけではない、という但し書きも要る。2004年に *Marketing Science* 誌23巻4号596-610頁へ出た Pauwels は、長期のマーケティング効果が現れるのは、競争相手の反応、企業側の継続的な支援、そして慣性といった文脈が噛み合ったときに限られる、と整理した。長期効果は、無条件には出ない。特定の条件が揃ったときにだけ、細く残る。
時間・変化:1995年から2010年まで
順に置く。1995年、Dekimpe・Hanssens が、多くの売上系列は定常で、マーケ効果の持続は例外的だと示す。2001年、Nijs らが、560の種類・4年で、販促効果はおよそ10週で霧散し長期の影響は本質的にゼロ、力は現状維持にあると示す。2002年、Pauwels らが、価格販促の恒久効果は売上のどの成分にもほとんど無いと示す。2004年、Srinivasan らが、恒久的な金銭効果はどちらの側にも残らないと示し、同年 Pauwels が、長期効果は特定の条件でだけ出ると整理する。2010年、Ataman らが、長期の売上を動かすのは製品と配荷で、値引きの弾力性は0.04と桁違いに小さいと示す。
この15年で確からしくなったのは、「販促費の効果は最大化できる」のほうではない。 確からしくなったのは、最大化できるのは短期の山だけで、長い目で見た売上は、放っておけばおおむね元の水準へ戻る、という向きのほうである。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、短期の山の高さを、そのまま販促費の見返りとして記録することである。山は目に見えるし、月ごとの成績にもなる。だが、山が引いたあとの谷と、平均回帰まで含めて数えないと、ROIの分子は実際より大きく見える。
標本の偏りを断っておく。ここまでの実証は、多くの種類を長期に追える大きな時系列データ——スキャンデータや業界のパネル——から採られている。手渡しで売る商い、扱う品が少ない商い、季節でまるごと動く商いが、同じ振る舞いをするとはかぎらない。 数字の細かさより、「山は残らず、平均回帰する」という構造のほうを持ち帰るのがよい。
この単位では、具体的な値引き幅や、販促費をいくらに設定せよ、この費用を止めよ、という助言はしない。 決めるのは読者であって、この棚が決めることではない。
助けになるのは、自分が過去に販促費をかけた売り出しを一つ選び、その売り出しの前後で、平常の売上の水準そのものが動いたかどうかを、自分の手元の記録だけで見返すという一手である。山ではなく、山がならした先の高さを見る。
最初の一歩は10分。自分がお金をかけた売り出しを一つ思い出し、その売り出しにかけた費用と、売り出しの前の平常の月と、山が引いてしばらく経ったあとの平常の月の売上を、思い出せる範囲で三つ書き並べる。山の月ではなく、前後の平常の月を並べる。 平常の高さが動いていなければ、それも一つの発見である。
次の単位は 367「誇大にならないためには?」——販促の効き目を大きく見せたくなる誘惑と、その見せ方を縛る現行の決まりを扱う。
- この棚が16回くり返す見方——原理が実在することと目の前で効くことは別物——を、お金の側から言い直す単位。販促の効果は短期には出るが、かけたぶんが長く残るかは別。持ち場は投資管理(かけた販促費が戻って残るか)で、測り方の設計やA/Bの比べ方には立ち入らない
- Pauwels・Hanssens・Siddarth 2002 Journal of Marketing Research 39(4):421-439 は、価格販促の恒久的な効果を売上の三成分(買うか・どのブランドか・どれだけの量か)に分けて調べ、そのどの成分にも恒久的な効果はほとんど残らないと示した。最大化できているのはたいてい短期の山の高さである
- Nijs・Dekimpe・Steenkamp・Hanssens 2001 Marketing Science 20(1):1-22 は560の種類を4年で調べ、販促は持続的な効果をめったに示さず、効果は平均およそ10週で霧散し長期の影響は本質的にゼロで、その力は主に種類における現状の維持にある、と抄録で示した
- Srinivasan・Pauwels・Hanssens・Dekimpe 2004 Management Science 50(5):617-629 は、価格販促が製造・小売のどちらに得をもたらすかを追い、第一の発見として、価格販促はどちらの側にも典型的には恒久的な金銭効果を持たない、と示した
- Dekimpe・Hanssens 1995 Marketing Science 14(1):1-21 は、多くの売上の時系列が定常で、ショックがあってもやがて元の水準へ戻る平均回帰の性質を持ち、マーケティング効果がその水準を恒久的に押し上げる持続は例外的だと示した。平均回帰する数字に作った山は、いずれ均される
- Ataman・van Heerde・Mela 2010 Journal of Marketing Research 47(5):866-882 は、短期と長期を合わせた売上の弾力性を製品1.37・配荷0.74と推定し、広告0.13・値引き0.04と桁違いに小さいと示した。Pauwels 2004 Marketing Science 23(4):596-610 は、長期効果が出るのは競争反応・企業支援・慣性が噛む特定の条件に限ると整理した
- 時間・変化——1995年 Dekimpe・Hanssens、2001年 Nijs、2002年 Pauwels、2004年 Srinivasan と Pauwels、2010年 Ataman。確からしくなったのは「販促費の効果は最大化できる」ではなく、最大化できるのは短期の山だけで、長い目で見た売上はおおむね元の水準へ戻る、という向きである
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 販促費のかけ方を工夫すれば、その効果を最大化して、売上を持続的に押し上げられる | 2001年に Marketing Science 誌20巻1号1-22頁へ出た Nijs らが560の種類を4年で調べたところ、価格販促が持続的な効果を示すことはめったになく、効果は平均しておよそ10週で霧散し、長期の影響は本質的にゼロだった。抄録は「価格販促の力は主に種類における現状の維持にある」と書いている。最大化できるのは短期の山の高さで、長く残る底上げのほうは、そもそも最大化する対象としてほとんど存在しない |
| 販促の見返りは、うまくやれば作り手にも売り場にも、恒久的な利益として積み上がる | 2004年に Management Science 誌50巻5号617-629頁へ出た Srinivasan らは、価格販促が製造・小売のどちらに得をもたらすかを時系列で追い、第一の発見として、価格販促はどちらの側にも典型的には恒久的な金銭効果を持たない、と示した。短期の山はそれぞれの取り分を作るが、その取り分が恒久的な底上げになって残ることは典型的にはない |
| 長い目で見ても、値引きは売上を大きく動かす主力の手段である | 2010年に Journal of Marketing Research 誌47巻5号866-882頁へ出た Ataman らの推定では、短期と長期を合わせた売上の弾力性は製品そのもので1.37、配荷で0.74である一方、広告は0.13、値引きは0.04と桁違いに小さかった。長い目で売上を動かしていたのは商品そのものとどれだけ置かれているかで、値引きの長期弾力性は製品のおよそ30分の1にとどまる |
皮肉なのは、いちばん熱心に販促費を「最大化」した人ほど、山の高さを見て、うまく回っていると感じることである。だが、山は残らない。およそ10週で霧散し、平常の高さはほとんど動かない。ROIがいちばん良く見えるとき、たいていそれは、山の高さだけを分子に置いて、そのうしろの谷と、平均回帰する売上の地力を、まだ引き算していないだけかもしれない。
Q1. 560の種類を4年で調べた Nijs ら 2001 は、価格販促が持続的な効果を示すことはめったになく、効果は平均しておよそ ____ 週で霧散し、長期の影響は本質的に ____ で、その力は主に種類における ____ の維持にある、と示した。穴埋め
Q2. Ataman ら 2010 が推定した、短期と長期を合わせた売上の弾力性(1%動かすと売上が何%動くか)の大小として、正しい並びはどれか。選択
Q3. Dekimpe・Hanssens 1995 が示した売上の「平均回帰」とはどういう性質か。それが販促の山にとって何を意味するかも、あわせて答えよ。一問一答
Q4. この単位(366)の持ち場は、同じ「測る」を扱う近くの単位とどう区別されているか。366が扱うことと、扱わないことを述べよ。一問一答
Q5. この単位が扱った研究を、年の早い順に並べよ。(ア)Nijs らが効果は約10週で霧散し長期はゼロと示す(イ)Ataman らが長期を含む弾力性で値引きは0.04と示す(ウ)Dekimpe・Hanssens が売上の平均回帰を示す(エ)Srinivasan らが恒久的な金銭効果はどちらの側にも残らないと示す並べ替え
紙かメモアプリに今日の日付を書く。次に、自分が販促費(値引きの原資・チラシ代・広告費・景品代など、なんらかの費用)をかけた売り出しを一つ選ぶ。手元の記録(売上メモ・帳簿・注文履歴・レジ記録など、いま見られるもの)から、三つの数字を思い出せる範囲で書き並べる——(1)その売り出しにかけたおおよその費用、(2)売り出しの前の、ふだんの月の売上、(3)山が引いてしばらく経ったあとの、ふだんの月の売上。ここで並べるのは山の月ではなく、前とあとの『平常の月』であることに注意する。最後に、(2)と(3)を見比べて、平常の水準そのものが上がった・変わらない・下がった、のいずれかに印を付ける。新しく値引きを試したり、客に尋ねたりする必要はない。あくまで自分の過去の費用と売上の記録だけで完結させる。一人で全部を回している場合も、そのまま同じ形で書けばよい。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
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- Pauwels K., Hanssens D.M., Siddarth S. (2002) ‘The Long-Term Effects of Price Promotions on Category Incidence, Brand Choice, and Purchase Quantity’, Journal of Marketing Research 39(4):421-439 — doi.org
- Nijs V.R., Dekimpe M.G., Steenkamp J.-B.E.M., Hanssens D.M. (2001) ‘The Category-Demand Effects of Price Promotions’, Marketing Science 20(1):1-22 — doi.org
- Srinivasan S., Pauwels K., Hanssens D.M., Dekimpe M.G. (2004) ‘Do Promotions Benefit Manufacturers, Retailers, or Both?’, Management Science 50(5):617-629 — doi.org
- Dekimpe M.G., Hanssens D.M. (1995) ‘The Persistence of Marketing Effects on Sales’, Marketing Science 14(1):1-21 — doi.org
- Ataman M.B., van Heerde H.J., Mela C.F. (2010) ‘The Long-Term Effect of Marketing Strategy on Brand Sales’, Journal of Marketing Research 47(5):866-882 — doi.org
- Pauwels K. (2004) ‘How Dynamic Consumer Response, Competitor Response, Company Support, and Company Inertia Shape Long-Term Marketing Effectiveness’, Marketing Science 23(4):596-610 — doi.org