「キャンペーンには勝ち筋の型がある」——だが、当たった型は、当たりから逆算して選ばれている
当たったキャンペーンには勝ち筋の型がある、と教わる。皮肉なことに、その型は、当たったものから逆算して選ばれている。同じ型で外れた無数は、事例集にも受賞リストにも載らない。創意は条件しだいで効き、覚えることと動くことは別、賞は効果と別軸で回り、389件の本物の実験の前では多くの施策が売上差を生まなかった。
前の単位では、話題の広がりを狙って設計できるのかを扱った。ここでは、お金と手間をかけた一つのキャンペーンに、勝ち筋の型があるのかを扱う。
この棚が何度も戻ってくる見方を、ここでも一度だけ触れておく——原理が実在することと、あなたの手元で効くことは別物である。 「当たったキャンペーンの型」も、当たったものを後から並べた整理であって、次を当てる保証書ではない。
クリエイティブは効く。ただし条件しだいで、売上への直結は別
まず公平に言う。優れたクリエイティブ(広告の作り込み・独創性)には、効果がある。 2020年に *Journal of Marketing* 誌 84(6):39-56 へ出た Rosengren・Eisend・Koslow・Dahlen のメタ分析は、広告の創意がいつ・どう効くかを多数の研究から束ねた。抄録はこう書く——“The results show robust positive effects but also highlight the importance of considering both originality and appropriateness when investing in advertising creativity”(結果は頑健に正の効果を示すが、同時に、広告の創意に投資するときは独創性と適切さの両方を考える重要性を際立たせている)。
読みどころは後半だ。効果は「独創的でありさえすれば出る」のではなく、独創性と適切さ(その商い・その相手に合っているか)の両方が揃ったときの話である。 そして、この効果は主に人の注意・記憶・態度に対して測られている。そこから売上へ直結するかは、また別の鎖であり、この一本が保証しているわけではない。 クリエイティブは効く、しかし「型どおりに独創的にすれば売れる」という約束とは、少し違う。
覚えてもらうことと、動いてもらうことは、違う
その「別の鎖」を、正面から測った研究がある。2005年に *Journal of Advertising* 誌 34(3):47-57 へ出た Till・Baack は、題からして問いだ——「再認と説得:創意ある広告は効くのか」。
彼らが示したのは、こういう向きである——創意ある広告は、覚えてもらう(再認される)力を確かに高める。だが、態度や購買の意図を動かす(説得する)力までを、必ずしも高めるわけではない。 覚えてもらうことと、動いてもらうことは、別の物差しで測る別のことなのだ。話題になった、よく覚えている、と言われるキャンペーンが、そのまま行動を変えたとはかぎらない。「印象に残った」を「効いた」と読み替えない。
広告賞は、効果とは別の軸で決まっている
「勝ち筋の型」を探すとき、多くの人が広告賞を手がかりにする。賞を取った作りを真似れば効くはずだ、と。ここに冷たい実測がある。2012年に *Business Research* 誌 5(1):60-81 へ出た Kübler・Proppe は、そもそも何が受賞を駆動しているのかを調べた。
結果はこうだ——受賞を強く押し上げていたのは、新規性(目新しさ)と、複数の媒体をまたいだ統合の巧みさだった。 一方で、広告の意味性——伝えたいことがちゃんと伝わっているか——は、受賞に有意には効いていなかった。つまり、広告賞は「効果」を測る装置ではなく、「新しさと見せ方」を評価する軸で回っている。 賞と売上は、別の軸なのだ。受賞作の型を写しても、それは新しさの型を写しているのであって、効果の型を写していることにはならない。(どの賞・どの作品が優れているか、という優劣の断定は、ここではしない。研究が調べたのは、受賞という結果を何が押し上げたか、という一点である。)
巨額の話題キャンペーンでも、効果は文脈しだい
大きなお金をかけ、誰もが話題にするような巨大キャンペーンなら、さすがに確実に効くのではないか。これも測られている。2018年に *Marketing Science* 誌 37(1):78-96 へ出た Hartmann・Klapper は、巨大スポーツ中継枠に出た広告を分析し、その効き方をこう要約する——“Super Bowl advertising builds a complementarity between the brand and sports viewership more broadly”(その広告は、ブランドとスポーツ観戦とのあいだの補完的な結びつきを、より広く築く)。効くのは効くが、効き方は文脈と結びついた特有のもので、どんな商いにも移せる普遍の勝ち筋ではない。
そもそも広告とは、強力な説得装置なのか。2002年に *Journal of Advertising Research* 誌 42(4):7-18 へ出た Ehrenberg・Barnard・Kennedy・Bloom は、広告をむしろゆるいパブリシティ——強く説き伏せるより、既にあるブランドを思い出させ、支えるはたらき——として捉え直すべきだと論じた。もしそうなら、「説得の公式でキャンペーンを組めば売れる」という前提そのものが、疑わしいことになる。
389件の実験が言うこと——多くの施策で、売上差は出ない
決定打は、古いが大きい。1995年に *Journal of Marketing Research* 誌 32(2):125-139 へ出た Lodish らの研究は、389件の実地の分割ケーブル実験——同じ地域を二つに分け、片方だけに広告を流して売上を比べる、という本物の実験を389回——のメタ分析である。
結論の二節が重い。“many of the variables did not differentiate among the sales effects of different advertising treatments”(多くの変数は、異なる広告施策の売上効果を区別しなかった)。そして——“The authors' data do not show a strong relationship between standard recall and persuasion copy test measures and sales effectiveness”(著者らのデータは、標準的な再認・説得のコピーテストの指標と、売上効果との強い関係を示さない)。
かみ砕くと——「こうすれば効く」とされてきた多くの施策は、本物の実験にかけると、売上の差を生まなかった。 そして、事前のコピーテストで良い点を取ることと、実際に売れることのあいだにも、強い関係は見えなかった。勝ち筋とされる型は、389回の実験の前で、再現しなかったのである。
時間・変化:1995年から2020年まで
順に置く。1995年、Lodish らが389件の分割ケーブル実験で、多くの施策が売上差を生まないと示す。2002年、Ehrenberg らが、広告は強い説得よりゆるいパブリシティだと捉え直す。2005年、Till・Baack が、創意は再認を高めるが説得を必ずしも高めないと示す。2012年、Kübler・Proppe が、受賞は新規性と多媒体統合で決まり意味性は効かないと示す。2018年、Hartmann・Klapper が、巨大キャンペーンの効果は文脈と結びついた特有のものだと示す。2020年、Rosengren らが、創意は頑健に効くが独創性と適切さの両方が要ると示す。
この四半世紀で確からしくなったのは、「キャンペーンには勝ち筋の型がある」という約束のほうではない。 確からしくなったのは、創意は条件しだいで効き、覚えることと動くことは別で、賞は効果と別軸で回り、多くの施策は本物の実験の前で売上差を生まない、という向きのほうである。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、当たったキャンペーンや受賞作の型を、これから当てるための手順だと読み替えることである。当たった型は、当たったものから逆算して選ばれている。同じ型で外れた無数は、事例集にも受賞リストにも載らない。
標本の偏りも断っておく。ここで引いた実証の多くは、テレビや大規模媒体の、比較的大きな広告を対象にしている。 手作りのチラシや、狭い商圏の一枚のお知らせが、同じ規則で動くとはかぎらない。キャンペーンを工夫すること自体が悪いのではない。「型どおりにやれば勝てる」という保証だけが、支えられていない。
助けになるのは、他人の受賞作ではなく、自分の過去のキャンペーンの記録を、覚えられたかと動いてもらえたかに分けて見るという一手である。二つは別の物差しだと知って、別々に見る。
最初の一歩は10分。自分が過去に打ったキャンペーンや売り出しを一つ選び、「覚えてもらえた形跡(見られた数・話題にされた記録など)」と「動いてもらえた形跡(問い合わせ・来店・申込みなど、記録があるもの)」を、二つの欄に分けて書き写す。 二つの欄の多い少ないが揃っているかどうかだけを眺め、揃っていない箇所に印を付ける。揃っていなければ、それが「覚えると動くは別」の実物であり、収穫である。 他人に何かを試す必要はない。
次の単位は 364「販促の年間計画を立てるには?」——一回のキャンペーンではなく、年間の販促の頻度とカレンダーが、狙いどおりに売上を安定させるのかを確かめる。
- 2020年に Journal of Marketing 誌 84(6):39-56 へ出た Rosengren・Eisend・Koslow・Dahlen のメタ分析は、広告の創意に頑健な正の効果があるが、独創性と適切さ(その商い・相手への合致)の両方を考える重要性を際立たせた。効果は主に注意・記憶・態度に対して測られ、そこから売上への直結は別の鎖で、型どおりに独創的にすれば売れるという約束とは違う
- 2005年に Journal of Advertising 誌 34(3):47-57 へ出た Till・Baack は、創意ある広告は再認(覚えてもらう力)を高めるが、態度や購買意図を動かす説得の力までを必ずしも高めないと示した。覚えることと動くことは別の物差しで測る別のことであり、印象に残ったを効いたと読み替えてはいけない
- 2012年に Business Research 誌 5(1):60-81 へ出た Kübler・Proppe は、広告賞の受賞を強く駆動していたのは新規性と多媒体をまたぐ統合の巧みさで、意味性は受賞に有意に効かないと示した。広告賞は効果ではなく新しさと見せ方を評価する軸で回っており、受賞作の型を写すことは新しさの型を写すことであって効果の型ではない
- 2018年に Marketing Science 誌 37(1):78-96 へ出た Hartmann・Klapper は、巨大スポーツ中継枠の広告がブランドとスポーツ観戦の補完的な結びつきを広く築くとし、効き方が文脈と結びついた特有のものだと示した。巨額で話題のキャンペーンでも効果は文脈しだいで、どんな商いにも移せる普遍の勝ち筋ではない
- 2002年に Journal of Advertising Research 誌 42(4):7-18 へ出た Ehrenberg・Barnard・Kennedy・Bloom は、広告を強く説き伏せる装置ではなく、既にあるブランドを思い出させ支えるゆるいパブリシティとして捉え直すべきだと論じた。もしそうなら、説得の公式でキャンペーンを組めば売れるという前提そのものが疑わしくなる
- 1995年に Journal of Marketing Research 誌 32(2):125-139 へ出た Lodish らは、389件の実地の分割ケーブル実験のメタ分析で、多くの変数が異なる広告施策の売上効果を区別せず、標準的な再認・説得のコピーテスト指標と売上効果に強い関係が見られないと示した。勝ち筋とされる型は本物の実験の前で再現しなかった
- この四半世紀で確からしくなったのはキャンペーンには勝ち筋の型があるという約束ではなく、創意は条件しだいで効き、覚えることと動くことは別、賞は効果と別軸で回り、多くの施策は本物の実験の前で売上差を生まない、という向きである。工夫自体は否定しないが、型どおりにやれば勝てるという保証だけが支えられていない
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 過去に当たったキャンペーンや受賞作から勝ち筋の型を抽出すれば、それを再現して当てられる | 当たった型は、当たったものから逆算して選ばれており、同じ型で外れた無数は事例集にも受賞リストにも載らない。Lodish ら 1995 Journal of Marketing Research 32(2):125-139 の389件の分割ケーブル実験では、多くの施策が売上差を生まず、コピーテストの点と売上効果に強い関係もなかった。工夫自体は否定しないが、型どおりにやれば勝てるという保証は本物の実験の前で再現しなかった |
| 広告賞を取るような優れたクリエイティブは、そのまま売上につながる | 広告賞は効果ではなく新しさと見せ方を評価する別軸で回っている。Kübler・Proppe 2012 Business Research 5(1):60-81 では、受賞を押し上げるのは新規性と多媒体統合で、意味性は有意に効かなかった。加えて Till・Baack 2005 Journal of Advertising 34(3):47-57 は、創意は再認を高めても説得(態度・購買意図)を必ずしも高めないと示した。覚えることと動くことは別である |
| 巨額をかけた話題のキャンペーンなら、確実に効く | 巨額でも効果は文脈しだいである。Hartmann・Klapper 2018 Marketing Science 37(1):78-96 は、巨大中継枠の広告の効き方がブランドとスポーツ観戦の補完的な結びつきという文脈特有のものだと示した。Ehrenberg ら 2002 Journal of Advertising Research 42(4):7-18 は広告をゆるいパブリシティと捉え直しており、説得の公式で確実に効かせるという前提そのものが疑わしい |
皮肉なのは、勝ち筋の型を熱心に集めた人ほど、「次はこの型でいく」と言い切りたくなることである。だが型は、当たったものを後ろから写生した下絵にすぎない。創意は条件しだいで効き、覚えることと動くことは別で、賞は新しさの軸で回り、389回の実験の前で多くの施策は売上差を生まなかった。それでも「あの受賞キャンペーン」は今日も、勝ち筋の証拠として引かれる。引かれるのは、同じ型で外れた無数を、誰も並べて見せないからである。
Q1. Rosengren ら2020は広告の創意に「頑健な正の効果」を認めたが、無条件ではない。効果が出るための条件と、この効果が売上をそのまま保証しない理由を答えよ。一問一答
Q2. Till・Baack 2005によれば、創意ある広告は ____ してもらう力(再認)を高めるが、態度や購買の意図を動かす ____ の力までを必ずしも高めない。だから「印象に残った」を「____ 」と読み替えてはいけない。穴埋め
Q3. Kübler・Proppe 2012が、広告賞の受賞を強く駆動していると示した要素はどれか。選択
Q4. Lodish ら1995の389件の分割ケーブル実験のメタ分析が示した二つのこと(施策の売上差と、コピーテストとの関係)を答えよ。そこから「勝ち筋の型」についてどう言えるか。一問一答
Q5. この単位が扱った研究を、年の早い順に並べよ。(ア)Rosengren らが創意は独創性と適切さの両方が要ると示す(イ)Lodish らが389件の実験で多くの施策が売上差を生まないと示す(ウ)Kübler・Proppe が受賞は新規性と多媒体統合で決まると示す(エ)Ehrenberg らが広告をゆるいパブリシティと捉え直す並べ替え
紙かメモアプリに今日の日付を書く。次に、自分が過去に打ったキャンペーンや売り出し・セールを一つ選ぶ。ページを左右に分け、左に『覚えてもらえた形跡(見られた数・話題にされた記録・反応の多さなど)』を、右に『動いてもらえた形跡(問い合わせ・来店・申込み・購入など、記録があるもの)』を書き写す。二つの欄の多い少ないが揃っているかどうかだけを眺め、揃っていない箇所に印を付ける。優劣の判定はしない。揃っていなければ、それが『覚えると動くは別』の実物であり、収穫である。他人の受賞作を調べたり、新しく何かを試したりする必要はない。一人で全部を回している場合も、そのまま同じ形で書けばよい。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Rosengren S., Eisend M., Koslow S., Dahlen M. (2020) 'A Meta-Analysis of When and How Advertising Creativity Works', Journal of Marketing 84(6):39-56 — doi.org
- Till B.D., Baack D.W. (2005) 'Recall and Persuasion: Does Creative Advertising Matter?', Journal of Advertising 34(3):47-57 — doi.org
- Kübler R.V., Proppe D. (2012) 'Faking or Convincing: Why Do Some Advertising Campaigns Win Creativity Awards?', Business Research 5(1):60-81 — doi.org
- Hartmann W.R., Klapper D. (2018) 'Super Bowl Ads', Marketing Science 37(1):78-96 — doi.org
- Ehrenberg A.S.C., Barnard N., Kennedy R., Bloom H. (2002) 'Brand Advertising as Creative Publicity', Journal of Advertising Research 42(4):7-18 — doi.org
- Lodish L.M., Abraham M., Kalmenson S., Livelsberger J., Lubetkin B., Richardson B., Stevens M.E. (1995) 'How T.V. Advertising Works: A Meta-Analysis of 389 Real World Split Cable T.V. Advertising Experiments', Journal of Marketing Research 32(2):125-139 — doi.org