「話題の広がりは設計できる」——だが、広がったものの共通点は、広げる手順ではない
覚えやすい型に沿えば話題を設計して広げられる、と教わる。皮肉なことに、その型は、広がったものを後から観察して共通点を並べた事後の整理である。実測では、人づてのバズは稀で、人気の大半は最大の一斉発信で決まり、誰が火種になるかは事前に当てられない。同じ内容が、社会的影響のせいで、当たりも外れもする。
前の単位では、少ない元手でどう目立つかを扱った。ここでは、その目立ちが人から人へ広がる——口コミや拡散そのものを、狙って設計できるのかを扱う。
この棚が何度も戻ってくる見方を、ここでも一度だけ触れておく——原理が実在することと、あなたの手元で効くことは別物である。 「こうすれば広がる」という枠組みは実在するが、それは広がったものを後から整理した枠であって、これから広げる保証書ではない。
「広がり」は、ほとんどの場合、ほとんど広がらない
話題の拡散は、病がうつるように、人から人へ次々と伝わっていくもの——そう直感されている。2016年に *Management Science* 誌 62(1):180-196 へ出た Goel・Anderson・Hofman・Watts の研究は、その直感を大規模データで測り直した。冒頭はまさにこう書き出す——“Viral products and ideas are intuitively understood to grow through a person-to-person diffusion process analogous to the spread of an infectious disease”(バイラルな製品やアイデアは、感染症の広がりに似た、人から人への拡散の過程で育つと直感的に理解されている)。
だが測った結果は、直感とずれていた。彼らはツイートの拡散構造を大量に調べ、構造的バイラル性——ある投稿が、何段も人づてに枝分かれして広がったのか、それとも一人の発信源から一斉に届いただけなのか、を測る物差しを使った。結論の一節はこうだ——“structural virality is typically low, and remains so independent of size, suggesting that popularity is largely driven by the size of the largest broadcast”(構造的バイラル性はおおむね低く、規模によらず低いままで、人気の大半は最大の一斉発信の規模によって駆動されていることを示唆する)。
かみ砕くと——多くの投稿は、人づてに何段も広がって有名になるのではない。もともと大きな発信力を持つ誰かが一斉に届けた分で、人気の大半が決まっている。 「人から人へ燃え広がるバズ」は、私たちが思うよりずっと稀な現象だった。
誰が火種になるかは、事前には当てられない
では、その稀なバズの起点になる人——火をつける誰かを、あらかじめ見つけて狙えばよいのではないか。ここにも冷たい実測がある。
2011年の WSDM'11(65-74頁)に出た Bakshy・Hofman・Mason・Watts の研究は、その名も「誰もがインフルエンサーである」。ツイッター上で誰の投稿が大きく広がるかを大量に調べ、誰が拡散を生むかを事前に当てるのは難しいと示した。実務上できるのは、特定の有名人に賭けることではなく、多数の平凡な発信者に広く張って、平均として拾うことくらいだ、という話である。2007年に *Journal of Consumer Research* 誌 34(4):441-458 へ出た Watts・Dodds の研究も同じ向きで、「一部の影響力のある人が世論を動かす」という筋書きは過大評価されており、拡散はむしろ普通の人どうしの連鎖に依っていると論じた。
つまり——火種を事前に指名することはできない。 「この人に頼めば広がる」という賭けは、当たったあとにだけ正しく見える。
カスケードは、予測できるのか
2014年の WWW'14(925-936頁)に出た Cheng・Adamic・Dow・Kleinberg・Leskovec の研究は、題からして問いそのものだ——「カスケードは予測できるか」。あるものが共有され、それがさらに共有され……と連なっていくカスケード(連鎖的な共有)が、今後どこまで伸びるかを当てられるかを検証した。
(この論文は、別の棚が使った2007年のバイラル動学の論文と著者が一部重なるが、問いが違う別の論文である。ここで引くのは「予測できるか」を扱ったこの2014年の一本だけである。)
結果を乱暴にまとめれば——次に倍になるかといった直近の一歩は、条件次第である程度当たる。だが、最終的にどれだけ大きくなるかを最初から言い当てるのは、依然として難しい。予測の難しさは、データや手法が足りないからというより、拡散そのものが持っている性質に根ざしている。だから「伸びる話題を事前に選別する」という約束には、原理的な天井がある。
同じ内容が、当たりも外れもする——社会的影響という増幅器
なぜ、これほど予測が難しいのか。手がかりが、2006年に *Science* 誌 311(5762):854-856 へ出た Salganik・Dodds・Watts の実験にある。彼らは人工的な音楽市場をつくり、参加者に無名の曲をダウンロードさせた。片方の世界では他人が何を選んだかが見え、もう片方では見えない。
結果はこうだった——抄録の一節に“increasing the strength of social influence increased both inequality and unpredictability of success”(社会的影響の強さを増すと、成功の不平等さと予測不可能さがともに増した)とある。他人の選択が見える世界では、当たる曲はより極端に当たり、外れる曲はより極端に外れ、しかもどの曲が当たるかは世界ごとにばらばらだった。 同じ曲が、ある世界では大ヒットし、別の世界では埋もれた。
これは、拡散の予測不能が「測り方が下手だから」ではなく、人が互いに影響し合うという仕組みそのものから生まれていることを示している。内容の良し悪しだけでは、当たりは決まらない。
STEPPSは、当たったあとの整理である
拡散を語るとき、しばしば頭文字をつなげた覚えやすい枠組みが引かれる。話題になったものに共通して見える要素——たとえば人に見せたくなる、感情を揺さぶる、実用的だ、といった特徴を並べた整理だ。2013年の書籍 *Contagious* が広めたこの種の枠組みは、考えを整理する足場としては役に立つ。
だが、由緒をはっきりさせておく。これは、広がったものを後から観察して、共通点を並べた事後の整理である。 前の単位で見た生存バイアスと、構造はまったく同じだ——当たった事例だけを見て共通点を抽出しても、それは当たった事例の共通点であって、当てるための手順ではない。同じ特徴を備えながら広がらなかったものは、枠の外に落ちている。だからこの枠を「これに沿えば広がる」という保証として読まない。 書籍として由緒を参照し、効果の主張は、ここまでの査読実証の側——構造的バイラル性の低さ、起点の予測困難、社会的影響による予測不能——に負わせる。
時間・変化:2006年から2016年まで
順に置く。2006年、Salganik らが、社会的影響を強めると成功の不平等さと予測不可能さがともに増すと示す。2007年、Watts・Dodds が、少数の影響力者が世論を動かすという筋書きは過大評価だと論じる。2011年、Bakshy らが、誰が拡散を生むかは事前に当てにくいと示す。2013年、*Contagious* が拡散の共通点を覚えやすい枠として広める(事後の整理)。2014年、Cheng らが、カスケードの最終規模を当てるのは難しいと示す。2016年、Goel らが、構造的バイラル性はおおむね低く、人気は最大の一斉発信で決まると示す。
この10年で確からしくなったのは、「話題は設計して広げられる」という約束のほうではない。 確からしくなったのは、人づてのバズは稀で、起点は事前に当てられず、社会的影響のせいで同じ内容が当たりも外れもする、という向きのほうである。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、話題になった事例の共通点を、これから話題にするための手順だと読み替えることである。共通点は、当たった事例の共通点にすぎない。同じ特徴を備えて広がらなかったものは、枠の外に落ちている。
標本の偏りも断っておく。ここで引いた実証の多くは、大規模なソーシャルメディアや、実験室内の人工市場のデータから採られている。 手渡しの口伝えや、狭い常連のあいだの評判が、同じ性質で動くとはかぎらない。拡散を狙うこと自体が悪いのではない。「設計すれば広げられる」という保証だけが、支えられていない。
助けになるのは、他人のバズ事例ではなく、自分の過去の発信が実際にどう伝わったかの記録を見るという一手である。何段まで伝わったのか、それとも自分から直接届いた分で終わったのか、を、手元の記録だけで確かめる。
最初の一歩は10分。自分の過去の投稿や告知を一つ選び、そこに残っている反応の記録から、「自分が直接届けた相手」と「その先へ又聞きで広がった形跡(引用・転載・又聞きの言及など、あれば)」を、二つの欄に分けて書き写す。 どちらが多いかを数えるだけでよい。又聞きの欄が空でも、それが多くの発信の実態であり、収穫である。 他人に拡散を頼んだり、話題づくりを仕掛けたりする必要はない。
次の単位は 363「キャンペーンを設計するには?」——有償のキャンペーンに勝ち筋の型はあるのか、賞やクリエイティブと売上はどうつながっているのかを確かめる。
- 2016年に Management Science 誌 62(1):180-196 へ出た Goel・Anderson・Hofman・Watts は、拡散構造を大規模に測り、構造的バイラル性はおおむね低く規模によらず低いままで、人気の大半は最大の一斉発信の規模で駆動されると示した。多くの投稿は人づてに何段も広がるのではなく、大きな発信力を持つ誰かが一斉に届けた分で人気が決まる。人づてのバズは思うより稀である
- 2011年の WSDM'11(65-74頁)へ出た Bakshy・Hofman・Mason・Watts『誰もがインフルエンサーである』は、誰の投稿が大きく広がるかを事前に当てるのは難しいと示した。実務上できるのは特定の有名人に賭けることではなく、多数の平凡な発信者に広く張って平均として拾うことである。火種を事前に指名することはできない
- 2007年に Journal of Consumer Research 誌 34(4):441-458 へ出た Watts・Dodds は、少数の影響力者が世論を動かすという筋書きは過大評価されており、拡散はむしろ普通の人どうしの連鎖に依っていると論じた。この人に頼めば広がるという賭けは、当たったあとにだけ正しく見える
- 2014年の WWW'14(925-936頁)へ出た Cheng・Adamic・Dow・Kleinberg・Leskovec『カスケードは予測できるか』は、次に倍になるかという直近の一歩は条件次第で当たるが、最終的にどれだけ大きくなるかを最初から言い当てるのは依然として難しいと示した。予測の難しさは拡散そのものの性質に根ざす。伸びる話題を事前に選別する約束には原理的な天井がある
- 2006年に Science 誌 311(5762):854-856 へ出た Salganik・Dodds・Watts の人工音楽市場実験は、社会的影響の強さを増すと成功の不平等さと予測不可能さがともに増すと示した。他人の選択が見える世界では同じ曲が大ヒットも埋没もし、どれが当たるかは世界ごとにばらばらだった。予測不能は測り方の拙さではなく、人が互いに影響し合う仕組みから生まれる
- 拡散の覚えやすい枠組み——人に見せたくなる、感情を揺さぶる、実用的だといった共通点の整理——を広めた2013年の書籍 Contagious は、考えを整理する足場としては役に立つが、広がったものを後から観察して共通点を並べた事後の整理である。生存バイアスと構造は同じで、当たった事例の共通点は当てるための手順ではない。この枠をこれに沿えば広がるという保証として読まない
- この10年で確からしくなったのは話題は設計して広げられるという約束ではなく、人づてのバズは稀で(構造的バイラル性は低い)、起点は事前に当てられず(Bakshy・Watts&Dodds)、社会的影響のせいで同じ内容が当たりも外れもする(Salganik)という向きである。拡散を狙うこと自体は否定しないが、設計すれば広げられるという保証だけが支えられていない
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 覚えやすい拡散の型(人に見せたくなる・感情を揺さぶる等)に沿ってコンテンツを作れば、話題を設計して広げられる | その型は、広がったものを後から観察して共通点を並べた事後の整理であって、当てるための手順ではない。実測では構造的バイラル性はおおむね低く、人気の大半は最大の一斉発信で決まり(Goel ら 2016 Management Science 62(1):180-196)、起点は事前に当てにくく、社会的影響のせいで同じ内容が当たりも外れもする。2013年の書籍 Contagious は足場として役立つが、これに沿えば広がるという保証ではない |
| 影響力のあるインフルエンサーに火をつけてもらえば、そこから広がる | 誰が拡散を生むかを事前に当てるのは難しい。Bakshy ら 2011 は多数の平凡な発信者に広く張って平均で拾うほかないと示し、Watts・Dodds 2007 Journal of Consumer Research 34(4):441-458 は少数の影響力者が世論を動かすという筋書きは過大評価で、拡散は普通の人どうしの連鎖に依ると論じた。この人に頼めば広がるという賭けは、当たったあとにだけ正しく見える |
| 内容さえ良ければ、実力で当たるかどうかが決まる | 内容の良し悪しだけでは当たりは決まらない。Salganik・Dodds・Watts 2006 Science 311(5762):854-856 の人工市場実験では、他人の選択が見える世界にすると成功の不平等さと予測不可能さがともに増し、同じ曲が世界ごとに大ヒットも埋没もした。予測不能は測り方の拙さではなく、人が互いに影響し合う仕組みそのものから生まれている |
皮肉なのは、拡散の枠を覚えた人ほど、「これで広げられる」と言いたくなることである。だが枠は、広がったものを後ろから写生した下絵にすぎない。人づてのバズは稀で、人気の大半は最大の一斉発信で決まり、起点は事前に当てられず、同じ内容が世界ごとに当たりも外れもする。それでも「バズった一件」は今日も、設計できるという証拠として引かれる。引かれるのは、同じ枠を備えて広がらなかった無数を、誰も数えないからである。
Q1. 2016年に Goel らが大規模データで示した「構造的バイラル性」についての結論として、本文が引いたものはどれか。選択
Q2. Bakshy ら2011と Watts・Dodds 2007によれば、誰が拡散を生むかを ____ に当てるのは難しく、拡散は少数の影響力者ではなく普通の人どうしの ____ に依っている。だから「この人に頼めば広がる」という賭けは、____ あとにだけ正しく見える。穴埋め
Q3. Salganik ら2006の人工音楽市場実験で、「他人の選択が見える世界」にすると成功のふるまいはどう変わったか。そこから、拡散の予測不能はどこから来ると言えるか。一問一答
Q4. 拡散の覚えやすい枠組み(2013年の書籍 Contagious が広めた種類の整理)を「これに沿えば広がる」という保証として読んではいけないのはなぜか。前の単位で見た錯覚の名に触れて答えよ。一問一答
Q5. この単位が扱った研究・書籍を、年の早い順に並べよ。(ア)Goel らが構造的バイラル性は低く人気は一斉発信で決まると示す(イ)Salganik らが社会的影響で成功は不平等かつ予測不能になると示す(ウ)Cheng らがカスケードの最終規模は当てにくいと示す(エ)書籍 Contagious が拡散の共通点を覚えやすい枠として広める並べ替え
紙かメモアプリに今日の日付を書く。次に、自分の過去の投稿・告知・お知らせを一つ選ぶ。そこに残っている反応の記録を見て、ページを左右に分ける。左に『自分が直接届けた相手の形跡(自分の投稿を直接見た数・直接の返信など)』、右に『その先へ又聞きで広がった形跡(引用・転載・第三者による言及・又聞きで来た問い合わせなど、記録があるものだけ)』を書き写す。どちらが多いかを数えるだけでよい。判定や評価はしない。右の欄が空でも、それが多くの発信の実態であり、収穫である。他人に拡散を頼んだり、話題づくりを新しく仕掛けたりする必要はない。一人で全部を回している場合も、そのまま同じ形で書けばよい。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Goel S., Anderson A., Hofman J., Watts D.J. (2016) 'The Structural Virality of Online Diffusion', Management Science 62(1):180-196 — doi.org
- Bakshy E., Hofman J.M., Mason W.A., Watts D.J. (2011) 'Everyone's an Influencer: Quantifying Influence on Twitter', Proceedings of the 4th ACM International Conference on Web Search and Data Mining (WSDM'11):65-74 — doi.org
- Watts D.J., Dodds P.S. (2007) 'Influentials, Networks, and Public Opinion Formation', Journal of Consumer Research 34(4):441-458 — doi.org
- Cheng J., Adamic L., Dow P.A., Kleinberg J.M., Leskovec J. (2014) 'Can cascades be predicted?', Proceedings of the 23rd International Conference on World Wide Web (WWW'14):925-936 — doi.org
- Salganik M.J., Dodds P.S., Watts D.J. (2006) 'Experimental Study of Inequality and Unpredictability in an Artificial Cultural Market', Science 311(5762):854-856 — doi.org
- Berger J. (2013) 'Contagious: Why Things Catch On', Simon & Schuster — openlibrary.org