「刺さるメッセージには公式がある」——だが、フレームの効果はメタ分析で驚くほど小さい
損失を強調すれば動く、恐怖で煽れば効く——刺さるメッセージには公式がある、と教わる。皮肉なことに、利得か損失かの差は、たくさんの実験を束ねると驚くほど小さい。恐怖アピールは効くが中程度で、しかも『煽ると反発する』もほとんど起きない。効果は実在する。ただ、小さく、条件を選ぶ。
前の単位では、相手を掴む——顧客のインサイトを扱った。ここでは、掴んだ(つもりの)相手の像を、実際に差し出すメッセージの中身に変える段を扱う。中身とは、何を・どんな枠組みで言うか——利得か損失か、恐怖に訴えるか、相手に合わせて言い換えるか、である。言い回しや見出しの彫り方は次の単位に送り、ここでは訴えの中身に絞る。
そして、前の単位の背骨をもう一度置く。原理が実在することと、あなたの売り場で効くことは、別物である。 これから見る『公式』は、どれも実在する研究に根がある。だが束ねて測ると、動く幅はどれも小さく、強く条件に依存する。
「刺さる公式」を疑う前に、フレーミングの原典に戻る
メッセージの『公式』の多くは、一つの発見に根を持つ。同じ事実でも、言い方の枠——フレーム——が変われば、受け手の判断が変わる。 1981年に *Science* 誌 211(4481):453-458 へ出た Tversky と Kahneman の研究が、このフレーミングという概念の原典である。まったく同じ結果になる二つの選択肢でも、『助かる』側から言うか『失われる』側から言うかで、人の選ぶほうが変わりうる、と示した。
これは強力な発見だ。だから販促では、利得フレーム(手に入るものを言う)と損失フレーム(失うものを言う)を使い分けよ、という助言が広まった。ここで由緒と効果を分けて置く。フレーミングという現象が実在することと、『損失フレームを使えば売れる』という効果が測られたことは、別の話である。原典は現象を示したのであって、あなたの売り出しで損失を強調すれば売れる、とは言っていない。
利得か損失か——差は、驚くほど小さい
では、利得と損失、どちらが強いのか。これを大量の実験を束ねて調べたのが、メタ分析——同じ問いを扱った多くの研究の結果を統計的にまとめる手法——である。2007年に *Journal of Health Communication* 誌 12(7):623-644、2009年に *Journal of Communication* 誌 59(2):296-316 へ出た O'Keefe と Jensen のメタ分析は、病気の予防や早期発見を促す文脈で、この問いに正面から答えた。
結論は拍子抜けするほど地味である。利得フレームと損失フレームの説得力の差は、非常に小さい。 相関にしておよそ .03 程度——ほとんど無いに等しい水準にとどまる、と整理された。しかも、どちらがわずかに強いかは、扱う話題(予防なのか発見なのか)で入れ替わる。2011年に *Annals of Behavioral Medicine* 誌 43(1):101-116 へ出た Gallagher と Updegraff のメタ分析も、フレーミングが態度・意図・行動に及ぼす効果は、全体として小さく一様でないと整理している。『損失フレームが常に強い』という公式は、束ねた証拠からは出てこない。
大事なのは、これを『フレームは無意味』と読み替えないことだ。小さくても効く場面はある。ただ、裏返せば必ず刺さる、という大きさの効果ではない。
恐怖で煽ると反発する、は本当か
もう一つの根深い俗説が、恐怖である。ここには相反する二つの言い伝えがある——怖がらせれば動く、と、煽るとかえって反発する、だ。どちらが本当なのか。
2015年に *Psychological Bulletin* 誌 141(6):1178-1204 へ出た Tannenbaum らのメタ分析が、恐怖アピールの効果を大規模に束ねた。示されたのは二つ。第一に、恐怖アピールは、態度・意図・行動を中程度に動かす。 ゼロではない。第二に、そして重要なのは、『煽ると反発する』という逆効果は、ほとんど観測されなかったことだ。強く怖がらせても、平均としては行動が後退はしない。
つまり俗説の両側が、実像から外れている。 怖がらせれば必ず効く、でもなく、煽れば必ず反発する、でもない。実像は、中程度に効くが万能ではない、である。恐怖を足せば足すほど売れる、という比例関係を期待すると、外れる。
相手に合わせて言い換える「個別化」も、効くが小さい
最後に、一人ひとりに合わせて言い換える個別化(テイラリング)——受け手の事情に合わせてメッセージを作り分ける手——を見る。手間をかけて相手に寄せれば、格段に刺さる、と期待したくなる。
2007年に *Psychological Bulletin* 誌 133(4):673-693 へ出た Noar らのメタ分析は、個別化した健康メッセージが行動変容に効果を持つことを確かめた。ただし、その効果量は小さい。 やる価値はあるが、束の言葉を一人向けに書き換えれば別物のように売れる、という大きさではない。
ここまでの四つ——フレーミング、利得と損失、恐怖、個別化——に共通するのは同じ形だ。どれも実在し、どれも小さく効き、どれも条件を選ぶ。 メッセージ設計とは、大きな一発を当てることではなく、どの手がどの場面で小さく効くかを見分けて、条件を選んで積むことである。
時間・変化:1981年から2015年まで
順に置く。1981年、Tversky と Kahneman がフレーミングの現象を示す(由緒)。2007年、O'Keefe と Jensen が病気予防の文脈で、Noar らが個別化の文脈で、それぞれメタ分析を出す。2009年、O'Keefe と Jensen が病気の早期発見の文脈でも、利得損失の差は小さいと整理する。2011年、Gallagher と Updegraff がフレーミング全体の効果を小さく一様でないと束ねる。2015年、Tannenbaum らが恐怖アピールは中程度に効き、逆効果はほとんど無いと束ねる。
この30年あまりで確からしくなったのは、『どのフレームが最強か』ではない。 確からしくなったのは、どのフレームも束ねると効果は小さく、条件で入れ替わるという向きのほうである。公式探しは終わり、条件の見分けが始まった、と言ってもよい。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、効かなかったときに『言い方が弱かった』と、さらに強い言葉を探しにいくことである。束ねた証拠が言うのは逆で、フレームを裏返しても、恐怖を足しても、動く幅はもともと小さい。強くするほど効く、という比例を、まず疑う。
標本の偏りも断っておく。ここで引いたメタ分析の多くは、健康行動——検診や予防を促す欧米の研究を束ねたものだ。物を買ってもらう販促や、日本の商いに、同じ大きさで移るとはかぎらない。平均は地図であって、売り場そのものではない。
助けになるのは、自分がすでに出したメッセージを、どの枠で書いたかで仕分けてみるという一手である。過去の告知や文面を集め、それぞれが利得を言っているか、損失を言っているか、恐怖に触れているか、相手に合わせているかで印を付ける。自分がどの枠に偏っているかが、手元だけで見える。
最初の一歩は10分。自分の過去のメッセージを三つ選び、それぞれに『利得/損失/恐怖/個別化』のどれに当たるかの札を付ける。 どれが正しいかは判定しない。三つとも同じ枠に偏っていたら、それが今の自分の癖だ、という発見になる。相手に試す必要はない。
次の単位は 355「コピーで心を動かすには?」——決めた訴えの中身を、実際の言葉と表現にどう彫るのか、名コピーの『型』は本当に効くのかを、査読の側から扱う。
- この段は、掴んだ相手の像を実際に差し出すメッセージの中身に変える段である。中身とは何を・どんな枠組みで言うか——利得か損失か、恐怖に訴えるか、相手に合わせて言い換えるか。言い回しや見出しの彫り方は次の単位に送る。前の単位の背骨を反復する——原理が実在することと、あなたの売り場で効くことは別物であり、これから見る公式はどれも実在するが束ねると効果は小さく条件に依存する
- 1981年に Science 誌 211(4481):453-458 へ出た Tversky と Kahneman の研究は、同じ事実でも言い方の枠(フレーム)が変われば受け手の判断が変わるというフレーミングの現象を示した由緒である。フレーミングが実在することと、損失フレームを使えば売れるという効果が測られたことは別の話で、原典は現象を示したのであって売り出しでの効果を保証していない
- 2007年に Journal of Health Communication 誌 12(7):623-644、2009年に Journal of Communication 誌 59(2):296-316 へ出た O'Keefe と Jensen のメタ分析は、病気の予防・早期発見を促す文脈で、利得フレームと損失フレームの説得力の差は非常に小さく、相関にしておよそ .03 程度にとどまると整理した。どちらが強いかは話題で入れ替わり、損失フレームが常に強いという公式は束ねた証拠からは出てこない
- 2011年に Annals of Behavioral Medicine 誌 43(1):101-116 へ出た Gallagher と Updegraff のメタ分析は、フレーミングが態度・意図・行動に及ぼす効果は全体として小さく一様でないと整理した。フレームは小さくても効く場面はあるが、裏返せば必ず刺さるという大きさの効果ではない
- 2015年に Psychological Bulletin 誌 141(6):1178-1204 へ出た Tannenbaum らのメタ分析は、恐怖アピールが態度・意図・行動を中程度に動かすこと、そして煽ると反発するという逆効果はほとんど観測されないことを示した。俗説の両側——煽れば必ず効く、も、煽ると必ず反発する、も実像から外れており、実像は中程度に効くが万能ではないである
- 2007年に Psychological Bulletin 誌 133(4):673-693 へ出た Noar らのメタ分析は、個別化(テイラリング)した健康メッセージが行動変容に効果を持つことを確かめたが、その効果量は小さかった。個別化はやる価値はあるが格段に強くする魔法ではなく、ここでも実像は小さな効果を条件を選んで積むである
- フレーミング・利得と損失・恐怖・個別化に共通するのは、どれも実在し、どれも小さく効き、どれも条件を選ぶという形である。メッセージ設計とは大きな一発を当てることではなく、どの手がどの場面で小さく効くかを見分けて条件を選んで積むことである。効かないとき、さらに強い言葉を探すのではなく、動く幅はもともと小さいと疑うのが妨げを避ける第一歩になる
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 損失を強調するメッセージは、利得を強調するメッセージより強く人を動かす。だから『失うもの』を前面に出すのが正解である | 2007年に Journal of Health Communication 誌 12(7):623-644、2009年に Journal of Communication 誌 59(2):296-316 へ出た O'Keefe と Jensen のメタ分析は、病気の予防と発見を促す文脈で、利得フレームと損失フレームの説得力の差は非常に小さく、相関にしておよそ .03 程度にとどまると整理した。どちらが強いかは場面で入れ替わり、『損失フレームが常に強い』という公式は、束ねた証拠からは出てこない |
| 恐怖で煽るメッセージは逆効果で、人はかえって反発して行動しなくなる。だから怖がらせてはいけない | 2015年に Psychological Bulletin 誌 141(6):1178-1204 へ出た Tannenbaum らのメタ分析は、恐怖アピールが態度・意図・行動を中程度に動かすこと、そして『煽ると反発する』という逆効果は、ほとんど観測されないことを示した。俗説の両側——煽れば必ず効く、も、煽ると必ず反発する、も、どちらも実像から外れている。実像は、中程度に効くが万能ではない、である |
| 相手一人ひとりに合わせて言い換える『個別化』をすれば、メッセージは格段に強くなる | 2007年に Psychological Bulletin 誌 133(4):673-693 へ出た Noar らのメタ分析は、個別化された健康メッセージが行動変容に効果を持つことを確かめたが、その効果量は小さかった。個別化は、やる価値はあるが、格段に強くする魔法ではない。ここでも実像は、小さな効果を条件を選んで積む、である |
皮肉なのは、公式を信じる人ほど、効かなかったときに『言い方が足りなかった』と、さらに強い言葉を探しにいくことである。だが束ねた証拠が言っているのは逆で、フレームを裏返しても、恐怖を足しても、動く幅はもともと小さい。大きく動かしたのは、たいてい言い方ではなく、相手がもう動く気だったかどうかだった。だからこの段で持って帰るのは、強い一言ではなく、どのフレームがどの場面で小さく効くかという、条件つきの手控えである。それを、次はどんな言葉に彫るのかへ渡す。
Q1. O'Keefe と Jensen のメタ分析が、利得フレームと損失フレームの説得力の差について示したこととして、正しいものはどれか。選択
Q2. 2015年の Tannenbaum らのメタ分析は、恐怖アピールが態度・意図・行動を ____ 程度に動かし、『煽ると反発する』という ____ は、ほとんど観測されないと示した。穴埋め
Q3. フレーミングという現象が「実在すること」と「損失フレームを使えば売れること」を、なぜ分けて扱う必要があるのか。1981年の原典の位置づけに触れて答えよ。一問一答
Q4. フレーミング・利得と損失・恐怖・個別化の四つに共通する形を述べ、そこからメッセージ設計とは何をすることになるかを答えよ。一問一答
Q5. この単位が扱った研究を、年の早い順に並べよ。(ア)Tannenbaum らが恐怖アピールのメタ分析を出す(イ)Tversky と Kahneman がフレーミングの現象を示す(ウ)Gallagher と Updegraff がフレーミング全体の効果を束ねる(エ)O'Keefe と Jensen が病気予防の文脈でメタ分析を出す並べ替え
紙かメモアプリに今日の日付を書く。次に、自分が過去に出したメッセージ——告知の文面・チラシの見出し・セールの案内など、手元で見られるもの——を三つ選んで書き写す。それぞれについて、その言葉が『利得を言っているか(手に入るものを強調)』『損失を言っているか(失うものを強調)』『恐怖に触れているか』『相手に合わせて言い換えているか(個別化)』のどれに当たるかを、当てはまる札で分類する。複数当てはまってもよい。どれが正しいか、どれが強いかは判定しない。最後に、三つがどの枠に偏っていたかを1行でまとめる。相手に見せて反応を試す必要はなく、自分の過去の文面だけで完結させる。一人で全部を回している場合も、そのまま同じ形で書けばよい。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Tversky A., Kahneman D. (1981) ‘The Framing of Decisions and the Psychology of Choice’, Science 211(4481):453-458 — doi.org
- O'Keefe D.J., Jensen J.D. (2009) ‘The Relative Persuasiveness of Gain-Framed and Loss-Framed Messages for Encouraging Disease Detection Behaviors: A Meta-Analytic Review’, Journal of Communication 59(2):296-316 — doi.org
- O'Keefe D.J., Jensen J.D. (2007) ‘The Relative Persuasiveness of Gain-Framed and Loss-Framed Messages for Encouraging Disease Prevention Behaviors: A Meta-Analytic Review’, Journal of Health Communication 12(7):623-644 — doi.org
- Gallagher K.M., Updegraff J.A. (2012) ‘Health Message Framing Effects on Attitudes, Intentions, and Behavior: A Meta-analytic Review’, Annals of Behavioral Medicine 43(1):101-116 — doi.org
- Tannenbaum M.B., Hepler J., Zimmerman R.S. ほか (2015) ‘Appealing to Fear: A Meta-Analysis of Fear Appeal Effectiveness and Theories’, Psychological Bulletin 141(6):1178-1204 — doi.org
- Noar S.M., Benac C.N., Harris M.S. (2007) ‘Does Tailoring Matter? Meta-Analytic Review of Tailored Print Health Behavior Change Interventions’, Psychological Bulletin 133(4):673-693 — doi.org