「コピーの型で心が動く」——だが、効いたのは型ではなく、条件を満たした個別の中身だった
名コピーの型を真似れば心が動く、と教わる。皮肉なことに、伝説のコピーの多くは、後から効果を検証しようがない。大規模な実験がはっきり示したのは、出稿量を増やしても売上は概して動かず、動いたのは中身だったこと。だが創造性は常に効くわけではない。新規性と適切さが揃ったときだけ効く。
前の単位では、訴えの中身——何を言うかを扱った。ここでは、その中身を実際の言葉と表現に彫る段——どう言うかを扱う。訴えの軸やフレームの話には戻らない。ここで問うのは、コピーやクリエイティブの表現そのものが、どこまで、どんな条件で効くのかである。
そして背骨をもう一度置く。原理が実在することと、あなたの売り場で効くことは、別物である。 名コピーの力は実在する。だが『この型を使えば動く』という保証は、検証に耐えた発見の側からは、なかなか出てこない。
出稿量ではなく、中身が動かす
まず、いちばん頑丈な証拠から置く。1995年に *Journal of Marketing Research* 誌 32(2):125-139 へ出た Lodish らの研究は、389件の分割ケーブル実験——同じ地域で、片方の世帯群にだけ広告を多く流し、実際の購買を比べる大規模な試験——を束ねた。
結論は二つ。第一に、同じ広告の出稿量を増やしても、売上は概して動かなかった。 もっと多く流せば売れる、という素朴な期待は、平均としては支持されなかった。第二に、動いたのは、広告の中身のほうだった。 何を流すかを変えたときには売上が動いた。つまり、押しの量ではなく、コピーとクリエイティブの中身が効き所だ、ということである。
ただし限界も断っておく。これはケーブルテレビ広告を、当時の北米で、専用の計測網で測ったものだ。手渡しのチラシやSNSの投稿に、同じ大きさで移るとはかぎらない。 それでも『量より中身』という向きは、頑丈な実験から出ている。
だが「創造性は常に効く」ではない——二つが揃うとき
中身が効くなら、奇抜で創造的にすればよいのか。ここで一歩踏みとどまる。2020年に *Journal of Marketing* 誌 84(6):39-56 へ出た Rosengren らのメタ分析は、広告の創造性がいつ・どう効くのかを束ね、創造性が効くのは、二つが揃うときだと整理した。
二つとは、新規性(目新しさ・意外さ)と、適切さ(伝えたい中身に沿っていること)である。目新しいだけで中身とちぐはぐな表現は、注意は引いても、売上にはつながりにくい。逆に、中身に忠実でも平凡なら、埋もれる。両方が揃った一本が効く。 これは、真似できる『型』ではない。あなたの商いの中身に、目新しさをどう重ねるかは、その都度の彫り物であって、他人のコピーを写して出てくるものではない。
ユーモアは注意を上げる。だが購買までは届かない
表現の手のなかで、いちばん手が伸びやすいのがユーモアだ。笑わせれば好かれ、好かれれば売れる——そう思いたくなる。2009年に *Journal of the Academy of Marketing Science* 誌 37(2):191-203 へ出た Eisend のユーモア広告のメタ分析は、この鎖を検証した。
示されたのは、途中で切れる鎖である。ユーモアは、注意と好意を確かに高める。 目に留まり、感じよく受け取られる。だが、そこから購買や説得への効果は限定的だった。好かれることと、買われることは、同じではない。 ユーモアは入り口——注意を集める段——では効くが、そのまま財布まで一足飛びに運ぶ力は、束ねた証拠からは大きく出てこない。入り口の手を、出口の保証と取り違えない。
「何を、いつ言うか」は市場の段階で変わる
もう一つ、公式を疑う角度がある。同じ訴えが、いつでも効くわけではない、ということだ。2001年に *Journal of Marketing Research* 誌 38(4):399-414 へ出た Chandy らの研究は、広告の訴えが市場の段階によって効き方を変えることを示した。
新しく立ち上がったばかりの市場と、成熟して選択肢が出そろった市場とでは、同じ言葉でも響き方が違う。 ある段階で効いた訴えが、別の段階では鈍る。だから『これが売れるコピーだ』という一枚の正解は、時点を固定しないかぎり成り立たない。効く言葉は、市場の時計に合わせて動く。 型を固定して持ち歩くと、時計のほうが先に進んでいる。
公式ではなく、チェックリスト
では、手がかりは何も無いのか。そうではない。2016年に *European Journal of Marketing* 誌 50(1/2):276-293 へ出た Armstrong らの研究は、証拠に基づく説得の原則を並べて点検する方法が、素人の直感よりも、広告の効き方をよく言い当てたと示した。原則を一つずつ確かめていくやり方には、予測の力がある。
ただしそれは『公式』ではなくチェックリストである。当てはめれば正解が出る式ではなく、見落としを減らすための点検表だ。ここに、非査読ではあるが実務でよく知られた整理——2013年に *Harvard Business Review* へ出た Reinartz と Saffertの、創造性は効くが常にではないという論考——も並べて置ける。発想の枠組みとして参照し、効果の保証書としては使わない。 これがこの棚を通しての作法だ。
時間・変化:1995年から2020年まで
順に置く。1995年、Lodish らが389件の分割実験で、出稿量ではなく中身が売上を動かすと示す。2001年、Chandy らが、何をいつ言うかは市場の段階で変わると示す。2009年、Eisend が、ユーモアは注意と好意を上げるが購買への効果は限定的だと束ねる。2016年、Armstrong らが、証拠に基づく原則の点検が直感より当たると示す。2020年、Rosengren らが、創造性が効くのは新規性と適切さが揃うときだと束ねる。
この25年で確からしくなったのは、『どの型が売れるか』ではない。 確からしくなったのは、効いたのは型ではなく、条件を満たした個別の中身であり、その条件は市場の段階でも動く、という向きのほうである。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、効いたコピーから『型』だけを抜き出して、次に貼り付けることである。効き所は、目新しさと中身が揃った、その一本に固有の部分にあった。型を写しても、固有の差は写らない。
標本の偏りも断っておく。ここで引いた実験の多くは、北米の、テレビや印刷の広告を対象にしている。日本の手渡しの販促や、短い投稿に、同じ大きさで移るとはかぎらない。平均は地図であって、売り場そのものではない。
助けになるのは、自分の過去のコピーを、新規性と適切さの二つの物差しで自己採点するという一手である。他人の名コピーを集めるのではなく、自分がすでに出した言葉を、目新しかったか・中身に沿っていたかで見る。自分がどちらを欠きやすいかが、手元だけで見える。
最初の一歩は10分。自分の過去のコピーを三つ選び、それぞれに『新規性(目新しさ)』と『適切さ(中身に沿っているか)』の二つを、あるかないかで印を付ける。 どちらも無ければ埋もれ、片方だけなら弱い。両方に印が付いた一本があれば、それが自分の当たりの形だ。相手に試す必要はない。
次の単位は 356「人の心理で背中を押すには?」——言葉で説くのをいったん離れ、選択の環境そのものの設計で行動を促す『ナッジ』が、どこまで効くのかを、効果量の論争ごと扱う。
- この段は、決めた訴えの中身を実際の言葉と表現に彫る段であり、どう言うかを扱う。訴えの軸やフレームの話には戻らない。背骨を反復する——原理が実在することとあなたの売り場で効くことは別物であり、名コピーの力は実在するが、この型を使えば動くという保証は検証に耐えた発見からはなかなか出てこない
- 1995年に Journal of Marketing Research 誌 32(2):125-139 へ出た Lodish らの389件の分割ケーブル実験は、同じ広告の出稿量を増やしても売上は概して動かず、動いたのは広告の中身のほうだったと示した。押しの量ではなくコピーとクリエイティブの中身が効き所だが、ケーブル広告を当時の北米の計測網で測ったもので手渡しやSNSに同じ大きさで移るとはかぎらない
- 2020年に Journal of Marketing 誌 84(6):39-56 へ出た Rosengren らのメタ分析は、広告の創造性が効くのは新規性(目新しさ)と適切さ(伝えたい中身に沿っていること)の両方が揃うときだと整理した。目新しいだけで中身とちぐはぐな表現は注意は引いても売上につながりにくく、創造性は常に効く魔法ではなく二つの条件を満たしたときの効き方である
- 2009年に Journal of the Academy of Marketing Science 誌 37(2):191-203 へ出た Eisend のユーモア広告のメタ分析は、ユーモアが注意と好意を高める一方、購買や説得への効果は限定的だと整理した。好かれることと買われることは同じではなく、ユーモアは注意を集める入り口としては効くが、そこから購買までを一足飛びに保証する武器ではない
- 2001年に Journal of Marketing Research 誌 38(4):399-414 へ出た Chandy らの研究は、広告の訴えが市場の段階によって効き方を変えることを示した。新しく立ち上がった市場と成熟した市場では同じ言葉でも響き方が違い、これが売れるコピーだという一枚の正解は時点を固定しないかぎり成り立たず、効く言葉は市場の時計に合わせて動く
- 2016年に European Journal of Marketing 誌 50(1/2):276-293 へ出た Armstrong らの研究は、証拠に基づく説得の原則を並べて点検する方法が素人の直感より広告の効き方をよく言い当てたと示した。ただしそれは当てはめれば正解が出る公式ではなく、見落としを減らすためのチェックリストである。2013年の Reinartz と Saffert の HBR の論考(非査読)も発想の枠組みとして並べられる
- フレーミングやユーモアなどの表現の手に共通するのは、効いたのは真似できる型ではなく、条件を満たした個別の中身だったという形である。効いたコピーから型だけを抜き出して次に貼り付けても、目新しさと中身が揃った固有の差は写らない。自分の過去のコピーを新規性と適切さの二つの物差しで自己採点することが、手元で完結する第一歩になる
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 有名なコピーには売れる型があり、その型を真似れば自分のコピーも心を動かせる。伝説のコピーが、それを証明している | 伝説のコピーの武勇伝の多くは、同じ条件をもう一度作れず、後から効果を検証できない。1995年に Journal of Marketing Research 誌 32(2):125-139 へ出た Lodish らの389件の分割ケーブル実験は、出稿量を増やしても売上は概して動かず、動いたのは広告の中身だったと示した。効いていたのは共通の型ではなく、その広告に固有のクリエイティブの差である。型を写しても、固有の差は写らない |
| コピーは創造的であればあるほど強い。奇抜で目を引く表現ほど、人を動かす | 2020年に Journal of Marketing 誌 84(6):39-56 へ出た Rosengren らのメタ分析は、広告の創造性が効くのは、新規性(目新しさ)と適切さ(伝えたいことに沿っていること)の両方が揃うときだと整理した。目新しいだけで中身に沿っていない表現は、注意は引いても売上にはつながりにくい。創造性は常に効く魔法ではなく、二つの条件を満たしたときの効き方である |
| 面白い・笑えるコピーにすれば、好かれて売れる。ユーモアは万能の武器である | 2009年に Journal of the Academy of Marketing Science 誌 37(2):191-203 へ出た Eisend のユーモア広告のメタ分析は、ユーモアが注意と好意を高める一方、購買や説得への効果は限定的だと整理した。好かれることと買われることは、同じではない。ユーモアは注意を集める入り口としては効くが、そこから購買までを一足飛びに保証する武器ではない |
皮肉なのは、型を集めた人ほど、次の一本も型で書けると思ってしまうことである。だが検証に耐えた発見は、型の側にはなかった。効いたのは、目新しさと中身が揃った、その一本に固有のコピーだった。だからこの段で持ち帰るのは、真似できる決め台詞ではなく、自分の言葉が新規性と適切さのどちらを欠きやすいか、という自分の癖の見取り図である。言葉と表現をここまで彫ったら、次は、言葉ではなく置き方——選択の環境そのもので背中を押す話へ渡す。
Q1. 1995年の Lodish らの389件の分割ケーブル実験が示した二つのことを述べよ。そこから、コピーの効き所はどこにあると言えるか。一問一答
Q2. 2020年の Rosengren らのメタ分析によれば、広告の創造性が効くのは、____ (目新しさ)と ____ (中身に沿っていること)の両方が揃うときである。穴埋め
Q3. 2009年の Eisend のユーモア広告のメタ分析が示したこととして、正しいものはどれか。選択
Q4. 「売れるコピーの型がある」という考えを、Chandy らの研究はどう崩すか。市場の段階に触れて答えよ。一問一答
Q5. この単位が扱った研究を、年の早い順に並べよ。(ア)Rosengren らが創造性は新規性と適切さが揃うと効くと束ねる(イ)Lodish らが分割実験で量より中身が効くと示す(ウ)Armstrong らが原則の点検は直感より当たると示す(エ)Eisend がユーモアのメタ分析を出す並べ替え
紙かメモアプリに今日の日付を書く。次に、自分が過去に出したコピー——広告や告知の見出し、商品の紹介文、セールの一言など、手元で見られるもの——を三つ選んで書き写す。それぞれについて、『新規性(目新しさ・意外さがあるか)』と『適切さ(伝えたい中身に沿っているか)』の二つを、あるかないかで印を付ける。両方無ければ埋もれ、片方だけなら弱く、両方あれば当たりの形、と見る。どれが良い・悪いの評価はここでは下さず、印だけを付ける。最後に、三つのうち両方に印が付いたものがいくつあったかを1つの数字で書き添える。他人の名コピーを集めたり、相手に見せて反応を試したりする必要はなく、自分の過去のコピーだけで完結させる。一人で全部を回している場合も、そのまま同じ形で書けばよい。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
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- Lodish L.M., Abraham M., Kalmenson S. ほか (1995) ‘How T.V. Advertising Works: A Meta-Analysis of 389 Real World Split Cable T.V. Advertising Experiments’, Journal of Marketing Research 32(2):125-139 — doi.org
- Rosengren S., Eisend M., Koslow S., Dahlen M. (2020) ‘A Meta-Analysis of When and How Advertising Creativity Works’, Journal of Marketing 84(6):39-56 — doi.org
- Eisend M. (2009) ‘A Meta-Analysis of Humor in Advertising’, Journal of the Academy of Marketing Science 37(2):191-203 — doi.org
- Chandy R.K., Tellis G.J., MacInnis D.J., Thaivanich P. (2001) ‘What to Say When: Advertising Appeals in Evolving Markets’, Journal of Marketing Research 38(4):399-414 — doi.org
- Armstrong J.S., Du R., Green K.C., Graefe A. (2016) ‘Predictive Validity of Evidence-Based Persuasion Principles: An Application of the Index Method’, European Journal of Marketing 50(1/2):276-293 — doi.org
- Reinartz W., Saffert P. (2013) ‘Creativity in Advertising: When It Works and When It Doesn’t’, Harvard Business Review 91(6), June 2013 — hbr.org