気づかれずに刷り込む、ほど、効き目は弱くなる
結びつけたいイメージを良いものと繰り返し並べれば、狙った連想を客の頭に設計できる——イメージ戦略の本はそう説く。ところが、連想の付け替えを214研究まとめて調べたメタ分析が示すのは、効き目が強いのは本人が関係に気づいているときで、気づかれずにこっそり刷り込むほど弱くなる、という逆向きの事実である。
前の単位では、思い出される場面と手がかりを扱った。ここでは、思い出してもらえたそのとき、頭に浮かぶ結びつき——連想を、どこまで狙って作れるのかを扱う。
この単位が扱うのは一点——「結びつけたいイメージを、良いものと繰り返し並べて見せれば、狙った連想を客の頭に設計できる」というときの「設計できる」が、確かめられた効果の範囲を飛び越えていることである。まず言葉をほどく。連想とは、そのブランドと聞いて頭に浮かぶ結びつき——言葉・気分・場面のことである。評価条件づけ(EC)とは、あるもの(ブランド)を、好ましい/好ましくない別のもの(憧れの対象や心地よい場面)と対にして繰り返し見せると、そのものへの好みが、対にした相手の側へ動く現象を指す。この現象を使えば、狙った連想を植え付けられる、というのが俗説である。
連想の付け替えには、確かに効果がある
まず、「連想なんて狙って作れない」という単純否定は正しくない。2010年に *Psychological Bulletin* 136(3):390-421 へ出た Hofmann, De Houwer, Perugini, Baeyens, Crombez は、評価条件づけの研究を統合したメタ分析で、はっきりした効果を報告した。定義はこうだ——“evaluative conditioning (EC), defined as a change in the liking of a stimulus (conditioned stimulus; CS) that results from pairing that stimulus with other positive or negative stimuli (unconditioned stimulus; US).” そして効果の大きさは——“Across a total of 214 studies included in the main sample, the mean EC effect was d = .52, with a 95% confidence interval of .466-.582.” 214の研究をまとめて、平均で d が0.52(中くらいの効き目)。d(効果量)というのは、効き目の大きさを、ものさしのそろわない研究どうしでも比べられるようにした目盛りで、0.5あたりは「小さくはないが、劇的でもない」あたりを指す。連想の付け替えは、まぼろしではない。確かに、ある。だから、この単位は「連想は一切作れない」という側には立たない。立つのは、その「作れる」に、どれだけの但し書きが付くか、という側である。
だが、境界条件が強い——気づかれずに植え付けるほど、弱い
問題は、その効果がどんなときに強く、どんなときに弱いかである。同じメタ分析は、効き目の条件をこう並べた——“EC effects were stronger for high than for low contingency awareness, for supraliminal than for subliminal US presentation, for postacquisition than for postextinction effects, and for self-report than for implicit measures.” かみくだくと、効き目が強いのは、(1)対にした関係に本人が気づいているとき、(2)意識できる形で見せたとき(意識下=サブリミナルではない)、(3)対にするのをやめた後(消去後)ではなく獲得直後に測ったとき、(4)自己申告で測ったとき(本人の気づかない潜在的な指標ではない)。ここに、この俗説の急所がある。「気づかれずに、こっそり刷り込む」という思い描き方は、実証の向きと逆なのだ。気づかれないほど、効き目は弱くなる。 サブリミナルで連想を植え付ける、という物語は、確かめられた範囲では弱い。
ブランドの連想でも、手続きしだいで変わる
では、ブランドに引きつけるとどうか。2010年に *Journal of Consumer Research* 37(3):473-489 へ出た Sweldens, Van Osselaer, Janiszewski は、ブランドへの態度を条件づけで作るとき、やり方(手続き)しだいで、その態度がどれだけ長もちするかが変わることを示した。作れることは作れる。だが、どう作るかで壊れやすさが違う。2008年に *Journal of Consumer Research* 35(1):178-188 へ出た Gibson は、すでによく知られたブランドについて、本人が気づかない潜在的な指標で測ると、条件づけの効果が限られることを示した。連想の付け替えが効く場面には、はっきりした縁取りがある。2005年の Walther, Nagengast, Trasselli、2014年の Sweldens, Corneille, Yzerbyt も、この効果に気づき(本人が関係を分かっていること)がどう関わるかを論じており、「無意識に自動で刷り込まれる」という単純な像を裏づけてはいない。
連想の持ち主は、設計側ではなく、消費者である
ここで、この棚の入口に置いた断りが戻ってくる。ブランドは、客の記憶の中にあり、持ち主が完全には制御できない。 連想も同じだ。設計側が客の頭に「埋め込む」のではなく、連想は消費者の記憶の中で、消費者の側で結ばれる。こちらが差し出せるのは、対にする相手(場面・言葉・見た目)と、その頻度だけ。どんな結びつきが、どれだけの強さで残るかは、受け取る側の気づきや、もともと持っている記憶に左右される。ここで、この棚を通して流れる筋の一本目が、最後にもう一度顔を出す——「脳に連想を刷り込む」という言い回しは、道具の由緒であって、狙いどおりに設計できることの証明ではない。 連想は、こちらの設計図どおりには、収まってくれない。差し出すことはできても、結ぶのは、いつも向こうの手である。
時間・変化:2005年から2014年まで
順に置く。2005年、評価条件づけに本人の気づきがどう関わるかが論じられる(Walther ら)。2008年、すでによく知られたブランドでは、潜在的な指標で測ると条件づけの効果が限られると示される(Gibson)。2010年、214研究のメタ分析で平均 d が0.52と報告され、同時に、気づき・意識できる提示・自己申告で効き目が強いという境界条件が示される(Hofmann ら)。同年、ブランド態度の条件づけは手続きしだいで長もちが変わると示される(Sweldens ら)。2014年、評価条件づけにおける気づきの役割が改めて整理される(Sweldens ら)。
十年で確からしくなったのは、「連想は設計できる」ではなく、「連想の付け替えは中くらいの効き目で確かにあるが、気づかれるほど強く、気づかれないほど弱い。しかも連想の持ち主は消費者で、設計図どおりには収まらない」という向きである。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、掲げた連想を、もう客の頭に入ったものと思い込むことである。ここに高級感を、ここに安心を——そう決めて発信を重ねると、決めた時点で植え付けが済んだ気になる。だが、連想が本当に結ばれたかは、こちらの意図の外、受け手の記憶の中で決まる。掲げることと、結ばれることの間には、この単位でずっと見てきた但し書き——気づき、手続き、相手の記憶——が、まるごと挟まっている。
標本の偏りも断っておく。ここまでの証拠の多くは、実験室で、対にした刺激に短時間触れた参加者から採られている。長い時間をかけて積み上がる、実際の商いの連想が、同じ効き目で動くとは限らない。連想調査の予算や、大きな調査パネルを前提にした話でもない。狙った連想が思いどおりに入らないことは、力不足ではない。並べさえすれば刷り込める、と思い込むことのほうが、確かめられた範囲から外れている。
助けになるのは、自分のブランドに結びつけたい連想を言葉にして、その一つひとつを、いまの発信のどこが支えているのかを、自分の手で確かめてみるという一手である。客の頭を測るのではない。自分が差し出している対の相手(場面・言葉・見た目)が、掲げた連想とそろっているかを見る。そろっていない連想が見つかっても、それは失敗ではない。掲げただけで支えの無い連想を、こちらの手元で先に見つけられた、という一つの発見である。
最初の一歩は10分。自分のブランドに結びつけたい連想を、三つの言葉で書く(たとえば「丁寧・素朴・長く使える」など)。書けたら、その三つそれぞれについて、いまの自分の発信物(写真・文章・包み・あいさつ)のどこがそれを支えているかを、一つずつ書き出す。支えが見つからない連想には、印を付ける。客に連想を尋ねたり、連想を試したり、反応をうかがったりしない。掲げた連想と、それを支える手がかりが、自分の側でそろっているかを確かめるだけである。
次の単位は 345「触れる接点を磨くには?」——ここまでの物語・世界観・想起・連想が、客が実際に触れる一つひとつの接点で、どう体験になるのかを、ここに積み上げる。
- 2010年に Psychological Bulletin 136(3):390-421 へ出た Hofmann, De Houwer, Perugini, Baeyens, Crombez のメタ分析は、評価条件づけ(EC=あるものを好悪の別のものと対にして見せると好みが動く現象)214研究で、平均 d=.52(95%信頼区間.466-.582、中くらいの効き目)を報告した。連想の付け替えは確かに効果があり、狙って作れないという単純否定は誤り
- 同じ Hofmann ら 2010 が示した境界条件:効き目が強いのは(1)対にした関係に本人が気づいているとき、(2)意識できる形(意識下=サブリミナルではない)で見せたとき、(3)自己申告で測ったとき(潜在的な指標ではない)。気づかれずにこっそり刷り込むほど効き目は弱く、サブリミナルで植え付ける物語は確かめられた範囲では弱い
- 2010年の Sweldens, Van Osselaer, Janiszewski(Journal of Consumer Research 37(3):473-489)は、ブランド態度を条件づけで作るとき、手続きしだいでその態度の長もちが変わることを示した。作れるが、どう作るかで壊れやすさが違う
- 2008年の Gibson(Journal of Consumer Research 35(1):178-188)は、すでによく知られたブランドについて、本人が気づかない潜在的な指標(潜在連合テスト)で測ると条件づけの効果が限られることを示した。連想の付け替えが効く場面には、はっきりした縁取りがある
- 2005年の Walther, Nagengast, Trasselli と2014年の Sweldens, Corneille, Yzerbyt は、評価条件づけに本人の気づき(関係を分かっていること)がどう関わるかを論じ、無意識に自動で刷り込まれるという単純な像を裏づけていない
- 連想の持ち主は設計側ではなく消費者である。連想は消費者の記憶の中で消費者の側で結ばれ、こちらが差し出せるのは対にする相手(場面・言葉・見た目)と頻度だけ。★337の断り(ブランドは客の記憶の中にあり持ち主が完全には制御できない)を、連想の水準で回収する。『脳に刷り込む』は道具の由緒で設計できることの証明ではない(通奏低音①)
- 十年で確からしくなったのは『連想は設計できる』ではなく、『連想の付け替えは中くらいの効き目で確かにあるが、気づかれるほど強く気づかれないほど弱い。しかも連想の持ち主は消費者で、設計図どおりには収まらない』という向きである
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 結びつけたいイメージ(高級・安心・革新)を、良いものと繰り返し並べて見せれば、狙った連想を客の頭に設計・植え付けられる | Hofmann ら 2010 のメタ分析は、評価条件づけ214研究で平均 d=.52の効果を報告した。連想の付け替えは確かにある。だが境界条件が強く、効き目が強いのは本人が関係に気づき、意識できる形で見せ、自己申告で測るときである。思い通りに埋め込める、という制御の像は、確かめられた範囲を越えている |
| 気づかれないうちに、サブリミナル的に連想をこっそり刷り込める | Hofmann ら 2010 が示すとおり、EC効果は意識下より意識できる提示で強く、潜在的な指標より自己申告で強い。つまり気づかれないほど効き目は弱くなる。2005年の Walther ら、2014年の Sweldens らも気づきの関与を論じており、無意識に自動で刷り込まれるという像は裏づけられていない |
| 連想は設計側のもので、一度うまく作れば固定される | 連想の持ち主は消費者である。Sweldens ら 2010 は手続きしだいで態度の長もちが変わることを、Gibson 2008 はよく知られたブランドでは潜在的な指標で効果が限られることを示した。連想は消費者の記憶の中で結ばれ、持ち主が完全には制御できない。設計図どおりには収まらない |
皮肉なのは、いちばん巧みに仕組んだ連想ほど、仕組んだ側にだけ、もう入ったように見えることである。ここに高級感、ここに安心と決めて並べれば、決めた本人の頭では、連想はすでに結ばれている。だが客の頭は、こちらの設計図を受け取っていない。しかも、実証が言うのは意地の悪い向きだ——気づかれずに刷り込もうとするほど、効き目は逃げていく。連想は、こっそり置いていく贈り物ではなく、相手が受け取って、相手の手で結ぶものだ。結ぶかどうかも、どう結ぶかも、最後は相手の記憶の側にある。
Q1. Hofmann ら 2010 は、評価条件づけ【 ① 】研究のメタ分析で、平均の効き目を d=【 ② 】と報告した。効き目が強いのは本人が関係に気づき、意識できる形で見せ、【 ③ 】で測るときで、気づかれないほど弱くなる。穴埋め
Q2. 「気づかれないうちにサブリミナル的に連想を刷り込める」という考えは、なぜ実証の向きと逆だといえるのか。一問一答
Q3. Gibson 2008 が、すでによく知られたブランドについて示したことはどれか。選択
Q4. この単位は、連想の「持ち主」について、棚の入口の断りをどう回収しているか。一問一答
Q5. 本文『時間・変化:2005年から2014年まで』で並べた出来事を、年の早い順に並べよ。(ア)214研究で平均d=.52と境界条件が示される(イ)評価条件づけに本人の気づきがどう関わるかが論じられる(ウ)評価条件づけにおける気づきの役割が改めて整理される並べ替え
紙かメモアプリに今日の日付を書く。次に、自分のブランドに結びつけたい連想を、三つの言葉で書く(たとえば『丁寧・素朴・長く使える』など)。書けたら、その三つそれぞれについて、いまの自分の発信物(写真の撮り方・文章・包み・あいさつ・置き場所など)のどこがそれを支えているかを、一つずつ書き出す。支えが見つからない連想には印を付ける。客に『どんな印象ですか』と尋ねたり、連想を試したりしない。あくまで自分の手元で、掲げた連想と、それを支える手がかりが、自分の側でそろっているかを確かめるだけである。いま一人で全部を回している場合も、自分の発信物をそのまま使う。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Hofmann W., De Houwer J., Perugini M., Baeyens F., Crombez G. (2010) 'Evaluative conditioning in humans: A meta-analysis', Psychological Bulletin 136(3):390-421, doi:10.1037/a0018916 — doi.org
- Sweldens S., Van Osselaer S.M.J., Janiszewski C. (2010) 'Evaluative Conditioning Procedures and the Resilience of Conditioned Brand Attitudes', Journal of Consumer Research 37(3):473-489, doi:10.1086/653656 — doi.org
- Gibson B. (2008) 'Can Evaluative Conditioning Change Attitudes toward Mature Brands? New Evidence from the Implicit Association Test', Journal of Consumer Research 35(1):178-188, doi:10.1086/527341 — doi.org
- De Houwer J. (2007) 'A Conceptual and Theoretical Analysis of Evaluative Conditioning', The Spanish Journal of Psychology 10(2):230-241, doi:10.1017/S1138741600006491 — doi.org
- Walther E., Nagengast B., Trasselli C. (2005) 'Evaluative conditioning in social psychology: Facts and speculations', Cognition and Emotion 19(2):175-196, doi:10.1080/02699930441000274 — doi.org
- Sweldens S., Corneille O., Yzerbyt V. (2014) 'The Role of Awareness in Attitude Formation Through Evaluative Conditioning', Personality and Social Psychology Review 18(2):187-209, doi:10.1177/1088868314527832 — doi.org