「見た目の一貫性が信頼を作る」——だが同じロゴ変更を、強い客は嫌い、薄い客は歓迎する
見た目を揃えて一貫性を保てば、ちゃんとして見えて信頼が育つ、と教わる。皮肉なことに、同じロゴの変更を、強く愛着した客は嫌い、関係の薄い客はむしろ歓迎する。しかも実験が測ったのは『信頼』ではなく、そのブランドをどう思うかという態度だった。
前の単位では、名前そのものの音や意味がどこまで効くのかを扱った。ここでは、名前に続くロゴや色や書体——見た目の要素を揃えることが、どこまで効くのかを扱う。
「見た目の一貫性が信頼を作る」をほどく
VI(ビジュアル・アイデンティティ)とは、ロゴ・色・書体・レイアウトなど、見た目の要素をどう使うかの取り決めのことである。この話にも、決まった売り文句が付いてくる——見た目を統一して一貫性を保てば、ちゃんとして見えて、客の信頼が育つ、という形だ。ガイドラインづくりでも、デザイン統一の実務書でも、この因果はほとんど疑われずに流れていく。小さな店や教室には、「ロゴと色を揃えれば、信頼される」という形で降りてくる。
この単位は、デザインの巧拙を裁く場ではない。見た目の一貫性は、どこまで効くと確かめられているのか、その範囲の外で何が起きるかに的をしぼる。なお、見た目を大きく刷新することの是非——古びたブランドの作り直しや、時代に合わせた更新——は、この棚の後の段で別に扱う。ここでは日々の見た目の一貫性を見る。
ロゴの変更への反応は、客の「愛着」で符号が逆転する
見た目の一貫性が一律に信頼を作るのか。それを実際の客で調べた研究がある。**2010年に *Journal of Product & Brand Management* 誌 19(2):76-84 へ出た、Walsh・Winterich・Mittal の研究は、632名を対象にしたフィールド実験**——実験室ではなく、実際の環境に近い形での実験——で、ロゴを角ばった形から丸い形へ変える度合いを変えながら、客の反応を調べた。結果は、一貫性の常識をひっくり返すものだった。
強くそのブランドに愛着している客ほど、ロゴの変更を否定的に評価した。 ところが、弱くしか愛着していない客は、逆に、その変更を好意的に受け取った。抄録はこう書いている——“Strongly committed consumers view these changes negatively; weakly committed consumers view them positively.” つまり、同じ見た目の変更が、相手の愛着の強さによって、プラスにもマイナスにも転ぶ。見た目の一貫性が、誰にでも一律に信頼を作るわけではない。
ここで、フィールド実験という言葉に一言そえておく。これは、質問紙の中だけで完結する調査ではなく、実際の環境に近い場で客の反応を採った実験だ、という意味である。だからこの結果は、机上の理屈ではなく、現に人がどう受け取るかに一歩近い。とはいえ、次に見るとおり、近いことと、その言葉づかいが正確であることは、別の話である。
一貫性は「善」でも、変化は「悪」でもない——条件つきで効く
この結果は、両側に刃がある。「一貫性を保てば信頼される」も言いすぎだが、「思い切って変えれば新鮮に見える」も言いすぎなのだ。強く愛着した客が変更を嫌ったという事実は、裏返せば、その客たちにとって見た目の一貫性には意味があることを示している。だから「一貫性など無意味」とも言えない。
正しく言えるのは、見た目の一貫性の効き方は、相手が既にどれだけ愛着しているかで変わる、という条件つきの話である。長く付き合ってくれている客の前では、見た目を保つことに意味がある。まだ関係の薄い客の前では、同じ見た目の変更が、むしろ風通しよく映ることもある。一つの変更が、相手によって逆の意味を持つ。どちらに転ぶかは、見た目の中ではなく、見る人との関係の中にある。
この非対称は、小さな商いにとって、ひとつの実務的な含みを持つ。あなたを長く支えてくれている常連ほど、あなたが「そろそろ新しくしよう」と手を入れた見た目に、いちばん違和感を覚えるかもしれない、ということだ。逆に、まだあなたを知らない人にとっては、その刷新は何のしがらみもない、ただの第一印象にすぎない。同じ一手が、いちばん大事にしたい相手には損に、まだ見ぬ相手には得に働く——この向きの違いを知らずに「新しくすれば良くなる」と一律に動くと、いちばん失いたくない関係のほうを、気づかぬうちに削ってしまう。
測ったのは「信頼」ではなく「態度」——それを「識別」に解像する
もう一つ、言葉を丁寧にほどく必要がある。この研究が実際に測ったのは、ブランド態度(そのブランドをどう思うかという評価)であって、「信頼」そのものではない。日常の「信頼が育つ」という言い回しは、耳ざわりはよいが、何が測られたのかをぼかしてしまう。
見た目の要素が、測れる何かを動かすことは、ロゴを調べた実証がいくつも示している。**2015年に *Journal of Consumer Research* 誌 42(5):709-726 へ出た、Jiang・Gorn・Galli・Chattopadhyay の研究は、ロゴが丸いか角ばっているかで、客のブランド属性の判断が系統的に変わることを示した。2011年に *Journal of Marketing* 誌 75(4):86-93 へ出た、Hagtvedt の研究は、文字を欠けさせた不完全なロゴが、企業への知覚を変えることを示した。2014年に *Journal of Marketing Research* 誌 51(2):184-197 へ出た、Cian・Krishna・Elder の研究は、静止したロゴが動きの印象を運び、それが態度に響くことを示した。どれも共通して測っているのは、態度や属性の判断**であって、「信頼」という一語ではない。そして効き方は、形や文脈しだいで変わる。
だからこの単位は、「一貫性が信頼を作る」を、「見た目の一貫性が、見分けてもらいやすくする(識別容易性を高める)」という、より確かめやすい言葉に置き換えることを勧める。見た目を揃えることの、いちばん堅い効き目は、同じ送り手だと気づいてもらえること——数ある似た訴えの中で、これは前に見たあれだ、と手早く見分けてもらえることにある。信頼という大きな言葉より、識別という小さな言葉のほうが、確かめられる。この「見分けられる記号」の話は、次の段の想起の単位へ引き継がれていく。
言葉を小さくすることには、実利がある。「信頼されているか」は、自分では確かめようがない——それは相手の心の中の出来事だ。だが「見分けてもらえる記号が揃っているか」なら、自分の手元の発信物を並べるだけで確かめられる。確かめられない大きな目標を、確かめられる小さな目標に置き換えること自体が、この段の一貫性の話を、宣言から手仕事へと引き戻す。揃えるのは、信頼という結果のためではなく、まず、見分けてもらうという足場のためである。
この「見分けてもらえる」という効き目には、実証の足場がある。**1998年に *Journal of Marketing* 誌 62(2):14-30 へ出た、Henderson と Cote の研究は、どの見た目の特徴が、見分けやすさや好意といった望ましい反応を生むかを、実証的に整理した。2016年に *Journal of Marketing Communications* 誌 22(3):256-270 へ出た、van Grinsven と Das の研究は、ロゴの複雑さが、繰り返し目にすることを通じたブランドの再認(見分け)とブランド態度への効き方を、条件づけることを示した。つまり、揃えることが働くかどうかも、複雑さや文脈という条件に左右される。それでも、いちばん確かめやすい効き目は、同じ送り手だと見分けてもらえること——識別容易性のほうにある。**
時間・変化:1998年から2016年まで
順に置く。1998年、Henderson と Cote が、どの見た目の特徴が見分けやすさや好意を生むかを実証的に整理する。2010年、Walsh らが632名のフィールド実験で、ロゴ変更への反応が客の愛着の強さで符号を変えることを示す。2011年、Hagtvedt が、不完全なロゴが企業への知覚を変えることを示す。2014年、Cian らが、静止したロゴが動きの印象を運び態度に響くことを示す。2015年、Jiang らが、丸い/角ばったロゴが属性の判断を変えることを示し、2016年、van Grinsven と Das が、ロゴの複雑さが再認と態度への効き方を条件づけることを示す。
この期間で確からしくなったのは、「見た目の一貫性が一律に信頼を作る」という因果のほうではない。 確からしくなったのは、見た目の一貫性の効き方は既存の愛着に条件づけられ、しかも測られているのは信頼ではなくブランド態度である、という向きのほうである。だから、信頼という大きな言葉を、識別という確かめやすい言葉に落とすのがよい。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、見た目が揃ったことを、信頼が育った証拠だと思ってしまうことである。ガイドラインが完成すると、仕事を終えた気がする。だが揃ったのは記号であって、それを見る人との関係が揃ったわけではない。相手が誰かによって、同じ見た目は逆の意味を持つ。
標本の偏りも断っておく。ここまでの実証は、ロゴの丸みという特定の変更を、特定の商品分野で調べたものである。あなたの発信物の見た目が、同じ振る舞いをするとはかぎらない。 他人のロゴの善し悪しを、この単位は断じない。
助けになるのは、自分の発信物の見た目の要素が、実際にどれだけ揃っているかを、自分の手元で並べて確かめてみるという一手である。信頼されているかを裁くためではない。同じ送り手だと見分けてもらえる記号が、揃っているか、ばらけているかを、目に見える形にするためだ。
最初の一歩は10分。自分の発信物を三つ選ぶ(名刺・SNSのプロフィール画像・チラシ・看板など、手元にあるもの)。それぞれについて、使っている見た目の要素——ロゴ、主な色、書体——を書き出す。三つを見比べて、揃っている箇所と、ばらけている箇所に、それぞれ印を付けるだけである。 客に「信頼できるか」を聞きに行く必要はない。ばらけがゼロなら、それも一つの発見だ。
次の単位は 341「ブランドの物語を紡ぐには?」——見分けてもらう記号から、その記号が背負う物語へと、話を移してこの上に積み上げる。
- VI(ビジュアル・アイデンティティ=ロゴ・色・書体・レイアウトなど見た目の要素をどう使うかの取り決め)を統一して一貫性を保てば信頼が育つ、という通念がある。この単位はデザインの巧拙を裁かず、見た目の一貫性がどこまで効くと確かめられているかに的をしぼる。見た目の大きな刷新の是非はこの棚の後の段で別に扱い、ここでは日々の見た目の一貫性を見る
- 2010年に Journal of Product & Brand Management 誌 19(2):76-84 へ出た Walsh・Winterich・Mittal の研究は、632名を対象にしたフィールド実験で、ロゴを角ばった形から丸い形へ変える度合いを変えて客の反応を調べた。強くそのブランドに愛着している客ほど変更を否定的に評価し、弱くしか愛着していない客は逆に好意的に受け取った。同じ変更が愛着の強さで符号を変える
- 抄録は『Strongly committed consumers view these changes negatively; weakly committed consumers view them positively.』と書く。見た目の一貫性が誰にでも一律に信頼を作るわけではなく、効き方は相手が既にどれだけ愛着しているかで変わる
- この結果は両側に刃がある。強く愛着した客が変更を嫌ったという事実は、その客たちにとって見た目の一貫性に意味があることを示すので、一貫性は無意味とも言えない。正しく言えるのは、一貫性の効き方は既存の愛着に条件づけられるという条件つきの話で、一貫性=善でも変化=善でもない
- この研究が測ったのはブランド態度(そのブランドをどう思うかという評価)であって信頼そのものではない。だからこの単位は『一貫性が信頼を作る』を『見た目の一貫性が見分けてもらいやすくする(識別容易性を高める)』という確かめやすい言葉に置き換える。見た目を揃える堅い効き目は、同じ送り手だと気づいてもらえることにある
- 見た目の要素が測れる何かを動かすことは、ロゴの実証がいくつも示す。2015年に Journal of Consumer Research 誌 42(5):709-726 へ出た Jiang らは丸い/角ばったロゴが属性判断を変えること、2011年に Journal of Marketing 誌 75(4):86-93 へ出た Hagtvedt は不完全なロゴが企業への知覚を変えること、2014年に Journal of Marketing Research 誌 51(2):184-197 へ出た Cian らは静止したロゴが動きの印象を運び態度に響くことを示した。どれも測るのは態度や属性の判断であって信頼ではなく、効き方は形や文脈で変わる
- 見分けてもらえるという効き目には実証の足場がある。1998年に Journal of Marketing 誌 62(2):14-30 へ出た Henderson と Cote はどの見た目の特徴が見分けやすさや好意を生むかを整理し、2016年に Journal of Marketing Communications 誌 22(3):256-270 へ出た van Grinsven と Das はロゴの複雑さが再認とブランド態度への効き方を条件づけることを示した。この期間で確からしくなったのは、見た目の一貫性が一律に信頼を作るという因果ではなく、効き方は既存の愛着や複雑さや文脈に条件づけられ、測られているのは信頼ではなく態度・識別だという向きである
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| ロゴ・色・書体の見た目を統一して一貫性を保てば、ちゃんとして見えて、客の信頼が一律に育つ | 2010年に Journal of Product & Brand Management 誌 19(2):76-84 へ出た Walsh・Winterich・Mittal の632名のフィールド実験は、ロゴ変更への反応が客の愛着の強さで符号を変えることを示した。強く愛着した客ほど変更を否定的に、弱く愛着した客は好意的に評価する。見た目の一貫性が誰にでも一律に信頼を作るわけではなく、効き方は既存の愛着に条件づけられる |
| 見た目を変えることは一貫性を壊すから常に悪い。あるいは、思い切って変えれば必ず新鮮に見える | 同じ632名の実験は、弱く愛着した客はむしろ変更に好意的だと示した。一方で強く愛着した客が変更を嫌ったことは、その客に一貫性が意味を持つことを示す。だから一貫性=一律に善でも、変化=一律に善でもない。効き方は相手との関係で変わる条件つきの話であり、どちらに転ぶかは見た目の中ではなく見る人との関係の中にある |
| 見た目を揃えれば、信頼が育ったかどうかを測れる形で確かめられる | この研究が測ったのはブランド態度(そのブランドをどう思うか)であって信頼そのものではない。信頼という大きな言葉は何が測られたかをぼかす。この単位は『信頼を作る』を『見分けてもらいやすくする(識別容易性を高める)』に解像する。見た目を揃える堅い効き目は、同じ送り手だと気づいてもらえることにある |
皮肉なのは、いちばん時間をかけて見た目を揃えたときほど、「これで信頼される」と言い切りたくなることである。だが揃ったのは記号であって、それを見る人との関係ではない。長く付き合ってくれた客ほど、あなたが良かれと思って刷新した見た目に、いちばん傷つくかもしれない。見た目の一貫性は、信頼を作る魔法ではなく、せいぜい、これは前に見たあれだ、と気づいてもらうための小さな目印である——そして目印は、それを探している人にしか、目印にならない。
Q1. 2010年の Walsh・Winterich・Mittal の632名のフィールド実験が、ロゴ変更への反応について示したこととして正しいものはどれか。選択
Q2. 『一貫性は善』とも『変化は善』とも言えない、とはどういうことか。強く愛着した客の反応を根拠に説明せよ。一問一答
Q3. この研究が実際に測ったのは ____ であって「信頼」そのものではない。だからこの単位は『一貫性が信頼を作る』を、『見た目の一貫性が見分けてもらいやすくする=____ を高める』という確かめやすい言葉に置き換える。穴埋め
Q4. ロゴを調べた複数の実証(Jiang ら 2015、Hagtvedt 2011、Cian ら 2014)は、見た目の要素が「何を」動かすと示したか。それが『信頼が育つ』という言い回しとどう違うかに触れて述べよ。一問一答
Q5. この単位が扱った出来事を、年の早い順に並べよ。(ア)Walsh らが632名のフィールド実験でロゴ変更への反応が愛着で符号を変えると示す(イ)Henderson と Cote がどの見た目の特徴が見分けやすさや好意を生むかを整理する(ウ)Jiang らが丸い/角ばったロゴが属性の判断を変えると示す(エ)Hagtvedt が不完全なロゴが企業への知覚を変えると示す並べ替え
紙かメモアプリに今日の日付を書く。次に、自分の発信物を三つ選ぶ(名刺・SNSのプロフィール画像・チラシ・看板・メールの署名など、いま手元で見られるもの)。三つそれぞれについて、使っている見た目の要素を書き出す——(一)ロゴやマークの有無と種類、(二)主に使っている色、(三)書体の系統(明朝ふう・ゴシックふう・手書きふうなど、分かる範囲で)。次に、三つを横に並べて見比べ、揃っている箇所と、ばらけている箇所に、それぞれ印を付ける。どちらが良い悪いは書かない。最後に、ばらけている要素の数を1つの数字で書き添える。客に『信頼できるか』を聞いたり、他人のロゴを評価したりする必要はない。あくまで自分の発信物だけで完結させる。一人で全部を回している場合も、そのまま同じ形で書けばよい。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Walsh M.F., Winterich K.P., Mittal V. (2010) ‘Do logo redesigns help or hurt your brand? The role of brand commitment’, Journal of Product & Brand Management 19(2):76-84 — doi.org
- Jiang Y., Gorn G.J., Galli M., Chattopadhyay A. (2015) ‘Does Your Company Have the Right Logo? How and Why Circular- and Angular-Logo Shapes Influence Brand Attribute Judgments’, Journal of Consumer Research 42(5):709-726 — doi.org
- Henderson P.W., Cote J.A. (1998) ‘Guidelines for Selecting or Modifying Logos’, Journal of Marketing 62(2):14-30 — doi.org
- Hagtvedt H. (2011) ‘The Impact of Incomplete Typeface Logos on Perceptions of the Firm’, Journal of Marketing 75(4):86-93 — doi.org
- van Grinsven B., Das E. (2016) ‘Logo design in marketing communications: Brand logo complexity moderates exposure effects on brand recognition and brand attitude’, Journal of Marketing Communications 22(3):256-270 — doi.org
- Cian L., Krishna A., Elder R.S. (2014) ‘This Logo Moves Me: Dynamic Imagery from Static Images’, Journal of Marketing Research 51(2):184-197 — doi.org