「良い名前が成功を決める」——だが名前が動かせるのは、条件が噛み合ったときの、わずかな好みまでだ
センスの良い名前を付ければ、ブランドは半分成功したようなものだ、と教わる。皮肉なことに、名前の音が動かせるのは、その音が商いの中身と噛み合ったときの、わずかな好みまでだ。しかも実験室で測られたのは架空名への好みであって、市場での成功ではない。
前の単位では、核を客への約束としてどう言葉にするかを扱った。ここでは、その約束を背負う名前そのもの——名前の音や意味が、どこまで効くのかを扱う。
「良い名前が成功を決める」をほどく
音象徴とは、音そのものが持つ連想——たとえば、ある母音は小さく鋭い印象を、別の母音は大きく丸い印象を運ぶ、というような、音と意味のゆるいつながりのことである。この話には、たいてい大きな売り文句が付いてくる——言いやすく、響きのよい、センスの良い名前を付ければ、ブランドは半分成功したようなものだ。名前で決まる、という形だ。命名の本や、成功したブランド名の後付けの分析(「この音だから売れた」)が、この見方を運んでいる。屋号を決めようとしている人には、「良い名前さえ付ければ大丈夫」という重い期待として降りてくる。
この単位は、名前の付け方の巧拙を裁く場ではない。名前の音や意味は、どこまで効くと確かめられているのか、その範囲の外で何が起きるのかに的をしぼる。なお、名前と並んで語られるロゴや見た目の一貫性は、次の単位で別に扱う。ここでは名前そのものを見る。
音象徴の効果は在る——ただし「属性との適合」が条件
まず、音象徴の効果は、まぼろしではない。**2007年に *Journal of Consumer Research* 誌 34(3):406-414 へ出た、Lowrey と Shrum の研究は、名前の母音の音が運ぶ印象が、製品の性質と噛み合うときには、その名前が好まれやすくなることを示した。だが同じ研究が示したのは、もう半分の事実だ——音の運ぶ印象が製品の性質と噛み合わないときには、同じ名前がむしろ好まれにくくなる。つまり音象徴は、一律にプラスに働くのではない。効果は「適合」という条件つきで、符号が上にも下にも振れる。**
だから「響きのよい名前ほど良い」とは、この研究からは言えない。言えるのは、その音が、その商いの中身と噛み合っているかどうかで、効き方が変わる、という条件つきの話である。良い音、という一般解は無い。同じ音でも、鋭さを求める商いには効いて、やわらかさを求める商いには裏目に出る。つまり「良い名前」は、名前の中だけを見ても決まらない。名前と、差し出しているものの、あいだにしか無い。
この点は、屋号を決めようとしている人にとって、むしろ気楽な報せでもある。世の中に「絶対に良い音」があって、それを外すと負け、という話ではない。問われているのは、自分の音と、自分の中身が、揃っているかという、自分の手元で確かめられることのほうだ。
測っているのは、架空名への選好であって、市場成功ではない
もう一つ、慎重に見なければならない断層がある。これらの研究が測っているのは何か、という点だ。Lowrey と Shrum の研究も、効果を裏づけた**2004年の *Journal of Consumer Research* 誌 31(1):43-51 の Yorkston と Menon の研究——名前を構成する音が、客のブランド判断に影響することを示した——も、そして2000年の *Marketing Letters* 誌 11(1):5-20 の Klink の研究——音象徴で名前に意味を設計できるかを調べた——も、いずれも実験室で、多くは架空のブランド名に対する、好みや判断**を測っている。
ここが肝心だ。実験室で測られた「架空名への選好」と、市場での「そのブランドの成功」のあいだには、広い距離がある。 音がわずかに好みを動かすことと、名前が売れ行きを決めることは、別の話だ。実験室の小さな効果を、「だから改名すれば売れる」に伸ばすと、測っていないものを測ったことにしてしまう。名前は効きうる。ただし、条件つきで、限定的に、である。
なぜ架空名を使うのか、という理由も、この距離を裏づけている。研究者が実在のブランド名を避けて架空名を使うのは、実在名にはすでに、これまでの広告や口コミや使った記憶がこびりついていて、音だけの効き目を取り出せないからだ。裏を返せば、現実の名前の印象は、音そのものよりも、その名前を背負ってきた時間のほうで、はるかに大きく作られている。音は、その分厚い層の、いちばん薄い一枚にすぎない。
「この音だから売れた」は、生き残りから遡って語られる
では、なぜ「名前で決まる」がこれほど強く流通するのか。ここで、この棚の通奏低音がそのまま効いてくる——観察された特徴と、成功の原因は、別物である。 成功したブランド名を並べて「この音には共通点がある」と語るとき、私たちは生き残った名前だけを見ている。同じ音を持ちながら消えていった無数の名前は、後付けの分析の視野には入らない。
これは事後講釈バイアス——結果を知ったあとで、その結果に合う筋書きを、さも初めから分かっていたように語ってしまう傾向——の典型である。「売れた名前の共通点」は、原因の証明ではない。成功の隣にたまたま在った特徴を、成功を生んだ力と取り違えているだけかもしれない。もし本当に共通点が原因なら、同じ共通点を持って消えた名前が無いことを確かめなければならない。だが消えた名前は、誰も台帳に残していない。分子(成功して残った名前)だけを見て、分母(同じ音で挑んで消えた名前の全体)を見ない——この見落としが、名前の手柄話をいつまでも延命させている。この点は、名前の研究をもう少し広げても変わらない。**2003年に *Journal of Advertising* 誌 32(3):7-17 へ出た、Lowrey・Shrum・Dubitsky の研究は、名前の言語的な特徴が、名前の記憶にどう関わるかを調べた——効いているのは、覚えやすさという実験室の指標である。2001年に *Journal of Marketing Theory and Practice* 誌 9(2):27-34 へ出た、Klink の研究は、意味と音を組み合わせて名前に意味を設計できるかを、2012年に *Marketing Letters* 誌 23(1):109-117 へ出た、Klink と Athaide の研究は、名前で人格の印象を作れるかを調べた。どれも、効果は在ると示す。だが測っているのは、架空の名前に対する、記憶・意味・印象の判断である。効果が在ることと、その名前が市場で勝つこととは、やはり別の層の話だ。**
時間・変化:2000年から2012年まで
順に置く。2000年、Klink が音象徴で名前に意味を設計できるかを調べる。2001年、Klink が意味(セマンティクス)と音象徴を組み合わせた名前づくりを、2003年、Lowrey・Shrum・Dubitsky が名前の言語的特徴と名前の記憶の関係を調べる。2004年、Yorkston と Menon が、名前の音が客の判断に影響することを実験で示す。2007年、Lowrey と Shrum が、音の効果が製品の性質との適合を条件に符号を変えることを示し、2012年、Klink と Athaide が、名前で人格の印象を作れるかを調べる。
この期間で確からしくなったのは、「良い名前が成功を決める」という因果のほうではない。 確からしくなったのは、音象徴の効果は実在するが、適合という条件つきで、しかも測られているのは実験室での架空名への選好であって、市場での成功ではない、という向きのほうである。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、良い名前を一つ当てれば、あとは名前が働いてくれる、と思ってしまうことである。名前は、決めると大きな仕事を終えた気がする。だが名前が動かせるのは、条件が噛み合ったときの、わずかな好みまでだ。残りは、名前の外にある。
標本の偏りも断っておく。ここまでの実証は、実験室で、多くは架空のブランド名を使って採られたものである。あなたの屋号が、実際の商いの中で同じ振る舞いをするとはかぎらない。 名前の善し悪しを、他人の名前で断じることも、この単位はしない。それに、名前を変えることには、実験室では測られていない代償もある。これまで積み上げた覚えられ方や、探してもらう手がかりを、一度手放すことになる。音の小さな効き目のために、その積み上げまで捨てる勘定になっているかどうかは、実験室の選好の数字には映っていない。
助けになるのは、自分の屋号の音が運ぶ印象と、自分の商いが実際に差し出しているものが、噛み合っているかを、自分の手元で確かめてみるという一手である。良い名前かどうかを裁くためではない。音の印象と、中身の印象が、どこで揃い、どこでずれているかを、目に見える形にするためだ。
最初の一歩は10分。自分の屋号かサービス名を声に出して読み、その音から自分が受ける印象を3語書く(小さい・大きい・鋭い・柔らかい・速い・ゆっくり、など)。次に、自分の商いが本当は何を差し出しているのかを一文で書く。音の印象と、差し出しているものが、噛み合っている箇所と、ずれている箇所に、それぞれ印を付けるだけである。 他人の名前を評価する必要はない。ずれがゼロなら、それも一つの発見だ。
次の単位は 340「見た目に一貫性を持たせるには?」——名前に続いて、ロゴや色や書体という見た目の要素を揃えることが、どこまで効くのかを、この上に積み上げる。
- 音象徴(音そのものが持つ連想=ある母音は小さく鋭い印象を、別の母音は大きく丸い印象を運ぶ、という音と意味のゆるいつながり)の効果はまぼろしではない。だが2007年に Journal of Consumer Research 誌 34(3):406-414 へ出た Lowrey と Shrum の研究は、音の印象が製品の性質と適合するときは名前が好まれ、不適合のときは同じ名前がむしろ好まれにくくなることを示した。効果は適合を条件に符号が上にも下にも振れ、一律ではない
- Lowrey と Shrum の研究、効果を裏づけた2004年の Journal of Consumer Research 誌 31(1):43-51 の Yorkston と Menon の研究、2000年の Marketing Letters 誌 11(1):5-20 の Klink の研究は、いずれも実験室で、多くは架空のブランド名に対する好みや判断を測っている。実験室で測った架空名への選好と、市場でのブランドの成功のあいだには広い距離がある
- 実験室の小さな効果を『だから改名すれば売れる』に伸ばすと、測っていないものを測ったことにしてしまう。音がわずかに好みを動かすことと、名前が売れ行きを決めることは別の話である。名前は効きうるが、条件つきで、限定的である
- 『この音だから売れた』という成功名の共通点は、生き残った名前だけを見て語られる。同じ音を持ちながら消えた無数の名前は後付けの分析の視野に入らない。これは事後講釈バイアス(結果を知ったあとで、その結果に合う筋書きを初めから分かっていたように語る傾向)の典型で、成功名の共通点は原因の証明ではない
- この棚の通奏低音——観察された特徴と成功の原因は別物である——が名前にそのまま効く。成功の隣にたまたま在った音の特徴を、成功を生んだ力と取り違えているだけかもしれない。名前の研究を広げても測っているのは実験室の指標で、2003年に Journal of Advertising 誌 32(3):7-17 へ出た Lowrey・Shrum・Dubitsky は名前の言語的特徴と名前の記憶の関係を、2001年に Journal of Marketing Theory and Practice 誌 9(2):27-34 へ出た Klink は音と意味による名前の意味設計を、2012年に Marketing Letters 誌 23(1):109-117 へ出た Klink と Athaide は名前で人格の印象を作れるかを調べたが、いずれも対象は架空名への記憶・意味・印象の判断である
- この単位は名前の付け方の巧拙を裁かず、名前の音や意味がどこまで効くと確かめられているかに的をしぼる。名前と並ぶロゴや見た目の一貫性は次の単位で別に扱い、ここでは名前そのものを見る。名前の善し悪しを他人の名前で断じることもしない
- 2000年と2001年のKlink、2003年のLowrey・Shrum・Dubitsky、2004年のYorkston と Menon、2007年のLowrey と Shrum、2012年のKlink と Athaide——この期間で確からしくなったのは、良い名前が成功を決めるという因果ではなく、音象徴の効果は実在するが適合を条件とし、測られているのは実験室での架空名への選好であって市場での成功ではないという向きである
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 言いやすく響きのよい、センスの良い名前を付ければ、ブランドは半分成功したようなものだ。名前で決まる | 2007年に Journal of Consumer Research 誌 34(3):406-414 へ出た Lowrey と Shrum の研究は、音象徴の効果が製品の性質との適合を条件とし、適合すれば好まれ不適合ならむしろ好まれにくくなると示した。しかも測っているのは架空名への選好であって、市場での成功ではない。効果は在るが条件つきで限定的であり、名前が成功を決めるという因果には届かない |
| 成功したブランド名に『この音だから売れた』という共通点があるのだから、良い名前の型は分かっている | それは生き残った名前だけを見て語られる事後講釈バイアスである。同じ音を持ちながら消えた無数の名前は、後付けの分析の視野に入らない。観察された特徴と成功の原因は別物であり、成功名の共通点は原因の証明ではない。成功の隣にたまたま在った特徴を、成功を生んだ力と取り違えているだけかもしれない |
| 実験室で名前の音の効果が示されたのだから、名前を変えれば売上が変わるはずだ | 効果を示した研究(Lowrey と Shrum 2007、Yorkston と Menon 2004、Klink 2000)は、いずれも実験室で、多くは架空のブランド名への好みや判断を測っている。実験室の選好と市場の成果のあいだには広い距離があり、小さな効果を『改名すれば売れる』に伸ばすと、測っていないものを測ったことにしてしまう |
皮肉なのは、いちばん時間をかけて名前をひねり出した人ほど、「この名前なら大丈夫」と言い切りたくなることである。だが名前が動かせるのは、条件が噛み合ったときの、ほんの少しの好みまでだ。そして「あの名前だから売れた」という物語は、いつも売れたあとで書かれる。売れなかった同じ音の名前は、誰にも語られないまま、そっと消えている——名前の手柄話は、生き残った名前しか出席していない同窓会のようなものかもしれない。
Q1. 2007年の Lowrey と Shrum の研究は、音象徴の効果について何を条件だと示したか。効果の符号がどうなるかも含めて答えよ。一問一答
Q2. 名前の音の研究(Lowrey と Shrum 2007、Yorkston と Menon 2004、Klink 2000)が実際に測っているものとして、正しいものはどれか。選択
Q3. 『この音だから売れた』という成功名の共通点は、____ た名前だけを見て語られる。これは、結果を知ったあとでその結果に合う筋書きを初めから分かっていたように語る ____ バイアスの典型で、共通点は成功の ____ の証明ではない。穴埋め
Q4. 名前の研究を広げても(2003年 Lowrey・Shrum・Dubitsky、2001年 Klink、2012年 Klink と Athaide)、効果が在ることと「その名前が市場で勝つ」ことを同一視できないのはなぜか。これらの研究が測った対象に触れて述べよ。一問一答
Q5. この単位が扱った出来事を、年の早い順に並べよ。(ア)Yorkston と Menon が名前の音が客の判断に影響することを実験で示す(イ)Klink が音象徴で名前に意味を設計できるかを調べる(ウ)Lowrey と Shrum が音の効果は適合を条件に符号を変えると示す(エ)Klink と Athaide が名前で人格の印象を作れるかを調べる並べ替え
紙かメモアプリに今日の日付を書く。次に、自分の屋号かサービス名を、声に出して二、三回読む。その音から自分が受ける印象を3語書く(小さい・大きい・鋭い・柔らかい・速い・ゆっくり・軽い・重い、など、思いついた素の言葉でよい)。次に、自分の商いが本当は何を差し出しているのかを一文で書く(提供している便益や雰囲気)。最後に、音から受けた3語と、差し出しているものを見比べて、噛み合っている箇所と、ずれている箇所に、それぞれ印を付ける。どちらが良い悪いは書かない。他人の屋号や商品名を評価する必要はない。あくまで自分の名前と自分の商いだけで完結させる。一人で全部を回している場合も、そのまま同じ形で書けばよい。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Lowrey T.M., Shrum L.J. (2007) ‘Phonetic Symbolism and Brand Name Preference’, Journal of Consumer Research 34(3):406-414 — doi.org
- Yorkston E., Menon G. (2004) ‘A Sound Idea: Phonetic Effects of Brand Names on Consumer Judgments’, Journal of Consumer Research 31(1):43-51 — doi.org
- Klink R.R. (2000) ‘Creating Brand Names With Meaning: The Use of Sound Symbolism’, Marketing Letters 11(1):5-20 — doi.org
- Lowrey T.M., Shrum L.J., Dubitsky T.M. (2003) ‘The Relation Between Brand-name Linguistic Characteristics and Brand-name Memory’, Journal of Advertising 32(3):7-17 — doi.org
- Klink R.R. (2001) ‘Creating Meaningful New Brand Names: A Study of Semantics and Sound Symbolism’, Journal of Marketing Theory and Practice 9(2):27-34 — doi.org
- Klink R.R., Athaide G.A. (2012) ‘Creating Brand Personality with Brand Names’, Marketing Letters 23(1):109-117 — doi.org