三つ子の魂は、百までは続かない——それが安全基地の朗報である
家族の中の安全と聞いて、鍵と防犯カメラを思い浮かべたなら、この単位はその外側の話である。ここで言う安全とは、そこから安心して出ていける、そしていつでも戻れる、という感覚のことだ。そしてもう一つ。生まれて最初の1年でその感覚の型が決まり、百まで続く——という有名な話は、20年追いかけたデータの前で、半分以上崩れる。
前の単位から:敷地の上に、最初に建てるもの
033「経済」で見たのは、家計という敷地の話だった。圧力は人格を経由せずに関係の質を下げる。だから土台を先に整える。では、その敷地の上に最初に建てるべきものは何か。
この棚の設計では、それが安全である。この単位は棚全体の起点でもある。16単位の中でここに星印が付いているのは、家族という共同生活のすべての技術——受容も、応答も、修復も——が、この感覚の上でしか動かないからだ。
最初に一つ断っておく。この単位は安全を研究として扱うが、現にいま家庭の中で身体や心の安全が脅かされている人にとって、それはこの棚の技術論の外側の問題であり、外部の助けが要る。ここから先は、その一線の内側での話である。
安全基地という発明
愛着理論の中心概念は、精神科医ボウルビィが立てた安全基地——探索に出るための拠点であり、脅かされたときに戻る避難港でもある存在——だ。理論を実験の形に翻訳したのが、共同研究者のエインスワースである。
エインスワースとベルが1970年に発表した手続きは、いま振り返っても大胆なほど簡素だ。白人中流家庭の1歳児56人を、おもちゃのある見知らぬ部屋に母親と入れ、見知らぬ人が加わり、母親が退出し、戻る——という約3分刻みの8場面を進めて、子の行動を観察する。新奇場面法と呼ばれるこの手続きの眼目は、分離の場面ではなく再会の場面にある。戻ってきた親に対して子がどう振る舞うかが、いちばん情報量の多い瞬間だった。
この手続きに先立ってエインスワースは、ボルチモアの26家庭を1年間、およそ3週間ごとに家庭訪問し、1家庭あたり72時間に及ぶ生活の観察を積んでいる。実験室の10分の裏に、台所と居間の1年分の記録があった。
観察から3つの型が立ち上がった。親を基地として使い、再会で安心してまた遊びに戻る型。親を無視するように振る舞う回避の型。しがみつきながら反り返る、怒りと接触が同居する両価の型。基地として使える型はおよそ3分の2で、残りが2つの型に分かれた。
国民性の話ではない、という重要な脇道
愛着の型は文化の産物ではないか、という疑問には、1988年に一つの答えが出ている。ファン・アイゼンドールンとクローネンバーグは、8カ国32標本・約1,990人の新奇場面法のデータを集めて比べた。ドイツの標本には回避型が多く、日本の標本には両価型が多い、といった国ごとの色は確かにあった。だが決定的だったのは、同じ国の中の標本間のばらつきが、国と国のあいだのばらつきのおよそ1.5倍あったことだ。
つまり、愛着の分布を予測したければ、国籍を聞くより家庭を見るほうが早い。安全基地は国民性ではなく、個々の家庭の応答の関数だった。この事実は、この棚が家庭という単位にこだわる理由の、最初の実証的な根拠になる。
三つ子の魂、という呪いを検算する
さて、ここからがこの単位の本丸である。1歳時点の型がその後の人生を決める——三つ子の魂百まで——という通念は、どこまで本当か。
まず個別の追跡研究から。ウォーターズらは2000年に、1歳時点で新奇場面法を受けた60人のうち50人を、20年後に大人の愛着面接で測り直した結果を発表した。安全か不安全かの2分類で見て、同じ側に留まっていたのは72%。ここだけ読むと安定に見える。だが同じ論文の中に、反対向きの数字がある。親の離婚、死別、重い病気、虐待といった負の出来事を経験した群では、18人中8人——44%——が型を変えていた。経験しなかった群の変化は32人中7人、22%である。型は続くのではない。環境が続くかぎりで、続くのだ。
次に全体像。ファーリーが2002年に27の縦断研究をまとめたメタ分析では、1歳時点の安全性とその後の安全性の相関は、期間がどれだけ延びてもおおよそ0.39の水準に収束するというモデルが最もデータに合った。初期の型の影響はゼロにはならない。だが相関0.39とは、ざっくり言えば、後の姿の8割以上が初期の型では説明できないという意味でもある。
さらに大規模なのがピンカート、フォイスナー、アーネルトによる2013年のメタ分析だ。127研究・2万1,072人・225の効果量。全体の平均安定性は相関0.39。ただし測定間隔で輪切りにすると、半年以内では0.45あった安定性が、5年から15年では0.20に落ち、15年を超えた区間では0.14——統計的に有意でない——まで下がる。
最後に、初期の愛着が後の適応をどれだけ予測するか。グローらの2017年の総括では、乳幼児期の安全な愛着は、後の仲間関係の有能さと効果量0.39、外に向かう問題行動の少なさと0.31、内にこもる症状の少なさと0.15で結びついていた。実在する効果である。同時に、決定と呼ぶには小さすぎる効果でもある。
数字を並べた結論はこうなる。最初の1年は、無意味ではない。しかし判決でもない。三つ子の魂百までという格言は、127研究のデータの上では、三つ子の魂は、環境が変わらなければしばらく続く、と読み替えるのが精一杯である。
呪いが解けると、宿題が現れる
この検算は、朗報と宿題を同時に運んでくる。
朗報の側。あなたが自分の育ちに不安の影を見ている人なら、データはあなたの味方だ。安定性0.39という数字は、変わった人が大勢いるという意味である。研究の世界には、困難な子ども時代を過ごしながら安定した愛着を後から獲得した人たち——獲得された安全と呼ばれる——が繰り返し記録されている。
宿題の側。同じ数字は、いま提供している安全も自動では続かないという意味になる。安全基地は基礎工事ではなく、毎日の入出金がある口座に近い。そしてこの口座は子ども専用ではない。老いた親にとっての、同居のパートナーにとっての、疎遠になったきょうだいにとっての安全基地というものがある。帰ってきた家族が今日の失敗を話せるか。弱った親が弱音を吐ける相手が家の中にいるか。恋人や配偶者との関係の修復そのものは恋愛と結婚の棚の持ち場だが、同じ屋根の下の相手が安心して弱れる場所を保つことは、この棚の持ち場である。
時間・変化:刻印ではなく、履歴
愛着研究の時間軸をまとめ直すと、こういう絵になる。安定性は測定間隔が短いほど高く、間隔が延びるほど階段状に下がっていく。半年なら0.45、数年で0.40前後、5年を超えると0.20、15年を超えると統計的にはもう検出できない。一方で、変化はランダムに起きるのではない。ウォーターズらのデータが示したとおり、型を変えた人の多くには、離婚や大病や喪失といった、環境の側の出来事があった。
つまり愛着の型とは、石に彫られた刻印ではなく、更新され続ける履歴である。過去の履歴は次の応答の予測に使われるから、短期的には続く。しかし履歴は上書きできる。良い方向にも、悪い方向にも。この見方は、次の単位以降で扱う毎日の応答の技術に、そのまま接続する。今日の応答は、履歴の1行になる。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、皮肉なことに、愛着理論の人気そのものである。世間に流通する愛着スタイル診断は、型を血液型のような固定の属性として語る。診断を受けて、自分は回避型だから、と説明を打ち切る使い方は、0.39という数字の読み方として端的に誤っている。型は説明の終点ではなく、履歴の現在残高にすぎない。
もう一つの妨げは、安全基地を甘やかしと混同することだ。基地の定義には、探索に出て行くことが含まれている。出て行くことを許さない抱え込みは、基地ではなく検問所である。この区別は037「受容」と043「自律」で正面から扱う。
標本の偏りも記しておく。この単位の数字の多くは、欧米の中流家庭の、しかも母子のペアに集中した観察研究から来ている。父親、祖父母、同性の親、施設養育を含む多様な養育の形についてのデータは、まだ薄い。分布の数字を自分の家庭に当てはめるときは、経路の論理だけを持ち帰り、比率は参考値に留めるのが誠実である。
助けるのは、安全基地の機能を出来事の粒度で考えることだ。型という大きな話をやめて、今日、家族の誰かが弱音や失敗をこちらに見せたか、見せたときに何が起きたか、という単位で観察する。基地の残高は、この粒度でしか増えない。
最初の一歩は10分。今日、家族の誰かが弱音や失敗談を口にした瞬間を一つ捉え、アドバイスに切り替える前に、まず受け止める応答をひとこと返す。そして、その場面と自分が実際に返したことばを書き留める。基地の値打ちは、弱ったときに戻れる場所かどうかで決まるからだ。離れて暮らす親やきょうだいしかいない人は、弱音を出しやすい短い問いを1通送り、返ってきたことばをまず受け止めればいい。それも記帳である。
次の単位は 035「衛生」——安全基地の物理版を扱う。家庭という共有環境の清潔と秩序が、応答の質にどう効くか。そこでは、清潔すぎるとアレルギーになるという俗説を、公衆衛生の側から値切ることになる。
- Ainsworth & Bell 1970(Child Development)は白人中流家庭の1歳児56人を約3分刻み・8場面の新奇場面法で観察し、再会場面の行動から、親を基地として使う型・回避する型・怒りと接触が同居する両価の型を区別した。手続きの背後にはボルチモアの26家庭・各72時間の家庭観察がある
- van IJzendoorn & Kroonenberg 1988(Child Development)は8カ国32標本・約1,990人のメタ分析で、どの国でも安全型が最多である一方、同一国内の標本間のばらつきが国家間のばらつきの約1.5倍あることを示した。愛着の分布は国民性より家庭差で決まる
- Waters et al. 2000(Child Development)は1歳時に新奇場面法を受けた60人中50人を20年後に大人の愛着面接で再測定し、安全・不安全の2分類で72%が同じ側に留まった一方、親の離婚・死別・大病・虐待などを経験した群では18人中8人(44%)が型を変えていたと報告した(未経験群の変化は32人中7人・22%)
- Fraley 2002(Personality and Social Psychology Review)の27縦断研究のメタ分析では、1歳時点の安全性と後年の安全性の相関はおよそ0.39で頭打ちになる原型モデルが最もよく適合した。初期の影響はゼロにならないが、後年の姿の大部分は初期の型では説明できない
- Pinquart, Feußner & Ahnert 2013(Attachment & Human Development)は127研究・2万1,072人・225効果量のメタ分析で、愛着の平均安定性を相関0.39と算出した。安定性は間隔が半年以内で0.45、5〜15年で0.20、15年超では0.14となり統計的に有意でなくなる
- Groh et al. 2017(Child Development Perspectives)の総括では、乳幼児期の安全な愛着は後の仲間関係の有能さと効果量0.39、外在化問題の少なさと0.31、内在化症状の少なさと0.15で関連した。実在するが、決定と呼ぶには小さい効果である
- 実務上の含意:愛着の型は刻印ではなく更新される履歴であり、今日の応答が履歴の1行になる。安全基地の残高は、家族の誰かが弱音や失敗を見せた瞬間に何が起きたか、という出来事の粒度でしか増えない。基地は子ども専用ではなく、老いた親や同居のパートナーにも要る
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 生後1年の愛着の型で、その人の人間関係は一生決まる(三つ子の魂百まで) | 127研究のメタ分析で、愛着の安定性は測定間隔15年超では相関0.14となり統計的に有意でない。20年追跡でも、負の出来事を経験した群の44%が型を変えていた。初期の型の影響は実在するが小さく、環境が変われば型も変わる |
| 自分は回避型・不安型と診断されたのだから、家族との関わり方はそれで説明がつく | 型は固定の属性ではなく履歴の現在残高である。相関0.39という安定性は、変わった人が大勢いることを意味する。困難な育ちの後に安定を獲得した人たちも繰り返し記録されており、型を説明の終点に使うのはデータの読み方として誤りである |
| 愛着のあり方は文化や国民性で決まるから、家庭で変えられる部分は小さい | 8カ国32標本の比較では、同一国内の標本間のばらつきが国家間のばらつきの約1.5倍だった。分布を予測するには国籍より家庭を見るほうが早い。安全基地は国民性ではなく個々の家庭の応答の関数である |
三つ子の魂百までという格言が生き延びてきた理由は、実は優しさである。すべては幼少期に決まったと考えれば、いまの自分の関わり方を点検しなくて済むし、親を恨むにせよ感謝するにせよ、勘定は過去に付け替えられる。データはその慰めを取り上げる。安定性0.14という数字は、あなたの過去にアリバイを与えない代わりに、あなたの今日に権限を与えてしまった。呪いが解けた後に残るのは自由ではなく、毎日の記帳義務である——朗報とは、たいていそういう顔をしている。
Q1. Pinquart らのメタ分析(127研究・2万1,072人)で、愛着の安定性の全体平均は相関____だった。間隔別では半年以内で____、5〜15年で____、15年を超えると____となり、統計的に____でなくなる。穴埋め
Q2. Waters ら(2000)の20年追跡の結果を、全体の数字と、負の出来事の有無で分けた数字の両方で答えよ。一問一答
Q3. van IJzendoorn & Kroonenberg(1988)の8カ国32標本のメタ分析の結果として、本文の内容に合うものはどれか。選択
Q4. エインスワースの新奇場面法で、型の分類にとって最も情報量が多いとされた場面はどれか。また、この手続きの背後にあった家庭観察の規模を答えよ。一問一答
Q5. 本文が示した測定間隔ごとの愛着の安定性を、相関の高い順に並べよ。(5〜15年/半年以内/15年超/1〜2年)並べ替え
今日、家族の誰かが弱音・失敗談・困りごとを口にした瞬間を1回捉える。①すぐにアドバイスや解決策を言わない。②まず受け止める応答をひとこと返す(相手の言ったことを短く繰り返すか、「それは大変だったね」のように気持ちを認めるだけでよい)。③その場面(誰が・何を口にしたか)と、自分が実際に返したことばを記録する。同居家族がいない人・今日そういう瞬間が来なかった人は、離れて暮らす親かきょうだいか旧友に、弱音を出しやすい短い問いを1通送り、返ってきたことばにまず受け止める応答を返して、そのやりとりを記録する。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
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- Ainsworth M.D.S., Bell S.M. (1970) 'Attachment, exploration, and separation: Illustrated by the behavior of one-year-olds in a strange situation', Child Development 41(1):49-67 — www.semanticscholar.org
- van IJzendoorn M.H., Kroonenberg P.M. (1988) 'Cross-cultural patterns of attachment: A meta-analysis of the strange situation', Child Development 59(1):147-156 — scholarlypublications.universiteitleiden.nl
- Waters E., Merrick S., Treboux D., Crowell J., Albersheim L. (2000) 'Attachment Security in Infancy and Early Adulthood: A Twenty-Year Longitudinal Study', Child Development 71(3):684-689 — academic.oup.com
- Fraley R.C. (2002) 'Attachment Stability From Infancy to Adulthood: Meta-Analysis and Dynamic Modeling of Developmental Mechanisms', Personality and Social Psychology Review 6(2):123-151 — journals.sagepub.com
- Pinquart M., Feußner C., Ahnert L. (2013) 'Meta-analytic evidence for stability in attachments from infancy to early adulthood', Attachment & Human Development 15(2):189-218 — www.lieselotte-ahnert.de
- Groh A.M., Fearon R.M.P., van IJzendoorn M.H., Bakermans-Kranenburg M.J., Roisman G.I. (2017) 'Attachment in the Early Life Course: Meta-Analytic Evidence for Its Role in Socioemotional Development', Child Development Perspectives 11(1):70-76 — discovery.ucl.ac.uk