効果は、測り方を緩めるほど大きく見える
研究と事業の両方をやると成果が上がる、という話がある。統合研究はそれを否定していない。ただし同じ要旨に、効果が強く出るのは、うまくいっているかを回答者自身が答えたときと、原因側と結果側を同じ日にまとめて測ったときだ、と書いてある。
前の単位で、使う側を入れることの効き目が、何を測ったかで向きを変えることを見た。ここでは、遠い研究と近い事業に、時間と資源をどう配るのかという言い方を扱う。
この単位が扱うのは一点——「両方をやると成果が上がる」という言い方が、どんな測り方のときに大きく見えるかである。 配分の比率は示さない。どちらを増やすべきかも書かない。
統合研究が書いたのは「効く」ではなく「条件で変わる」
2013年に *Academy of Management Perspectives* 27(4):299-312 へ出たメタ分析は、まず前提をこう置く。この主題の研究はきわめて多様な業種と方法上の設定のもとで行われてきており、実証的な結果はまちまちである。
そのうえで、結論はこうである。正で有意な、両立と業績の関係は、大部分において文脈上の要因と方法上の選択によって調整されている。両立は、非製造業において、また分析の水準が高いところにおいて、業績にとってとりわけ重要である。
「業種によって違う」と丸めてはいけない。 要旨が名指ししているのは、非製造業という語と、分析の水準が高いところという語である。この二つ以外の言い換えを足さない。
「測り方が緩いほど大きく見える」とはどういうことか
同じ要旨の次の一文が、この単位の中心である。また、両立の「組み合わせ型」の測度と知覚的な業績が用いられたとき、そして横断的あるいは複数手法の研究設計が適用されたときに、業績への効果はより強くなる。
語を三つ、ほどいておく。知覚的な業績とは、売上や利益のような外部の記録ではなく、回答者が「うまくいっているか」を答えた値である。横断的な設計とは、時間を追わず、ある一時点で原因側と結果側をまとめて測るやり方である。そして組み合わせ型の測度とは、二つの側面を掛けたり足したりして一つの値にまとめた測り方である。
三つに共通しているのは、測り方の緩さではなく、答えを出す人と、答えを受け取る人の距離の近さである。同じ人が、同じ日に、同じ調査票で、うまくいっているかと、両方やっているかに答える。その二つの値のあいだに相関が出るのは、ある意味で当然である。
この統合研究が言っているのは、効果が偽物だということではない。効果の大きさが、測り方によって系統的に動く、ということである。
よく引かれる「25本・26,183人・r = 0.06」は、原典の言葉ではない
この論文を引くときによく添えられる数字がある。統合した研究が25本、累積した回答者が26,183人、そして全体の相関係数が r = 0.06、というものである。
この数字を、この論文の要旨から取ることはできなかった。 出版社のページには到達できず、機関のリポジトリ2件で文言が一致した要旨には、研究数も累積標本も効果量も書かれていない。
数字の出どころは特定できる。**2019年に *BBR. Brazilian Business Review* 16(5):470-499 へ出た査読論文の474ページに、こう書かれている。Junni ら(2013)は、25本の論文で組織の両利きのメタ分析を行い、26,183人の累積標本を探索した。主要な知見は、組織の両利きが組織の業績に影響することを示している(r = 0.06)。**
つまりこの数字は、引用した側の論文が報告しているものであって、原典の言葉ではない。 ここではそう断ったうえで書く。断れないなら書かない。
なお、r = 0.06 という値は、相関係数としては小さい部類に入る。 効果量でも標準化偏回帰係数でもオッズ比でもない。この三つと混ぜて読まないこと。
同じ号に、提唱者側の総説が並んでいる
書誌をたどると、もう一つ分かることがある。このメタ分析が載った号には、同じ主題の文章が少なくとも三つ並んでいる。 287-298ページに、この概念が組織研究にどう寄与しているのかを整理し直す論考。299-312ページに、いま見たメタ分析。そして324-338ページに、提唱者側による、過去・現在・未来と題した総説である。
この棚で「同じ号に載っている」と書けるのは、番地298とここだけである。ただし番地298のほうは批判と応答と再応答の往復であり、こちらは往復ではなく、同じ号に並んでいるというだけである。 学術誌の応答は、ふつう何年も後の別の号に出る。
ただし、正直に書いておく。324-338ページの総説の要旨には到達できなかった。 出版社のページが開かず、書誌の記録にも要旨が入っていなかった。ここで書けるのは、同じ巻・同じ号に並んでいるという事実だけである。中身を要約しない。 目次そのものも確認できていないので、同じ企画のもとに組まれたとまでは書かない。
概念のほうは、2008年の総説が整理している
概念の整理は、その5年前に出ている。2008年に *Journal of Management* 34(3):375-409 へ出た総説は、この概念を今日の事業の要請をうまく揃えて効率よく回す力と、環境の変化に適応する力とを、同時に持つ組織の能力と定義したうえで、先行要因・調整要因・結果を覆う包括的な模型を作った、と要旨に書いている。
これは概念の整理であって、効果の測定ではない。 要旨も、研究の領域をまたぐ空白を指摘し、今後の研究の重要な道筋を示す、と結んでいる。枠組みの提示と、効果の測定は別の仕事である。 この棚では、その二つを混ぜないことを何度も確かめてきた。
日本では、「研究」も「研究費」も定義が決まっている
配分の話をするなら、そもそも何を研究と数えるのかを見ておいたほうがよい。日本にはその定義がある。総務省統計局が毎年行っている『科学技術研究調査』の、調査票の記入上の注意である。
「研究」とは、次のように定義されている。 事物、機能、現象などについて新しい知識を得るために、又は、既存の知識の新しい活用の道を開くために行われる創造的な努力及び探求。
「研究費」に含まれる費目も、列挙されている。 人件費、原材料費、有形固定資産の購入費、無形固定資産の購入費、リース料、その他の経費。
読み返してほしいのは、この定義に「成功したか」も「事業に結びついたか」も入っていないことである。新しい知識を得るために行われる創造的な努力および探求であって、結果は問われていない。成果が出たあとに定義されるのが「成功」だとすれば、ここにあるのは、その手前で引かれた線である。
同じ調査の2025年(令和7年)の結果の概要には、2024年度の科学技術研究費の総額は23兆7925億円(対前年度比7.9%増)、そのうち企業が17兆4303億円(対前年度比8.1%増)と最も多く、国内総生産に対する研究費の比率は3.70%、2025年3月31日現在の研究者数は91万2800人とある。公表は2025年12月12日である。
この数字は、日本の中の話である。国どうしの技術力の比較には使わない。 数え方の定義が国ごとに違う以上、そのまま並べても意味を成さない。
時間・変化:2008年から2025年まで
順に並べる。2008年、概念を整理する総説が出る。効果の測定ではない。2013年、統合研究が、関係は文脈上の要因と方法上の選択に大きく左右されると書き、知覚的な業績と横断的な設計のときに効果が強くなると明記する。同じ号に、提唱者側の総説と、概念の寄与を整理し直す論考が並ぶ。2019年、引用した側の論文が、25本・26,183人・r = 0.06 という値を報告する。2025年12月、日本の統計が、前年度の研究費総額と研究者数を公表する。
17年で確からしくなったのは、効果の大きさではなく、効果の見え方が測り方でどう動くかのほうである。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、「両方やっているか」と「うまくいっているか」を、同じ人が同じ日に答えた値どうしで結びつけることである。統合研究が名指ししたのは、まさにこの形の設計だった。設計を責めているのではない。そういう設計のときに効果が大きく出る、という規則性が報告されている、というだけである。
標本の偏りを断っておく。ここまでの証拠は、米国と欧州の、質問票に回答する余裕のある組織から採られたものが大半で、統合研究自身が、業種と方法上の設定がきわめて多様であり結果はまちまちだと書いている。日本の研究開発を対象にした査読研究はごく少ない。 そして——成功した組織のデータだけが残る、という逆向きを排除できない。 配分に失敗して消えた組織は、調査票に答えていない。
助けになるのは、配分を比率で決める前に、自分の時間が実際にどう割れているかを分数で見るという一手である。比率は決意で書けるが、分数は書けない。そして分数のほうは、誰かの申告ではなく、自分の記録である。
最初の一歩は10分。今日使った時間を、すぐ役に立つことと、いつ役に立つか分からないことに分けて、それぞれの分数を書き留める。どちらが多くても、それ自体は良いことでも悪いことでもない。
次の単位は 301「開発テーマを絞り込むには?」——手がけているものの数そのものを、どう扱うかという話へ進む。
- 2013年のメタ分析(Academy of Management Perspectives 27(4):299-312)の要旨は、正で有意な両立と業績の関係は大部分において文脈上の要因と方法上の選択によって調整されている、と述べる。名指しされた文脈は「非製造業」と「分析の水準が高いところ」の二つであり、これを「業種によって違う」と丸めてはいけない
- 同じ要旨は、両立の組み合わせ型の測度と知覚的な業績が用いられたとき、そして横断的あるいは複数手法の研究設計が適用されたときに、業績への効果はより強くなる、と書いている。知覚的な業績とは回答者が答えた値、横断的な設計とは一時点で原因側と結果側をまとめて測るやり方である
- よく添えられる「統合された研究25本・累積標本26,183人・r = 0.06」という値は、原典の要旨には無い。出どころは2019年の BBR. Brazilian Business Review 16(5):470-499 の474ページであり、引用した側の査読論文が報告している値である。原典の言葉ではない
- r = 0.06 は相関係数であり、効果量でも標準化偏回帰係数でもオッズ比でもない。相関係数としては小さい部類に入る値である
- このメタ分析が載った Academy of Management Perspectives 27巻4号には、287-298ページに概念の寄与を整理し直す論考、299-312ページにメタ分析、324-338ページに提唱者側の総説が並んでいる。この棚で「同じ号に載っている」と書けるのは、番地298の往復とこの一件だけである。ただしこちらは往復ではなく、同じ号に並んでいるというだけである。324-338ページの要旨には到達できず、目次も確認できていない
- 2008年の総説(Journal of Management 34(3):375-409)は、この概念を、今日の事業の要請を効率よく回す力と環境の変化に適応する力を同時に持つ組織の能力と定義し、先行要因・調整要因・結果を覆う模型を示した。これは概念の整理であって効果の測定ではない
- 日本の『科学技術研究調査』は「研究」を「事物、機能、現象などについて新しい知識を得るために、又は、既存の知識の新しい活用の道を開くために行われる創造的な努力及び探求」と定義し、研究費に人件費・原材料費・有形固定資産の購入費・無形固定資産の購入費・リース料・その他の経費を含める。2024年度の総額は23兆7925億円、うち企業17兆4303億円、国内総生産に対する比率3.70%、2025年3月31日現在の研究者数91万2800人(2025年12月12日公表、2026年閲覧)
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 研究と事業の両方をやれば成果が上がることは、統合研究で確かめられている | 2013年のメタ分析の要旨が書いているのは、正で有意な関係が、大部分において文脈上の要因と方法上の選択によって調整されている、ということである。効果が強く出るのは、回答者が答えた業績が用いられたときと、一時点でまとめて測る設計が適用されたときだ、とも書かれている。効果が偽物だという話ではなく、効果の大きさが測り方によって系統的に動く、という話である |
| あのメタ分析は25本・26,183人で r = 0.06 だった | その三つの値は原典の要旨には書かれていない。出どころは2019年に別の査読誌へ出た論文の474ページであり、引用した側が報告している値である。原典の要旨に書かれているのは、非製造業と分析の水準が高いところで特に重要であること、そして知覚的な業績と横断的な設計のときに効果が強くなることである |
| 研究費の統計を見れば、どの国が進んでいるかが分かる | 何を研究と数えるかの定義は、調査ごとに決められている。日本の調査では、研究とは新しい知識を得るために、または既存の知識の新しい活用の道を開くために行われる創造的な努力および探求であり、成功したかどうかも、事業に結びついたかどうかも定義に入っていない。定義が違うものを並べても比較にはならないので、この棚は国どうしの優劣を書かない |
皮肉なのは、この分野が自分で自分の弱点を数え上げてしまったことである。統合研究は、効果が大きく見える条件を三つ挙げた——回答者が答えた業績、一時点でまとめた設計、二つをまとめた測度。つまり、いちばん都合よく効果が出る測り方の設計図を、そのまま公開したことになる。もっとも、いちばんよく引かれているのは、その三つでもなく、原典に載っていない小数点以下二桁の数字のほうである。
Q1. 2013年のメタ分析の要旨によれば、業績への効果がより強くなるのは、両立の【 ① 】型の測度と【 ② 】的な業績が用いられたとき、そして【 ③ 】的あるいは複数手法の研究設計が適用されたときである。穴埋め
Q2. 「統合された研究25本・累積標本26,183人・r = 0.06」という三つの値は、どこに書かれているものか。1文で書け。一問一答
Q3. 日本の『科学技術研究調査』における「研究」の定義を、覚えているかぎり書け。とくに、そこに含まれていない要素を1つ挙げよ。一問一答
Q4. 2013年のメタ分析の要旨が、業績にとってとりわけ重要だと名指しした文脈はどれか。選択
Q5. この単位で扱った四つの出来事を、年の早い順に並べよ。(ア)引用した側の査読論文が、25本・26,183人・r = 0.06 を報告する(イ)概念を整理する総説が出る。効果の測定ではない(ウ)日本の統計が、前年度の研究費総額と研究者数を公表する(エ)統合研究が、関係は文脈上の要因と方法上の選択に左右されると書く並べ替え
紙かメモアプリに、今日の日付を書く。次に2つの欄を作る。左は『すぐ役に立つこと』、右は『いつ役に立つか分からないこと』。今日使った時間を、この2つにおおよその分数で割り振って書く。どちらとも言えないものは、右に入れる(どちらとも言えない、というのは、いつ役に立つか分からないということである)。作業の中身は書かない。誰と何をしたかも書かない。どちらが多くても、それ自体は良いことでも悪いことでもない。配分を変えようとしなくてよいし、記録のために予定を動かさなくてよい。いま組織に属していない場合や、一人で作っている場合は、その日に自分が使った時間を同じ2つの欄に割り振れば成立する。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Junni P., Sarala R.M., Taras V., Tarba S.Y. (2013) 'Organizational Ambidexterity and Performance: A Meta-Analysis', Academy of Management Perspectives 27(4):299-312, doi:10.5465/amp.2012.0015 — research.hanken.fi
- O'Reilly C.A. III, Tushman M.L. (2013) 'Organizational Ambidexterity: Past, Present, and Future', Academy of Management Perspectives 27(4):324-338, doi:10.5465/amp.2013.0025 — api.crossref.org
- Birkinshaw J., Gupta K. (2013) 'Clarifying the Distinctive Contribution of Ambidexterity to the Field of Organization Studies', Academy of Management Perspectives 27(4):287-298, doi:10.5465/amp.2012.0167 — api.crossref.org
- Raisch S., Birkinshaw J. (2008) 'Organizational Ambidexterity: Antecedents, Outcomes, and Moderators', Journal of Management 34(3):375-409, doi:10.1177/0149206308316058 — journals.sagepub.com
- Severgnini E., Takahashi A.R.W., Abib G. (2019) 'Risk and Organizational Ambidexterity: A Meta-Synthesis of a Case Study and a Framework', BBR. Brazilian Business Review 16(5):470-499, doi:10.15728/bbr.2019.16.5.4 — www.bbronline.com.br
- 総務省統計局『科学技術研究調査』調査票記入上の注意(非営利団体・公的機関用)および2025年(令和7年)科学技術研究調査結果の概要(2025年12月12日公表、2026年閲覧。公的統計・査読誌ではない) — www.stat.go.jp