起点は査読誌ではなかった。裏づけは549回のうち292回だった
うちの強みはこれだ、という一文には、たいてい学術の匂いがついている。ところが出どころの記事は査読誌に載ったものではなく、発行元自身が学術誌とは手続きが違うと書いている。学術の側で数え直すと、支持されたのは549回の検定のうち292回だった。
前の単位で、速さの効き目が、何を成功と呼ぶかで動くことを見た。ここでは、速さの土台に置かれる「自分たちの持ち技」という言い方を扱う。
この単位が扱うのは一点——「これがうちの強みだ」という言い方に、どれだけの検定が通っているかである。 どの技術を伸ばすべきかは扱わない。技術の優劣も断定しない。
起点になった記事は、査読誌に載ったものではない
「中核となる力を見きわめよ」という言い方の出どころは、たどれる。1990年5–6月号の *Harvard Business Review* に載った記事である。二つの企業の対比から始まり、組織の中の集団的な学習、とりわけ多様な生産の技能を束ね、複数の技術の流れを統合する力について述べている。
ここで一つだけ事実を置く。この媒体は査読誌ではない。 発行元自身が、投稿者向けの案内にこう書いている。学術誌とは異なり、我々の過程には、論文を正式に受理する時点も、掲載を保証する時点も存在しない。 複数の編集者が掲載までに各稿を検討し、編集の途中で自分たちに合わないと判断することもある、とも書かれている。
これは「だから間違っている」という話ではない。 査読の手続きを通っていない、という事実だけである。問題は、この記事があとから学術の裏づけを持つ枠組みのように引かれてきたことのほうにある。
学術の側では、同じ考えが検定にかけられた
同じ考えは、学術の側では「資源を土台に企業の優位を説明する見方」として組み立て直され、数多くの実証研究にかけられている。その支持の度合いを数え上げたのが、2007年に *Strategic Management Journal* 28(2):121-146 へ出た論文である。
要旨はこう書く。この見方は全体としては控えめな支持しか得ておらず、その支持は、用いられた独立変数と理論的な立場によってかなり大きく変わる。
そして結果の節に、数字がある。標本に入った55本の論文には、549回の個別の検定が含まれており、そのうち支持されたのは292回(53%)だった。
ここは正確に読む必要がある。「55本のうち53%が支持」ではない。「55本の論文に含まれる549回の検定のうち、292回が支持」である。 論文の本数と検定の回数は別の単位であり、1本の論文が何十回も検定を含んでいることがある。
53%を、どちらから読むか
53%という値は、二通りに読める。半分強は支持されたとも読めるし、半分近くは支持されなかったとも読める。どちらも同じ数字である。
ただし、この分野で「強みを見きわめれば強くなる」という言い方が流通している強さと、53%という値のあいだには、明らかに開きがある。そして要旨は、支持の度合いが独立変数と理論的な立場でかなり変わると書いている。 つまり、何を強みの代わりに測ったかで、支持されるかどうかが動く。
数字の性質にも一言。これは効果の大きさではない。検定が統計的に支持されたかどうかの回数の割合である。 相関係数でも、効果量でもない。「53%の企業がうまくいった」でもない。 混ぜてはいけない。
もう一つ、読み方の注意を添える。549回という検定の回数は、55本という論文の本数から独立に増える。 1本の論文が、資源の種類ごと、業績の指標ごと、時期ごとに検定を繰り返せば、それだけで回数は何十にもなる。だから支持率は、論文がどれだけ細かく検定を刻んだかにも左右される。 支持率という一つの値を、そのまま枠組みの正しさの点数として扱わないほうがよい。
批判と応答が、同じ号に並んでいる
この枠組みが学術の内側でどう扱われたかは、書誌をたどるとよく分かる。2001年の *Academy of Management Review* 26巻1号には、同じ問いを掲げた文章が三つ並んでいる。22-40ページに批判、41-56ページに提唱者側からの応答(表題の末尾に「はい」と付いている)、そして57ページからさらに批判側の再応答である。
この棚で「同じ号での往復」と書けるのは、ここだけである。 学術誌の応答は、たいてい何年も後の別の号に出る。批判・応答・再応答が一つの号に収まっているのは、この枠組みの中心にある概念が、当時それだけ争われていたということでもある。
なお、この三本の要旨の完全な逐語は取れなかった。出版社のページに到達できなかったからである。ここで書けるのは、巻・号・ページという書誌の事実だけである。中身を要約しない。
8つの批判のうち、3つは退けられていない
その後の整理もある。2010年に *Journal of Management* 36(1):349-372 へ出た総説は、この見方に向けられた主な批判を8つに分類したうえで、こう結論している。そのうち5つについては、変数・境界・適用範囲が十分に定められているかぎり、核心の主張は批判に耐えうる。 しかし——容易には退けられない批判が3つ残る。それらは、この見方の基本となる二つの概念——資源と価値——が定まらないことと、企業の競争上の優位についての狭い捉え方から生じている。
残った3つのうち2つが、「資源」と「価値」という、枠組みの土台にある語そのものである。 何が資源で、何に価値があるのかが定まらないと、「これがうちの強みだ」という一文は、あとからどうとでも書ける。
そしてこの棚が何度も通る道の一つが、ここにも顔を出す。生き残った組織が持っていたものだけが、あとから強みという名前で呼ばれる。 この単位ではそこを展開しない。ただ、資源と価値が定まらないという2010年の指摘が、その入口に立っていることだけを書いておく。
中核の強みは、そのまま中核の硬直になる
向きが逆を向いている報告もある。1992年に *Strategic Management Journal* 13(S1):111-125 へ出た論文は、5社で各4件、計20件の新製品・新工程の開発案件の事例研究から、次のように書いている。
伝統的な中核の能力には、革新を妨げる裏面がある。ここではそれを中核の硬直と呼ぶ。したがって新製品・新工程の開発案件を預かる人々は、逆説に直面する——中核の能力を活かしながら、その機能不全の裏面に足を取られないようにするには、どうすればよいのか。
本文の定義はもっと具体的である。過去において会社の役に立ち、いまも一部の案件や案件の一部には十分ふさわしいかもしれない価値観・技能・管理の仕組み・技術の仕組みが、別の人々には中核の硬直——ふさわしくない知識の組——として経験される。
同じものである。 別の能力が硬直なのではない。中核の能力と中核の硬直は、同じ価値観・同じ技能・同じ仕組みの、別の局面での呼び名である。 手慣れているという事実は変わらないまま、呼び名だけが変わる。
時間・変化:1990年から2010年まで、何が起きたか
順に並べる。1990年、査読誌ではない媒体に、中核となる力を見きわめよという記事が出る。1992年、20件の事例研究から、中核の能力はそのまま中核の硬直になるという逆説が報告される。2001年、一つの号に批判と応答と再応答が並ぶ。2007年、55本の論文に含まれる549回の検定のうち292回(53%)が支持された、という数え上げが出る。2010年、8つの批判のうち3つは容易に退けられないと整理される。
20年で、枠組みが消えたわけではない。 変わったのは、適用の条件が細かく書き足されていったことのほうである。そして書き足された条件は、外に出るときにたいてい落ちる。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、「強み」という語が、結果を見たあとで貼られることである。うまくいった組織が持っていたものは、あとから強みと呼ばれる。うまくいかなかった組織が持っていた同じ種類のものは、たいてい何とも呼ばれない。資源と価値という語が定まらない、という2010年の指摘は、まさにここを指している。
標本の偏りを断っておく。ここまでの証拠は、米国と欧州の、製造業と消費財を中心とした、調査や事例研究に応じる余裕のある組織から採られたものが大半で、規模は20件の事例、55本の論文と549回の検定である。日本の研究開発を対象にした査読研究はごく少ない。 そして——成功した組織のデータだけが残る、という逆向きを排除できない。 途中で消えた技能、続かなかった設備、記録に残らなかった判断は、たいてい最初から標本に入っていない。
助けになるのは、強みを言葉で言い切る前に、手慣れていることを列挙して、いつからそうなのかを添えるという一手である。列挙は評価ではない。 何年も変わっていない項目が多いこと自体は、悪いことでも良いことでもない。ただ、それは1992年の論文が硬直と呼んだものと、同じ場所にある。
もう一つ助けになるのは、言葉のほうを疑う順番を決めておくことである。強みという語が出てきたら、まず「何を指しているか」を訊き、次に「それをどう測ったか」を訊き、最後に「その測り方でうまくいかなかった例があるか」を訊く。この三つめが出てこない話は、たいてい、うまくいった側からしか書かれていない。
最初の一歩は10分。手慣れていることを5つ書き出し、5年前から変わっていないものに印を付けて、いちど見返す。止めるかどうかは決めない。
次の単位は 299「顧客と共に開発するには?」——使う人と一緒に作るという言い方が、どこまで測られているのかという話へ進む。
- 「中核となる力を見きわめよ」という言い方の起点は、1990年5–6月号の Harvard Business Review に載った記事である。この媒体は査読誌ではなく、発行元自身が投稿者向けの案内に「学術誌とは異なり、我々の過程には、論文を正式に受理する時点も、掲載を保証する時点も存在しない」と書いている
- 学術の側で同じ考えを数え上げた2007年の論文(Strategic Management Journal 28(2):121-146)の結果の節には、標本に入った55本の論文が549回の個別の検定を含み、そのうち292回(53%)が支持された、とある。「55本のうち53%」ではない。論文の本数と検定の回数は別の単位である
- 同じ論文の要旨は、この見方は全体としては控えめな支持しか得ておらず、その支持は用いられた独立変数と理論的な立場によってかなり大きく変わる、と述べている。53%は効果の大きさではなく、検定が支持された回数の割合であり、相関係数でも効果量でもない
- 2001年の Academy of Management Review 26巻1号には、同じ問いを掲げた文章が三つ並んでいる——22-40ページに批判、41-56ページに提唱者側の応答、57ページから批判側の再応答。この棚で「同じ号での往復」と書けるのはここだけである。「同じ号に載っている」と書けるのは、ここと番地300の2か所である
- 2010年の総説(Journal of Management 36(1):349-372)は、この見方への批判を8つに分類し、5つについては変数・境界・適用範囲が十分に定められているかぎり核心の主張は耐えうるとした一方、容易には退けられない批判が3つ残ると結論した。残った3つは、資源と価値という二つの基本概念が定まらないことと、競争上の優位の捉え方が狭いことから生じる
- 1992年の論文(Strategic Management Journal 13(S1):111-125、5社で各4件・計20件の事例研究)は、伝統的な中核の能力には革新を妨げる裏面があり、それを中核の硬直と呼ぶと書いた。別の能力が硬直なのではなく、同じ価値観・技能・管理の仕組み・技術の仕組みの、局面による別の呼び名である
- 1990年に査読外の媒体で提示され、1992年に逆説が報告され、2001年に一つの号で批判と応答が往復し、2007年に549回中292回という数え上げが出て、2010年に3つの批判が残ると整理された。枠組みは消えていないが、適用の条件が書き足され続けており、その条件は外へ出るときに落ちやすい
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 中核となる力を見きわめれば、組織は強くなる。学術的にも確立した考え方である | 起点になった1990年の記事は査読誌に載ったものではなく、発行元自身が学術誌とは手続きが異なると明記している。学術の側で組み立て直された版については、2007年の数え上げで、55本の論文に含まれる549回の検定のうち支持されたのは292回(53%)だった。要旨も、支持は独立変数と理論的な立場でかなり変わると書いている |
| 支持率53%というのは、53%の企業で効果が出たという意味だ | 違う。549回の個別の検定のうち292回が統計的に支持された、という回数の割合である。企業の割合でもなければ、効果の大きさでもない。相関係数でも効果量でもない。1本の論文が何十回もの検定を含むことがあるため、論文の本数(55本)と検定の回数(549回)は別々に読む必要がある |
| 手慣れていることを強みとして守り続ければよい | 1992年の20件の事例研究は逆向きの報告をしている。伝統的な中核の能力には革新を妨げる裏面があり、それを中核の硬直と呼ぶ。別の能力が硬直なのではなく、同じ価値観・技能・管理の仕組み・技術の仕組みが、手がけている案件に合わなくなった局面で硬直と呼ばれる。手慣れている事実は変わらないまま、呼び名だけが変わる |
皮肉なのは、この枠組みがいちばんよく効いた場所である。組織の内側ではなく、表紙と目次の上だった。学術の側は20年かけて、支持の割合を数え、批判を8つに分け、そのうち3つは片づかないと書き、能力と硬直が同じものであることまで示した。外へ出たのは、そのどれでもなく、見きわめよ、という動詞だけである。もっとも、見きわめた結果が5年前と一字も変わらないなら、それは見きわめたのではなく、そのままにしてあるだけかもしれない。
Q1. 2007年の数え上げによれば、標本に入った【 ① 】本の論文には【 ② 】回の個別の検定が含まれており、そのうち支持されたのは【 ③ 】回(53%)だった。穴埋め
Q2. 53%という値の性質として、正しいものはどれか。選択
Q3. 2010年の総説が「容易には退けられない」とした3つの批判に含まれるものはどれか。選択
Q4. この単位で扱った五つの出来事を、発表された年の早い順に並べよ。(ア)批判・応答・再応答が一つの号に並ぶ(イ)8つの批判のうち3つは容易に退けられないと整理される(ウ)査読誌ではない媒体に、中核となる力を見きわめよという記事が出る(エ)549回の検定のうち292回が支持されたと数え上げられる(オ)中核の能力はそのまま中核の硬直になるという逆説が報告される並べ替え
Q5. 2001年のある学術誌の1号に並んだ三つの文章を、掲載ページの順に並べよ。(ア)提唱者側からの応答(表題の末尾に肯定の一語が付く、41-56ページ)(イ)批判側の再応答(57ページから)(ウ)批判(22-40ページ)並べ替え
紙かメモアプリに、今日の日付を書く。その下に、自分(または自分の持ち場)が「これは手慣れている」と言えることを5つ書き出す。大きなことでなくてよい。道具の扱い、調べ方、書式、段取り、確かめ方——手が覚えているものでよい。次に、それぞれの右に「いつからか」をおおよその年で書く。最後に、5年前から中身が変わっていないものに印を付ける。書き終えたら、いちど上から見返す。印が多くても少なくても、それ自体は良いことでも悪いことでもない。止めるかどうか、変えるかどうかは決めない。他の人の手慣れを書かない。誰かと比べない。いま組織に属していない場合や、一人で作っている場合は、いま自分が続けている制作や調べものについて同じ形で5つ書き出せば成立する。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Prahalad C.K., Hamel G. (1990) 'The Core Competence of the Corporation', Harvard Business Review 68(3), May–June 1990, pp.79-91(査読誌ではない)+ Harvard Business Review 'Guidelines for Authors'(2026年閲覧) — hbr.org
- Newbert S.L. (2007) 'Empirical research on the resource-based view of the firm: an assessment and suggestions for future research', Strategic Management Journal 28(2):121-146, doi:10.1002/smj.573 — www.academia.edu
- Kraaijenbrink J., Spender J.-C., Groen A.J. (2010) 'The Resource-Based View: A Review and Assessment of Its Critiques', Journal of Management 36(1):349-372, doi:10.1177/0149206309350775 — journals.sagepub.com
- Priem R.L., Butler J.E. (2001) 'Is the Resource-Based View a Useful Perspective for Strategic Management Research?', Academy of Management Review 26(1):22-40, doi:10.5465/amr.2001.4011928(同号の再応答は doi:10.5465/amr.2001.4011946, 26(1):57-) — api.crossref.org
- Barney J.B. (2001) 'Is the Resource-Based View a Useful Perspective for Strategic Management Research? Yes', Academy of Management Review 26(1):41-56, doi:10.5465/amr.2001.4011938 — api.crossref.org
- Leonard-Barton D. (1992) 'Core capabilities and core rigidities: A paradox in managing new product development', Strategic Management Journal 13(S1):111-125, doi:10.1002/smj.4250131009 — josephmahoney.web.illinois.edu