理論の4条件をぜんぶ満たした事例は、77件のうち7件だった
「これは業界を変える」という言い方には、たいてい一つの理論の名前が付いている。皮肉なことに、その理論を法則として支える査読研究より、当てはまらないと報告した査読研究のほうが先に見つかる。しかも提唱者側の査読誌での応答は、同じ誌ではなく、3年後の別の誌に載っている。
前の単位で、遠い分野から借りてくると新規性は上がるが、すぐ使える度は下がることを見た。ここでは、その新しさが誰にとっての新しさなのかを扱う。
この単位が扱うのは一点——「これは業界を変える」という言い方に付いている理論が、どこまで確かめられているかである。技術の優劣は扱わない。特定の会社や製品も出さない。
査読誌での検証は、批判の側にもある
まず順序を正しておく。この理論への批判は、査読を通っていない読み物だけにあるのではない。査読誌に2本ある。
そのうちの1本、2011年に *Marketing Science* 30巻2号へ出た研究は、冒頭でこう書く——理論は“circular definitions, inadequate empirical evidence, and lack of a predictive model”(循環した定義、不十分な実証、予測できる模型の欠如)に悩まされている、と。そのうえで7つの市場の36の技術についてデータを集め、仮説を検定した。
結果は、通説と逆を向いた。下から攻める技術は、新規参入者からと同じ頻度で既存の側からも出ていた。従来の技術より安いわけでもなかった。そして、既存の企業を実際に追い出すことはまれだった。
さらに、技術の入れ替わりは一度では終わらない。性能の線は何度も交差し、互いを追い出さないまま複数の技術が並存する、と同じ研究は報告している。「追い越された」と言えるのは、たいてい、どの時点を切り取るかを決めたあとである。
4つの条件を当てはめると、77件のうち7件が残った
もう1本は数え上げが具体的である。2015年秋に *MIT Sloan Management Review* 57巻1号へ出た調査——ただしこの雑誌は実務者向けで、査読誌ではない——は、理論の提唱者側が挙げた77件の事例を取り上げ、その分野の専門家に問い合わせて評定してもらうという手続きを取った。138人に連絡し、82人が参加に同意し、79人が1つ以上の調査に回答している。
先に理論を4つの条件に分解した。①既存の側が改良を続ける道筋の上にいること。②その改良が使い手の必要を追い越していること。③既存の側に対応する力があること。④その結果として既存の側が立ちゆかなくなること。
そして数えた。4つすべてを満たしたのは、77件のうち7件、9%だった。 内訳もついている。24件(31%)で専門家は、意味のある改良の道筋があったこと自体を疑った。60件(78%)で、既存の側が使い手の必要を追い越す製品を出していたとは考えなかった。30件(39%)で、既存の側に対応する力があったという見立てに異議を唱えた。 一方、既存の側が立ちゆかなくなったという点には、およそ62%で同意している。
理論が間違っていた、という話ではない。事例として配られてきた77件のうち、4条件を全部満たすものが7件だった、という話である。
事例は、成功したものだけが後から集められている
2004年に *Journal of Product Innovation Management* 21巻4号へ出た論考(査読誌である)は、この点を正面から書いている。“All of Christensen's case studies are of disruptive technologies that did succeed.”(事例研究はすべて、実際に成功した技術についてのものである)。そして——“Hindsight is always 20/20.”(後知恵はいつでも視力2.0である)。
続く一文が実務には効く。“It seems very difficult to predict ex ante which technology will be disruptive.”(どの技術がそうなるかを事前に予測するのは、非常に難しいように見える)。
入れ子になっている。世の中に出た技術の全体があり、その内側に生き延びた技術があり、さらにその内側に事例として書かれた技術がある。 説明が当てはまるのは、いちばん内側の輪だけである。これは、この棚が入口で置いた手つき——助言は当たった側からしか書かれていない——が、事例の選び方そのものとして現れた形である。
一つの名前に、違うものが混ざっている
2006年に同じ *Journal of Product Innovation Management* 23巻1号へ出た論考(査読誌である)は、別の角度から切る。“A disruptive technological innovation is a fundamentally different phenomenon from a disruptive business-model innovation as well as a disruptive product innovation: These innovations arise in different ways, have different competitive effects, and require different responses from incumbents.”(技術の側の破壊、事業のしくみの側の破壊、製品の側の破壊は、根本的に別の現象である。起こり方も、競争への効き方も、既存の側が取るべき応じ方も違う)。
そして——“Lumping all types of disruptive innovations into one category simply mixes apples with oranges”(すべての型を一つの分類に押し込むのは、りんごとみかんを混ぜることにすぎない)。
手元で起きていることが、どの型なのか。それを言い分けないまま一つの理論を当てはめると、当たっても外れても理由が分からない。
提唱者側の応答は、査読誌にある。ただし別の誌に、3年後に
ここは正確に書く必要がある。提唱者側の査読誌での応答は、ある。 2018年に *Journal of Management Studies* 55巻7号へ出た総説がそれで、要旨はこう書く——“The concept of disruptive innovation has gained considerable currency among practitioners despite widespread misunderstanding of its core principles.”(この考えは実務家のあいだで相当に流通したが、その中核となる原理は広く誤解されている)。続けて——“subsequent empirical research has rarely engaged with its key theoretical arguments.”(後続の実証研究は、理論の中核となる論点にほとんど正面から取り組んでこなかった)。
ただしこれは、2015年の調査と同じ号でも同じ誌でもない。誌をまたぎ、3年後である。 直接の応答のほうは、同じ雑誌の翌年春の号に別の書き手3人による討議として載っている——こちらも査読誌ではなく、提唱者本人は書き手に含まれていない。
批判がどこに載り、応答がどこに載ったか。この配置を見ておくと、「反論も出ている」という一句の重みが変わる。
時間・変化:2004年から2018年まで、何がどこに載ったか
順番はこうである。2004年、査読誌に、事例が成功したものばかりで事前予測は難しいという論考。2006年、同じ査読誌に、三つの型が混ざっているという論考。2011年、別の査読誌に、7市場36技術の検定。2015年秋、査読誌ではない実務誌に、77件のうち7件という数え上げ。2016年春、同じ実務誌の別の号に討議。2018年、また別の査読誌に、提唱者側の総説。
14年かけて、査読誌と実務誌のあいだを話が行き来した。そのあいだ、一般向けの語り口はほとんど変わっていない。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、呼び名を、予測として使うことである。「これは業界を変える」は、事後には強い説明になるが、事前にはどの技術がそうなるかを非常に予測しにくいと査読誌が書いている。呼び名は、たいてい後から貼られる。
標本の偏りを断っておく。ここまでの証拠は、米国と欧州の、しかも記録が残っている市場と、専門家に問い合わせられる程度に有名な事例から採られている。 日本の産業を対象にした査読研究はごく少ない。そして——成功した組織のデータだけが残る、という逆向きを排除できない。 消えた技術も、途中で止まった開発も、事例集に入らないまま追跡から抜けている。
助けるのは、新しさを、対象と場面まで下ろして書くという一手である。「新しい」ではなく「誰にとって、どの場面で、いまの何と比べて新しいのか」。この三つが書けない新しさは、まだ呼び名でしかない。
最初の一歩は5分。自分の周りで「これは新しい」「これは業界を変える」と言われているものを1つ選び、それが誰にとって・どの場面で新しいのかを1行で書く。 評価はしない。書けなければ、書けなかったと記録する。
次の単位は 292「アイデアを試作で確かめるには?」——呼び名を離れて、手元で確かめるとどうなるのかという話へ進む。
- この理論への批判は査読外の読み物だけにあるのではない。2011年に Marketing Science 30巻2号へ出た研究は、理論が循環した定義・不十分な実証・予測できる模型の欠如に悩まされていると書き、7つの市場の36の技術でデータを集めて検定した
- その検定の結果は通説と逆を向いた。下から攻める技術は新規参入者と同じ頻度で既存の側からも出ており、従来の技術より安いわけでもなく、既存の企業を実際に追い出すことはまれだった。さらに性能の線は何度も交差し、互いを追い出さないまま複数の技術が並存する
- 2015年秋に MIT Sloan Management Review 57巻1号へ出た調査(実務者向けの雑誌であり査読誌ではない)は、提唱者側が挙げた77件の事例を、その分野の専門家に評定してもらった。138人に連絡し、82人が同意し、79人が1つ以上の調査に回答している
- 理論を4条件(①既存の側が改良を続ける道筋の上にいる ②その改良が使い手の必要を追い越している ③既存の側に対応する力がある ④結果として既存の側が立ちゆかなくなる)に分けて数えると、4つすべてを満たしたのは77件のうち7件、9%だった。24件(31%)で道筋の存在自体が疑われ、60件(78%)で必要を追い越してはいないと見られ、30件(39%)で対応する力があったという見立てに異議が出た。④にはおよそ62%で同意している
- 2004年に Journal of Product Innovation Management 21巻4号へ出た論考(査読誌)は、事例研究がすべて実際に成功した技術についてのものであること、後知恵はいつでも視力2.0であること、どの技術がそうなるかを事前に予測するのは非常に難しく見えることを書いている。世に出た技術の全体、生き延びた技術、事例として書かれた技術は入れ子になっており、説明が当てはまるのはいちばん内側の輪だけである
- 2006年に同じ査読誌の23巻1号へ出た論考は、技術の側の破壊・事業のしくみの側の破壊・製品の側の破壊は根本的に別の現象で、起こり方も競争への効き方も既存の側が取るべき応じ方も違うと書き、すべてを一つの分類に押し込むのはりんごとみかんを混ぜることにすぎないと述べている
- 提唱者側の査読誌での応答はある。2018年に Journal of Management Studies 55巻7号へ出た総説は、この考えが実務家のあいだで相当に流通したがその中核の原理は広く誤解されていること、後続の実証研究が理論の中核の論点にほとんど正面から取り組んでこなかったことを書いている。ただし2015年の調査と同じ号でも同じ誌でもなく、誌をまたぐ3年後である。直接の討議は同じ実務誌の翌年春の号にあり、こちらも査読誌ではなく提唱者本人は書き手に含まれていない
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 破壊的イノベーションの理論は、実証された法則である | 査読誌での検定は逆を向いている。2011年に Marketing Science へ出た研究は、7つの市場の36の技術を調べ、下から攻める技術が新規参入者と同じ頻度で既存の側からも出ていること、従来の技術より安いわけではないこと、既存の企業を実際に追い出すことはまれであることを報告した。同研究は理論について、循環した定義・不十分な実証・予測できる模型の欠如を挙げている |
| この理論への批判は、査読を通っていない雑誌の記事だけである | 査読誌での批判は少なくとも2本ある。2011年の Marketing Science 30巻2号と、2004年の Journal of Product Innovation Management 21巻4号である。77件のうち7件という数え上げを出した2015年の調査のほうが査読誌ではない。批判の側と査読の有無を、取り違えないほうがよい |
| 提唱者側からの学術的な応答は無い | ある。2018年に Journal of Management Studies 55巻7号へ出た総説がそれで、中核の原理が広く誤解されていること、後続の実証研究が理論の中核の論点にほとんど取り組んでこなかったことを書いている。ただしこれは2015年の調査と同じ号でも同じ誌でもなく、誌をまたいだ3年後である |
事後に付ける名前ほど、よく当たる。すでに勝った技術を並べて共通点を抜き出せば、共通点は必ず見つかるし、見つかった共通点はいつでも法則のように読める。厄介なのは、その法則が次に何が来るかを教えてくれないことだ。査読誌のほうは、そう書いている——どれがそうなるかを事前に言い当てるのは、非常に難しく見える、と。呼び名を配るのは、いつも後から来た人である。
Q1. 2015年秋に MIT Sloan Management Review へ出た調査では、提唱者側が挙げた ____ 件の事例のうち、理論の4条件すべてを満たしたのは ____ 件(9%)だった。穴埋め
Q2. 2011年に Marketing Science へ出た研究は、____ つの市場の ____ の技術についてデータを集め、下から攻める技術が既存の側からも新規参入者と同じ頻度で出ていることなどを報告した。穴埋め
Q3. 2004年の査読誌の論考が、事例研究の集め方と事前予測について書いていることを2点書きなさい。一問一答
Q4. 提唱者側の査読誌での応答がどこにあり、2015年の調査とどういう位置関係にあるかを書きなさい。一問一答
Q5. 2006年に Journal of Product Innovation Management 23巻1号へ出た論考の主張はどれか。選択
紙かメモアプリを開く。自分の周りで「これは新しい」「これは業界を変える」と言われているものを1つ選び、名前だけを書く。次に、それが誰にとって・どの場面で・いまの何と比べて新しいのかを1行で書く。良い悪いの評価はしない。人や組織を評価する言葉も使わない。3つとも書けなければ、書けなかったと記録する。いま組織に属していない読者、一人で作っている読者は、自分が最近「新しい」と感じたものを1つ選んで同じ形で書けばよい。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Sood A., Tellis G.J. (2011) 'Demystifying Disruption: A New Model for Understanding and Predicting Disruptive Technologies', Marketing Science 30(2):339-354 — doi.org
- King A.A., Baatartogtokh B. (2015) 'How Useful Is the Theory of Disruptive Innovation?', MIT Sloan Management Review 57(1), Fall 2015(査読誌ではない) — sloanreview.mit.edu
- Danneels E. (2004) 'Disruptive Technology Reconsidered: A Critique and Research Agenda', Journal of Product Innovation Management 21(4):246-258 — doi.org
- Markides C. (2006) 'Disruptive Innovation: In Need of Better Theory', Journal of Product Innovation Management 23(1):19-25 — doi.org
- Christensen C.M., McDonald R., Altman E.J., Palmer J.E. (2018) 'Disruptive Innovation: An Intellectual History and Directions for Future Research', Journal of Management Studies 55(7):1043-1078 — doi.org
- Vázquez Sampere J.P., Bienenstock M.J., Zuckerman E.W. (2016) 'Debating Disruptive Innovation', MIT Sloan Management Review, spring 2016(査読誌ではない) — sloanreview.mit.edu