成績のばらつきを分けてみると、会社そのものの取り分は小さく、しかも研究のたびに動いた
社運という言葉には主語がある。会社である。会社の判断がよければ成績が上がり、悪ければ下がる——そう考えるから、成績の話は経営の話になる。ところが、成績のばらつきを産業と親会社と事業に割り振った研究は四十年余りやり直され続けていて、そのたびに、会社そのものの取り分の数字が動いてきた。動いたこと自体が、この棚の出発点である。
組織的探索投資力という言葉が指しているのは、新しいものを探すほうへ、どれだけの資源を回しているかである。研究開発の費用、まだ売上になっていない試みに割いた人の時間、外の相手と組んで始めた案件の数。その量を増やせば会社の先行きが良くなるのか。 ただ、始める前に片づけることがある。そもそも、会社の成績のうち、どれだけがその会社自身で説明できるのか。
この棚の入口——ここは、診断の道具ではない
この棚の読者は、いま自分が関わっている組織や商売の、この先が気になっている人である。経営者とは限らない。一人でやっている人、家業を継ぐ立場の人、勤め先の先行きを見ている人、新しい取り組みの担当になった人、行政や学校や病院や非営利で組織の続き方を考えている人、辞めるかどうかを考えている人を含む。決裁の権限も、投資の枠も、あるとは想定しない。
そして、ひとつ断っておく。この棚は、あなたの勤め先や取引先が危ないかどうかを判定する道具ではない。 診断の道具として読まれると、この棚は害になる。扱うのは、確率をわずかに動かす手続きと、それがどこまで確かめられているかだけである。
使える手は組織によって大きく違う。資本、取引先との力関係、規制、創業からの年数、地域の経済——これらは、中にいる人の努力とは別の次元で、選べる範囲を決めている。 だからこの棚は、うまくいかないことを、経営陣の無能や現場の意識の低さとして描かない。
16の要素それぞれについて言うのは3つだけである——何を指すのか、どこまで効くと確かめられているのか、その範囲の外で何が起きるか。読者の像を書くのはここだけで、以降は繰り返さない。ただしどの単位も単独で読める。
道具箱の地図——16の枡は、順番ではなく掛け算で並ぶ
この棚は梯子ではない。16の枡が並んだ道具箱で、枡は4つの層に分かれている。 層の名前は、運との接触量を増やす(投じる量、幅、入る決断と出る決断、切り上げる速さ)、運を見極める認識力(兆しを拾う、判断の手続き、配分、時機)、運が流れ込む組織ネットワーク(つながりの幅、依存の構造、評判、組む開き方)、運を掴み続ける持続基盤(回復、手元の余裕、長く保つ体力、時間の配分)である。
16は順番ではない。上から順に登るものでもない。掛け算である。 どれかが小さいままだと、他をいくら大きくしても積はそこまでしか上がらない。小さいままの項が、積の上限を決めている。 地図を描くのはこの単位だけである。
社運という言葉を、取り分に割る
分散分解という言葉を、地の言葉にほどく。たくさんの事業の成績を並べると、良いものと悪いものに散らばる。その散らばりを、産業の違いのぶん、親会社の違いのぶん、事業そのものの違いのぶん、年の違いのぶん、そして説明できない残りに割り振る。 結果が「取り分」である。
**1991年に *Strategic Management Journal* 12巻3号へ出た論文が、この作業をよく引かれる形でやった。材料は米国の公的機関が集めた事業単位ごとの成績で、1974年から1977年までの4年分。標本Aは6,932の観測、457社、1,774の事業単位、242の産業**である。
> “The variance in business-unit profitability in sample A (B) may be partitioned approximately as follows: 8 (4) percent industry effects, 1 (2) percent corporate effects, 46 (44) percent business-unit effects, 8 (5) percent industry-year effects, and 37 (45) percent residual error.”(標本A(B)のばらつきは、おおよそ産業効果8(4)%、親会社効果1(2)%、事業単位効果46(44)%、産業年効果8(5)%、残差37(45)%に分けられる)
親会社の取り分は、1%か2%である。 事業単位——どの商売を、どうやっているか——が46%。会社そのものの取り分は、いちばん小さい部類だった。 急いで付け加える。取り分が小さいことは、何をしても無駄だという意味ではない。 意味しているのは、効果を全部自分の手柄にも、全部自分のせいにもできない、ということである。
同じ1本の論文の中で、数字はもう動いている
上の引用には、括弧が付いていた。標本AとB、二つある。 標本Bは、標本Aから規模の基準で落ちていた小さな事業単位1,070を足し戻したものである。10,866の観測、463社、2,810の事業単位。 それだけの違いで、産業の取り分は8%から4%へ半分になり、残差は37%から45%へ上がる。
同じ論文、同じ著者、同じ4年間。標本の作り方を少し変えただけで、産業の取り分は倍動いた。 論文の外でも動く。1997年に同誌の特別号へ出た研究は、米国の上場企業を4桁の産業分類の中で見て、年2%、産業19%、親会社4%、事業固有32%と報告した。産業の取り分が、4〜8%から19%へ跳ねている。同じ論文は、部門によって大きく違うとも書いている——製造業では小さく、宿泊・娯楽、サービス、卸売・小売、運輸では大きい。さらに、親会社効果と産業効果のあいだには負の共分散がある、とも。
もう1本、1985年の論文がこの系譜の出発点にある。産業が19.46%、市場シェアが0.63%、親会社効果は存在しない、というものだ。ただしこの論文には恒久的な番号(DOI)が無く、当方が数字を確かめられたのは、後年の論文が同じ表に並べ直した形を通してである。しかも使われたのは1975年の1年分だけで、年の効果も事業単位の効果も、原理的に測れていない。
動く理由は、測り方の側にある
数字が動く理由を正面から名指しした研究が、2017年に出ている。過去の分解研究を集め直したメタ分析である。
> “Previous studies have used three different effect size measures: sum of squares, variance, or standard deviation. These measures yield different results for a given sample, which precludes direct comparison.”(先行研究は3種類の測度——平方和、分散、標準偏差——を使ってきた。同じ標本に違う結果を返すので、直接の比較ができない)
そのうえで、広く使われてきた平方和について、9つの研究から25の標本(212,112の観測)を並べてこう書く。
> “knowing only the dimensions of a sample is sufficient to predict well the sum-of-squares measure.”(標本の寸法を知るだけで、平方和の測度はよく予測できる)
寸法——産業がいくつあるか、産業あたりの事業がいくつあるか。それだけで、答えのほうがだいたい決まってしまう。 そこで測度を分散と標準偏差に替え、16の研究から18の標本(225,183の観測)でやり直すと、分散では産業0.08・親会社0.14・事業0.36、標準偏差では0.28・0.36・0.59になった。
順序は変わらない。事業がいちばん大きい。ただし親会社の取り分は、1991年の1〜2%とはまるで違う大きさになっている。 この論文が言っているのは、どの測度を使ったかを見ないかぎり、そもそも比べられない、ということである。
値切り:新しいことに投じる額を増やせば、成果は出るのか
**2011年に *Journal of Business Venturing* 26巻4号へ出たメタ分析が、この問いを中小企業について集計した。42の研究、21,270社。 平均相関は.1331**(95%信頼区間 .0963から.1699)。関係はある。ただし、続く一文がこうである。
> “Although Hypothesis 1 is supported, it needs to be highlighted that the credibility interval includes zero which suggests that this effect depends on contextual factors…”(仮説1は支持されたが、信用区間がゼロを含むことは強調しておかねばならない。この効果が文脈しだいであることを示唆している)
信用区間は−.0898から.3560。符号が反対の場所まで届いている。
内訳を開くと、この単位にいちばん近い数字が、いちばん小さい。新しいものを探す姿勢が .1960、産出(特許や新製品)が .1434、そして投入——研究開発費のように「投じた額」に当たるもの——が .0991。 投入のうち外部と組む形のものは.0005(95%信頼区間 −.1073から.1084)だった。
原典は、外部からの投入は中小企業の成績に効果を持たない、と書く。新興の企業では.2059、成熟した企業では.0685。同じ「投じる」でも、誰が、いつ、どこへ投じたかで数字は動く。
もうひとつ。この論文は、冒頭の要約と本文の結果が食い違っている。 要約は姿勢・産出・投入の序列を断定するが、本文はその差が有意ではないと書く。要約だけを引くと、原典と違うことを言うことになる。
時間・変化:分解のやり直しは、四十年余り続いている
並べると、こうなる。1975年の1年分から始まり(産業19.46%)、4年分では標本の作り方で産業が8%と4%に割れ、14年分の上場企業では19%になり、2007年にスペインの企業でやり直され、2017年に測度そのものが問い直された。
2007年の研究はスペインの約5,000社、1995年から2000年を扱う。結論は3つ——産業水準にも企業水準にも有意で恒常的な差があること、企業水準のばらつきのほうが産業水準より大きいこと、収束の速さは両水準で違わないこと。この標本は米国の上場企業ではない。この棚では珍しいことである。
そして2001年、同じ文献群を読み直した論文が、全社の戦略は関係ないという見直し論について、分散分解の文献を分析するとこの見方は正しくないと書いている。取り分が小さいという結果と、何をしても無駄だという結論のあいだには、まだ距離がある。
最後に、これから16回出会うものを予告しておく。会社を測ったと書いてある数字の多くは、社内の誰か一人が、思い出して答えたものである。 感知の力、開放性、余裕——この棚の道具の多くは質問票の項目として測られてきた。答えるのは一社にたいてい一人で、答える時点はたいてい結果が出たあとである。この単位の数字だけは、そうではない。 会計の記録と公的な統計から作られている。出発点としては、都合がよい。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、取り分の話を責任の話に読み替えることである。46%が事業単位の側にあるという結果は、「現場が悪い」でも「経営が悪い」でもない。ばらつきの住所を書いただけである。
もうひとつ。一つの数字を覚えて持ち歩くこと。 産業が何%で企業が何%と覚えると、どの標本のどの測度から出たかが落ちる。この単位で確かなのは、数字ではなく、数字が動いたという事実のほうである。
この単位では、起業や新規事業を勧めない。やめさせもしない。 書けるのは、投じた量と成果の関係がどこまで測られているか、までである。標本の偏りを断っておく。ここで並べた数字は、米国製造業の事業単位(1974年から1977年)、米国の上場企業、スペインの約5,000社、そして中小企業を扱った42研究の集計から作られている。 手元の組織にそのまま当てはまる保証はない。
助けるのは、成績が動いた理由の説明を3つに札分けするという一手である。自分たちの選択の側、産業や時期の側、分からない側。分からないに札が付くことが、この単位の収穫である。
最初の一歩は5分。手元の数字をひとつ選び、動いた理由として自分が思っている説明を3つ書き、それぞれに札を付ける。3つとも「自分たちの選択」に付いたら、この単位をもう一度読む。
次の単位は 274「探索多様性」——投じた量ではなく、散らした幅を扱う。掛け算の別の項なので、ここが小さいままだと、他をいくら大きくしても積は上がらない。
- この棚の読者は、いま関わっている組織や商売の先が気になっている人であって、経営者とは限らない。決裁の権限も投資の枠も想定しない。この棚は、勤め先や取引先が危ないかどうかを判定する道具ではなく、扱うのは確率をわずかに動かす手続きと、それがどこまで確かめられているかだけである。
- 16の要素は梯子ではなく、4つの層に分かれた道具箱である。運との接触量を増やす、運を見極める認識力、運が流れ込む組織ネットワーク、運を掴み続ける持続基盤。並びは順番ではなく掛け算で、小さいままの項が積の上限を決める。地図を描くのはこの単位だけで、以降は描き直さない。
- 分散分解とは、たくさんの事業の成績の散らばりを、産業・親会社・事業・年・残りに割り振る作業である。1991年の分析は、米国の1974年から1977年の事業単位データ(標本Aは6,932観測・457社・1,774事業単位・242産業)で、産業8%・親会社1%・事業単位46%・産業年8%・残差37%と報告した。
- 同じ論文の標本Bは、規模の基準で落ちていた小さな事業単位1,070を足し戻したもので、10,866観測・463社・2,810事業単位になる。それだけの違いで産業の取り分は8%から4%へ半分になり、残差は37%から45%へ上がった。同じ論文・同じ著者・同じ4年間で、数字はすでに動いている。
- 1997年に同誌の特別号へ出た研究は、米国の上場企業を4桁の産業分類の中で見て、年2%・産業19%・親会社4%・事業固有32%と報告した。同じ論文は、産業の取り分が製造業では小さく宿泊・娯楽やサービスや卸売・小売や運輸では大きいこと、親会社効果と産業効果のあいだに負の共分散があることも書いている。
- 2017年のメタ分析は、先行研究が平方和・分散・標準偏差という3種類の測度を使っており、同じ標本に対して違う結果を返すので直接比較できないと明記した。9研究25標本(212,112観測)では、標本の寸法を知るだけで平方和はよく予測できる。16研究18標本(225,183観測)で測度を替えると、分散で産業0.08・親会社0.14・事業0.36、標準偏差で0.28・0.36・0.59だった。
- 中小企業を扱った42研究・21,270社のメタ分析では、革新と成績の相関は.1331だが信用区間が−.0898から.3560とゼロをまたぐ。投入は.0991、外部と組む形の投入は.0005。いっぽう2001年の論文は、分散分解の文献の分析から「全社の戦略は関係ない」という見方を正しくないと結論し、2007年のスペインの約5,000社では企業水準のばらつきが産業水準より大きいと報告された。
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 会社の成績は、経営の質で決まる | 米国の1974年から1977年の事業単位データを分けた1991年の分析では、標本Aで産業効果8%、親会社効果1%、事業単位効果46%、産業年効果8%、残差37%だった。いちばん大きいのは、どの商売をどうやっているかという事業単位の側で、親会社そのものの取り分は1%か2%である。ただしこれは「経営に意味がない」ではない。同じ文献群を読み直した2001年の論文は、その見方を分散分解の文献の分析から正しくないと結論している。 |
| 産業が何%、企業が何%、という取り分はもう決まっている | 1991年の論文は、同じ4年分のデータで、標本の作り方を変えただけで産業効果が8%と4%に割れている。1997年の研究は米国の上場企業で年2%・産業19%・親会社4%・事業固有32%と報告し、部門で取り分が大きく違うとも書いた。2017年のメタ分析は、3種類の測度が同じ標本に違う結果を返すため直接比較できないと明記する。取り分は、一つに決まっていない。 |
| 新しいことに投じる額を増やせば、成果は出る | 中小企業を扱った42研究・21,270社のメタ分析では、革新と成績の平均相関は.1331(95%信頼区間 .0963から.1699)だが、信用区間は−.0898から.3560でゼロをまたぐ。内訳では「投じた額」に近い投入が.0991で最も小さく、外部と組む形の投入は.0005だった。新興の企業では.2059、成熟した企業では.0685。効果の向きも大きさも、文脈で変わる。 |
取り分の話には、ありがたい性質がある。うまくいけば自分たちの判断のおかげにでき、うまくいかなければ産業のせいにできる。しかも、どちらの側にも支持してくれる数字が用意されている。四十年余りかけて確かめられたのは、その数字のほうが、誰がどう測ったかで動くということだった。動く数字は、どちらの言い分にも使える。
Q1. 1991年の分解では、標本Aの事業単位の収益性のばらつきは、産業効果 ____ %、親会社効果1%、事業単位効果 ____ %、産業年効果8%、残差37%に分けられた。標本Bでは産業効果が ____ %になり、残差は45%に上がる。穴埋め
Q2. 2017年のメタ分析によれば、先行研究は平方和・分散・____ という3種類の効果量の測度を使ってきた。測度を分散に替えると、効果量は産業 ____ 、親会社0.14、事業0.36になる。いちばん広く使われてきた平方和は、標本の ____ を知るだけでよく予測できる。穴埋め
Q3. 分散分解とは何をする作業か。そして、会社そのものの取り分が小さいという結果を「何をしても無駄だ」と読むのがなぜ誤りか、本文が挙げている根拠にも触れて答えよ。一問一答
Q4. 中小企業42研究・21,270社のメタ分析について、全体の平均相関と信用区間、そして「投じた額」に最も近い区分の数値を挙げ、そこから何が言えるかを1文で書け。一問一答
Q5. 1997年に米国の上場企業を4桁の産業分類の中で分解した研究の報告として、本文の内容に合うものはどれか。選択
紙かメモアプリを開く。手元にある数字をひとつ選ぶ——去年と今年の売上、来店の数、問い合わせの件数、自分が担当している取り組みの件数など、自分で見られるものなら何でもよい。上がったか下がったかを一行で書く。次に、その動いた理由として自分が思っている説明を3つ書き出す。3つ目は無理やりで構わない。書けたら、それぞれに札を付ける——(1)自分たちの選択の側、(2)産業や時期や、外側の事情の側、(3)分からない。迷ったら(3)にする。最後に、3つの札の内訳を一行で書き写す。他社や取引先を調べない。誰にも尋ねない。自分の手元の記録と、すでに公開されている自社の資料だけで完結させる。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
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