紹介客の維持率の優位は、紹介した人が解約した瞬間に消える
紹介で来た客は価値が高い。一人が平均何人を連れてくるかの係数が1を超えれば、放っておいても増える。皮肉なことに、約1万人を三年近く追った研究が書き分けているのは、利幅の差は時間とともに侵食され、維持率の差だけが残る、である。そして七年後の研究は、その維持率の優位が、紹介した人が解約していないあいだだけのものだと示した。
前の単位では、離れないことをどう測ってきたのかを扱った。ここでは、その相手が別の人を連れてくる——紹介の話を扱う。
この段の助言も、数字から始まる。 紹介で来た客は価値が高い。そして、一人が平均して何人を連れてくるかという係数が1を超えれば、放っておいても増える。 ここでは、その二つを順に見る。前者は測られている。後者は、測られた形が違う。
紹介で来た客の価値は、高い。ただし条件が付く
**2011年に *Journal of Marketing* 75巻1号へ出た論文**が、この問いを正面から扱っている。書き出しが、この分野の当時の状態を示している。
> “Referral programs have become a popular way to acquire customers. Yet there is no evidence to date that customers acquired through such programs are more valuable than other customers.”(紹介の仕組みは顧客を獲得する一般的な手段になった。しかし、そうした仕組みを通じて獲得された顧客が他の顧客より価値が高いという証拠は、これまで存在しない)
2011年の時点で「証拠が存在しない」と書かれている。 そこで、ある大手銀行のおよそ1万人の顧客を、三年近く追った。 結果は三つである。
> “referred customers (1) have a higher contribution margin, though this difference erodes over time; (2) have a higher retention rate, and this difference persists over time; and (3) are more valuable in both the short and the long run.”(紹介された顧客は、①より高い貢献利益を持つが、この差は時間とともに侵食される ②より高い維持率を持ち、この差は時間を通じて持続する ③短期にも長期にもより価値が高い)
①と②で、書き分けられている。 利幅の差は消えていく。維持率の差は残る。「紹介客は価値が高い」と一言でまとめると、この書き分けが落ちる。
そして数値である。
> “The average value of a referred customer is at least 16% higher than that of a nonreferred customer with similar demographics and time of acquisition.”(紹介された顧客の平均的な価値は、属性と獲得時期の似た紹介でない顧客より、少なくとも16%高い)
「少なくとも16%」——下限である。 「16%高い」と書くと、下限が中心値に変わる。
さらに、原典自身が条件を付けている。
> “However, the size of the value differential varies across customer segments; therefore, firms should use a selective approach for their referral programs.”(ただし価値の差の大きさは顧客の区分によって異なる。したがって企業は、紹介の仕組みについて選択的な手法を用いるべきである)
なぜ差が出るのか——二つの仕組みが分けて測られた
**2018年に *Journal of Marketing Research* 55巻1号へ出た論文が、その差がどこから来るのかを分解した。候補は二つ。①紹介された人と会社のあいだの適合が良いこと ②紹介した人による社会的な補強。**
適合のほうの証拠は三つ挙がっている。紹介した人と紹介された人の組で、貢献利益に共通の観測されない要素があること。経験の長い紹介者ほど利幅の高い相手を連れてくること。そして、その紹介者の経験と利幅の差の関連が、紹介された人の在籍期間が延びるにつれて小さくなること。
社会的な補強のほうの証拠が、この単位でいちばん重要である。
> “referrals exhibit lower churn only as long as their referrer has not churned.”(紹介された顧客が低い解約率を示すのは、その紹介者が解約していないあいだだけである)
紹介した人が去ると、紹介された人の維持率の優位も消える。 「紹介客は残りやすい」という性質は、その人に属していない。関係に属している。
そして論文の助言は、具体的である——紹介者を募るなら、少なくとも半年前に獲得され、利幅が高く、解約しそうにない顧客のあいだから選ぶこと。
「係数が1を超えれば増える」のほうは、どうか
**係数のほうへ移る。2007年に *ACM Transactions on the Web* 1巻1号へ出た論文は、人から人への推薦の網そのものを分析した。規模が桁違いである。**
400万人が、50万点の商品について、1,600万件の推薦を行った記録である。連鎖の広がり方を追い、単純な確率模型で説明したうえで、結論をこう書いている。
> “While on average recommendations are not very effective at inducing purchases and do not spread very far, we present a model that successfully identifies communities, product, and pricing categories for which viral marketing seems to be very effective.”(推薦は平均すると購買を引き起こすのにあまり効果的でなく、遠くまで広がりもしないが、口伝えによる売り方が非常に効果的に見える共同体・商品・価格の区分を、うまく特定する模型を提示する)
平均すると、遠くまで広がらない。 同じ論文は、購買が「長い尾」に従い、めったに売れない商品がかなりの割合を占めるとも報告している。
「係数が1を超えれば自動的に増える」という言い方は、この観測と噛み合わない。 平均が効かないのに全体が増えるのは、特定の区分でだけ効いているからである。係数という一つの数は、その区分の違いを潰してしまう。
時間・変化:誰が広めるかを、実験で調べた
**2009年に *Marketing Science* 28巻4号へ出た論文は、口伝えを企業の側から意図的に起こしたら何が起きるかを、大規模な現場試験と実験の両方で調べた。二つの問いを立てている。どんな口伝えが売上を動かすのか。そして、その口伝えを起こすのに、どんな人が効果的なのか。**
一つ目の答えが、直観と逆を向く。 認知の初期水準が低い商品では、売上を動かすのにもっとも効果的な口伝えは、忠実度の高い顧客ではなく、忠実度の低い顧客によって作られ、友人ではなく知人のあいだで起きる。 現場試験でも実験でも支持された。
二つ目。 よく使われる「意見の指導者」という指定について——非常に忠実な顧客のあいだでは、効果的な広め手を見つけるのに役立つ。しかし、忠実度の低い顧客の標本については、その役に立ちにくい。
**2010年に *Journal of Marketing* 74巻5号へ出た論文は、紹介の価値を計算する四段階の手法を作り、金融サービスと小売の二業種で四つの現場実験を行って、生涯価値と紹介価値の両方で顧客を管理することが収益性の最大化に決定的だと報告している。二つの点数は、同じ順位にならない。**
**そして、何が広まりやすいかについては、2012年に *Journal of Marketing Research* 49巻2号へ出た論文がある。 ある新聞の三か月ぶんの全記事を使って、感情が広まりやすさをどう形づくるかを調べた。正の内容のほうが広まりやすいが、それだけではない。 効いていたのは喚起の水準である——畏敬、怒り、不安といった喚起の高い感情を呼ぶ内容は広まりやすく、悲しみのような喚起の低い感情を呼ぶ内容は広まりにくい。**
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、「紹介客は価値が高い」を一言でまとめることである。利幅の差は時間とともに消え、維持率の差は残る。 そして、維持率の優位は、紹介した人が去ると消える。
もう一つ。係数を目標に置くこと。 400万人の記録では、平均すると推薦は購買をあまり引き起こさず、遠くまで広がらなかった。 効いていたのは特定の区分である。係数はその違いを潰す。
この単位では、顧客に紹介を依頼させる課題は作らない。 誰に頼むかを選ぶ、という形の課題も書かない。書けるのは、自分の手元の記録から、これまでどう来たのかを数えることまでである。
助けるのは、「誰の紹介か」を記録に残すという一手である。紹介された人の記録に、紹介した人が結びついていなければ、紹介者が去ったかどうかは追えない。 追えなければ、維持率の優位が消えたことにも気づけない。
標本の偏りを断っておく。ここで引いた実証は、ある一つの銀行、金融サービスと小売、ある大規模な販売の記録、ある新聞の記事を対象にしている。 業種をまたいで同じ数字が出るとは言えない。とくに「少なくとも16%」は、一つの銀行の約1万人・三年弱の観測である。
最初の一歩は5分。手元の記録から、直近に来た相手を五件たどり、それぞれ「どこから来たか」を一語で書く。 紹介なら、紹介した人が記録に残っているかどうかも一言添える。 残っていなければ「残っていない」と書く。残っていないこと自体は珍しくない。残っていないと分かることが、収穫である。
次の単位は 256「成長ループ・PMF深化力」——この棚の締め。増え方そのものを何と呼び、どこで達成したことにしてきたのかを見る。
- 2011年のJournal of Marketing 75巻1号は、紹介の仕組みを通じて獲得された顧客が他の顧客より価値が高いという証拠はこれまで存在しない、と書き出したうえで、ある大手銀行のおよそ1万人の顧客を三年近く追った。
- その結果、紹介された顧客はより高い貢献利益を持つがこの差は時間とともに侵食され、より高い維持率を持ちこの差は時間を通じて持続する、と書き分けられている。平均的な価値は、属性と獲得時期の似た顧客より少なくとも16%高い。これは下限である。
- 同じ論文は、価値の差の大きさが顧客の区分によって異なるため、企業は紹介の仕組みについて選択的な手法を用いるべきだと述べている。
- 2018年のJournal of Marketing Research 55巻1号は、差の源として適合の良さと社会的な補強の二つを分けて測り、紹介された顧客が低い解約率を示すのは、その紹介者が解約していないあいだだけである、と報告した。維持率の優位は関係に属している。
- 2007年のACM Transactions on the Web 1巻1号は、400万人が50万点の商品について行った1,600万件の推薦の網を分析し、推薦は平均すると購買を引き起こすのにあまり効果的でなく遠くまで広がりもしないが、口伝えが非常に効果的に見える共同体・商品・価格の区分は特定できると報告した。
- 2009年のMarketing Science 28巻4号は、認知の初期水準が低い商品について、売上を動かすのにもっとも効果的な口伝えが、忠実度の高い顧客ではなく低い顧客によって作られ、友人ではなく知人のあいだで起きることを、現場試験と実験の双方で示した。意見の指導者という指定は、非常に忠実な顧客のあいだでは役立つが、忠実度の低い顧客の標本には役立ちにくい。
- 2010年のJournal of Marketing 74巻5号は、紹介の価値を計算する四段階の手法を作り、金融サービスと小売の二業種で四つの現場実験を行って、生涯価値と紹介価値の両方で顧客を管理することが収益性の最大化に決定的だと報告した。
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 紹介で来た顧客は価値が高い | 2011年のJournal of Marketing 75巻1号は、ある大手銀行のおよそ1万人を三年近く追い、紹介された顧客はより高い貢献利益を持つがこの差は時間とともに侵食され、より高い維持率を持ちこの差は時間を通じて持続する、と書き分けている。平均的な価値の差は、属性と獲得時期の似た顧客と比べて少なくとも16%高い——下限である。さらに、価値の差の大きさは顧客の区分によって異なるため、選択的な手法を用いるべきだと原典自身が述べている。 |
| 紹介で来た顧客は、もともと離れにくい性質を持っている | 2018年のJournal of Marketing Research 55巻1号は、紹介された顧客が低い解約率を示すのは、その紹介者が解約していないあいだだけである、と報告している。維持率の優位は、紹介された人に属しているのではなく、紹介した人との関係に属している。同論文は、紹介者を募るなら少なくとも半年前に獲得され、利幅が高く、解約しそうにない顧客のあいだから選ぶことを推奨している。 |
| 一人が平均して連れてくる人数の係数が1を超えれば、放っておいても増える | 400万人が50万点の商品について1,600万件の推薦を行った記録を分析した2007年の研究は、推薦は平均すると購買を引き起こすのにあまり効果的でなく、遠くまで広がりもしないと報告している。同時に、口伝えによる売り方が非常に効果的に見える共同体・商品・価格の区分は特定できるとも述べている。平均が効かないのに全体が増えるのは、特定の区分でだけ効いているからであり、一つの係数はその違いを潰す。 |
紹介という言葉が心地よいのは、費用がかからないように見えるからである。連れてきた人は無償で働き、連れてこられた人は最初から少し親しい。三年近く追って分かったのは、その親しさが誰のものでもなく、二人のあいだにだけ置かれていて、片方が去れば一緒に消える、ということだった。
Q1. 紹介された顧客について、約1万人を三年近く追った研究が「書き分けた」二つの差の振る舞いを書け。一問一答
Q2. 2018年の研究が、紹介された顧客の低い解約率について報告したのはどれか。選択
Q3. 400万人が50万点の商品について ____ 万件の推薦を行った記録の分析によれば、推薦は平均すると購買を引き起こすのに ____ 、____ まで広がりもしない。ただし、非常に効果的に見える ____ ・商品・価格の区分は特定できる。穴埋め
Q4. 認知の初期水準が低い商品について、売上を動かすのにもっとも効果的な口伝えは、誰によって作られ、誰のあいだで起きると報告されたか。選択
Q5. 紹介された顧客について、この単位で確かめられたことを、時間の経過に沿って並べよ。(維持率の差は残り続ける/獲得の時点で利幅の差がある/紹介者が解約すると維持率の優位が消える/利幅の差が侵食されていく)並べ替え
紙かメモアプリを開く。手元の記録(受注の控え、問い合わせの履歴、来店の記録、予約の一覧)から、直近に来た相手を五件たどる。相手の実名や特定できる情報は書かない。各件について、どこから来たかを一語で書く(紹介、検索、通りがかり、以前から、分からない、など)。紹介と書いた件については、紹介した人が記録に結びついているかどうかを一言添える。結びついていなければ「残っていない」と書く。最後に、五件のうち「分からない」が何件あったかを書く。誰にも尋ねない。相手に確認しない。いま組織に属していない場合は、直近に自分のところへ届いた依頼や連絡で行えばよい。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Schmitt P., Skiera B., Van den Bulte C. (2011) 'Referral Programs and Customer Value', Journal of Marketing 75(1):46-59 — doi.org
- Van den Bulte C., Bayer E., Skiera B., Schmitt P. (2018) 'How Customer Referral Programs Turn Social Capital into Economic Capital', Journal of Marketing Research 55(1):132-146 — doi.org
- Leskovec J., Adamic L.A., Huberman B.A. (2007) 'The dynamics of viral marketing', ACM Transactions on the Web 1(1):5 — doi.org
- Godes D., Mayzlin D. (2009) 'Firm-Created Word-of-Mouth Communication: Evidence from a Field Test', Marketing Science 28(4):721-739 — doi.org
- Kumar V., Petersen J.A., Leone R.P. (2010) 'Driving Profitability by Encouraging Customer Referrals: Who, When, and How', Journal of Marketing 74(5):1-17 — doi.org
- Berger J., Milkman K.L. (2012) 'What Makes Online Content Viral?', Journal of Marketing Research 49(2):192-205 — doi.org