この分野でいちばん引かれる r=.85 の相手は、「自分で予測した将来の利用」だった
使ってもらえば離れにくくなる。だから活用の度合いを上げよ——画面には活用率の欄があり、健全さの点数にも組み込まれている。皮肉なことに、その土台になっている一本でいちばん高い相関 r=.85 の相手は、実際の利用ではなく、回答者が自分で予測した将来の利用だった。
前の単位では、使いはじめの時期に何が起きるのかを扱った。ここでは、そのあと——使い続けてもらう、という話を扱う。
この段の助言は簡単である。使ってもらえ。 活用の度合いを上げれば離れにくくなる。画面には活用率の欄があり、健全さの点数にも組み込まれている。 ここでは、その土台になっている考え方の相関の相手を見に行く。
いちばん引かれるモデルの、相関の相手
**1989年に *MIS Quarterly* 13巻3号へ出た論文が、この分野でもっとも引かれる一本である。有用だと思うことと使いやすいと思うことを測る尺度を作り、それが利用と結びつくことを示した。152人の利用者と四つの応用ソフトを対象にした二つの研究で検証され、尺度の信頼性は有用性が.98、使いやすさが.94**である。
では、何と相関したのか。 抄録にそのまま書いてある。
> “Perceived usefulness was significantly correlated with both self-reported current usage (r=.63, Study 1) and self-predicted future usage (r=.85, Study 2).”(有用性の知覚は、自己申告による現在の利用(第1研究で r=.63)と、自分で予測した将来の利用(第2研究で r=.85)の双方と有意に相関した)
r=.85 のほうの相手は、「自分で予測した将来の利用」である。 実際に使ったかどうかではない。自分がこれからどれくらい使うと思うか、という答えである。
使いやすさのほうも同じで、現在の利用と r=.45、将来の利用と r=.59。 どちらも自己申告と自己予測である。
この単位の証拠の読み違え方は、ここにある。 高い相関係数を見たとき、相関の相手が何だったかを確かめずに、行動が説明されたと読む。
自己申告と、機械の記録は、強く結びついていなかった
**その六年後、1995年に *Management Science* 41巻8号へ出た論文が、この点を正面から測った。自己申告による利用と、計算機が記録した利用**を、測定モデルで比べたのである。結果は、著者たち自身が「予想に反して」と書いている。
> “Contrary to expectations, these constructs do not appear to be strongly related to each other.”(予想に反して、これら二つの構成概念は、互いに強く関連しているようには見えない)
さらに——
> “while self-reported measures of system usage are related to self-reported measures of TAM independent variables, objective, computer-recorded measures show distinctly weaker links.”(自己申告による利用の測度は、受容モデルの独立変数の自己申告による測度と関連しているが、客観的な、計算機が記録した測度は、はっきりと弱い結びつきしか示さない)
そして、論文はこの結果の含みを、自分の言葉で書いている。
> “it is tempting to argue that research that has relied on subjective measures of system usage (for example, research confirming TAM) may be artifactual.”(利用の主観的な測度に依拠してきた研究——たとえばこのモデルを確認した研究——は、人工物かもしれない、と論じたくなる)
「人工物かもしれない」と、1995年に書かれている。 論文は同時に、モデルと主観的測定に依拠した研究の整合性を保つ別の説明もいくつかあると断っており、断罪はしていない。それでも、自己申告と機械の記録が強く結びついていないという観測自体は、残る。
測り方を選び間違えると、結論が逆になる
**2006年に *Information Systems Research* 17巻3号へ出た論文**は、「利用」という概念そのものを立て直そうとしたものである。書き出しがこうである。
> “the system usage construct has received little theoretical scrutiny, boasts no widely accepted definition, and has been operationalized by a diverse set of unsystematized measures.”(利用という構成概念は、理論的な吟味をほとんど受けておらず、広く受け入れられた定義を持たず、体系化されていない多様な測度によって操作化されてきた)
通奏低音の二つ目が、また出てくる——同じ言葉で、別のものを数えている。
この論文は、利用を利用者・システム・作業の三つ組として捉え直すことを提案した。そして実証で確かめたことが、この単位でいちばん厳しい一文である。
> “an inappropriate choice of usage measures can lead researchers to draw opposite conclusions in an empirical study.”(利用の測度を不適切に選ぶと、実証研究において研究者は反対の結論を導きうる)
反対の結論である。 弱くなる、ではない。逆向きになる。
それでも、実際の利用は成果と結びついていた
**否定ばかりではない。2003年に *Management Science* 49巻3号へ出た論文は、投資額ではなく実際の利用こそが成果を動かすという命題を立て、八つの病院からなる医療システムで、三年間の月次データ**を使って検証した。
結果は、技術の利用が、収入と質の測度と正で有意に関連しており、しかもその効果は時間の遅れを伴って現れたというものである。三通りの利用の測度で三角測量して確かめている。
> “omission of this variable may be a missing link in IT payoff analyses.”(この変数を落とすことが、情報技術の見返りの分析における欠けた環かもしれない)
「実際に使われているか」は効いている。 効いていないのは、自己申告の利用を、実際の利用の代わりに使うことのほうである。
この二つを分けておくと、実務での使い分けもはっきりする。 相手に「使っていますか」と尋ねて返ってくるのは、相手の申告である。画面に残っているのは、記録である。どちらも情報だが、同じものではない。 そして、この分野で四半世紀にわたって確かめられてきたのは、その二つが強く結びついているとは限らないということだった。
効果が時間の遅れを伴って現れた、という点も見落とせない。 使い始めた月に成果が出るのではない。遅れて出る。 ということは、短い期間で活用率と成果を突き合わせても、関係は見えにくい。 見えなかったことを「効いていない」と読むと、また一段まちがえる。
時間・変化:レビューが繰り返し同じところを指している
**2003年に *Information & Management* 40巻3号へ出たレビューは、この受容モデルの批判的な検討として書かれた。そして2010年のレビューが、79件の実証研究(73本の論文)を数え上げて、有用性と使いやすさは実際の利用とは相関しにくいと結論した。**
> “Care should be taken using the TAM outside the context in which it has been validated.”(このモデルを、それが検証された文脈の外で使うときには注意すべきである)
1989年に尺度が作られ、1995年に自己申告と機械の記録の乖離が観測され、2003年に批判的レビューが出て、2006年に測り方を選び間違えると反対の結論になると示され、2010年のレビューが検証された文脈の外では注意せよと結んだ。
二十一年かけて積まれたのは、「どこまでなら言えるか」の境界である。 その境界の内側にあるのは、意図と、自己申告の利用である。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、活用率という一つの数を、離れにくさの代わりに読むことである。何を活用と数えるかは決まっていない。利用という概念そのものが、広く受け入れられた定義を持たないと、査読誌が書いている。
もう一つ。「よく使う人ほど続ける」という観測を、因果として読むこと。 続ける人がよく使うのか、よく使うから続けるのか——この向きは、観測データからは決まらない。 そして、よく使う人はもともと合っていた人かもしれない。
助けるのは、自分の商いで「使っている」をどう数えているかを、一文で書き出すという一手である。一回でも触れたら使っているのか。週に一度なのか。特定の機能に届いたときなのか。 定義が違えば、同じ商いから別の数字が出る。
書き出すと、たいてい二つのことが分かる。 ひとつは、自分が思っていたより条件がゆるいこと。 もうひとつは、その条件を決めた人が、いま自分ではないこと——道具の既定値だったり、前任者の設定だったり、資料の書式だったりする。決めた人が誰かを知らないまま、その定義で数えた数字を、判断に使っている。
そしてもう一つ。活用率が下がったときに、まず疑うべきは定義の変更である。 画面の設定が変わった、数える期間が変わった、対象が変わった。商いが変わったのは、そのあとで確かめることである。
この単位では、相手の使用状況を観察する課題は作らない。 顧客の行動を追跡する仕組みの話も書かない。書けるのは、自分がいまどう数えているかを確かめることまでである。
標本の偏りを断っておく。ここで引いた研究は、情報システムの利用を対象にしたものである。 物を売る商い、場所で提供する役務には、そのままは当てはまらない。当てはまるのは、「使っている」の定義が組織ごとに違い、その定義しだいで結論が逆向きにもなりうる、という構造のほうである。
最初の一歩は5分。自分の商いで「使ってくれている」と判断する条件を一文で書き、その条件が、自分の観察に基づくのか、記録に基づくのかを一言添える。 記録が無ければ「無い」と書く。無いこと自体は悪くない。無いのに数字を出していたら、それは別の話である。
次の単位は 251「顧客成功の継続保証力」——離れそうな相手を見つけて手を打つ、という話。予測できることと、原因がわかることの違いが、ここで表に出る。
- 1989年のMIS Quarterly 13巻3号は、有用性と使いやすさの尺度を152人の利用者と四つの応用ソフトを対象にした二つの研究で検証し、信頼性は有用性が.98、使いやすさが.94だと報告した。この分野でもっとも引かれる一本である。
- 同じ論文で報告されている相関の相手は、自己申告による現在の利用(有用性で r=.63、使いやすさで r=.45)と、自分で予測した将来の利用(有用性で r=.85、使いやすさで r=.59)である。実際の利用との相関ではない。
- 1995年のManagement Science 41巻8号は、自己申告による利用と計算機が記録した利用を測定モデルで比較し、予想に反して二つの構成概念は互いに強く関連しているようには見えないと報告した。自己申告の測度は自己申告の独立変数と関連するが、計算機が記録した測度ははっきりと弱い結びつきしか示さない。
- 同じ論文は、利用の主観的な測度に依拠してきた研究は人工物かもしれないと論じたくなる、と書いたうえで、モデルと主観的測定に依拠した研究の整合性を保つ別の説明もいくつかあると断っている。
- 2006年のInformation Systems Research 17巻3号は、利用という構成概念が広く受け入れられた定義を持たず、体系化されていない多様な測度で操作化されてきたと指摘し、利用の測度を不適切に選ぶと実証研究において反対の結論を導きうると示した。
- 2003年のManagement Science 49巻3号は、投資額ではなく実際の利用が成果を動かすという命題を、八つの病院からなる医療システムの三年間の月次データで検証し、技術の利用が収入と質の測度と正で有意に関連し、その効果が時間の遅れを伴って現れることを示した。三通りの利用の測度で三角測量している。
- 2010年のInformation and Software Technology 52巻5号は、79件の実証研究(73本の論文)を数え上げ、意図は実際の利用と相関しやすいが、有用性と使いやすさは実際の利用とは相関しにくいと結論し、検証された文脈の外でこのモデルを使うときは注意すべきだと述べた。
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 有用だと思ってもらえれば、実際に使ってもらえる——それは高い相関で確かめられている | 1989年の原典で報告されている相関の相手は、自己申告による現在の利用(r=.63)と、自分で予測した将来の利用(r=.85)である。使いやすさのほうも同様に、自己申告と自己予測が相手である。実際の利用との相関ではない。2010年に79件の実証研究を数え上げたレビューは、意図は実際の利用と相関しやすいが、有用性と使いやすさは実際の利用とは相関しにくいと結論している。 |
| 利用の度合いは、自己申告で聞いても、記録で見ても、だいたい同じである | 1995年のManagement Science 41巻8号は、自己申告による利用と計算機が記録した利用を測定モデルで比較し、予想に反して二つの構成概念は互いに強く関連しているようには見えない、と報告した。さらに、自己申告の測度は受容モデルの独立変数の自己申告の測度と関連するが、計算機が記録した測度ははっきりと弱い結びつきしか示さない、と書いている。 |
| どの測り方をしても、結論の向きは変わらない | 2006年のInformation Systems Research 17巻3号は、利用という構成概念が理論的な吟味をほとんど受けておらず、広く受け入れられた定義を持たず、体系化されていない多様な測度によって操作化されてきたと指摘したうえで、利用の測度を不適切に選ぶと実証研究において反対の結論を導きうると示した。弱くなるのではなく、逆向きになる。 |
活用率という数字が便利なのは、上げ方が分かっているからではなく、何を活用と数えるかを自分で決められるからである。決めた側は上がったと言えるし、決めていない側は比べようがない。二十一年かけて確かめられたのは、その定義しだいで、同じデータから反対の結論が出るということだった。
Q1. 1989年の原典で、有用性の知覚は自己申告による ____ の利用と r=____ 、自分で ____ した ____ の利用と r=.85 で相関した。いずれも実際の利用との相関ではない。穴埋め
Q2. 1995年に自己申告の利用と計算機が記録した利用を比べた研究の結論を、原典の言い方に沿って1文で書け。一問一答
Q3. 2006年の論文が、利用の測度を不適切に選んだ場合に起きうるとして示したのはどれか。選択
Q4. 八つの病院の三年間の月次データを使った2003年の研究が、実際の利用について報告したのはどれか。選択
Q5. 2010年に79件の実証研究を数え上げたレビューの結論を、二つに分けて書け。一問一答
紙かメモアプリを開く。自分の商いで「この相手は使ってくれている」と判断するときの条件を、一つの文で書く(買った回数でも、来店の間隔でも、問い合わせの有無でも、機能に触れたかどうかでもよい)。次に、その判断の材料が、自分の観察や印象に基づくのか、残っている記録に基づくのかを一言添える。記録が無ければ「記録は無い」と書く。最後に、同じ相手について「使ってくれていない」と判断するとしたら、どういう場合かを一文で書く。誰にも尋ねない。相手の行動を新たに調べに行かない。手元にあるものだけで完結させる。いま組織に属していない場合は、自分が続けている習慣や道具について、同じ二つの条件を書けばよい。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Davis F.D. (1989) 'Perceived Usefulness, Perceived Ease of Use, and User Acceptance of Information Technology', MIS Quarterly 13(3):319-340 — doi.org
- Straub D., Limayem M., Karahanna-Evaristo E. (1995) 'Measuring System Usage: Implications for IS Theory Testing', Management Science 41(8):1328-1342 — doi.org
- Burton-Jones A., Straub D.W. (2006) 'Reconceptualizing System Usage: An Approach and Empirical Test', Information Systems Research 17(3):228-246 — doi.org
- Devaraj S., Kohli R. (2003) 'Performance Impacts of Information Technology: Is Actual Usage the Missing Link?', Management Science 49(3):273-289 — doi.org
- Turner M., Kitchenham B., Brereton P., Charters S., Budgen D. (2010) 'Does the technology acceptance model predict actual use? A systematic literature review', Information and Software Technology 52(5):463-479 — doi.org
- Legris P., Ingham J., Collerette P. (2003) 'Why do people use information technology? A critical review of the technology acceptance model', Information and Management 40(3):191-204 — doi.org