「この型が売れる」の原データには届かなかった。届いた側では、顧客志向は自己評価の成果しか上げていなかった
商談の段には、必ず類型の話がついて回る。売る人を四つか五つの型に分け、そのうちの一つが成果を出している、という形である。皮肉なことに、その原データを確認しようとすると、辿れるのは一般書と会員向け報告書という二つの入れ物までで、標本の抽出方法も、質問文も、群分けの基準も、検証できる形では出てこない。
前の単位では、来てくれた相手のうち誰が本気なのかを見分ける話を扱った。ここでは、その相手と実際に話をする段——商談の設計と提案を扱う。
この段には、類型の話がついて回る。 売る人を四つか五つの型に分け、そのうちの一つが成果を出している、という形の話である。型の名前は覚えやすく、自分がどれかも判定しやすい。 ここでは、その類型の原データがどこにあるかから入る。
原データは、公開されていない
もっともよく引かれる類型は、ある調査会社が数千人規模の営業担当について集めた調査に基づくとされている。 属性を数十挙げ、上司に評価させ、統計的に群に分けた——という手続きが、一般書と、その会社の会員向け報告書に書かれている。
当方が確認できたのは、そこまでである。 標本の抽出方法、質問文、分析の手順、群分けの基準、そして「どの型が何%を占めた」という数字の算出方法——これらを検証できる形で示した文書には、行き着かなかった。
査読を通っていないことが、それ自体で悪いわけではない。 実務の側が先に測ることは、この分野ではむしろ普通である。問題は、その数字が査読された効果と同じ顔で引かれることのほうである(この棚が16回くり返す手つきの一つ目)。
だから、確かめられている側を見る。 幸いこの主題は、査読の側に四十年ぶんの蓄積がある。
査読の側で効いているのは、相手に合わせて変えることだった
**2011年に *Journal of the Academy of Marketing Science* 39巻3号へ出たメタ分析は、1982年から2008年**の実証を統合して、営業の成果を左右する要因を整理し直したものである。抄録に、こうある。
> “It has been 25 years since the publication of a comprehensive review of the full spectrum of sales-performance drivers.”(営業成果の要因の全域を扱う包括的な総説が出てから、二十五年が経っている)
多変量の因果模型で推定した結果、成果と有意な関係を示した下位分類は五つだった。売ることに関わる知識(β=.28)、相手に合わせて変える度合い(β=.27)、役割の曖昧さ(β=−.25)、認知的な適性(β=.23)、仕事への没頭(β=.23)。
いちばん上に来たのは、型ではない。知識と、相手に合わせて変えることである。 そして三番目は、負の符号を持つ——自分が何を求められているかが曖昧だと、成果が下がる。
ただし同じ抄録が、この五つが測定の方法・研究の文脈・営業の種類によって調整される、とも書いている。 どの条件で測ったかで、大きさが動く。
測り方を変えると、結論が変わる
その「測り方で動く」が、いちばんはっきり出ているのが次の研究である。
**2006年に *Journal of Marketing Research* 43巻4号へ出たメタ分析は、155の標本・3万1千人を超える営業担当から、相手に合わせて変える行動と顧客志向**という二つの概念について、その原因と結果を統合した。結果の一文が、この単位の核心である。
> “structural equation modeling indicates that ASB increases self-rated, manager-rated, and objective measures of performance, whereas CO increases only self-rated performance.”(構造方程式モデルが示すのは、相手に合わせて変える行動は自己評価・上司評価・客観的な指標のいずれの成果も高めるが、顧客志向は自己評価の成果しか高めない、ということである)
同じ研究の中で、片方は三つの指標すべてで上がり、もう片方は自己評価だけで上がった。 もし成果を自己評価だけで測っていたら、二つは同じくらい効いて見える。
そして相関の幅である。
> “A random-effects meta-analysis yields average values for 28 different correlations ranging from -.16 to .35, 19 of which are significant.”(変量効果のメタ分析は、28の異なる相関について −.16 から .35 までの範囲の平均値を与え、そのうち19が有意である)
28本のうち9本は有意ではない。そして幅は、負から正までまたいでいる。 「効く」と一言で言えるほど、揃ってはいない。
同じ研究は因果の向きも検討していて、相手に合わせて変える行動が顧客志向を高めるのであって逆ではなく、仕事への満足が成果を高めるのであって逆ではないと報告している。
尺度そのものを読むと、何を測っているかが分かる
**「相手に合わせて変える」という概念は、1990年に *Journal of Marketing Research* 27巻1号へ出た論文で、16項目の尺度として作られた。 何を測っているか。抄録が五つの側面を挙げている——相手によって違う進め方が要ると認識していること、複数の進め方を使える自信、やりとりの最中に進め方を変えられる自信、変えるための情報を集めること、実際に違う進め方を使うこと。**
そして、この尺度は紙と鉛筆で答える自己報告である。 信頼性は.85。妥当性の検証で使われた「結果」の変数は、自己報告による成果だった。
**その四年前の1986年に *Journal of Marketing* 50巻4号へ出た枠組みが、この概念の元になっている。そこでは、相手に合わせて変えることは、顧客の型と販売の戦略についての知識と、行動の向きを変える動機づけに影響されると提案されていた。提案であって、効果推定ではない。**
さらに遡ると、顧客志向のほうも1982年に同誌19巻3号で尺度として作られている。 その妥当性の検証も、顧客を助ける能力と、顧客と営業担当の関係の質との関係で行われた。
四十年かけて積まれてきたのは、概念と、それを測る尺度と、尺度どうしの関係である。
これを欠点として読まないでほしい。 概念を決め、測り方を決め、測り方の妥当性を確かめる——この順で進むのが、査読の側の速度である。 実務の側が「五つの型」と名前を付けて配るのに数年、査読の側が一つの概念の尺度を作って妥当性を確かめるのに十年。速度が違うだけで、どちらかが怠けているのではない。
ただし、速度が違うものを同じ棚に並べると、速いほうが確からしく見える。 名前が付いていて、数字が付いていて、自分がどれかも分かる。遅いほうは、係数と、条件と、調整変数の話をしている。
時間・変化:1985年の順位表と、2011年の順位表
**1985年に *Journal of Marketing Research* 22巻2号へ出たメタ分析は、公刊・未公刊あわせて116本の論文から、成果とその決定要因のあいだの1,653件の関連を集めた。要因を、成果との平均的な関連の大きさで並べると——①役割変数 ②技能 ③動機づけ ④個人的要因 ⑤適性 ⑥組織・環境要因**の順になった。
2011年の順位でも、上位にあるのは知識と、相手に合わせて変えることと、役割の曖昧さである。 二十六年で、上位の顔ぶれはほとんど変わっていない。
そして1985年の論文は、もう一つ重要なことを書いている。 決定要因と成果の関係の強さは、売っている製品の種類によって変わる。 顧客の種類、製品の種類、使った成果指標の種類で結果を分けると、関係の強さが動いた。
「どの型が売れるか」という問いが四十年ぶん積み上げてきた答えは、「それは何を売っているかによる」である。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、型の名前を、自分の説明に使うことである。名前が付くと、当てはまる例だけが目に入る。そして原データを見に行かなくなる。
もう一つ。成果を自己評価で測ること。 同じメタ分析の中で、片方の概念は三つの指標すべてで上がり、もう片方は自己評価だけで上がった。自己評価だけを見ていると、この二つは区別できない。
この単位では、説得の技術には踏み込まない。 何を言えば相手が動くか、という形の助言は書かない。書けるのは、何が測られ、どの条件で効かなかったか、までである。
助けるのは、自分が商談の進め方をどのくらい変えているかを、記憶ではなく記録で見るという一手である。尺度が測っていたのは、まさにそこ——違う進め方が要ると認識しているか、実際に違う進め方を使っているか、である。
そしてもう一つ、役割の曖昧さという負の係数を持つ要因が、この単位ではいちばん実務に近い。自分が何を求められているのか——件数なのか、金額なのか、続く関係なのか——が曖昧なとき、成果は下がる。 これは本人の努力の問題ではない。求められていることが、外から曖昧に渡されているという状態の問題である。 曖昧さを一人で解消することはできないが、いま自分が何を求められていると理解しているかを一文で書いておくことは、一人でできる。
標本の偏りを断っておく。ここで引いた研究は、企業間の取引で、営業という職種が独立して存在する組織を対象にしたものが中心である。 一人で売っている場合や、接客が中心の場合に、同じ順位が当てはまるかは確かめられていない。
最初の一歩は5分。直近に話をした相手を二人思い出し、その二人に対して自分が変えたことを、それぞれ一つだけ書く。 変えたことが思い出せなければ「同じだった」と書く。同じだったこと自体は悪くない。記録に残らないことが、後で確かめられない、というだけである。
次の単位は 248「クロージング・契約転換力」——話がまとまるところ。そこで健全さの目安として使われている比の、分母と分子を見に行く。
- もっともよく引かれる営業の類型について、当方が確認できたのは一般書と発行元の会員向け報告書までであり、標本の抽出方法・質問文・分析の手順・群分けの基準・各型の割合の算出方法を検証できる形で示した文書には行き着かなかった。
- 2011年のJournal of the Academy of Marketing Science 39巻3号のメタ分析は、1982年から2008年の実証を統合し、成果と有意な関係を示した下位分類として、売ることに関わる知識(β=.28)、相手に合わせて変える度合い(β=.27)、役割の曖昧さ(β=−.25)、認知的な適性(β=.23)、仕事への没頭(β=.23)の五つを挙げた。
- 同じメタ分析は、この五つが測定の方法・研究の文脈・営業の種類という調整変数の影響を受けるとも書いている。どの条件で測ったかで、大きさが動く。
- 2006年のJournal of Marketing Research 43巻4号は、155の標本・3万1千人超の営業担当を統合し、相手に合わせて変える行動は自己評価・上司評価・客観的な指標のいずれの成果も高めるが、顧客志向は自己評価の成果しか高めないと報告した。
- 同じ研究の28の相関は、平均値が −.16 から .35 までの範囲にあり、そのうち19が有意だった。9本は有意ではなく、幅は負から正までまたいでいる。因果の向きの検討では、相手に合わせて変える行動が顧客志向を高めるのであって逆ではないと報告されている。
- 相手に合わせて変えるという概念は、1990年のJournal of Marketing Research 27巻1号で16項目の自己報告尺度として作られた。信頼性は.85で、妥当性の検証に使われた結果の変数も自己報告による成果だった。
- 1985年のJournal of Marketing Research 22巻2号のメタ分析は、116本の論文から1,653件の関連を集め、成果との平均的な関連の大きさで、役割変数・技能・動機づけ・個人的要因・適性・組織環境要因の順に並ぶことを示した。さらに、決定要因と成果の関係の強さは売っている製品の種類によって変わると報告している。
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 営業には五つの型があり、そのうちの一つが成果を出す——これは大規模調査で確かめられている | 当方が確認できたのは、一般書と発行元の会員向け報告書までである。標本の抽出方法、質問文、分析の手順、群分けの基準、各型の割合の算出方法を検証できる形で示した文書には行き着かなかった。査読を通っていないこと自体が悪いのではない。その数字が、査読された効果と同じ顔で引かれることのほうが問題である。 |
| 顧客志向を高めれば、営業の成果は上がる | 155の標本・3万1千人超を統合した2006年のJournal of Marketing Researchのメタ分析では、相手に合わせて変える行動は自己評価・上司評価・客観的な指標のいずれの成果も高めたが、顧客志向は自己評価の成果しか高めなかった。成果を自己評価だけで測っていたら、この二つは同じくらい効いて見える。 |
| 営業の成果を左右する要因は、もう分かっている | 同じメタ分析は、28の異なる相関の平均値が −.16 から .35 までの範囲にあり、そのうち有意なのは19本だと報告している。9本は有意でなく、幅は負から正までまたいでいる。さらに1985年のメタ分析は、決定要因と成果の関係の強さが、売っている製品の種類によって変わると報告している。 |
型の話が四十年ももったのは、当たっていたからではなく、自分がどれかを判定できるからである。判定できれば話は進むし、進んだ話は原データを必要としない。査読の側が同じ四十年で積み上げたのは、それは何を売っているかによる、という答えのほうだった。
Q1. 155標本・3万1千人超を統合したメタ分析で、顧客志向について報告されたのはどれか。選択
Q2. 1982年から2008年の実証を統合したメタ分析で、成果と有意な関係を示した五つのうち、売ることに関わる知識はβ= ____ 、相手に合わせて変える度合いはβ= ____ 、役割の曖昧さはβ= ____ である。役割の曖昧さだけが ____ の符号を持つ。穴埋め
Q3. 同じメタ分析の28の相関について、その範囲と、有意だった本数を書け。一問一答
Q4. 1990年に作られた「相手に合わせて変える」の尺度について、それが何で答える尺度で、妥当性の検証に使われた結果の変数が何だったかを1文で書け。一問一答
Q5. 1985年に116本の論文から1,653件の関連を集めたメタ分析が、決定要因と成果の関係の強さについて報告した条件を1文で書け。一問一答
紙かメモアプリを開く。直近に商談や相談や問い合わせで話をした相手を、二人(あるいは二件)思い出す。相手の実名や特定できる情報は書かない。それぞれについて、自分が進め方を変えたことを一つだけ書く(話す順番、先に出した材料、使った言葉、時間の長さ、そのどれでもよい)。変えたことが思い出せなければ「同じだった」と書く。最後に、その二つの違いが、相手の何に応じて変えたものだったかを、それぞれ一語で書く。相手を評価しない。相手の反応は書かない。いま組織に属していない場合は、直近に何かを説明した相手二人で行えばよい。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Franke G.R., Park J.E. (2006) 'Salesperson Adaptive Selling Behavior and Customer Orientation: A Meta-Analysis', Journal of Marketing Research 43(4):693-702 — doi.org
- Verbeke W., Dietz B., Verwaal E. (2011) 'Drivers of sales performance: a contemporary meta-analysis. Have salespeople become knowledge brokers?', Journal of the Academy of Marketing Science 39(3):407-428 — doi.org
- Churchill G.A., Ford N.M., Hartley S.W., Walker O.C. (1985) 'The Determinants of Salesperson Performance: A Meta-Analysis', Journal of Marketing Research 22(2):103-118 — doi.org
- Spiro R.L., Weitz B.A. (1990) 'Adaptive Selling: Conceptualization, Measurement, and Nomological Validity', Journal of Marketing Research 27(1):61-69 — doi.org
- Weitz B.A., Sujan H., Sujan M. (1986) 'Knowledge, Motivation, and Adaptive Behavior: A Framework for Improving Selling Effectiveness', Journal of Marketing 50(4):174-191 — doi.org
- Saxe R., Weitz B.A. (1982) 'The SOCO Scale: A Measure of the Customer Orientation of Salespeople', Journal of Marketing Research 19(3):343-351 — doi.org