「育成がうまい会社は見込み客を50%多く33%安く作る」の出どころに、五系統たどって行き着けなかった
見込み客の育成の話には必ず先に数字が付く。育成がうまい会社は営業に渡せる見込み客を50%多く、33%安く作る。皮肉なことに、五系統をたどってもこの数字の一次情報には行き着かず、代わりに行き着いたのは、マーケティング部門が作った見込み客の70%を営業担当が追いかけていない、と冒頭に書いた査読論文だった。
前の単位では、そもそも知ってもらうという話を扱った。ここでは、来てくれた相手のうち誰が本気なのかを見分ける——見込み客の育成と資格化を扱う。
この話には、必ず先に数字が付く。 見込み客の育成がうまい会社は、営業に渡せる見込み客を50%多く、33%安く作る。この数字は、少なくとも十年以上、ほとんど一字一句同じ形で引かれ続けている。 出どころを探した。
五系統で消えた
①数値と発行元の名前を完全一致で検索した。 出てくるのは、支援会社や道具の提供元が書いた記事ばかりである。どれも同じ調査会社の名前を挙げるが、その報告書そのものへの経路は無い。 リンクがあっても、別の記事に飛ぶか、切れている。
②その調査会社の公開サイトを内側から探した。 当該の数値を含む公開文書には行き着かない。 有償の会員向け資料としてなら存在しうるが、当方は到達していない。
③三通りの語形で一般検索をかけた(英語の完全一致を二種、日本語訳を一種)。一次はゼロ。 出てくるのは、①で見たのと同じ層の記事である。
④査読側へ回った。 書誌データベースで、見込み客の育成の効果を推定した研究を探す。経営実務としての効果を測った査読論文には行き着かない。
⑤販売とマーケティングの界面の研究へ迂回した。 ここには到達できた。ただし、そこにあったのは効果推定ではなく、類型化と、命題の一覧だった。
「存在しない」とは書かない。書けるのは、行き着けなかった、までである。 残るのは、その数字を出したとされる主体が、方法も標本も公開の形では示していないという事実だけである。
そもそも「営業に渡せる見込み客」とは何か
数字が追えないなら、数えている対象のほうを見る。
この分野では、見込み客を二段階に分ける言い方が定着している。 発信の側が「これは脈がある」と判断した段と、営業の側が「これは商談になる」と認めた段。両方に略語が付いていて、道具の画面にもその名前で欄がある。
では、その境目はどこか。 これが、組織ごとに違う。同じ会社の中でも、期によって変わる。 境目を動かすと、上の段の件数と下の段の件数は、実際の商いが何も変わらなくても、逆方向に動く。「資格化された見込み客が3割増えた」という報告は、境目を動かしただけでも作れる。
通奏低音の二つ目が、ここで顔を出す——同じ言葉で、別のものを数えている。
分担そのものが、五通りあった
境目が定まらないのには、下地がある。**2008年に *Journal of Marketing* 72巻2号へ出た研究**が、そこを測っている。抄録の第一文がこうである。
> “Little is known about the interface between separate marketing units and sales units.”(別々のマーケティング部門と営業部門のあいだの界面については、ほとんど知られていない)
この研究は、欧州連合圏の337社を業種横断で調べ、情報の共有、構造上のつながり、力関係、志向、知識という広い範囲を含む模型を立てて、実際の姿を類型に分けた。出てきたのは五つの原型である。
> “The taxonomy shows that the role and characteristics of marketing and sales vary a great deal. This finding challenges existing stereotypes about marketing and sales.”(この分類は、マーケティングと営業の役割と特徴が大きく異なることを示す。この発見は、マーケティングと営業についての既存の固定観念に挑戦するものである)
分担そのものが五通りある組織群に、共通の「資格化の基準」があるわけがない。 そして同じ研究は、もっとも成功していた形は、構造上のつながりが強く、マーケティングの側に市場の知識が多い形だったとも報告している。
渡した見込み客の7割は、追われていない
**2013年に *Journal of Marketing* 77巻1号へ出た研究**は、この話でいちばん実務に効く数字を持っている。冒頭がこうである。
> “The sales lead black hole—the 70% of leads generated by marketing departments that sales representatives do not pursue—may result from competing demands on sales reps’ time.”(営業見込み客のブラックホール——マーケティング部門が作った見込み客のうち、営業担当が追いかけない70%——は、営業担当の時間をめぐる競合する要求から生じているのかもしれない)
四社に所属する461人の営業担当のデータで、何が追いかけるかどうかを決めているのかを調べている。結果が、資格化という考え方の急所を突いている。
- 経験を積んだ営業担当ほど、管理側の追跡や、見込み客の量に対する反応が弱くなる。 - その一方で、経験を積んだ営業担当ほど、事前の資格化の「質」に対する反応は強くなる。 - 成績の良い営業担当ほど、見込み客の量に対する反応は強まるが、管理側の追跡に対する反応は弱まる。
「もっと多く渡す」も「もっと追跡する」も、相手によって効き方が逆を向く。 そして、渡したもののうち7割が追いかけられていないという前提の上に、上の段の件数を増やす施策が積まれている。
時間・変化:1992年に、すでに「古い課題」と呼ばれていた
見込み客を見分けるという課題は、新しくない。**1992年に *Journal of Personal Selling & Sales Management* 12巻4号へ出た実務向けの記事は、この課題を「この古い課題への新しい視点」という副題で扱っている。1992年の時点で「古い」のである。**
その後の三十年で、査読の側に積まれたものを並べると、順番が見えてくる。2005年に同誌が、営業とマーケティングの統合について「命題の集合」を提示した——効果推定ではなく、どんな条件でこの統合が業績にいちばん効くかについての命題である。**2008年に五つの原型が測られ、2013年に7割という数字が出て、同じ2013年に、企業間の見込み客の予測をモデルで支える「枠組み」が *Industrial Marketing Management* 42巻4号で提案された。**
三十年かけて積まれたのは、類型と、命題と、枠組みである。 「この基準で資格化すれば転換率が何%上がる」という形の効果推定には、当方は行き着かなかった。
連携そのものには、効果が測られている
空振りばかりではない。2007年に同誌27巻3号へ出た研究は、営業とマーケティングの連携と業績の関係を実際に測って、直接的で正の関係があると報告している。そして連携を高める五つの先行要因を挙げている——上層部が連携に対して肯定的な態度を取っていること、部門間の対立が減っていること、意思疎通が改善していること、組織的な学習が確立していること、市場の情報の仕組みが有効に働いていること。
この五つの中に、「見込み客を何段階に分けるか」も「点数を何点でしきるか」も入っていない。 測って効いていたのは、そこではなかった。
妨げるもの、助けるもの、最初の一歩
妨げるものの筆頭は、段の件数を、成果として読むことである。境目を動かせば件数は動く。動いたことと、商いが変わったことは別である。
もう一つ。「50%多く、33%安く」を、自分に当てはまる目標として置くこと。 当方は五系統をたどって、この数字の一次情報に行き着かなかった。使うなという話ではない。目標として置くなら、それが誰の何の測定だったかを言えないまま置いている、と自分で分かっておく話である。
助けるのは、自分の組織で、見込み客の段の境目が文章になっているかを確かめるという一手である。なっていなければ、その件数は比べられない。 先月と今月でさえ、比べられない。
標本の偏りを断っておく。ここで引いた研究は、企業間の取引を対象にしたものが中心で、営業部門とマーケティング部門が別々にある規模の組織を前提にしている。 一人で全部を回している場合、この単位の話は「自分の中で、どの段で誰を諦めているか」として読める。
最初の一歩は5分。自分が「見込みがある」と判断している相手の条件を、箇条ではなく一文で書く。 一文で書けなければ、条件はまだ決まっていない。決まっていない条件で数えた件数は、増えても減っても、意味が読めない。
次の単位は 247「商談設計・提案力」——見分けた相手と、実際に話をする段。そこでいちばんよく引かれる類型の、原データの所在を見る。
- 「見込み客の育成がうまい会社は、営業に渡せる見込み客を50%多く33%安く作る」について、2026年8月に五系統をたどったが一次情報に行き着かなかった。完全一致検索、発行元サイト内、三通りの語形での一般検索、書誌データベース、界面研究への迂回の五つである。二次記事はどれも同じ調査会社の名前を挙げるが、報告書そのものへの経路は無い。
- 資格化された見込み客の境目は組織ごとに違い、同じ組織でも期によって動く。境目を動かせば、実際の商いが何も変わらなくても、二つの段の件数は逆方向に動く。件数の増減は、商いの変化とは別のところからも生まれる。
- 2008年のJournal of Marketing 72巻2号は、別々のマーケティング部門と営業部門のあいだの界面についてはほとんど知られていないと書き出し、欧州連合圏337社を業種横断で調べて五つの原型を特定した。役割と特徴は大きく異なり、この発見は既存の固定観念に挑戦するものだと述べている。
- 同じ研究は、もっとも成功していた形が、マーケティングと営業のあいだの構造上のつながりが強く、マーケティングの側に市場の知識が多い形だったと報告している。
- 2013年のJournal of Marketing 77巻1号は、マーケティング部門が作った見込み客の70%を営業担当が追いかけていないと書き出し、四社461人のデータで、経験を積んだ担当ほど管理側の追跡と見込み客の量への反応が弱まり、事前の資格化の質への反応は強まることを示した。
- 同じ研究によれば、成績の良い担当ほど見込み客の量への反応は強まるが、管理側の追跡への反応は弱まる。もっと多く渡す、も、もっと追跡する、も、相手によって効き方が逆を向く。
- 2007年のJournal of Personal Selling & Sales Management 27巻3号は、営業とマーケティングの連携と業績のあいだに直接的で正の関係があると報告し、連携を高める五つの先行要因として、上層部の肯定的な態度、部門間の対立の減少、意思疎通の改善、組織的な学習の確立、市場の情報の仕組みの有効性を挙げた。段の数や点数の閾値は、その五つに入っていない。
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 見込み客の育成がうまい会社は、営業に渡せる見込み客を50%多く、33%安く作る | 2026年8月に五系統をたどったが、この数値の一次情報には行き着かなかった。数値と発行元名の完全一致検索、発行元サイトの内部、三通りの語形での一般検索、書誌データベース、そして販売とマーケティングの界面の査読研究への迂回である。二次記事はどれも同じ調査会社の名前を挙げるが、その報告書そのものへの経路は無い。存在しない、とは書けない。行き着けなかった、までである。 |
| 見込み客を資格化すれば、その件数は組織の成果を表す | 資格化の境目は組織ごとに違い、同じ組織でも期によって動く。境目を動かせば、実際の商いが何も変わらなくても、二つの段の件数は逆方向に動く。さらに2008年のJournal of Marketingは、欧州連合圏337社を調べて、マーケティングと営業の界面には五つの原型があり、その役割と特徴は大きく異なると報告した。共通の資格化の基準は、そもそも前提にできない。 |
| 渡す見込み客の数を増やせば、そのぶん商談も増える | 2013年のJournal of Marketingは、マーケティング部門が作った見込み客の70%を営業担当が追いかけていないと書き出している。四社461人のデータでは、経験を積んだ担当ほど管理側の追跡と見込み客の量への反応が弱まり、事前の資格化の質への反応は強まった。成績の良い担当ほど量への反応は強まるが、追跡への反応は弱まる。もっと多く渡す、も、もっと追跡する、も、相手によって効き方が逆を向く。 |
出どころの無い数字がこの分野で長く生き延びたのは、確かめようがないからではなく、確かめる必要が誰にも無かったからである。渡す側は渡した件数を数え、受け取る側は追いかけたい相手だけを追いかける。二つの数字は同じ画面に並んでいて、同じ言葉で呼ばれていて、一度も突き合わされない。
Q1. 「育成がうまい会社は見込み客を50%多く33%安く作る」の出どころを探した五系統を、三つ以上挙げよ。一問一答
Q2. 2013年のJournal of Marketingは、マーケティング部門が作った見込み客のうち営業担当が追いかけない ____ %を、営業見込み客の ____ と呼んだ。データは ____ 社に所属する ____ 人の営業担当から採られている。穴埋め
Q3. 四社461人のデータで、経験を積んだ営業担当について報告されたのはどれか。選択
Q4. 欧州連合圏337社を業種横断で調べた2008年の研究が特定したのはどれか。選択
Q5. この単位で並べた、査読の側に積まれてきたものを、年の古い順に並べよ。(五つの原型が測られる/統合についての命題の集合が提示される/見込み客の予測をモデルで支える枠組みが提案される/この課題が「古い課題」と呼ばれる)並べ替え
紙かメモアプリを開く。自分が「この相手は見込みがある」と判断するときの条件を、箇条書きにせず、一つの文で書く。接続詞を使ってもよいが、途中で改行しない。書けたら、その文を読み返して、書かれている条件が誰でも同じように判定できるかを一言で書く(できる/人によって変わる/自分でも日によって変わる、のどれか)。最後に、その条件を最後に見直したのはいつかを書く。思い出せなければ「思い出せない」と書く。誰にも見せない。誰にも尋ねない。いま組織に属していない場合は、自分が仕事や依頼を引き受けるかどうかの判断条件で行えばよい。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Sabnis G., Chatterjee S.C., Grewal R., Lilien G.L. (2013) 'The Sales Lead Black Hole: On Sales Reps’ Follow-Up of Marketing Leads', Journal of Marketing 77(1):52-67 — doi.org
- Homburg C., Jensen O., Krohmer H. (2008) 'Configurations of Marketing and Sales: A Taxonomy', Journal of Marketing 72(2):133-154 — doi.org
- Rouziès D., Anderson E., Kohli A.K., Michaels R.E., Weitz B.A., Zoltners A.A. (2005) 'Sales and Marketing Integration: A Proposed Framework', Journal of Personal Selling & Sales Management 25(2):113-122 — doi.org
- Le Meunier-FitzHugh K., Piercy N.F. (2007) 'Does Collaboration Between Sales and Marketing Affect Business Performance?', Journal of Personal Selling & Sales Management 27(3):207-220 — doi.org
- D’Haen J., Van den Poel D. (2013) 'Model-supported business-to-business prospect prediction based on an iterative customer acquisition framework', Industrial Marketing Management 42(4):544-551 — doi.org
- Jolson M.A., Wotruba T.R. (1992) 'Prospecting: A New Look at this Old Challenge', Journal of Personal Selling & Sales Management 12(4):59-66 — doi.org