「評判は管理できる」——だが測定は商品、元本は行動、管理には限界。評判は行動の履歴に世間が付けた利子
評判は管理できる、と教わる。皮肉なことに、評判を管理しようと最も熱心になる時期が、たいてい、いちばん元本のやせている時期だ。行動で信頼を積めていないから、発信で埋めようとする。順位を気にし、印象を整え、言葉を磨く。だが利子ばかりを数えているあいだも、元本である本業の行動は手つかずのまま痩せていく。危機が来た日、世間が見るのは、その日のうまい言葉ではなく、それまで積んだ行動の履歴のほうだ。
前の単位で、関心の異なる相手へ、芯を一つに保って語り分ける——翻訳としての伝え分けが手に入った。この棚の最後に、それらすべてを束ねる問いを置く。評判を、リスクとして「管理」できるのか、という問いである。
「評判は管理できる」——これが、棚の締めで向き合う最後の俗説だ。順位を上げ、印象を整え、発信を磨けば、評判はコントロールできる、という考え。だが、この棚をここまで歩いてきた目には、その危うさが見えるはずだ。ここでは三つのことを言う。評判の測定は商品であること。良い評判は本業の行動から来ること。そして、管理には限界があること。「管理を諦めよ」ではない。言いたいのは、発信で稼げるのは端数で、元本は本業の行動が決めるということだ。なお、市場でのブランド価値の評価は、この棚の別の場所(F04)で扱った。あちらが「市場の記憶としてのブランドをどう値付けるか」だったのに対し、ここで扱うのは、評判を「リスク」として見る目——それが崩れたとき何が起き、どこまで手当てできるのか、である。同じ評判の近くを通っていても、観点が違う。
評判の測定は、商品である
まず、評判の「数字」から。評判はしばしば順位や指数で語られる。だが、その測定の土台は、見た目ほど固くない。二〇〇二年、Wartick が *Business & Society* 誌 41(4):371-392 で、企業評判の測定を検討し、既存の定義もデータの取り方も、いずれも不十分だと指摘した。二〇〇六年、Barnett・Jermier・Lafferty が *Corporate Reputation Review* 誌 9(1):26-38 で、「評判」という言葉の定義そのものが錯綜していることを整理した。何を評判と呼ぶかが定まらなければ、その数字が何を測っているのかも定まらない。そして、実務で見る評判ランキングや評判指数の多く——たとえば RepTrak や、Fombrun の一九九六年の著書『Reputation』の系譜にある指標——は、調査会社が定義とデータを決めて売っている商品である。ここに、この単位の「証拠の読み違え方」がある——評判の数字を、事実を写した写真だと受け取り、それが売り物として作られた商品であることを見落とす。 測れるから管理できる、とは言えない。むしろ、順位という一つの数字を目標に据えた瞬間、その数字を上げること自体が目的になり、評判の中身とはずれていく。商品として作られた物差しを、自分の通信簿と取り違えると、その都合に振り回される。順位を上げる作業を評判づくりと呼び始めたら、足元が入れ替わっている。
良い評判は、本業の質と行動から来る
では、評判の中身は何でできているのか。二〇一一年、Lange・Lee・Dai が *Journal of Management* 誌 37(1):153-184 で、企業評判の研究を整理し、評判には「どれだけ知られているか(知名)」と「何について良いと評価されているか(実質)」という別々の側面があることをまとめた。発信で膨らませやすいのは、主に前者——どれだけ知られているか、である。だが、評判の芯にあるのは後者、実際に良いことをしているか、だ。知名を発信で膨らませても、実質が伴わなければ、その差はいつか露見する。実質の伴わない知名は、ひと突きで縮む風船だ。しかも、良い評判は、ただ持っていれば得な資産ではない。二〇一〇年、Pfarrer・Pollock・Rindova が *Academy of Management Journal* 誌 53(5):1131-1152 で、評判とセレブリティという二つの無形資産が、業績サプライズに対する投資家の反応を非対称に動かすことを示した。評判は、市場の期待を上げるぶん、それを裏切ったときの反応も大きくする。評判は、資産であると同時に負債にもなりうるのだ(良い評判がかえって罰を重くする局面は488で扱った)。評判の値打ちは、実際の行動に裏打ちされてはじめて保たれる。だから、発信で急いで膨らませるべきは、本当は知名ではない。整えるべきは、知名と実質の差が開きすぎないことのほうである。評判の元本は、本業の行動なのだ。
不祥事のあと、メッセージは管理しきれない
最後に、「管理」そのものの限界を。何か問題が起きたとき、企業はメッセージを整え、報道をコントロールしようとする。だが、それは思うようにはいかない。二〇一二年、Zavyalova・Pfarrer・Reger・Shapiro が *Academy of Management Journal* 誌 55(5):1079-1101 で、不祥事のあとの報道が何に左右されるかを調べた。示されたのは、企業がメッセージを管理しても、報道を動かすのは、その企業自身の行動と、同じ業界の他社の出来事(業界スピルオーバー)だということだ。同業他社が起こした問題の余波が、自社の報道にまで及ぶ。自分の言葉で描ける絵には、限りがある。発信をどれだけ磨いても、行動と、業界という環境が、評判を動かしていく。自分は何も悪いことをしていないのに、同業の誰かの不祥事で、同じ看板というだけで疑いの目が向く。そのとき効くのも、やはり日頃の行動の履歴だ。ふだんから実質を積んでいれば、業界の余波が来ても踏みとどまれる。管理できない環境に備える唯一の手が、管理できる自分の行動を積んでおくことだ、というのは皮肉だが、それが現実である。管理できる範囲は、思っているより狭い。
測定は商品、元本は行動、管理には限界
これで三つがそろった。評判の測定は商品であり(測れるから管理できる、ではない)、評判の元本は行動であり(発信で膨らむのは知名という端数)、そして管理には限界がある(行動と環境が評判を動かす)。この三つは、別々の話ではなく、一本の線でつながっている。商品である数字を目標にすると、数字を上げる作業に走って元本である行動から離れ、離れたぶんだけ、いざというとき管理できない環境の余波に耐える力を失う。この三つを一つにすると、「評判は管理できる」という俗説の姿がはっきりする。管理できるつもりで発信に力を注ぐほど、実質から離れ、差が開き、露見のリスクが育つ。なお、ここで挙げた研究は欧米の大企業の標本が中心で、日本の中小や個人事業にそのまま当てはまるわけではない。評判は行動の帰結であり、測定は商品であり、管理には限界がある——その一般構造として受け取ってほしい。
時間・変化:2002年から2012年へ
順に置く。二〇〇二年、Wartick が、評判測定の定義とデータの不備を示す。二〇〇六年、Barnett らが、評判の定義そのものの錯綜を整理する。二〇一〇年、Pfarrer らが、評判とセレブリティが投資家の反応を非対称に動かす——評判が資産にも負債にもなることを示す。二〇一一年、Lange らが、評判には知名と実質という別の側面があることを整理する。二〇一二年、Zavyalova らが、不祥事後の報道を左右するのは行動と業界のスピルオーバーだと示す。研究は、評判を上げる技を精密にしてきたのではなく、評判が行動の帰結であることを、年ごとに確かめてきた。この十年で確からしくなったのは、「評判は管理できる」ではない。確からしくなったのは、評判は行動の帰結で、その測定は商品で、管理には限界がある——という向きのほうだ。
この棚を締める——評判は、行動の履歴に世間が付けた利子
ここで、この棚全体を締めよう。広報・危機管理の棚を、初動から炎上、伝達、そして信頼の再建まで歩いてきた。最後に残るのは、一つの見方だ。評判とは、広報が作る資産ではない。行動の履歴に、世間が付けた利子である。 発信で稼げるのは、その利子の端数にすぎない。元本は、本業の行動そのものだ。元本が積み上がっていれば、利子は自然に付く。元本がやせていれば、どれだけ発信を磨いても、付く利子はわずかで、しかも露見で消える。しかも利子は、こちらが催促して増やせるものではない。付ける付けないを決めるのは、いつも世間の側だ。だからこそ、この棚の出発点(★481)に戻る——初動が効くのは、平時の元本があるときだけだ。 危機のときにものを言うのは、その日の言葉ではなく、それまでの行動の履歴である。平時に元本を積んでいなければ、初動でどんなにうまく動こうとしても、その言葉を支える土台がない。評判を管理しようとする手は、多くの場合、利子を数える手だ。本当に効くのは、元本を——日々の本業の行動を——地道に積む手のほうである。広報とは、元本を正しく翻訳して伝える仕事であって、元本なしに利子を生む魔法ではない。この棚で学んだことは、みなこの一点につながっている。初動が効くのも、炎上に耐えるのも、デマに向き合えるのも、信頼を建て直せるのも、すべて、それまで積んだ行動の履歴という元本があってこそだ。広報の技は、その元本を目減りさせずに世間へ届けるためにある。技だけを磨いて元本を忘れれば、いちばん肝心なときに、渡すものが手元にない。
最初の一歩は10分。自分の商いの評判について、二つの欄を作る。左に「元本(本業の行動)」——実際にやっている仕事の質、約束の守り方、日々の振る舞い。右に「利子(発信)」——SNS、広告、順位や評判の数字を上げる工夫。次に、この一週間、自分がどちらにどれだけ時間を使ったかを、ざっと書き込む。そして問う。利子ばかりを数えて、元本を痩せさせていないか。 これは評判の数字を追う課題ではない。点検するのは、自分が元本と利子の、どちらに時間を使っているかだけである。
- 桃の段の締めであり棚全体の締め。評判は管理できるという最後の俗説に向き合う。評判はしばしば順位や指数で語られるが、測定の土台は固くない。Wartick 2002(Business & Society 41(4):371-392)は評判測定の定義もデータも不十分だと指摘し、Barnett・Jermier・Lafferty 2006(Corporate Reputation Review 9(1):26-38)は評判という言葉の定義そのものが錯綜すると整理した。RepTrakやFombrun 1996の系譜の指標は調査会社の商品である
- 証拠の読み違え方は、評判の数字を事実を写した写真だと受け取り、それが売り物として作られた商品であることを見落とすこと。測れるから管理できるとは言えない。なお市場でのブランド価値の評価はこの棚の別の場所(F04=市場の記憶)で扱っており、ここ(F13 496)で扱うのは評判をリスクとして見る目で、持ち場が違う
- Lange・Lee・Dai 2011(Journal of Management 37(1):153-184)は企業評判を整理し、評判に知られているか(知名)と何について良いと評価されているか(実質)という別の側面があると示した。発信で膨らませやすいのは知名で、芯は実質。Pfarrer・Pollock・Rindova 2010(Academy of Management Journal 53(5):1131-1152、bannedのRindova ら2005とは別作品)は、評判とセレブリティが投資家の反応を非対称に動かし、評判が資産にも負債にもなりうると示した。良い評判が罰を重くする局面は488で扱った。評判の値打ちは実際の行動に裏打ちされてはじめて保たれ、元本は本業の行動
- Zavyalova・Pfarrer・Reger・Shapiro 2012(Academy of Management Journal 55(5):1079-1101)は、不祥事後の報道を左右するのが、企業がメッセージを管理しても、その企業自身の行動と同じ業界の他社の出来事(業界スピルオーバー)だと示した。同業他社の問題の余波が自社の報道にまで及ぶ。発信を磨いても行動と業界という環境が評判を動かし、管理できる範囲は思うより狭い
- 三つを一つにすると俗説の姿がはっきりする。評判の測定は商品(測れるから管理できるではない)、元本は行動(発信で膨らむのは知名という端数)、管理には限界がある(行動と環境が評判を動かす)。管理できるつもりで発信に力を注ぐほど実質から離れ差が開き露見のリスクが育つ。研究は欧米の大企業標本中心で、一般構造として受け取る
- 棚の締めの見方(通奏低音②の回収)。評判とは広報が作る資産ではなく、行動の履歴に世間が付けた利子である。発信で稼げるのは利子の端数にすぎず、元本は本業の行動そのもの。元本が積み上がれば利子は自然に付き、元本がやせていれば発信を磨いても付く利子はわずかで露見で消える。広報とは元本を正しく翻訳して伝える仕事であって、元本なしに利子を生む魔法ではない
- だからこの棚の出発点(★481)に戻る。初動が効くのは平時の元本があるときだけ。危機のときにものを言うのは、その日の言葉ではなく、それまでの行動の履歴である。評判を上げたいなら評判そのものを狙わず、狙うべきはいつも元本のほう。元本さえ積んでおけば利子は世間が勝手に付ける。評判は操作できる・必ず鎮火するとは保証しない。棚全体が初動から再建へファネルとして始点に戻る
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 評判ランキングで順位を上げ、印象を整え、発信を磨けば、評判は管理できる | Wartick 2002は評判測定の定義もデータも不十分だと指摘し、Barnett ら2006は評判という言葉の定義そのものが錯綜していると整理した。実務の評判ランキングや指数の多く(RepTrakやFombrun 1996の系譜)は調査会社が定義とデータを決めて売る商品である。数字を事実を写した写真だと受け取り、それが商品であることを見落としてはならない。測れるから管理できるとは言えない |
| 発信を工夫して知名度を上げれば、それがそのまま良い評判になる | Lange ら2011は評判に知名(どれだけ知られているか)と実質(何について良いと評価されているか)という別の側面があると整理した。発信で膨らませやすいのは知名で、芯は実質。知名を膨らませても実質が伴わなければ差はいつか露見する。Pfarrer ら2010(bannedのRindova ら2005とは別作品)は、評判とセレブリティが投資家の反応を非対称に動かし、評判が資産にも負債にもなりうると示した。評判の値打ちは実際の行動に裏打ちされてはじめて保たれる |
| 不祥事が起きても、メッセージをうまく管理すれば報道はコントロールできる | Zavyalova ら2012は、不祥事後の報道を左右するのは、企業がメッセージを管理しても、その企業自身の行動と同じ業界の他社の出来事(業界スピルオーバー)だと示した。同業他社の問題の余波が自社の報道にまで及ぶ。発信をどれだけ磨いても行動と業界という環境が評判を動かす。管理できる範囲は思っているより狭い |
皮肉なのは、評判を管理しようと最も熱心になる時期が、たいてい、いちばん元本のやせている時期だということだ。行動で信頼を積めていないから、発信で埋めようとする。順位を気にし、印象を整え、言葉を磨く。だが、利子ばかりを数えているあいだも、元本である本業の行動は、手つかずのまま痩せていく。そして危機が来た日、世間が見るのは、その日のうまい言葉ではなく、それまで積んできた行動の履歴のほうだ。評判は、買うものでも、作るものでもない。日々の行動が、あとから世間に付けさせる利子である。だから、評判を上げたいと願うなら、評判そのものを狙ってはいけない。狙うべきは、いつも元本のほうだ。元本さえ積んでおけば、利子は、こちらが数えるまでもなく、世間が勝手に付けてくれる。それが、この棚を通じて言える、たった一つのことだ。
Q1. 「評判の数字で順位を上げれば評判は管理できる」という見方の落とし穴を、Wartick 2002/Barnett ら2006 に触れて説明せよ。数字が何であるかにも触れること。一問一答
Q2. Lange ら2011 の「知名(どれだけ知られているか)」と「実質(何について良いと評価されているか)」の区別と、Pfarrer ら2010 の研究から言えることはどれか。選択
Q3. Zavyalova ら2012 は、不祥事後の報道を左右するのが、企業のメッセージ ____ ではなく、その企業自身の ____ と、同じ業界の他社の出来事(業界 ____ )だと示した。管理できる範囲は思っているより ____。穴埋め
Q4. この棚の締めの見方「評判は、行動の履歴に世間が付けた利子」を、元本・利子の言葉で説明せよ。棚の出発点★481とのつながりにも触れること。一問一答
Q5. この単位が扱った研究を、年の早い順に並べよ。(ア)Lange らが評判に知名と実質の別の側面があると整理(イ)Wartick が評判測定の定義とデータの不備を示す(ウ)Zavyalova らが不祥事後の報道は行動と業界が左右すると示す(エ)Pfarrer らが評判とセレブリティが投資家の反応を非対称に動かすと示す並べ替え
紙かメモアプリに今日の日付を書き、二つの欄を作る。左に「元本(本業の行動)」——仕事の質、約束の守り方、日々の振る舞い。右に「利子(発信)」——SNS、広告、順位や評判の数字を上げる工夫。次に、この一週間、自分がどちらにどれだけ時間を使ったかを、ざっと書き込む。そして問う。(1)利子ばかりを数えて、元本を痩せさせていないか。(2)発信で膨らませているのは、実質か、知名という端数か。(3)もし今日、危機が来たら、世間が見るであろう自分の行動の履歴は、どれだけ積まれているか。評判の数字そのものを追う課題ではなく、他社の評判も品定めしない。点検するのは、自分が元本と利子のどちらに時間を使っているか、だけである。
——とはいえ、その“正しい用法・用量”は、まだ誰も知らない。ここまでの研究に、あなたのデータは1件も入っていないからだ。平均は地図にすぎない。自分の“いい具合”は、試して探すしかない。
あなたの実験(N=1)を始める → プロジェクトに追加(記録機能は準備中)
- Pfarrer M.D., Pollock T.G., Rindova V.P. (2010) ‘A Tale of Two Assets: The Effects of Firm Reputation and Celebrity on Earnings Surprises and Investors’ Reactions’, Academy of Management Journal 53(5):1131-1152 — doi.org
- Lange D., Lee P.M., Dai Y. (2011) ‘Organizational Reputation: A Review’, Journal of Management 37(1):153-184 — doi.org
- Zavyalova A., Pfarrer M.D., Reger R.K., Shapiro D.L. (2012) ‘Managing the Message: The Effects of Firm Actions and Industry Spillovers on Media Coverage Following Wrongdoing’, Academy of Management Journal 55(5):1079-1101 — doi.org
- Barnett M.L., Jermier J.M., Lafferty B.A. (2006) ‘Corporate Reputation: The Definitional Landscape’, Corporate Reputation Review 9(1):26-38 — doi.org
- Wartick S.L. (2002) ‘Measuring Corporate Reputation: Definition and Data’, Business & Society 41(4):371-392 — doi.org
- RepTrak(Reputation Institute/Fombrun『Reputation』1996 の系譜にある企業評判ランキング・指数)=評判測定の商品・由緒(非査読) — www.reptrak.com